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演技指導開始(2)


 そうしてひたすら淳が噛み砕いた感情の流れなどを響に伝えていくのが一時間。

 十分ほど休憩を入れて雑談しつつ、昼食。

 残りの五十分ほどを実際の演技時間に当てた。

 台本はすでに一話目と二話目のものが上がってきており、淳が『佐倉レン』役を行いかけ合いつつ読み合わせ。

 存外、この方式は上手くいった。

 スタジオのレンタル時間残り十分、というところで切り上げる。

 

「こんな感じでどうでしたか? 問題ないようなら次回もこういう方式でしていこうと思うんですけど」

「は、はい! すごく、すごく勉強になりました! すごいです、本当に! 感情をこんなふうに分析して、言語化して説明できるなんて天才です! 僕には到底できないです、こんな演技の方法もあるんですね。勉強になりました! これからも是非よろしくお願いします!」

「本当? よかったです。それじゃあ、来週も同じ時間でいいですか?」

「え、ええ。はい。また来週もこちらのスタジオを予約しておきます。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 マネージャー、小木さんがまだ強張った顔で頷くので「警戒されてるなぁ」と苦笑いしてしまう。

 初対面の時にやりすぎてしまったかなぁ、とへにょりと微笑んで見せるがまったく警戒は緩まない。

 だが、小木と対峙した時に演じた”春日彗(かすがすい)”は年齢に見合わない威圧感のようなものを感じる人だった。

 淳の両親も第一印象こそ「子ども」だったのに、実際対話を始めると背筋がまっすぐになる。

 対等、というよりも格上相手に対する緊張感。

 遥か高みから、優しく撫でつけられるように。

 自称『神様』とは言っていたが、確かに常人にはない雰囲気があった。

 それを真似たところで淳には到底出せない。

 おそらくただの”威圧”になってしまったと思う。

 演じるにはとても難しい人だ。

 それはそれとして逆に響にはものすごく懐かれてしまった。

 尊敬の眼差し一色。

 こんな目で見られたことがないので、困惑してしまう。

 

「あ、あの、あの、先輩、連絡先を教えてもらってもいいですか!?」

「いいよー」

「ひゃっ、たぁー!」

 

 ピョンピョン飛び跳ねる響。

 さすがにイースト・ホームの連絡先は教えられないので個人のSNSアカウントiDを教えて、響のものも教わった。

 小木にはさらにジトっと睨まれたが「演技でなにか気になることが出たらいつでも聞いてくださいね。すぐに返信できないと思いますが」と言っておく。

 あくまでも『演技のため。仕事のため』という主張。

 実際その通りだが。

 

「あ、そういえば音無先輩はこのあとなにか用事があるんですか? もしフリーなら一緒にご飯食べに行きませんか」

 

 なんて誘ってきた。

 時間は午後二時。

 昼食にはやや遅いが、適当なものしか食べていないし頭も体も使ったので空腹は感じている。

 

「このあと学校に戻らないといけないので、遠慮します。月末の定期ライブのためのレッスンが、俺一人遅れているので」

「定期ライブ……? 先輩の学校って、芸能科かなにかなんですか? そういえばオーディションの時も”アイドル”とか紹介されていたような……」

「うん、そう。東雲学院芸能科。学生セミプロと言われている」

「…………調べてもいいですか?」

「え? うん。え? 今?」

 

 急にスマホで検索を始める。

 そういえば本名で活動しているけれど、検索したら出てくるんだろうか?

 首を傾げると真剣にスマホを凝視している響が「ライブしてるんですね、毎月」と呟く。

 

「そう。毎月、月の最後の日に。入場料は無料で、グッズや飲食は有料。町おこしの意味もあるので、町の企業が協賛しているんですよ」

「行きます」

「え? はい。……え? どこに……今? あ、定期ライブに……?」

「はい。行きたいです。行っていいですか」

「あ、はい。え、定期ライブに? は、はい。どうぞ……? 別に俺の許可とかはいらないですから、ご自由に……?」

 

 定期ライブは入場無料だ。

 行きたいと言われれば「どうぞ」としか答えられない。

 ただ、入場後の飲食やグッズ等は購入してもらわねばならない。

 グループ物販で出している飲食物やグッズがグループの売上となり、個人グッズの売り上げがアイドル個人の売上として加算され、ランキングに反映される。

 なので「サイリウムとか推しうちわとか、お気に入りのアイドルの名前入りのものが物販で売っているので、一個だけ買ってみると雰囲気に浸れていいと思います。おすすめは星光騎士団の綾城珀先輩と魔王軍の朝科旭先輩と勇士隊の石動上総先輩!」と三年生のランキング上位を教えておく。

 この三人は卒業後間違いなく業界で活動していくので、名前を知っておいて響の損にはならないだろう、という打算もある。

 

「先輩のグッズもあるんですか?」

「ありますけど……種類はそんなにないですよ。まだ一年生なので……」

「先輩もライブするんですよね? 何時から、どこでですか?」

「まだ調整中なので、決定したら星光騎士団と俺のSNSアカウントで告知しますね」

「どのSNSですか?」

「ツブヤキッターとインステグラム、ワイチューブですね」

「アカウント作っていい? 小木さん」

「本名では作らないでください!?」

 

 響、SNSアカウントをお持ちではないらしい。

 マネージャー小木さんにちゃんと確認を取るあたり、いい子である。

 情報収集用――主に淳の――SNSアカウントを作成。

 即、フォロー通知が来た。

 一応「フォロバはしませんよ?」と確認をすると満面の笑顔で「大丈夫でーす」とのこと。

 

(……?なんでこんなに懐かれたんだろう……?)

 

 謎である。






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