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ドラマのお仕事(2)


 目を閉じて、台本のセリフを反芻する。

 漫画は一昨日から読んで最新刊まで読破していた。

 その情報を自分の中に流し込み、自分のデータと混同するようにしつつ再構築する。

 前回、日守に対して『神野栄治』を土台にして演じた時よりも、さらに深く、より多くの情報を入れて目を開く。

 

「演技スタート!」

 

 MCの声で猫――オーディションなので猫のぬいぐるみ――を箱から拾い上げようとするが、過去、自分が拾った猫を誤って家から出して事故死させてしまったトラウマから手を伸ばしかけ、慌てて背を向ける“佐倉レン”――演じる長谷川十和。

 宮木嘉穂(みやきかほ)は”前世猫”という特殊設定な役。

 基本を転生後の人間に置くか、前世の猫に置くかで演技はかなり違いが出る。

 今までの演者は後者が多かったように思うが、原作を読んだあとだとどう考えても前者。

 なんなら単行本三巻の原作者あとがきにも、そのように記載されている。

 今までの演者は当然原作は読んできたんだろうが、おそらくあとがきまでは読んでいなかったのではないだろうか。

 そもそも男子高生がBL漫画を読む、という時点で難易度が高い。

 単行本も現時点で九巻まで出ているので、早く読み終わりたい、という焦りからあとがきを読み飛ばしている者が多いはず。

 だから、人間主体の猫、猫の記憶を持つ人間として演じるのが――淳の答え。

 

「拾わないの?」

「!」

 

 漫画ではこのシーンの宮木嘉穂は後頭部。

 今までの演者がハスキーな声で”大好きな飼い主との再会を喜ぶ”嘉穂が多かった。

 けれど淳が演じたのは、”大好きな飼い主が、自分以外の猫を助けようとしてやめた姿に喜びと落胆を混ぜた”嘉穂。

 猫は飼ったことがないけれど、なかなかに嫉妬深い生き物だと思う。

 大好きな人が自分以外の”猫”を助けようとしたら嫉妬するんじゃないだろうか。

 そして、助けるのをやめたら安心と同時に「あんたそんな人じゃないだろ」とがっかりするんじゃないか?

 そういう感情をないまぜにした表情と声色に、佐倉レン――長谷川十和――は驚いたように目を見開く。

 今までの演者とはまったく異なる演技に、審査員席と演者席がわかりやすく動揺した。

 すぐに目を細めて、レンの横を通り過ぎて猫のぬいぐるみを拾う嘉穂。

 猫の頭を撫でながら、原作通りの妖艶な笑みを向ける。

 ただし、そこに挑戦的な、煽るような色を込めた。

 

「じゃあ、おれが拾っちゃう。いい?」

「え、あ……ッ……」

「もう! 一度手を伸ばしたら、責任持って拾って幸せにしてよね! はい!」

 

 そう言って、レンの胸に猫を押しつけて立ち去る嘉穂。

 けれどやっぱり、飼い主が気になるので振り返る。

 レンもまだ、嘉穂を茫然と目で追っているところだった。

 自然に視線が絡み合う。

 原作通りに「あっかんべー」と拗ねた態度を取って、今度こそ走って立ち去る。

 ここまでが、オーディションの内容。

 司会MCの慌てたような「カット!」という声に我に返る演者席。

 オーディション後の感想を聞くために、MCの横に集合する淳と十和。

 

「音無くん、演技経験者なん!? ちょ、学生セミプロのアイドルって聞いてたから一瞬で雰囲気変わってガチビビりしたんやけど!」

「俺、劇団スター☆コスモ在籍経験者ですよ。十和くんと聖くんの同期なんです。ね! 一緒に演技するの久しぶり」

「う、うん。でも、なんか……磨きがかかってない……!? ブランクを感じさせないどころか、今までになかった雰囲気とか色気みたいなの出してきてびっくりしたんだけど!?」

「ええ? 先輩たちのステージを観てて、それのおかげかな? 魔王軍の先輩たちって普段喋っててもなんかセンシティブな雰囲気だし」

「アイドルって色気が必要なの?」

「三年生の先輩はセクシーな人が多いよ? 小学生みたいな、少年の心を忘れない人もいるけれど」

 

 石動上総とか、柴薫とか。

 

「今までと全然ちゃう演技で正直度肝抜かれたわ~。オーディション用で佐倉レン役の長谷川くんはセリフ少なめやったけど、実際演じてみてどうやったん」

「セリフが少ない方が、表情や仕草で役柄を表さなければいけないので本当に難しいな、って思っていたんですけど……淳くんがすごくて全部持って行かれちゃった感じです。でも、逆に『ああ、これはレンも嘉穂に一目惚れしちゃうな~』って納得もしちゃったっていうか。心も視線も持って行かれる感じがしましたね。そういうところが、淳くんのおかげで表現できた気がします」

「十和くん、一瞬で合わせてきたから『さっすが~♪』って思っちゃった」

「アドリブは得意だからね。でも、淳くんじゃないとアレはできなかったよ」

「なんかすでに二人にしかわからん会話しとるんだけど~~~!」

 

 ドッと笑いが起こる。

 司会の上手いまとめ方で、インタビューが終わって演者席に戻ってくる淳。

 すると、泣きそうになっている魁星と周。

 

「ど、どうしたの、二人とも!?」

「ハードル上げて帰ってこないでよぉ……」

「無理ですよ、我々、あんなの……」

「ええ……? 二人にはそこまでのレベル求められてないでしょ。それに、こういうオーディションって割と始まる前から配役決ってるものだし」

「「え?」」

 

 そうなの、という魁星に「撮影中だからあとでね」とごまかす。

 実際、こういうオーディションは話題性を集めるためのデコイだ。

 事務所の力関係や、出資者の意向、話題性などを加味して比較的初期にオファーを出す。

 人気俳優なら早めにスケジュールを確保しなければならない。

 今回は売り出し中の長谷川十和(はせがわとわ)と、橋良聖(はしらひじり)七瀬葉花(ななせはばな)柳響(やなぎひびき)あたりが選出されるんだろうな、と淳は思っている。



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