ドラマのお仕事(3)
十和と聖は淳も同期なので知っているが、七瀬と柳は劇団スター☆コスモ関西支部の出身。
つまり、今回は一番力の強い劇団スター☆コスモとそのグループ事務所であるスターコスモエンタテイメントの俳優が優先される。
全員劇団スター☆コスモ関係者で固めると「身内贔屓」だの「職権濫用!」など炎上するので、数人は別事務所俳優やアイドルを入れてバランスを取るだろうが、基本的に淳たちは話題作りのために呼ばれて参加したに過ぎない。
なので魁星と周がどんな演技をしようが関係ない。
審査員の度肝を抜く超演技の天才みたいな俳優が現れても、結果は覆らないだろう。
なので、気楽にジュースを飲みながら他の演者の演技を眺める。
なんなら淳は、デビューしたての学生プロアイドルを鑑賞することに注力を始めた。
そのくらい、淳にはまったく興味のないオーディションだった。
「結果発表~~~!」
司会MCの元気のいい声。
パチパチと演者と審査員、スタッフから拍手があがり、結果の紙を審査員席からMCに渡される。
ドキドキワクワクの瞬間だ。
(収録だけど、別室に原作者が来てるんだっけ……。コミックスの実写化は炎上し易いから、原作者が製作委員会に資金提供して審査員に自分をねじ込む程度には思い入れが強いって聞いたなぁ)
基本的に作品がメディア展開したあとのことは、原作者がお金を出して口出しする権利を獲得する以外出版社の方に権利があると言っても過言ではない。
コミックスに限らずほとんどの創作物は事前にそういう契約を結んだ上で、出版されるのだ。
なので今回の作品の作者は少額だが制作費を払って原作者権限による、改変の防止に努めているそうだ。
昨年、コミックス原作のドラマが脚本家により盛大に改変され、原作の面影がないと大炎上した。
その上、脚本家は逆ギレの如く「ドラマになったら自分の作品」とまで言い原作者を傷つけた。
原作者の漫画家さんは作品を描けなくなり、休載することが発表される。
しかも、再開未定。
これに古参ファンが大激怒。
炎上からの延焼はとどまるところを知らず、ついにその脚本家が携わった作品すべてを批難する流れになった。
脚本家はSNSアカウントを通報されまくって、凍結。
実際自宅なども特定されて無言電話や嫌がらせ、脅迫文、怪文書が送りつけられるようになったとか。
これらのことが原因で、原作者は自衛も兼ねて少額でも制作費を出すようになり、最近では原作通り、または脚本家も原作者に特別の配慮の上にドラマや映画が制作されるようになった。
今回も別室で原作者がオーディションを見守っており、顔出しの審査員とともに一時間ほど協議をして――したふりをして――結果発表の時間になったのだ。
まあ、原作者の強い要望がない限り、製作委員会側が事務所と事前に決めていた俳優に決まっていることだろう。
そうでなけれぼ“たった一時間で”結果が出るはずもない。
「主演、その一! 佐倉レン役は――スターコスモエンタテインメント、橋良聖くん!」
ワッ、と拍手が巻き起こる。
聖が立ち上がって、ぺこぺこと周りにお辞儀をしていく。
出来レースとはいえ知り合いが主演に選ばれて淳もにっこにっこで拍手した。
「次に主演その二! 宮木嘉穂役は――劇団スター☆コスモ、柳響くん!」
がた、と立ち上がったのは思った通り関西出身の劇団スター☆コスモ大阪支部の柳響。
彼は中学生三年生。
中学生にBLドラマの主演って大丈夫なのか、とも思うが、それも話題になるし実際『宮木嘉穂』は中学生三年生の受験生だ。
前世の飼い主、佐倉レンと同じ高校に入るために、拾った猫に会いに行く、勉強を教わる、等の理由を色々言って会いに行く。
そこがまた一途でいじらしい。
高校生編は四巻以降なので、そこからだんだん二人の関係は段階を進めていくが――おそらくそこまでドラマで放送はされないだろう。
あくまで高校入試までの一年間。
合格した嘉穂が、その勢いでレンに告白するまでが描かれる予定。
つまり年齢的にドンピシャ。
これには誰も文句はないだろう。
――が。
「音無淳さん!」
「はい?」
結果発表のあとは二人の感想と意気込みを撮影し、収録が終わるなり淳たちは控え室に戻る。
戻った途端、淳たちがロッカーを開く前に控え室の扉がノックされ、周が扉を開くと女性が淳を呼んで急に頭を下げてきた。
「お願いします! うちの響に、演技指導をしていただけないでしょうか!?」
「はい?」
さっきとはニュアンスの違う「はい?」で首を傾げる淳。
魁星と周も顔を見合わせて怪訝な表情を向ける。
女性の後ろから、柳響が入ってきて一緒に頭を下げた。
「お、お願いします!」
「えーと……とりあえず入ってください」
廊下まで響く声。
魁星、周ともアイコンタクトをして、ひとまず二人を控え室の中に入れて話を聞くことにした。
女性は柳響のマネージャー、小木さん。
彼女が言うに――
「先程のオーディション、別室で見ておられた原作者のミッカ先生が『絶対音無淳くんがいい! あの子の演技が一番嘉穂だった! あの子以外認めない!』――と言い出されまして」
「え。えーーー……?」
「え? えーーー? げ、原作者の人がそこまで言ってたのに、ジュンジュン選ばれなかったの? なんで?」
「あーそれはねー……」
魁星に「あとで説明するねー」と言っていたので、ドラマ配役の基本情報を説明する。
当然「なにそれ八百長じゃん」と憤っていたが、スケジュールの確保なども関係しているのでそんなもんだ、と言ってのける。
それに元々、原作者のミッカ先生は希望の俳優がいたわけではない。
俳優に明るくないので「いい役者さんがいたら、その人でいい」というスタンスだった。
それなのにオーディションで決まっていた俳優をサラッと超えて、ミッカ先生のイメージドンピシャの演技をしてしまったのが淳――というわけだ。






