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激戦の翌日(1)


「過労です。三日は自宅でしっかり療養してください」

「……すみません……今夜の音楽番組は出てもいいですか……」

 

 気がつけば翌朝、病院のベッドで目が覚めた。

 幸いにも翌朝、ということで、夜にあるネット音楽番組への出演をお医者さんに聞いてみると満面の笑顔で長い沈黙をいただいた。

 医者の立場としては「馬鹿なのか?」と言いたいんだろうが、あまりにも直接的な罵倒なので飲み込まれていると推測できる。

 

「おすすめはしませんが、明日から最低でも二週間はゆっくり休むこと。これが約束できれば、いいでしょう」

「あ、ありがとうございます」

 

 ほっと胸を撫で下ろし、病室から出て行く医者に頭を下げる。

 入れ替わりで家族が心配そうな表情で入ってきた。

 

「お兄ちゃん! 大丈夫?」

「淳、頑張りすぎちゃったな。具合はどうだ?」

「あ、ええと……うん、大丈夫。二週間はゆっくり休んで療養すべきって言われたけれど、今夜のネット番組だけは出てもいいって」

「それ本当に行かなきゃダメなの?」

 

 母と妹が心配そうに見てくる。

 けれど、仮にもIG夏の陣を準優勝したグループが、入れていた仕事を急遽キャンセルはできない。

 今後、この業界で仕事をしていくのなら仕事への誠実さは必須。

 これだけは頑張らせて、と頼む。

 このネット歌番組を最後に定期ライブまでは休みになるので、ゆっくり休めると思う。

 

「わかったわ。ママたちも社会人として仕事をドタキャンにされると困るって知ってるからね。でも、これが終わったらしっかり休むのよ」

「うん。約束する。……えっと、それで……」

「どうした? なにか食べたいものでもあるか?」

「そうじゃなくて――」

 

 退院が決まったところで、早速荷物をまとめて病室から出る準備を始める。

 星光騎士団の、魁星と周と合流しなければ。

 スマホを充電器から外して電源を入れると、チャットルーム通知がすごい数になっていた。

 

「綾城先輩ってどうなったか知ってる?」

 

 チャットルームを開くと、未読部分が先頭になる。

 最初は宇月。

 

『一年生ズへ。ナッシーは珀先輩が入院した病院に運ばれているので、明日の朝にナッシーの体調を見て一緒にネット番組に出られるかどうかを確認しに行ってね。無理そうなら無理させないで。お前らで仕事をやり遂げてくるように!』

 

 と、かなり高圧的。

 それはいつものことなので、淳もスルー。

 

「え? 珀様、どうかしたの?」

「え? ……あ、そうか……」

 

 入院した、と宇月のメッセージを見てからあのあとのことを知った。

 自分と綾城はこの病院に運ばれたらしい。

 そしてそれは、淳の家族は知らない様子。

 知らされていない――公表はされていないのだ。

 

「俺よりも綾城先輩の方が過労で大変だったから。そっか、公表はされてないんだね」

「えー? ……あー、でも、それもそうだよね。『Blossom(ブロッサム)』と『星光騎士団』両方とも出演してたもんねー。お兄ちゃんが倒れるほどなんだもん、珀様も疲れ果ててるよね」

「うん……」

 

 メッセージを読み進める。

 先輩たちは綾城を病院に預けたあと、早々に顧問である凛咲と東雲学院に連絡してホテルへと戻り休んだらしい。

 朝、早々にアミューズメント施設の開場式へ向けて発ったようだ。

 開場式は明日なので、あちらのホテルへ着いたらすぐに休息を取るとのこと。

 問題は魁星と周。

 先輩たちが先にホテルをチェックアウトしたあとに、『必ず病院に淳を迎えに行って四方峰町へ帰り、ネット歌番組に出演するように』と再三メッセージが来ているのに反応がない。

 もしかして、まだ寝ている?

 凛咲先生から『車で送るから、十二時にホテルの駐車場にこいよ〜』というメッセージも来ているのだが、二人の反応はない。

 

「淳、どうかしたのか?」

「魁星と周が全然メッセージ返してないんだよね。もしかしてホテルでまだ寝てるのかも。ちょっと行ってくる」

「ええ? 大丈夫なのか?」

「パパも一緒に行くよ。ママたちは退院手続きを頼んでいいか?」

「ええ、わかったわ。行きましょう、智子」

「う〜〜〜。お兄ちゃん、無理しないでよね」

「うん。ありがとう。大丈夫だよ」

 

 そう言って、父とホテルに戻り一年生にあてがわれた部屋へと入る。

 そこには死体の如く眠る二人。

 揺さぶって「起きてー」と声をかけるが微動だにしない。

 

「淳、先輩たちにはメールをしたのかい?」

「あ! まだしてない……」

「しておきなさい。二人はパパが起こすから」

「うん、わかった」

 

 チャットルームに戻り、父に二人を任せて『音無です。先程お医者さんに今夜のネット歌番組の出演にOKをいただいたので退院してきました。魁星と周を起こして四方峰町へ帰ります』とメッセージを送った。

 すぐに花崗から『無事やったんか、大丈夫かいな?』やら後藤から『無理は禁物。ネット番組の方にはこちらから三人の疲労具合を伝えてあるから、出番が終わったらインタビューとか受けなくていいから直帰して休んでください』やら宇月から『お前絶対無理してんだろ。わかってんだよこっちは。ナッシーは後ろに控えるようにして泥のように寝てるだろう二人を前に出せ』と見ているかのような返事がきた。

 宇月は千里眼でも持ってるんだろうか?

 

「先輩たちから歌番組が終わったら直帰してゆっくり休むようにって」

「そうか、先輩たちもこのあと仕事なんだろう? 本当に大変だな」

 

 続けて『綾城先輩も入院しているんですよね? 大丈夫なんでしょうか?』とメッセージを続けていれると花崗から『珀ちゃんち、今離婚の話でゴタついとるからどっちの親も来うへんと思うん。彼女はんに連絡したから大丈夫やろ』とのこと。

 まさかの返事に一瞬硬直してしまった。




裏設定


綾城珀(あやしろはく)

『泣き虫な私のゆるふわVRMMO冒険者生活 もふもふたちと夢に向かって今日も一歩前へ!』WEB版2章やや前半にも登場。

『泣き虫〜』はBKブックス様から書籍化してるんですけど続刊のお話は(今のところ)ないため結構精神的にアレなことになってて続きを書く熱量が鎮火中なんですけど、構想として『バアル』は主人公『シア』と出会って前向きになっていきます。

学校の先輩(当時三年生だった神野栄治と鶴城一晴と秋野直)たちが慰安ライブとしてゲーム内で“アイドル”としての在り方を示したことで現実に帰ることを決意。

その時にシアもある意味決着をつけて、バアルとともに現実に帰還。

きっかけとなったシアに惚れ込んで猛アタックの末恋人になります。

ただ、バアルこと珀を自殺まで追い詰めたのは、シアの実妹でした。

そのこともあり、大っぴらに“彼女さん”と交際していることをお互いにひた隠しており存在だけは主張している――という状況です。

さらに自殺未遂の余波は大きく、珀は留年。

元々珀は両親のW不倫が原因で炎上騒動はある種のトドメ。

高校卒業近い現在では離婚話まで進んでおり、両親は珀の親権を(珀の収入関係で)奪い合っていてゴタゴタは続いている。

ただ珀としては、もう19歳で法的には成人しているし仕事も決まっているので東雲学院を卒業後は親と縁を切って疎遠にするつもりである。


余談だがシアこと泉堂八重香(せんどうやえか)は離婚した父についていき、父の仕事を手伝いながら大学へ進学。

元々非常に優秀だったため大学生と被服デザイン、缶詰構造デザインで父の仕事を助けて二足の草鞋で精神的にも安定した生活を送っている。

婚約破棄の件は珀の誠実さのおかげで吹っ切れており、むしろ妹が珀を誹謗中傷して加害した事実も鑑みて「私が幸せにしなきゃ」と思っている節があるが、アイドルとして成長していくところに段々「私の方が不釣り合いでは……」とネガティブが出始めている。

ただ珀の家庭環境も相談されており、父と三人で暮らせたらいいかなぁ、とぼんやり思っている程度には、離れる気はさらさらない。



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