ゲームの中の拠点
『SBO』アップデート終了後――
「えーと、店舗販売は……」
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
チコ――大柄の大男のアバターでドスドス第五の町『ファイブソング』の大通りに追加されたエリアに進んでいく。
新規ユーザーが夏休みに増えてはいるが、『ファイブソング』にまで来ているユーザーは少ない。
淳ことシーナもそろそろ『シックスソング』に移動しようかと思っていたタイミングだが、『ファイブソング』で店舗購入ができるようになったのでドルオタグッズ販売店を経営することにした。
装飾師の職業は今のスキルツリーから十分解放できるレベルで、チコと一緒に職業をゲット。
一度宿屋でグッズ作りをしてみようかな、と思っていたがチコは「まず店舗確保だよ! いいところ取られちゃう!」と言い出してシーナの手を引っ張って走る。
売り出し中の店舗は大通り沿いに連なる数百店舗。
五階建ての建物は雑貨ビルのように小さなテナントを借りられる。
お高い庭つき一軒家は一階が店舗、二階が自宅として使えたりするものまで。
本当に多種多様な建物が売り出されている。
すごい規模のマップ追加で、他の高レベルユーザーもかなり見にきていた。
確かにこれはチコの言う通り、店舗の確保を優先させた方がいいかもしれない。
「お兄ちゃん、いくらある? チコ、最近お金貯めるの頑張ってたから100万ソングあるよ」
「そんなに!? なにしたの!?」
「ちょっ……なんで悪いことしたみたいな言い方するのっ。『セブンソング』のあたりまで行って、ゴールドユニコーンを狩ってたのー。あれの角って『スリーソング』の薬屋のおじさんNPCに売ると十万ソングで買い取ってくれるんだよ。だから十往復した」
「チ、チコ〜! そんなに頑張ったのか〜! 偉い〜!」
「えっへん! これもすべてドルオタグッズを売るための資金だよ!」
ドルオタの鏡である。
というわけで、存外資金がしっかりとあるらしい。
二人で色々な店舗を見て回り、やはり庭つき一戸建ての一階店舗、二階が自宅――セーブポイント拠点として使える場所がいいんじゃない? という話になった。
今までは都度都度宿屋に泊まってセーブポイントを更新してきたけれど、拠点があればHPがゼロになればそこに帰還する。
そして帰還後、HPがゼロになった場所に一瞬で転移できるようになるのだ。
さらにマップにピンを立てておけば、拠点から転移ができるようになる。
それ以外にも拠点があれば冒険中アイテムボックスがいっぱいになったら、拠点のアイテムボックスにポイポイと移動できる。
拠点に戻るとHPとMPがマップの二倍速で回復する。
家具を置いてインテリアデザインを楽しめる。
リフォームも可能。
お風呂に入れる……意外にこれはでかい。
さらに料理ができる。
料理は回復アイテムとして使用できるので、回復アイテム節約ができるようになるのだ。
等々、メリットが非常に多い。
「庭があれば薬草も育てられるしね〜」
「うん、店舗も広いし……入り口すぐにカウンターがあるのもいいね。あ、でも無人で販売ができるんだ?」
「アイテムを選択するとすぐに支払うようになるんだね。で、店舗の主は帰ってきてからカウンターでお金を回収。なるほど」
イイね! と親指を立て合うドルオタ兄妹。
問題は価格。
庭つき一戸建てともなると、他の販売店舗よりは高額のはず。
表に戻り、表札のところをタップして建物の詳細を開く。
バス、トイレ別。寝室四つ、客室一つ、物置部屋、作業場が一つ。食糧庫、カウンターキッチン、ダイニング、リビング。
などの情報の下に『追加家具カタログ』があり、それらを飛ばすとようやく価格が表示されていた。
「「150万ソング……」」
スッとシーナが所持金52万ソングを取り出す。
「「やったーーーー!」」
購入決定!
二人の所持金を合わせて、即購入。
とりあえず家具などはいつでも購入できるようなので、建物だけ先に買って所有者はチコ。
同居人としてシーナを登録。
「さてと、さっそく自分の部屋決めよう〜! 二階だったよね」
「そうだね。チコが好きな部屋選んでいいからね」
「うん! お兄ちゃんもね」
と、言ってまずは二階へ。
階段を登って右奥の部屋をチコ。
左の手前の部屋をシーナがいただいた。
二階の寝室奥にはトイレとバス。
トイレ、といってもアバターなので排泄はしないのだが、なぜあるのだろうか?
リアリティ追求のためだろうか?
その隣には脱衣所とお風呂。
思ったよりも広い浴槽とシャワーヘッドがある。
蛇口を捻るとすぐにお湯が出てきた。
「……お風呂入ってイイ?」
「じゃあ、お兄ちゃんは二階のカウンターキッチンの方見てくるよ」
お風呂を試したい、と思うのは女子なので当然だろう。
シーナはチコを浴室に置いて、キッチンを改めて確認しにいく。
冷蔵庫――食材カテゴリなら無限に収納可能。
引き出しには調理器具一式。
当然食材はなにも入っていないけれど、まさかレシピまで表示されるとは思わなかった。
素材を入れれば自動的に作ることもできるらしい。
一階に戻り、売り場横の部屋に入る。
ここは作業場。
新たに追加された生産系の職業に対応している。
「ええと……職業のメインを装飾師に設定して……と」
とはいえ、ドルオタグッズを作るのはそれほど難しくはない。
リアルに存在するアイテムをカタログから選び出し、そこに書いてある素材を集めて歌いながら素材を手で接合する。
リアルに存在するアイテムのカタログ――は、事前に運営に問い合わせをしておいたおかげでアイドルグッズ満載。
元々このゲームの趣旨が『歌バフ』であり、春頃のリリース時からレイドボス戦イベントを想定し、『ファーストソング』のステージでの歌唱ライブがあった。
それに付随するモノとして、かなり前からシーナが「実装、あるいは製作可能にしてほしい」と何度も要望を出していたのだ。
それがこういう形で実装された、ということ。
さらにカタログには『リクエストボックス』も設置してあり、今後もリアルにあるモノで、再現できるようにしてほしいオタクグッズなどを要望できる仕様。
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