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アイドル第一歩(5)

 

(結局昨日の夜は『SBO』できなかったなぁ)

 

 エイナもそれほど頻繁にログインしていないようなことを言っていたけれど、歌の練習ということで始めたにも関わらずまだ一回しかログインできていない。

 ゲーム自体は面白いし、ツブヤキッターでゲームのアカウントをフォローしてみたところ昨日からゲーム内でイベントが開始されたようなのだ。

 マスコットキャラクター『プトリ』のアバター帽子がもらえる、というもの。

 興味がないといえば興味がない。

 けれど、それ以外にも『経験値倍!』キャンペーンが大きい。

 さらに、公式アカウントから『来月にツルカミコンビがログイン! 今のうちにレベルを上げよう!』との告知。

 

(レベル上げ、しておきたいー!)

 

 ゲーム内でツルカミコンビが参加した、大規模レイドイベントを開催予定らしい。

 それまでに、高いランクに参加できるようにしておきたいのだ。

 高いランクの方が報酬がいいし、サーバにランダムで現れるツルカミコンビのどちらかと遭遇できるようにしたい。

 だが――

 

「ふーん、ゴールデンウィークにライブあるんや~」

「はい。それで、その時に新入生一同星光騎士団のファーストシングル『Starlight』を披露させてもらってもいいでしょうか?」

「はーん。どう思うよ、珀ちゃん」

「うん、いいんじゃない? ……辞めずに生き延びられれば」

「えっと……それは――」

 

 放課後、レッスンスタジオA。

 二部屋あるレッスンスタジオにいる新入生は、淳を含めて九人。

 昨日の今日で、すでに二人いない。

 

「ちなみに山田くんと渡部くん、連絡つく?」

「連絡は……きてないです」

「うーん、あの程度の脅しでもう来ないのはなかなか……。まあ、一応連絡なし三回までは待ってあげてね。あと二回、連絡なしでの欠席はそのまま脱退とは伝えてあるし、文句はないでしょう。それじゃあ、他の八人の新人さんも頑張って。でも、無理だと思ったらすぐに相談してね。僕に言いづらければ淳くん、聞いてあげて。そのまま僕に伝えてくれればいいから」

「う……は、はい」

「音源と映像はノーパソ置いていくから。じゃ、僕らは隣で練習しているね。三時間後に様子見にくるから」

「は、はい」

 

 例によって、第二部隊隊長の後藤は本日も部活。

 昨日練習が切り上げになってしまったので、今日はしっかり練習してくるだろう。

 時計を見ると、午後二時過ぎ。

 練習開始時間は二時から。

 今来ていない二人は無断欠席。

 

(気が重い……!)

 

 しかし、やることになってしまった以上仕方ない。

 先程宇月にも冷たい目で「第二部隊の二番手だしぃ、五月にごとちゃんが第一に上がったらお前が第二部隊の隊長なんだからシャンとしなよねぇ」と釘を刺されてしまった。

 後藤は五月から第一部隊に格上げ。

 今まではあまりやる気がなくて、第二部隊に一人だった。

 だが、第二部隊は後藤一人なので月末の定期ライブはいつも第一部隊の三人と一緒にステージに上がっていたので事実上第一部隊の“四人目”なのは誰の目から見ても明らか。

 第二部隊に淳が入ったから、いよいよ第一に格上げされたということなんだろう。

 つまり、淳がなにがなんでも予備部隊のメンバーをまとめ上げて“第二部隊”の仲間を増やさなければ淳も後藤の二の舞。

 一年間、第二部隊に“ぼっち”ということになる。

 

(そ、それだけはぁああぁ!)

 

 否が応でも生まれる使命感。

 気合いを入れ直して振り返る。

 

「では! 今から練習を始めましょう!」

 

 しかし、振り返ってすぐに同級生たちの様子が二つのグループに分かれているのに気がついた。

 すでに軽く準備運動と柔軟をしている四人と、なにもせずスマートフォンを眺めたり、雑談している四人。

 もう、この時点で嫌な予感がした。

 

「なにから始めたらいいの?」

 

 そう聞いてきたのは軽い柔軟をしていた狗央。

 狗央と花房は、当然のように体をほぐしていた四人のうちの二人。

 その姿に、少しだけ安心した。

 クラスメイトは八人中四人。まさに半分。

 だが、その中でも半々に分かれていたので胃が痛い。

 しかしいざなにから始めるべきかと言われると、少し考える。

 自分が振付と歌を覚えた方法が彼らに通用するかはわからない。

 しかし、期限は一週間。

 やるしかない。というか、やらせるしかない。

 

「まずは一同曲のMVを観てほしいです。この中でMV観たことある人います? っていうか、観てきました?」

「ってか、同級生だし敬語いらなくね?」

「タメ口でいーよー」

「あ、そうか」

 

 スマホをいまだに持ったままの阿部と浅見が笑顔でそう言う。

 この二人は、準備運動もなにもしていなかった不安を感じた方。

 言っていることは納得するので、敬語を外すことにした。

 

「じゃあ、その……MV観た人」

 

 と聞くと、手を挙げたのは狗央のみ。

 一気に「ま、マジかぁ」という気持ちになった。

 昨日の時点で課題曲は告げられていたし、MVについては淳が熱く語っていたのに。

 

「俺は曲だけ聴いたな。歌詞も少し覚えてきた」

「少し踊ってみたけれど、複数人で踊るのが前提だろう? 誰が誰のパートを担当するのかを先に決めるべきじゃないか?」

「え? でもさぁ、先輩たちは四人でやってんじゃん? 俺ら八人もいるのにどうすんの?」

「前列と後列に分かれるんだよ。後列は基本的に第二部隊の人なんだけど、第一部隊は一番多い時期でも三人から四人がほとんどなんだ。だから後列で歌っているのは第二の人たち」

 

 と、ドルオタのオタク知識を披露する淳。

 星光騎士団は最前に出られるメンバーが一番多い時期でも四人が最大。

 その後ろの、いわゆるバックダンサーは第二部隊メンバー。

 第二部隊のメンバーは一、二年生ばかりだが、過酷な練習に耐え抜いた末二年生から第一部隊に昇格するメンバーが一人か二人、必ずいる。

 二年生で第一部隊に入った宇月は元々歌もダンスも上手く、努力を惜しまない性格だったから。

 そして後藤は部活も楽しい、SDに練習を見ていてほしい、というやや変わった困ったさんだった。

 

「つまり今の俺らってこのバックダンサーにもなれねぇって位置にいんのか」

「えーと……まあ……そう……かなぁ……」

 

 淳がはっきり言わなかったことを、ズバッと言ってしまう花房魁星。

 なんでストレートに言ってしまうんだ。




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