勇士隊三年生トリオ(2)
「御上くんとお友達になってくれたのですね。よかったです、御上くんは他の勇士隊の一年生とも、あまりお話していなかったので心配しておりました」
「も……申しわけありません……」
「謝らなくてもいいんですよ。ただ、二番隊の子たちもどう接すればいいかわからない、とよく相談してきていたので、御上くんが他のグループの子とお友達になったのなら……その、勇士隊にこだわる必要は……」
「ち、違います! すみませんすみません、ぼくみたいな底辺陰キャゴミ虫ごときが高埜先輩の穏やかな御心に心配なんてそんな恐れ多い真似をしていまい死ねばいいのに生きてて本当に申し訳ありません申し訳ありません!」
「だ、大丈夫ですよ! そんなこと言わないでください!」
椅子から転げ落ちてその場で土下座して頭を下げる千景に、高埜が地面にしゃがみ込んで必死に頭を上げさせようとする。
それを見て「千景って本当に面白いよな~」とニッコニッコの石動と強く頷いて同意する柴。
なるほど、千景が勇士隊に受かったのは石動の琴線にガッツリ触れたからか。
「まあでも二番隊の一年たちと相性が微妙なのは事実だし、コラボユニットで経験値を積むのはいいんじゃない? 高埜もそう思うだろう?」
「コラボユニット? 年末の『聖魔勇祭』でトップ4が歌う時の臨時措置、ですか?」
「そう。あの制度、常設されているけど使う奴いなかっただろう? そこに目をつけてコラボユニットでライブしたいんだって。面白そうだから俺は許可。反対?」
「それは……いえ、自分も賛成いたします。そうですね、面白そうですし……御上さんの卑屈癖が少しでも直って自信を持つきっかけになってくれるのなら。ここで矯正しておかないと、来年は自分も卒業して新体制になりますし……」
「はっはっはっ! 我々もそれなりに言葉は尽くしてきたつもりですが、千景くんだけはどうにも持て余し気味でしたからドッカーンと一発打ち上げちゃえばなんとかなるかもしれませんね!」
んん、とわかりやすく言いたいことを飲み込んだ高埜。
要約すると、勇士隊は学年ごとでかなりきっちり分かれている。
三年生たちは来年卒業なので、残す一二年に引き継ぎを着々と進めているが二年で来年”君主”となる蓮名とそれを補佐するはずの苗村は一年生を放置気味。
育てる気がなく、三年生――おそらく主に石動と高埜が――面倒を見ている。
しかし、その二番隊の中でも千景は浮いた存在。
まあ、このネガティブ対応を毎回されるといちいち励ますのもフォローを入れるのも面倒くさくなるだろう。
見たところ完全に病名がつくレベルの対人恐怖症だ。
よくこれでステージに立っているなぁ、と感心してしまう。
御上千景のステージでのパフォーマンスはかなりレベルが高い。
他の二番隊メンバーが、やや練習不足に感じるほど一人飛び向けている。
だから淳も、「ダウナー系美人アイドル」と認識していた。
おそらくその実力差も面白く思われていないんだろうなぁ、と察しがつく。
このネガティブな性格であのレベルのパフォーマンスは――嫌味に受け取られてしまう。
じゃあ、お前以下の俺たちはなに? と。
完全な八つ当たりで、逆恨みだけれど。
「実力的に来年の『玄武』は千景に決まりなんだけど、このままにしておくと他のに追いやられそうなんだよなぁ。蓮名も苗村も人に気を使えるタイプのオタクじゃないし」
「かと言って千景くんは他のグループでもこんな性格ではやっていけそうにないですからね! 本人は勇士隊に思い入れがあるようですし!」
「俺はもう最高学年で『下剋上』が使えないし……今の二番隊で『下剋上』が使えそうな実力のやつって千景だけだし……やっぱコラボユニットでなんかこうドッカーンと一発打ち上げるしかないな」
「意識改革って言ってください」
「そうそうそれそれ」
「それですそれです!」
それだったか。
千景を打ち上げて爆散させそうな会話で、淳も千景も変な汗が止まらなくなっていた。
なぜならこの人たち、本当にやりそうなので。
実際去年、蓮名は人間大砲チャレンジで打ち上げられたことがある。
なんで無事だったんだ、と言われるとそれは蓮名なので、としか言えないのだが。
なんだ、人間を打ち上げた実績のあるアイドルグループって。
「…………。ええと、音無くん?」
「は、はい」
「コラボユニット、成功を陰ながら応援しております。自分にお手伝いできるところはなんでもしますので、お気軽にお声がけくださいね」
「あ、ありがとうございます。うちの先輩たちも同じことを言ってくれました! がんばります!」
「あ、それと綾城にはちゃんと休めって言っておいてくれる? いくら若いからって、疲労はバカにしちゃダメだからな。その上また変な騒動まで起こしてくれてさぁ……あいつなんなの? 話題の中心にいないと死んじゃう病なの? 学生の身分で彼女に公開プロポーズとかさぁ」
「はい、それはもう……花崗先輩が口を酸っぱくして言ってますね……」
石動、IG夏の陣の時に倒れた綾城を抱えて運んでくれたり心配してくれたり、やはり問題児と言われているが君主らしく気が使える優しい人なんだろう。
困ったように淳が頷くと、うんうん、と石動も頷く。
「彼女いるからって自慢しやがって……アイドルだから彼女作れない俺たちの気持ち考えたことないだろ、絶対……! 最高に面白い真似しやがって。彼女がいたら俺だってやってたのに!」
「本当にそうですよね! でもゲームの中でのプロポーズというのはちょっと地味では? 定期ライブか……いえ、ここはもっとド派手に『聖魔勇祭』の一番トリの部分でやるのがよかったのでは?」
「なにそれ大炎上不可避で最高じゃん。あーあ、こんなことなら俺たちも彼女作ればよかったなぁ」
「「「……………………」」」
ちら、と淳が高埜の方を見ると、なんという虚無の表情。
忘れがちだが、二年の蓮名と苗村も”この系統”だ。
まさに勇士隊唯一の良心。常識人。可哀想。
知っていると面白いかもしれない設定
東雲学院芸能科、男子校舎・女子校舎にはライブステージが大小合わせて8つある。
大きなものは講堂、体育館、野外大型の3つ。
野外はその他に小さなステージが4つ、ガーデンテラスカフェ前に1つ。
ライブ以外にも使える小劇場が庭園に1つ演劇部の部室に1つ。
大型ステージは特性がそれぞれあり、もっとも収容人数があるのは野外大型ステージ。ただし、天候や気温に大きく左右される。
講堂ステージは野外大型ステージの次に収容人数が多く、客席が劇場型になっている。冷暖房完備。座席も移動収納可能なソファータイプ。東雲生が一度は憧れるライブステージ。
体育館ステージは収容人数が大型ステージの中では一番少ない講堂に準じるステージ。天候に左右されないし冷暖房完備。
ライブステージは定期ライブで使用され、定期ライブは生徒会ライブ執行委員が企画運用を行っている。
※執行委員は『星光騎士団』宇月美桜、『魔王軍』茅原一将、『勇士隊』蓮名和敬、苗村裕貴などが所属。
各ステージに出演グループ、タイムスケジュールなどを各グループからのスケジュール希望を受けて調整する。






