『侵略』開始!(1)
「「と! いうわけで! 後藤先輩! 周! 誕生日おめでとうございまーす!」」
「「「おめでとう~~~」」」
パンパンパン、とクラッカーを鳴らす星光騎士団のステージ。
今月はIG夏の陣準優勝と誕生日のメンバーが二人もいたのでクーラーつきで涼しい講堂ステージを三時間貸し切りできることになっている。
大きなチョコレートケーキがステージ中心に運び込まれ、後藤と周の前で止まった。
二人ともチョコレートケーキのリクエストだったのだが、同じチョコレートでも好みが真逆なのでピザみたいにハーフ&ハーフ。
ビターチョコが好きな後藤用が左で、甘いミルクチョコが好きな周用が右。
これを作れる星光騎士団メンバーのお菓子作りスキルの高さに、魁星と周が違う意味で息を呑む。
昨日、一年生は第二部隊隊長の淳だけ登校してケーキ作りを手伝った。
なので魁星と周はケーキがどんなものか知らなかったのだが、お店に出ていそうなケーキが出てきて正直にビビっている。
このレベルに、自分たちも至れるものなのか?
しかし、暑い中朝早くから並んで来てくれたお客さんの前で、変な顔をするわけにもいかないので笑顔を作る魁星と周。
「数量限定ですがお客様の分も物販に置いてありますので、お時間のある方は物販を覗いてみてくださいね」
「お邪魔するよ、星光騎士団。一年生の子と後藤くん、お誕生日おめでとう」
「朝科くん」
打ち合わせの通り、現れた魔王軍のベストメンバー。
魔王、朝科旭と東四天王麻野ルイと西四天王、雛森日織と南四天王、檜野久貴と北四天王、茅原一将。
さあ、ここからが魔王軍の特権――『侵略』だ。
「これはこれは、魔王軍の皆さんも誕生日をお祝いしに来てくれたんですか?」
「それもありますが、IG夏の陣準優勝のお祝いも兼ねてプレゼントをお持ちしました」
「「プレゼント?」」
それは打ち合わせにない。
綾城と花崗が顔を見合わせてから思わぬサプライズに若干警戒しつつ「わあ、なんだろう?」「なんや、怖いわ~」と歩み寄る。
「まあまあ、そう警戒しないで大丈夫だよ。ね~、日織くん」
「はい、お祝い」
朝科が雛森に話を振ると、雛森がUSBメモリを綾城に手渡してくる。
綾城がそれを受け取って首を傾げた。
「えっと、これは?」
「曲! 星光騎士団のイメージっぽいのを三曲くらい作ってみた。気に入ったら使ってみて」
「「えええ!?」」
シンプルに驚く綾城と花崗。
知名度右肩上がりのアイドル兼作曲家”雛森日織”の楽曲を、三曲も。
が、魔王軍側からするとIG夏の陣準優勝の星光騎士団に人気が出始めの駆け出し作曲家、雛森の楽曲を歌わせることで、星光騎士団人気に便乗して雛森と魔王軍の知名度アップを狙っている。
星光騎士団側の曲は花崗、凛咲先生が作詞、作曲を外注したり後藤が作ったりしていた。
だがここで人気音ゲー楽曲で人気作曲家として認知が広がり始めた雛森の楽曲を歌えるのは、星光騎士団側としても旨味が大きい。
「いいの!? 普通に嬉しいんだけど!?」
「いいよぉ~。お祝いだしね~。『聖魔勇祭』トップ4の曲も、日織くんが書きました! マジでイケイケなのができたから、お客さんたちにも楽しみにしててほしい~。うちの旭くんと星光騎士団の綾城くん、勇士隊の石動くん、ケ・セラセラの大久保くんでほぼ確みたいでしょ? ふ、ふふふ、この四人に歌わせたい曲を自分で作れたの最っ高にマジハイってやつよ」
「あ……う、うん……」
拷問官イメージのステージ衣装のせいもあってか、言ってることが悪く聞こえてくる不思議。
しかし、すごい生産速度である。
そりゃあ〆切に追われている姿がよく見受けられるわけだ。
雛森の作曲家として注目度を知っているファンが歓声を上げる。
わかっている層からすると、とんでもない美味しすぎるコラボ。
瞳を輝かせた淳を見た宇月が暴走を察して口を塞いで距離を作る。
「ありがたくいただきます。本当にありがとう、雛森くん」
「ううん! 準優勝、本当におめでとう~!」
「……ほんで? まさか本当にお祝いだけできたとか言わんよね?」
花崗、笑顔なのにステージ上の空気がピリつく。
いつも優しい花崗のそんな威圧にビビり散らす第二部隊の一年生ズ。
その瞬間、朝科の笑顔の質も変わる。
「もちろん。今日は君たちのところの一年生――音無淳くんをいただきに来たよ! さあ、『侵略』の時だ!」
宣言した途端、麻野が淳を魔王軍側に連れていく。
打ち合わせ通りなのだが、お客さんには知らせていないので客席は盛大にどよめいた。
同じく、魔王軍『侵略』初体験の周と魁星も打ち合わせで知っているのにワタワタしてしまう。
「お客さんの中には魔王軍の特権についてご存じない方も多いかと思いますので、ボク、魔王軍檜野の方からご説明いたしましょう。皆様は星光騎士団の『決闘』と同様、我々魔王軍にも同等の”特権”がございます。高学年から下の学年の者を他グループから引き抜くことができるのでございます。しばらく我らはその特権を使ってきませんでしたが、淳くんは我々魔王軍の三年にとってはアイドルを続けるか否かの瀬戸際の時に応援してくれた恩があります」
「そうそう。日織くんたちが一年生の時な。マジで普通科に移ろうかって話してたんだ。で、このライブを最後にしようっていう時に日織くんたちの前にサイリウムと名前入りのうちわを持ってライブを観てくれたのが――淳くんだったの」
「というわけで、満を持して奪いに来たよ! 我ら魔王軍の”特権”『侵略』は相手の合意なく、魔王・四天王が全員揃った状態でステージに上がれば高学年から下の学年の者を他グループから引き抜くことができる! というわけで現時点から音無淳くんは魔王軍の正式なメンバーということになる!」
知っていると面白いかもしれない裏設定
言わずと知れた古森んちのトップアイドル『CROWN』の秋野直と『Blossom』の鶴城一晴は幼少期、別番組に出演でしたがテレビ局でよく遭遇しており友人関係でした。
本人たちは「浅い知り合い」と言っていますが高校で再会し、栄治が一晴伝手で普通科に通って経営学を学んでいた直にマネジメントを相談していたことで星光騎士団の知名度は全国区に広まり、親交も完全復活して結構仲良しです。
直はモデルもやっており、芸歴も長いため栄治には『尊敬する先輩枠』にカテゴライズされており、直も家庭事情が複雑な後輩として可愛がっているためここは完全に上下関係の仕上がり。
栄治らが三年生の時、すでに卒業していた直に「うちの後輩ちゃん(※珀)が誹謗中傷で炎上して自殺未遂しちゃってゲームの中に保護されている。今度そのゲームの中に慰安ライブしに行く」という話を聞き『泣き虫な私のゆるふわVRMMO冒険者生活 もふもふたちと夢に向かって今日も一歩前へ!』の舞台『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』の慰安ライブに『CROWN』引き連れて参戦してくれました。
ちなみに『CROWN』の鳴海ケイトは「アイドルはバイト」という感じでプロ意識が低いため、栄治とは性格的に非常に相性が悪く、直と一晴が「もう二度と合わせてはいけない」と周囲が共演NGを出しています。本人たちは別に共演NGにはしていません。あくまで周囲が共演NGにしています。






