敵意(4)
事実、星光騎士団の知名度……それも第二部隊の三人相手だけでおそらくB組全員が立ち消える。
他にも長緒など、同じ三大大手グループ魔王軍の二軍、四天王をリーダーとした四つのグループに一年生で参入を許されたのは全員A組。
最初に麻野のグループにいた日守は練習不足による実力不足で三軍に格下げされている。
(アイドルを愛してる。これは本音。だから本気で引導を渡してやる方がきっと優しい)
神野栄治ならそうすると思う。
綺麗に、その首を落とす。
苦しまないように、振り返れないように。
ただ彼は一緒に戦う者を一人しか選ばない。
背中を預ける相手以外と共には戦わない。
でも、淳はアイドルを愛しているから地獄にいる日守に対して一本だけ、蜘蛛の糸を垂らそう。
小説のように亡者が自分も自分も、と縋りついてくることはない。
なぜなら最下層にいるのは日守風雅ただ一人。
一人でその糸にしがみついて、登り切れればアイドルを続けられる。
手を差し伸べるのは、頑張るアイドルを応援しているから。
愛しているから。
無我夢中で登り続ける日守風雅の姿を応援したいのだ。
その姿を愛でて、心から愛してあげたい。
栄治のように糸も与えずギロチンの刃を落とす方が、日守というアイドルは苦しまないけれど――音無淳はドルオタなので優しい道を示してはあげられないらしい。
希望を与えて、本人が呻いてあがいて苦しむ姿をニコニコと応援したいのだ。
ニコニコしながら、それでも薄く、目を開く。
「どっちがいい?」
「――は?」
「地獄でもがくか、アイドルを辞めるか。俺は日守くんにアイドルを続けてほしいな。アイドルを続けるために、今の一年生の“最低ライン”まで頑張ってよじ登ってきてほしい。でもそれって今まで練習をサボってきた日守くんには、普通の練習じゃ足りないってこと。好きな方を選んでくれていいよ。……というわけで、コラボユニットに興味のある人は挙手して所属グループと名前を教えてほしいな。チャットルームに招待して、スタジオのレンタル日を共有するから自分のスケジュールと照らし合わせて練習に出られる日を登録して返信してね。あ、千景くん、『決闘』や曲のこと勝手に決めてごめんね」
「ひあ!? ひ、あ、は、は、はいぃ! そんな、はい、全然! はい、なにも問題はありませんです……! む、むしろこんな役に立たない底辺クソ虫が作った曲なんてどう扱っていただいても構いませんので……」
「も~~~~」
なぜかまたも床に土下座してペコペコする千景。
それにさすがに困ってしまう。
先ほども公言したけれど、淳は東雲学院芸能科のアイドルを心の底から愛している。
頑張って、努力を重ねるアイドルを愛して応援する。
どこからともなく『御上♡千景』『ハート作って』の推しうちわを取り出すので、不慣れなB組生徒がざわつく。
そのまま千景の前にしゃがんで、うちわを見せながら微笑む。
「俺の大好きな”推し”をそんなふうに言わないで。推しを貶されるのが悲しいのはドルオタならわかるよね?」
「あ……う……あ……そ、それは……で、でも、そ、そんな、ぼ、ぼくなんて、うう……」
寂しそうな、悲しそうなぴえん顔でジーっと見ていると、おでこから首まで真っ赤になった千景がついに涙を滲ませて「わ、わかりましたぁ……だ、だからそんなに、み、見つめないでくださぁい……」と床に突っ伏してしまった。
ご満悦な淳の笑顔に呆れ果てた魁星の険しい表情。
B組生徒も信じ難いもの、異様なものを見る目で淳を見ていた。
「じゃあ、明日の打ち合わせでシャッフルでユニットメンバーを決めようね」
「は、はひ……」
「メンバーは明日の昼まで募集しているので、それまではいつでも申請して〜」
と言い残して、最初に声をかけてくれた芽黒と月光をチャットルームに招待した。
魁星は改めてドルオタってすごいな、と感心したとかしないとか。
◇◆◇◆◇
「お兄ちゃん! SBOの公式アカウントから、新情報が出てるよ!」
「え! どれどれ!?」
翌日の朝、本日の朝食作り担当は淳。
智子が慌てて降りてきて、スマートフォンを突き出して見せてきた。
最近忙しさにかまけて情報収集を怠っていたけれど、SBOはさらなるアップデートが行われるらしい。
新エリア解放、新職業追加、『ファーストソング』&『ファイブソング』にて、店舗経営機能実装!
「店舗経営機能? へえー、自分のお店を持てるってこと? 面白そう!」
「だよねだよねー! 新職業は生産職みたい。鍛治師、裁縫師、装飾師、料理人だって。鍛治師は武具を生産、裁縫師はアバター衣装の作製、装飾師はアバターアイテムの作製、料理人は回復アイテムの生産……これら四つの新職業を一定レベルまで上げてから、店舗を購入すれば生産物を販売できる――だって! 面白そう〜」
「確かに。面白そう――あ」
と、顔を上げる。
SBOプレイでずっと思っていたことがある。
そう……推しグッズだ。
「さ、サイリウムと推しうちわ……!」
「え?」
「推しグッズを作って売る場合、装飾師?」
「……!! それだ!!」
智子もお気づきになられた。
こくり、と頷き合い、今夜一緒にログインして装飾師を取得することにした。
「っていうか、お兄ちゃん、最近ものすごく忙しそうなのにログインできそうなの?」
「九月はそれほどではないかな? コラボユニットをやることになったから、そのレッスンで埋まっているけど」
「コラボユニット!? それって年末の『聖魔勇祭』用のユニット制度だよね!?」
「うん。でも常設されている制度だから、俺たちにも使うことができるんだ。ふっふっふ~、誰とコラボすると思う?」
「え~~~~!? 誰、誰!? ヒント! ヒントちょうだい!」
「全員一年生」
「ってことは複数人!? うーん、う~~~~ん……」






