淳VS風雅
そうこうしている間にチームA、チームBのメンバーが全員ぞろぞろと入ってきてしまった。
天皚や熊田が「なになに?」「どうかしたんですか」と心配そうに近づいてくる。
逃げ場がない日守は、ぎり……と唇を噛みながらも淳を睨みつけて、ついに――
「やってやる……全員の前で、俺の実力を見せてやる!」
「オッケー。それじゃあ――やろうか」
魁星と周はすぐにノートパソコンを起動させて、音源を確保。
スタジオの壁や鏡の前にメンバーが立ち、中心に立つ魔王軍“三軍”の日守風雅と星光騎士団第二部隊隊長の音無淳。
今回の概要を聞いたメンバーは全員「え? 無理だろ」という表情。
もちろん、「日守が音無に勝つのは無理だろ」という意味の。
「まあまあ。日守くんも俺たちの知らないところで猛練習していたのかもしれないし」
と、淳がやんわりとフォローする。
が、そのフォローがどう作用するかは日守次第。
そしてこの辺りで一度、演技スイッチを落とす。
「パフォーマンスの審査はみんなでやってね」
「え? い、いいの? 俺ら素人に毛が生えたようなもんだよ?」
「一ヶ月間真面目に練習してたら、一発でわかりますよ」
と不安げに言う桜屋敷兄、太陽に周が答えた。
位置について、始まりのポーズをする淳と、日守。
周がそのままノートパソコンに手を伸ばし「スタートしますよ」と合図する。
全員がはらはらと見守る中、音楽が開始したと同時に最初の腕を上げて一回転する振付を見た途端に言葉の意味を理解するメンバーたち。
振付が開始と同時に歌も始まる。
その第一声も、すでに音の鳴り方と声量が違っていた。
素人にはわかりづらいだろう。
だが周の言う通り、コラボユニットに参加したメンバーは理解できた。
「すっげ……指から足先まで完璧……」
「日守、表情固すぎ。音無と比べると……なんか、もう」
「これ単純に音無がすごすぎん? アイツいつ練習してたの? たまに練習来ないことあったよね?」
「音無の歌声の安定性ヤバァ……。あいつ夏前までまともに歌歌えなかったよな? マジかよ……こんな上手かったの?」
驚くのはチームBばかり。
チームAも時々「星光騎士団の仕事が」で、練習を留守にすることは多いものの、練習は参加した際しっかり合わせてくるためさほど驚きはない。
むしろ、日守のパフォーマンスを憐れむような眼差し。
みんな優しいので声に出して指摘することはないが、隣でパフォーマンスしているやつがあまりにも完成度高すぎるせいか尚のこと日守のパフォーマンスの粗さがわかる。
歌詞も音程も微妙に間違えるし、振付も素人の動き。
表情も固く、振付や歌詞に気を取られて笑顔がなくなる。
ダンスはテンポが遅れることもあり、お世辞にも上手いとは言い難い。
もちろん、SNSで「踊ってみた動画」などをあげるど素人学生の動画だと言われたら「上手い上手い」と褒められる。
だが、仮にもお金をいただくこともあるセミプロのアイドルがこれでは――というレベル。
ただ、淳と日守のパフォーマンスを見てそういう感想を抱けるという時点で、今回コラボユニットに参加したメンバーはそれだけ実力がついたということ。
不在がちな淳の代わりにチームAは周が、チームBは魁星が指導をしてきたのでかなりレベルアップしている。
魁星と周も人を指導することで学ぶところもあった。
全員が、日守と淳のパフォーマンスを見て完成度がどうなのか、わかるレベルになったのだ。
「――――」
曲が終わると、息が上がった日守と息一つ乱れぬ淳。
基礎体力がすでに違う。
一曲に全力を注いだところでやはりIG夏の陣のしんどさに比べれば屁でもない。
その場に座り込む日守を、腰に手を当てて見下ろす淳。
「どうだった?」
「いやいや。立ってるジュンジュンとへたり込んでる日守見てわからん人いないでしょ。実力差ありすぎて言うまでもないっていうかさぁ」
「まあ、これで、実力差がわからないならそれこそ転科した方がよろしいかと。真剣に」
他のメンバーもアイコンタクトして頷きあう。
初めて、日守が心の底から絶望にひしがれた表情になっている。
気づくのがさすがに遅すぎる気はしたが、周囲との実力差を自覚していたからこそ、逃げ回っていた節もあった。
逃げ場を塞ぎ、煽られやすい性格と高すぎるプライドを刺激してようやく追い詰め、実力差をまざまざ見せつけたのだ。
「朝科先輩、とても残念がっていたよ」
「な……にが」
「日守くんはちゃんと練習して、実力を磨けばすぐに二軍に――最初の通り麻野先輩のユニットで活躍できただろうに、よりにもよって顔だけで押し切れると思って麻野先輩の指導もサボってバカにして。もう庇うことも無理で、見切りをつけるしかなかった。誰の話もまともに聞いてくれないから――って。ちゃんと育ってほしかった、とも言ってた。頼ってくれたなら、全力で力になるのにって。魔王軍の練習方法が合わなかったんだろうね、って言っていたけれど、それなら……日守くんはどこならアイドルになれたんだろうね」
星光騎士団は『地獄の洗礼』できっと逃げ出していただろうし、勇士隊は先輩たちがアレすぎて肌に合わなさそう。
ならば中小規模のグループに加入していればよかったのか?
日守のプライドの高さを考えると、まず間違いなく中小規模グループは小馬鹿にして真面目にやらなかった。
どうあがいても、日守風雅はアイドルになれなかったような気がする。
「……残り一ヶ月、真面目に倉治先生の指導を受けて、俺と周が考えたトレーニングメニューをやるのなら……もう、本当にそれを最後にするけど……手を貸すよ。どうする?」
「……まだ俺を完全に見捨てないのかよ」
「うん。俺は――アイドルだから」
と、手を伸ばす。
意味がわからない、という表情の日守。
「俺は騎士で、アイドルで……ドルオタだから。アイドルを愛してるから。日守くんは、アイドルになる? なりたい? 今からでも。それとも、アイドルにはならない?」
ゆっくり顔を上げる日守。
少しの間、考えてから日守の出した答えは――
「やる。アイドルに……俺はなりたい」






