ステージ予約
というか、ぜひお手伝いさせてください、と懇願も添える。
綾城珀を語る上で絶対に外せない“彼女さん”へのプロポーズ。
そんな歴史的瞬間に立ち会えるなんて、土下座しててでも立ち会いたい。
数分後、バアルから『ありがとう。それじゃあお願いしようかな。ステージを借りて、一曲歌ってから彼女さんにプロポーズしようと思っていたんだ。ファーストソングで合流しようか?』とのこと。
綾城珀に一曲捧げられてからプロポーズされるとか、ガチ恋勢や夢女が一度ならず何度でも想像するやつではないか。
一度ログアウトして智子に連絡したい衝動に駆られるが、智子は今日も夏季講習に行っている。
さすがに勉強の邪魔をするわけにはいかない。
北雲は偏差値が高いので、この夏に追い上げておきたい、と言っていた。
――教えないと教えないで「なんで教えてくれなかったのぉ!」と文句を言われそうだが。
「す、ぐ、に、ス、テージ、を、て、は、い、し、ま、す、と……」
ファーストソングに転移して、ステージ横の石碑を起動させるとステージの貸し出し予約を取ることができる。
以前は運営側が全部手配してくれたけれど、一般ユーザーがステージを借りるのはこうして直接ステージ横まで来て石碑で日時、サーバ、使用時間を入力する必要があるという。
日時は本日。
綾城の予定を確認すると、一つのダンジョンを攻略してから来るとのことで『一時間後くらい』とのこと。
十四時くらいで予約しますね、と返答をして、サーバは綾城が『フォルティシュモ』と事前に聞いていたのでそれも入力。
次に選曲。
星光騎士団、綾城珀専用曲を入力していく。
何時間借りるのか、というところは一時間でも長すぎるだろう。
「リリー? リリーじゃない? ねぇねぇ」
「…………。ん? え? お、俺?」
呼ばれ慣れない呼ばれ方をして、振り返る。
そこにいたのは金髪ツインテールの美少女アバター。
どちら様?
心の底から疑問で首を傾げると、満面の笑みで駆け寄ってくる小柄な美少女アバター。
「日織くんだよ、リリー!」
「ひお……雛森先輩!?」
「そう!」
なんと、この小柄な金髪ツインテール美少女アバターの主は魔王軍の雛森日織。
わーい、と抱きついてきた雛森を抱き留めて混乱する頭をなんとか落ち着かせつつ肩に手を乗せる。
「ど、どうして雛森先輩がここに……どうかしたんですか?」
「定期ライブのためにみんなで一度合わせ練習しよう、って話になってたの。日織くんたち、マジでリリーを獲りにいくつもりだからね!」
「あ、ああ……」
忘れそうになっていたが、今月の定期ライブは魔王軍から星光騎士団に『侵略』が行われる。
『侵略』の対象は音無淳。
星光騎士団は『決闘』による迎撃を行い、相殺予定。
準優勝している星光騎士団に『侵略』はかなり無謀とも思うのだが、それで諦めるような魔王軍三年生組ではない。
普段ならば挑む側が比較的不利な“特権勝負”だが、東雲学院人気を三分しているうちの二強が全面対決するのだからお客さんたちは発表からSNSで騒然となっている。
「その予約に来たんですね」
「そうそう! 一日にやったライブ、結構ウケがよかったでしょ? 日織くんたちもマジで楽しかったし〜、ステージをいつでも借りられるなんて最高にリハにピッタリじゃない? マジでお手軽にライブできるなんてウキウキ!」
「俺も今、綾城先輩のステージを借りているところなんです。すぐ終わらせますね」
「えー……? ……リリーも綾城くんも入院したって聞いたけど……休んでなくていいの?」
沈黙。
少ししてから、シーナが恐る恐る振り返り「え? なんで知ってるんですか」と震え声で聞き返す。
「救急車来てたし」
「う」
「運ばれていくところも見てるし」
「ア……」
「心配して花崗くんにもメッセ送ったから詳細聞いているし」
「そ、そうなんですね」
「本当に心配したよぉ。最悪定期ライブの『侵略』は来月にしようか、って花崗くんと話してたんだけどね、綾城くんが大丈夫っていうの。マジで言ってる? って思ったんだけど……旭くんは綾城くんがそう言うなら、って予定通りに『侵略』実行しようってことになってたの。リリー、本当に大丈夫?」
バレバレだったらしい。
その上、淳の知らぬところで先輩たちが気を遣ってくれていた。
体調はだいぶ回復したので、今日はSBOにログインしてリハビリをしようと思っていたのだ。
そう説明すると、雛森は嬉しそうに笑う。
そっかそっかー、と。
「リリーはこのゲーム慣れている? ステージ予約を終わらせたら、日織くん、インプットも兼ねて少し遊んでいこうと思ってるの。お付き合いしてほしいー」
「SBOで遊ぶんですか!? はい! ぜひ!」
「嬉しい〜! 色々教えてね〜」
「はい! ではまずスキルツリーを開いて、最初のスキルを解放してください。『推しうちわ製作』」
「………………。ん?」
「そのあとサイリウムをゲットしましょう! このゲームの必需品ですよ!」
と拳を握って力説する淳に、ポカーンとした雛森。
しかし、すぐに「おっけー! 了解!」と親指を立てる。
雛森日織、順応性◎。
ステージを予約終了してから早速二人でぽちぽちスキルツリーを解放していく。
「えっと……ヒオリ……って、本名で登録しているんですか? 大丈夫ですか?」
「なにが? 大丈夫じゃないの?」
「ファンにはバレることもあるので、今の姿とリアルの姿をお気に入りに入れて、今の姿のアバター名は変更した方がいいと思います」
「そうなんだ? じゃあどうしようかな。ヒーくんでいいか」
雛森日織、ネーミングセンスが死んでいる。
まあ、ゲームなのでなんでもいいのだが。
さすがに適当すぎやしないだろうか。
ファンにバレなければいいのだろうけれど。
そしてソッコーでプレイヤー名を「ヒーくん」に変更する雛森。
逆になんだか呼びにくくなっている気がする、シーナが。






