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プロポーズ


 淳が曲をスタートさせる。

 コ、コ、コ、と歌い出しカウントがされ、三人が頷き合う。

 一呼吸。

 その瞬間、三人の空気が変わる。

 歌い出し最初のパート担当は綾城。

 最初の歌詞を聞いた途端、客席が歓声に包まれる。

 ゲームをする層は、アニメも観ているタイプが多い。

『アイドル』はアイドルを題材にした漫画原作のアニメなので、それをアイドルが歌うのはいわゆる胸熱。

 

「〜〜〜♪」

 

 パートごとに順番で歌っていく。

 歌詞は目の前に表示されるが、数回聴いただけなので音程が不安だ。

 それでもお客さんの嬉しそうな笑顔がステージから見えたので、ひとまず問題はなさそう。

 歌い終わると曲でさらに増えたお客さんから拍手と歓声をいただく。

 手を振って応え、視線を合わせて次のCMに入る。

 

「――というわけで、正解は『アイドル』! 日織くんたちもアイドルだから〜、マジピッタリっしょ〜? ……でしょでしょ〜?」

 

 お客さんの声に笑顔で応える雛森。

 普段魔王軍西軍リーダーとしてステージで見せる姿とはまた違う。

 素の状態に極めて近い。

 

(なんか、こういうのいいな……グループの垣根がないやつ)

 

 普段見れないアイドルの、また別の一面という感じですドルオタは眼福。

 特に三年生二人のやり取りは東雲学院芸能科箱推しの淳には夢のようなやり取り。

 

「そんでそんで? 綾城くんは最初一人でゲリラライブするつもりだったらしーじゃーん? なに歌うつもりだったの?」

「星光騎士団の、僕の専用曲を」

「ああ、あれいいよねー! 夏の陣はチーム戦だから歌えないけど、大手三グループは個人で専用曲持ちなんだよ。日織くんも専用曲あるんだ〜。聴きたい?」

 

 聴きたーい! と客席、左隣から聞こえる。

 綾城と雛森が左隣へ顔を向けた。

 挙手&ガチの必死な表情の淳。

 専用曲は聴く機会が非常に少ない。

 聴ける時に聴きたいじゃないか、そんなの。

 

「あははは! リクエストが強目に入ったので、先に雛森くん、どうぞ」

「マジでいいのぉ? 本当に歌っちゃうよ?」

「いいよ。ステージの予約一時間入ってるし」

「じゃあ歌っちゃお〜! みんな〜! 聴いててね〜! 雛森日織くんの専用曲『真っ白な楽譜』!」

 

 すぐにステージ専用メニューのデンモク欄から検索して、入力。

 コ、コ、コ、とカウントが始まり雛森が一呼吸吸い込む。

 英語歌詞から始まり、最初は緩やかで穏やかな曲調。

 それがだんだんと激しく、テンポが速くなっていく。

 

(むっずかしい!)

 

 聴いたことはあるが、目の前で歌われると非常に高難易度な曲だ。

 曲調が二転三転する。

 アニメのオープニングのように、サビ部分はトップテンポになってノリのいい曲になった。

 が、それをすぎて間奏が入るとまた最初のようなゆっくりした曲調に戻る。

 テンポを自在に操れる者でないと、これは調子が狂う。

 相当音楽に秀でていないと歌える曲ではない。

 それをさらりと、難しさなど感じないほどに綺麗に歌い上げる雛森。

 曲が終わると淳は感動で大絶賛の拍手。

 そのまま綾城が前へ出て、雛森が後ろへ下がる。

 続けて綾城の専用曲。

 

「〜〜〜〜♪」

 

 爽やかで、凛とした綾城の歌声が観客を一気に惹き込む。

 本当に、楽しそうに歌う。

 そして、その歌の楽しさをお客さんに全力で伝えようとしている。

 

(ああ〜! 客席から応援したーい!)

 

 と、思いながらも、後ろに待機しつつ推しうちわとサイリウムを振る淳に、雛森が隣で「え?」という表情。

 お客さんの一部も「え?」という表情で淳を見ちゃう。

 アイ! ラブ! 綾城!

 推しうちわにはっきり書いてある。

 

「――――」

 

 余韻を残しつつ、歌い終わった。

 その時、ピンと空気が張り詰める。

 忘れていたわけではないが、綾城はこれから一世一代の告白をするのだ。

 

「シアさん」

 

 手をステージの最前列にいた“彼女さん”に向けて、跪く。

 そしてメニューを開いてアイテム欄から指輪の箱を取り出す。

 騒めく客席。

 そのままステージから降りて、彼女さんの前で改めて跪き、指輪の箱を開いて差し出す。

 

「僕はあなたに、まだ相応しい男にはなれていないかもしれません。それでも出会ったあの頃よりは、大人になれたと思います。今までも色々と心労をかけてしまいましたし、こんなことを言えばこれからもあなたに大変な思いをさせるかもしれません。それでも生涯を共に生きるならあなた以外考えられないんです。どうか僕と結婚してください」

 

 言ったーーーーー!

 淳と雛森が拳を握る。

 客席は驚愕の声と共に阿鼻叫喚。

 突然のプロポーズに、彼女さんは口に手を当てて硬直した。

 

「え、あ……え? ほ、本気……?」

「あ、指輪はリアルでも用意してあるので、今度お贈りします」

「本気!? 本気!?」

 

 三回聞いた。

 

「本気です。ずっと本気です。あなたは僕の心と命の恩人ですから」

「――っえ……あーーーー。えーーーー? そ、そんな……急に言われても……ええええええぇぇぇ……うううう〜〜〜〜……」

 

 めちゃくちゃ悩んでおられる。

 まさか、あの綾城珀を相手にガチ悩み。

 しかし、彼女さんはちらっと集まっているお客さんを見る。

 

「こんなところで言うのはずるいと思います」

「断られたくないので、ずるい方法を取りました」

「ぐっ……。………………。謹んでお受けします」

「っ! ありがとうございます!」

 

 お客さんと、ステージ上の淳と雛森も顔を見合わせてから「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁ!」と悲鳴をあげた。

 綾城珀の、作戦勝ち。



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