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しっかりめの休息を(1)


「父さん、ありがとう。ここまでで大丈夫」

「わかったよ。じゃあ、家で待っているからな。無理だけはしないように」

「うん。わかってる」

 

 コンビニで食事を購入し駐車場にたどり着く。

 凛咲先生の車を見つけて近づくと、車内で仕事をしていた先生が窓を開けて三人を手招きする。

 

「遅いぞお前らー。最初は十時って言ったのに、メッセージにいつまでも既読がつかないんだもんなぁ」

「本当にすみませんでした」

「あー、音無はいいよ。お前入院してたんだし。むしろ今夜出演して大丈夫か?」

「はい、今夜だけは。本当なら二週間は休めと言われたんですけど」

「あー、やっぱりかぁ。綾城も今月は休んだ方がいいって言われてるんだよなぁ」

 

 え、と顔を上げた。

 凛咲は昨夜、淳と綾城が入院した病院に引率教師として医者と話したらしい。

 それによると重度の過労。

 どうやら春日芸能事務所の方からは、事前に「夏の陣終了後二ヶ月はスケジュールを空けておくように」と言われていたらしく凛咲も「定期ライブ以外の仕事はオフにしておいた」とのこと。

 つまり、大人たちは――春日社長は子どもだが――綾城が無茶をして倒れる前提で予定を組んでいた。

 彼がどうしてもやり遂げたいことだから、と。

 その気持ちを汲んで、あとのことをちゃんとフォローできるように。

 

(そうか、神野様や一晴先輩も綾城先輩がここまでになるってわかってて閉会式を途中退席してでも仕事に向かったのが。あの二人も三日間、本当に過酷な戦いをしていたのに……)

 

 やはり場数が違う。

 後輩のフォローのために、率先して仕事を行っているらしい。

 それはそうだ、あの『IG夏の陣』の優勝グループ。

 急に雲隠れするわけにはいかないし、むしろ掻き入れ時というやつだろう。

 ここで一気に広まった名前を、アイドルにも興味ない層にも知らしめるべく露出を増やさねばならない。

 二ヶ月も休まなければならない綾城の代わりに――。

 

「俺たちも頑張らなきゃいけませんね!」

「ばーか。お前らは学生なんだから定期ライブをやることだけ考えればいいんだよ! 今月はな!」

「ええ? でも……」

「音無はもう事務所決まってるけど〜、準優勝なんかしたんだから多分花房と狗央にもどっかの事務所からスカウトオファーがくるぞ。大事なところでへっぽこしないように、今は休むこと! 今日のネット歌番組は力を入れすぎずに短縮バージョン歌ってソッコー帰ってこいよ〜」

「わ、わかりました」

 

 しかし「今月はな!」というところに含みを感じる。

 扉を閉めて、車が四方峰町に向けて出発。

 三十分もすると、三人とも夢の中へ。

 

「はぁー……まさか本当に準優勝するなんてなぁー。ミーが星光騎士団を立ち上げた時はこんなことになるなんて夢にも思ってなかったぜー。……ほーんと……お前ら、めっちゃすげーよ」

 

 こりゃあもしかしたら十月の『学アイ』も優勝しちゃうかもなー、なんて独り言を呟きながら、ラジオをつける凛咲。

 ラジオから流れてきたのは『Blossom(ブロッサム)』の楽曲。

 やはりプログループが初出場初優勝は強い。

 これから一気にトップアイドルへと駆け上がるだろう。

 

 

 

 その夜、しっかりネット歌番組の出演を果たしてきた淳は、四日ぶりの自宅に帰還して早々に玄関で倒れた。

 智子が驚いて駆け寄り「お風呂入って!」と叫ぶ。

 後ろから脇の下に手を入れてひょいと持ち上げられてずるずる脱衣所に連れて行かれる。

 なにこの女子中学生、怖い。

 

「お兄ちゃんお疲れ様〜! 生放送見てたよ〜。昨日の今日なのにすごく堂々としてて凄かったよ」

「うーん……」

「お風呂入って、ご飯食べる余裕ある? すぐ寝る?」

「んんん……食べる。お風呂も入る」

「オッケー、お父さんたちもそろそろ帰ってくる時間だから、智子がご飯作るね。カツ丼でいい?」

「も、もう少し胃に優しいものがいいな。うどんとか」

「冷たいうどんとあったかいうどん、どっちがいい?」

「あったかいうどんが食べたい……」

「この暑い中……? まあ、夏バテにならないように薬味たらふく入れてあげる! はい! お風呂入って!」

 

 ぽーいと脱衣所に入れられ、のろのろとシャワーを浴びてから智子の作ったあったかおうどんを食べて歯磨きを終わらせ部屋に戻ってベッドに入る。

 次の瞬間意識が消えた。

 見事な寝落ち。

 目が覚めたのは翌日の午後二時。

 

「んぇぇ……十八時間くらい寝た……? うわぁ……」

 

 花崗と二年の先輩たちはそろそろアミューズパークの仕事を終えて、四方峰町に戻っている頃だろうか。

 途端にお腹がグーと鳴る。

 両親は仕事に行っているだろうが、智子は――

 

「智子は……夏期講習か」

 

 一階に下りてダイニングテーブルを見ると家族の予定がメモされた紙が残されていた。

 両親は仕事。

 食べたいものがあるのなら、起きた時にメールしてとのこと。

 智子は『夏期講習に行ってくるねー。帰りは四時くらい』と書いてある。

 夏なので午後四時はテカテカに太陽がテカっている時間。

 それでも見た目は美少女なので、たとえ中身がゴリラでも迎えに行ってあげようと思う。

 残り物のコロッケを温め、適当にサラダを盛ってご飯をよそい少しだけ遅い昼食を摂る。

 あくびを噛み殺しつつ、スマートフォンを確認するとチャットルームにメッセージが入っていた。

 

『みーちゃん、こーちゃん、マジにお疲れ様やで。ゆっくり休んでくれ〜。次は定期ライブやから、その話し合いは来週やで』

『了解です』

『了解でーす』

『お疲れ様です』

 

 淳がメッセージを入れると、すぐに花崗が『お、淳ちゃん、起きてるん? 大丈夫?』と聞いてきた。

 はい、と答えると、新しいメッセージが入る。

 

『みんなお疲れ様です。一昨日、昨日とみんなの活躍を見させてもらいました。特に一年生たちは、あれだけ動いたあとなのにしっかり歌番組もこなして立派でしたよ』

『綾城先輩、体調はいかがですか?』

『珀先輩〜〜〜! 大丈夫ですか!?』

 

 宇月もピコ、と綾城の登場に反応を返す。

 綾城は『大丈夫なんですけど体は動かないしベッドからしばらく起きるなって監禁されてるね〜』というあんまり大丈夫じゃなさそうな返事。



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