リーダー会議(2)
「じゃあ、芽黒の方から頼んでもらっていい? 一応そっちのチームのことだから」
「そうだな。了解。チームAは順調でいいなぁ……」
と、心底羨ましそうに呟かれる。
メンバーが決まった時からそうなる気がした。
「あ、ヤバ。もうこんな時間か! 今日このあと定期のリーダー会議なんだ! 俺もう行かないと!」
「そうなんだ? 引き留めてごめんね」
「ううん。またな~」
そう言って芽黒が教室を出て行く。
リーダー会議といえば、二ヶ月に一度ある
◇◆◇◆◇
練習棟一階、ブリーフィングルーム。
月一に行われるリーダー会議。
「学アイ中止……ですか?」
綾城が回された書類を手に取って目を丸くする。
そこに記載してあるのは『学アイラブトーナメント中止のお知らせ』とデカデカ書いてあった。
『学アイラブトーナメント』は毎年恒例の学生セミプロアイドル限定のトーナメントイベント。
今年で第六回、ということで、定番化していた。
発祥は学園祭で、複数の芸能科セミプロアイドルを集めてトーナメントを始めたところからだと言われている。
ネットで放送もされ、三年目から人気にじわじわ火がつき始め、去年はついに複数のスポンサーがつくまでになった。
今年もすでに参加者募集がされており、東雲学院芸能科のアイドルたちもほとんどが参加申請をし終えたはずだ。
だというのに、九月も末……明後日には定期ライブだというのにこのタイミングで中止とは。
「学アイ運営から今朝、連絡がきた。主催が急な資金不足で開催不可能になったとのことだ。来年以降もおそらく無理だろう、だとさ」
「それはそれは……」
「スポンサーが撤退したってことですか?」
魔王軍、星光騎士団、勇士隊は『学アイ』に出演できなくても痛手はない。
が、小中規模のグループにはそれなりに痛い。
なにしろ、あのトーナメントイベントは一攫千金の大チャンス。
あのトーナメントで上位に入っただけでも一年分の活動資金が手に入る。
東雲学院芸能科としても、活動費の資金繰りにはそれなりに補助は出しているのだが、なにぶん本人たちの活動が世間にあまり評価されない。
しょせんはセミプロ――と思われているのだ。
今回のIG夏の陣で、星光騎士団が準優勝したことはきっとその改善に繋がるとは思うが。
小中規模のグループのリーダーたちは、学アイ中止に頭を抱えていた。
「うーん、なにか補填するイベントが必要になるのではないでしょうか?」
と、綾城が教師陣の座る席に視線をやると、教師たちは顔を見合わせる。
凛咲が「実はそういう申し出は来てるんだけどな、東雲学院理事のお一人から」と不快そうに口にした。
それは願ったり叶ったりなのでは、という声に対して「東雲周のご両親からなんだ」と言うと綾城から表情が消える。
その綾城を見て、少なくとも三年生のリーダーたちはなにかを察した。
「な、なにかまずいんですか?」
と、一年生で唯一のリーダー芽黒が隣の席の二年生グループ『Color』リーダー、夏山真紅に話しかける。
そう聞かれても、夏山も綾城とかかわりがあるわけではないので首を横に振った。
二年生からしても、IG夏の陣準優勝グループのリーダーは雲の上の人。
「それは確かに無理ですね」
「ともかく、そういうことだから活動費に困窮しているグループは資金繰りを頑張れ! 死に物狂いで仕事を取ってこーい」
「「「ええええええ」」」
倉治先生の宣言に、阿鼻叫喚となるブリーフィングルーム。
あまりにも雑。
そこで綾城が手を挙げる。
「どうした、綾城」
「実は僕の所属事務所社長が事務所経由で紫電株式会社とソルロックからフルフェイスマスク型VR機対応VRMMO『SBO』でのステージライブ営業を、東雲学院芸能科のアイドルにやってほしいと今月も追加でフルフェイスマスク型VR機を提供したいと」
「あれな! いいと思う!」
「ステージライブ営業?」
なにそれ、と勇士隊の石動が顔を上げる。
綾城の代わりに凛咲が「あーなんかゲームの中でライブできるんだ! すごかったぞ!」と説明になってない説明をした。
仕方なく綾城が「SBOを開発した紫電株式会社とフルフェイスマスク型VR機を開発したソルロックから、SBO内のステージでライブをするとゲーム内通貨で報酬が支払われるんです」と説明。
そのゲーム内通貨はユーザーがカラオケ機能を使うために課金したリアル通貨の一部から手数料等を抜いて支払われる。
ゲーム内通貨3000ソング以上からリアルの通貨に換金ができるようになるため、小遣い稼ぎにはぴったり。
しかも今後はゲーム内でグッズの製作販売も行える。
それらの売上も自分たちの収入活動費にできたなら、現実の仕事に繋げていけるかもしれない。
「こちらの二社から東雲学院芸能科にもプロモーションの提携依頼が来ているんだよな。これを大々的に受けて、東雲学院芸能科のアイドルがステージでライブしたりグッズの売り上げで得た収益を、学院側で管理した方がいいんじゃないか?」
「確かに。納税のこともあるしな」
「安定的な活動費の確保のために、こういうものを使うのもありなのか?」
「可能だと思います」
ここからは頭のいい人たちによる「広告収入の割合」「ゲーム内に東雲学院芸能科公式グッズ販売所を設置してはどうか」「その売り上げを校内売り上げにカウントしてはどうか」などの話しで盛り上がっていく。
置き去りにされつつあるあんまり頭のよくない芽黒。
(俺、必要?)
もはや菩薩の顔になった。






