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”彼女さん”



 ヒーくんがステージ予約を終わらせたあと、バアルがステージ脇に現れる。

 白に毛先が緑色のショートボブの女性アバターが隣にいた。

 手を繋ぎ、仲睦まじい二人を見たシーナとヒーくんは……察した。

 

((彼女さんだ!))

 

 アバターだし、名前もゲーム内だけのものだろうけれど。

 伝説の“彼女さん”のアバター名は『シア』さん。

 バアルの顔がもうずっとにっこにっこ。

 これは、マジだ。

 

「あ、シーナくん――と、あれ? えーと」

「日織くんだよ!」

「え? 雛森くん? なんで雛森くんがここに……?」

「定期ライブのリハにここのステージ使おうと思って! そしたらなんかリリーが面白そうなことしてたから」

「ああ、なるほど?」

「バアルくん、リアルの知り合い?」

「あ、はい。同級生の雛森日織くん……ヒーくんと、こちらは後輩の音無淳くんです。星光騎士団の……」

「ああ! あのものすごくダンスが上手かった子と魔王軍で帽子被ってた人!」

 

 めっちゃ知っておられる〜。

 ぱちん、と手を叩いたシアさんに、シーナとヒーくんは深々頭を下げた。

 きっとしっかりIG夏の陣を観てくださったのだろう。

 彼氏が出てるんだからそりゃあ観ているだろうな、と今更ながら思い至る。

 地味に恥ずかしさを覚えてしまう。

 

「初めまして、シアといいます。職業は短剣使いのテイマーです」

「「え?」」

「え?」

「あ、ゲーム内の職業ね」

「「あ!」」

 

 忘れていたが、こちらはSBOというVRMMOゲームの中。

 職業も当然設定してあるし、リアルの職業を言う必要はない。

 慌ててシーナは「魔法師をやらせていただいております」と頭を下げ、ヒーくんも「弓士をやってます!」とぺこぺこする。

 ヒーくん、弓士だったらしい。

 

「テイマーって上位職ですよね? すごいです」

「あ、えーと……実は普段はエイランさんとエルミーさんっていうフレンドと狩りをしているので……」

「え、あ……! あのお二人と!?」

 

 ガチのプロゲーマー、エイランと中身が蔵梨柚子のネカマ、エルミー。

 二人ともゲームガチ勢。

 一度一緒に狩りをした時、ガチ勢の効率厨な方法の狩りにドン引きした記憶が蘇る。

 あの二人と普段から狩りをしていたとするなら、そりゃあ上位職にもなるだろう。

 というか、あの二人と普段から一緒に狩りをしているということはあれだろうか?

 このお淑やかそうな女性は、普段あんな効率厨なプレイをして……?

 想像ができなくて宇宙猫状態になるシーナと、それを察して「あ、エイランさんとエルミーさんのサポートしかできないんだけれどね」と言われる。

 ですよね、とホッとしてしまう。

 

「バアルくん、知り合いが来ているからステージでライブしたいって言ってたけれど、ヒーくんさんはグループが違うんじゃないの?」

「えっと~……ヒーくんが来ているのは予想外で……」

「え~、いいじゃんいいじゃん! 日織くんも一緒に歌いたい!」

「バアル先輩とヒーくんセンパイのデュエット……!?」

 

 ドルオタ、反応が早い。

 今やキング・オブ・アイドルと呼ばれる綾城珀と、魔王軍の秘密兵器雛森日織のデュエットだなんてドルオタは聞きたいに決まっている。

 目を輝かせて期待するシーナに、バアルが眉尻を下げた。

 可愛い後輩をそんなに期待させてしまっては、ご一緒しないわけにはいかない。

 

「わかったよ。曲を追加しようか」

「了解です! なにを追加しますか?」

「ヒーくん、なにを歌いたい?」

「今話題のアニソン! わかる? 『アイドル』っていう曲!」

「「あ~~~」」

 

 ワイチューブでおすすめに出てくるあの曲だ。

 誰でも一度は聴いたことがあるだろう。

 歌ったことはないが、数回聴いているので歌えないことはないはず。

 

「どうせだったらシーナくんも一緒に三人で歌おうか」

「えええええ!?」

「いいねいいね~! リリーも一緒に歌おう~」

「リリー?」

「あ、なんか、雛森先輩は俺のことをそう呼ぶんですよね。そんな柄じゃないので、普通に名前で呼んでくださった方がいいんですけれど……」

「ええ~? 嫌~? じゃあしょうがないかぁ。シーナって呼ぶね~」

「はい、ぜひ!」

 

 正直『リリー』だと女の子のようで気恥ずかしさがすさまじかった。

 中身がゴリラだとしても容姿は可憐な智子にこそ似合う気がするけれど、自分はちょっと。

 ということで名前呼びになって心から安堵した。

 

「名前で呼んでいいってことは、日織くん、旭くんと久貴くんよりちょっと優勢ってことだよね。んっふふふふふふ……」

「「「?」」」

 

 魔王軍の三年生、たまにこう意味がわからないことを言う。

 

「じゃあ、ええと……客席の方にいて観ているね」

「う、うん! 観ててください!」

「?」

 

 迫真のバアルに、少し不思議そうな顔をするシア。

 IG夏の陣の時も見たことがない緊張の面持ちのバアルに、シーナも緊張を覚える。

 あの”綾城珀”の、プロポーズに立ち会えるのだ。

 IG夏の陣の時とは、また違った緊張感。

 

「綾城くん――じゃーなくて、バアルくん、あれが噂の”彼女さん”だよね? 彼女さんのためのステージだったりする?」

「うん。歌い終わったらプロポーズしようと思ってて……」

「うええええええええ!? マ、マジでぇ~~~~!? すごい時に来ちゃった~! え、え、え? 他のメンバーには声かけなかったの?」

「ひまりちゃんには話していたよ。もう少し休んでからの方がいいんじゃないかって言われてたんだけれど、リアルでは彼女さんの身バレしちゃうからSBO内が一番安全で確実かなって。彼女さんの大学も今夏休み中なんだけれど、彼女、もうお父さんの会社で働いていたりもするからあんまり夏休みとか関係ないんだよね」

「「え!? 社会人!?」」


知っておくと面白いかもしれない裏設定



『異世界アイドルプロジェクト!』主人公の相賀詩乃(あいがしの)もまた、東雲学院芸能科の生徒です。

でも冒頭でも書いた通り、東雲学院芸能科は男女できっちり分かれており淳との接触はありません。

時間軸は全然考えてないんですが、彗の年齢が詩乃と同じくらい――にしてあるので一年前くらい前ってことにして矛盾点が出たらごめんね、って感じです。

詩乃はすでに春日芸能事務所に研修生として所属しており、入学三ヶ月行方不明という点と栄治の弟子のような立場になったことから学校では嫉妬からハブられておりグループに所属ができずかなり苦労しています。

彗としては女性のアイドルグループも事務所からデビューさせたいと思っているのですが、詩乃と相性がよさそうな女性が今のところ見つかっていない。

春日芸能事務所は東雲学院芸能科に援助という形で経営に干渉できる立場になりつつあるので、今後詩乃と相性のいい女性アイドル志望が見つかれば研修生としてスカウトしていきたいと考えています。


もう一個余談ですが『BLゲームの悪役令嬢は終わってます!』の主人公、船崎さんは淳が事務所研修生になった時点で事務所の事務員に採用されており、ホワイト職場でイケメン鑑賞をしながら安心して働くようになっております。

職場環境の影響でアイドルにも興味を持つようになり、栄治がゲイなのも知ってフィーバー。

神野栄治最推しになっており、彼の恋愛事情にもものすごく興味津々。

残念ながら栄治の結構捻くれた性格から、なかなかいいお相手が見つからず、船崎さんの望むような話題は聞くことができない状態。

ちなみに事務所所属タレントたちからは船崎さんは仕事だけはしっかりやってくれる元ブラック企業勤めの腐女子として、「世の中のファンの中には自分たちをこんな目で見ている人もいるのかぁ」という洗礼的な存在として受け入れられている。

こうして春日芸能事務所のタレントはガチ恋勢よりもナマモノ腐女子耐性が上がっていく。


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