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ドラマのお仕事(1)


「こんにちはー! 星光騎士団、第二部隊隊長、音無淳です!」

「ちわーっす! 星光騎士団、第二部隊、花房魁星だぜー」

「同じく星光騎士団第二部隊、狗央周です」

 

 幸いというか、ネットの番組にも呼ばれることが増えた。

 それだけでなく、今回はネットのオーディション番組。

 出版社と配信会社が出資し製作委員会が立ち上がったネットドラマの配役を賭けたオーディションを、同じくネット番組でやってしまおうという今話題のワイチューブチャンネルだ。

 今回のドラマは男性同士の恋愛もの。

 地上波でサラリーマンおじさん同士の恋愛ものが爆発的な人気を博したことで、漫画原作のBLドラマの制作が決定した。

 地上波では難しい、少し過激めな男子校生同士の恋愛ものなので、今話題のアイドルや十代後半の俳優が集められている。

 オファーが来たのはIG夏の陣直後で、製作委員会からは「綾城珀くんと花崗ひまりくんと後藤琥太郎くんに、ぜひに!」とのことだったのだが綾城と花崗はスケジュールNG。

 後藤は全力で「無理無理無理無理」と拒否。

 理由は「家がどういう反応するか全然想像つかない」というもの。

 確かにめっちゃ怖い。

 製作委員会側が危険に晒されかねない、ということでお断り。

 ということで回ってきたのは一年生ズ。

 演技初心者の魁星と周はさっきからずっと笑顔が硬い。

 が、淳はオーディション自体とても久しぶり。

 自己紹介をして、直前に手渡された台本を暗記し、同じシーンを演技する。

 相手役は他のグループのアイドルだったり、俳優。

 その中で、意外な人物を目にした。

 

(おわー、(ひじり)くーん)

(淳くーん、久しぶり〜)

 

 西雲学園芸能科に通っている、淳の劇団時代からの幼馴染み、橋良聖(はしらひじり)

 すでに劇団経由で事務所に所属しており高身長、高学歴のイケメン若手俳優として売り出し中だ。

 カメラが出演者を映していないところで、手を振り合う。

 途端に後ろから冷たい眼差しの気配。

 

「なに?」

「知り合い?」

「うん。劇団時代の同期」

「「……はあ……」」

「え? なんで急に溜息……?」

「べっつにぃー。今度は他の学校かぁって、思っただけ。はぁ……ジュンジュンってほんと天然人たらしだよねぇ」

「え? ええ?」

 

 なにやら急に拗ね始めた同期たち。

 たまに意味のわからない拗ねを発揮するので困る。

 

「ん?」

 

 聖の方を見ると、別の方向を指差す。

 指の先にいたのはもう一人の昔馴染み、長谷川十和(はせがわとわ)

 一緒に延々外郎売を暗記した仲。

 彼も長身イケメンとして、聖とともに売り出し中の若手俳優。

 ただ十和の方は、まだ劇団所属の扱い。

 劇団としては何人かを劇団に所属させたまま、劇団の看板俳優として人寄せパンダにしている。

 かの有名俳優所属! と売り出し、新たな劇団員を取り込むのだ。

 淳のように「コミニュケーション能力を養うために」ということで劇団に入る子どもは珍しい方だろう。

 普通、劇団に入るのは我が子を子役にして有名にしたい、という親のエゴが半数以上。

 あの二人はまさにそういう親の欲を一身に受けて、俳優業をやっている。

 しかし、二人とも西雲学園芸能科に入るくらい勉強も頑張っている努力家だ。

 淳の顔を見るなり十和もパァと嬉しそうな表情になる。

 高校受験のために三人でファミレスに入り、数時間ドリンクバーで勉強をしたのは懐かしい思い出だ。

 

「それでは次の組み合わせは――」

 

 番組MCがくじ引き箱に手を突っ込む。

 あのくじ引き箱から攻め役、受け役を引いて、名前が出た相手と組んで演技をする。

 攻め役、受け役の箱の中身は本人の希望と、事務所の意向で決まり、どちらでもいい、という者の名前はどちらの箱にも入っていた。

 淳と周は「どちらでもいい」で、魁星は「攻め役希望」。

 とはいえ、魁星と周は「正直想像がつかない」が一番大きい。

 が、世の中のアイドルというのはいわゆる『BL営業』という売り出し方もある。

 淳はそういうのも平気なのか、と魁星が聞いたら「え? アリ寄りのアリ〜」とニッコニコ。

 主にツルカミコンビや魔王軍の三年生はBL営業ふうの売り方をしている節があるので、淳はまったく気にしない派。

 そのあまりの強さに魁星と周が宇宙猫になったのは言うまでもないし、なんなら淳の妹の智子は「生モノもイケる」とSNSのファンアートを鍵垢で巡ってはニコニコしている。

 と、そのようにドルオタからは一定の需要も高いため、今回のBLドラマ公開オーディションネット番組に一年生ズでオファーを受けたのは、勉強のためという面が大きい。

 配役ゲットができたら御の字、くらいの生ぬるい覚悟だ。

 淳も第二部隊のリーダーなので、受かってもスケジュールが厳しくなるから「できれば……うん」という感じ。

 ついでに、受かってしまうと春日芸能事務所と東雲学院側と話し合うことになる。

 ちょっと長期で、結構大きいお仕事なので。

 面倒くさいのだ。

 

「攻め役は劇団スター☆コスモから長谷川十和くん! 受け役は星光騎士団第二部隊から音無淳くん!」

「は! はい!」

「はーい」

 

 受け役の方で当たったかぁ、と呑気に考えて立ち上がる。

 淳よりも俳優として売り出されている十和の方が緊張でずっこけながら前へ出てきた。

 首を傾げる。

 十和とはそれなりに長いつき合いだ。

 オーディション前にこんなに緊張するところは見たことがない。

 彼はとても、演技が好きな人だから。

 

(久しぶりに一緒に演技するから、緊張してるのかな?)

 

 淳としては気心の知れた十和とまた演技ができるので、気が楽だ。

 だが、相手は俳優としてすでにいくつかのネットドラマや短編映画に主演経験がある。

 演技が久しぶりの淳とはもう、経験値が違う。

 

(――えっと……確か、受け役の『宮木嘉穂(みやきかほ)』は前世での飼い主、攻め役の『佐倉(さくら)レン』に恩返しするために自殺した宮木嘉穂の体に憑依して同じ高校に通うようになる――んだよね。普通の現代モノじゃなく、少しファンタジー要素も加わって受けの子の健気で一途なところと攻めの頑なな心が絆されていくところが見どころ、だったかな)




小ネタ



宇月「ねえ! なんで僕にだけオファーがないの!? おかしくない!? 珀先輩、ひま先輩、ごたちゃん、僕飛ばして一年ズっておかしくない!?」

花崗「わしも初めて詳細見た時思ったわ。そのあと腹抱えて笑ってもうだけど」

宇月「ああ?」

綾城「まあまあ。一応先方に確認はしたんだけどね? ……うん」

宇月「綾城先輩までぇぇぇ! ねえ、絶対におかしいってぇぇ! なんで僕飛ばされたの!? BL漫画原作のドラマなんでしょ!? 星光騎士団可愛い担当の僕がハブられるのはおかしいよねぇ!? ねええ、ごたちゃーん!」

後藤「出たかったの……?」

宇月「え? 別に? BL読まないし、申し訳にけど作品知らないし」

綾城・花崗・後藤「えええ……」

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