リーダー会議(1)
「練習には来てるんだ?」
「来てるには来てるんだけど案の定魁星くんとめちゃくちゃ険悪で、全然息が合わないんだよー。空気感染で他のメンバーもギスっちゃってるしさぁ。チームAはどうなの?」
「うちは全体的にパフォーマンス力の差が明確に出ちゃって、俺と周と千景くんが他のメンバーのレベルに合わせつつサポートする立ち位置の模索中かな。歌唱力は俺がまだ出ない音域があって、研修生制度でプロのボイトレ受けてる感じ。歌は他のメンバーの足引っ張っちゃってるなぁって」
「……それ絶対“そんなことない”やつじゃ……ま、まあいいや。とにかくそんな感じで練習時間がマジでギスっててさ、なにかいい方法ないかなぁ?」
と、深々溜息を吐くコラボユニットチームBのリーダー、芽黒。
カフェテリアでのリーダー打ち合わせは週に一回。
コラボユニットとはいえ、元々チームBは問題児がいる。
日守風雅という問題児が。
実力も当然入学時から多少マシになった、程度。
歌唱力もさほどの成長は見られない。
体幹も鍛えてないので歌っていて歌がブレる。
それが不協和音になって、チーム全体のお荷物になっている。
見かねた『SAMURAI』メンバーが「特訓しよう。レッスンつき合うよ!」と声をかけたがまさかの無視。
本格的にもうダメだろうなぁ、というのが淳の感想。
ここから上がるのは、一年生をやり直すぐらいでないと無理だ。
「千景くんはなにかいい考えない?」
「ひへっ!? ぼ、ぼく!? い、いえ、あの、ぼくは……いいえ、なにも……」
「そっかー。はあー、どうしようかなぁー……」
「日守くんが実際、どうしたいのかがわからないと話し振れないよね。やる気はあるのか、もう辞めたいのか。でも参加したってことはやる気はあるのかなって思ったんだけど」
「うん……俺もそう思ってたんだけどね」
はあー、とまた深い溜息を吐く芽黒。
想像以上に苦労しているなぁ、と眉尻を下げる淳と千景。
「練習、途中で切り上げていなくなるんだよね」
終わってる。
と、いう感想を抱く淳。
きっと千景も同じ意見だろう。
「見切りをつけてもいいんじゃないかな。繋ぎ止めようとした俺が言うのもなんだけど」
「それって日守以外のメンバーでやるバージョンの練習しろってこと?」
「するかどうかは任せるけれど、一ヶ月切っているのにその様子だと六人バージョンも必要なんじゃないかな?」
「そうか。そうだな。……うん、そうする。……日守は――」
諦めるしかないのかな、と芽黒が視線を逸らして呟く。
淳もアイドルがいなくなってしまうのは寂しい。
けれど、日守の態度はもうどう足掻いても無理なモノだ。
「……あの」
「うん? どうしたの、千景くん」
「ゆ、勇士隊の……勇士隊の“初代”――倉治悠馬先生にお願いしたら、ど、どうでしょう?」
「「え……?」」
本気か?
と、言われて一拍の間。
その後視線だけで芽黒とアイコンタクトをして、そして千景に視線を戻す。
凛咲先生のように、勇士隊の“初代”も東雲学院芸能科の教師をしている。
担当教科は体育&ダンス……および生徒指導で、ダンス部と勇士隊の顧問。
熱血漢で事情を話さないと生徒指導室からは出られない――と言われている。
そしてダンス部の顧問としての倉治先生は、まさしく鬼教官。
できないところ、癖があるところは徹底的にシバかれる。
今時竹刀を持ってジャージとサンダルで歩き回る教師なんて、倉治先生以外絶滅してるんじゃないだろうか。
この人ほんとに元アイドルか? と首を傾げたくなるレベルで顔が怖いし、角刈りだし、体躯がでかい。
勇士隊の石動と柴ですら、倉治先生の名前を出すと一瞬でスン……と無表情になる。
いや、勇士隊に限らず、倉治先生に言うぞ、と言われたらほとんどの生徒はスン……となるだろう。
なるほど、と思う反面、火に油では? とか逆に引導を渡してないか? とも思う。
本当に賭けだ。
「ま……まあ……同じ辞めちゃうんなら……倉治先生の荒療治を受けてみるのもあり、なのかな?」
「相談したら終わるよね。日守が」
「終わると思うけれども」
「お、終わっちゃうんですか……? ぼ、ぼくにはすごく優しくて、好きなんですけど……み、みなさん怖いっておっしゃいますよね……」
「それは千景くんが純粋で素直だからだと思うよ」
すぐに竹刀を床や壁に叩きつけて大きな音を出し、威嚇してくるのかと思えば「これはイ音!」などと叫ぶ人だ。
作曲する千景には、なんというか、性格的に相性が悪そうに見えて根気強く話を聞き出してくれるのと、音楽に明るいところで仲がいいらしい。
意外な組み合わせである。
実際千景は怒鳴られたことがないし、怒鳴っているところは見たことがないという。
竹刀で床や壁を殴るところは見たが「この壁のこの音程から始まる曲が〜」的なマニアックすぎる会話をするんだそうだ。
マニアックがすぎないだろうか?
もうその領域になると、そりゃあ通じ合えるレベルの相手は少なかろうよ。
通じ合える生徒と出会った倉治先生は、そりゃあ千景には甘かろうさ。
改めてアイコンタクトをする淳と芽黒。
「そうだね。どうせ辞めてしまうなら、倉治先生にお願いしてみようか」
「あのさあのさ、倉治先生の前に魔王軍の顧問の笹荻先生に頼むのはないの? 日守って魔王軍だし」
「笹荻先生は外部出身の先生だからな……」
魔王軍顧問の笹荻六茶先生は外部出身。
一応東雲学院普通科卒業のOB。
けれど、芸能科はとても特殊な場所。
芸能科OB以外は、五年前にアイドルの私物をオークションサイトで売り捌いていたことがあり、やや警戒されてしまう。
笹萩先生自身はかなりのほほん、とした性格。
魔王軍、グループ名は物騒だが実にアットホーム。






