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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
4章

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決勝戦(2)


「インタビュー行ける人〜」

「「「………………」」」

「はーい」

「はい!」

「淳ちゃんは休んどき。もうテンションずっとおかしいねん。そないに元気あるんやったらSNSでも更新しとってー。変なこと呟かんよう、一応こーちゃんにチェックしてもろてな」

「はい! 了解しました!」

「テンションヤッバァ……」

「あれ三日コースやね」

 

 はあ、と深く溜息を吐く花崗と宇月。

 屍のような後藤と魁星と周。

 淳だけが生き生きしていて逆に怖い。

 言われた通りにSNSで屍になっている二人を写真に撮り、自分も映り込み「精も根も尽き果てましたねー。ちなみに俺は疲れすぎで逆にテンション上がってるみたいです」と書き、後藤にチェックしてもらう。

 後藤も後藤で疲れているので「まあ、炎上はしないと思う」とGOサイン。

 実際まあ、炎上はしなかった。

「アイドルとは思えない姿ヤバい」「お疲れ様」「夜はちゃんと休んで」「すごかったよ!」とのコメントがついた。

 ついでに「このあと綾城先輩がBlossomとして出演するのでめちゃくちゃ楽しみです! デビュー曲聴きたい!」と呟くとあっという間にいいねが万バズ。

 コメントは「わかる!」「たのしみ!」「淳くんもBlossom好きなんだ?」「楽しみだよね!」という同調の嵐。

 中には「なんでライバル応援するみたいなこと言うの?」という棘のあるものもあるが、バズるというのはそういうこと。

 ホクホクでモニターの前で水を飲みつつサイリウムと推しうちわで待機。

 完全に実家でご飯食べながらテレビの前に待機するドルオタ。

 休めと言われているのだが、忘れている。

 魁星と周など、顔を動かす元気も喋る元気もない。

 特番は今までの流れを振り返り、いよいよ決勝――という煽りのシーン。

 星光騎士団のパフォーマンスが流れ、次にBlossomのライブが初日から流れる。

 もう全部カッコいい。

 編集が神。

 この短時間にここまでの編集を行うなんて、と自分で編集をするようになってからか着眼点が少しずれている。

 そこから決勝パフォーマンスを終えた星光騎士団の花崗、宇月のインタビューが始まった。

 二人のインタビューが終わるのは五時半。

 五時三十六分頃、ついにBlossomの最後のパフォーマンスが始まる。

 

「ああああ、生で見たい!」

「あかんよ」

「あ、おかえりなさいー。やっぱりダメですか」

「生で見たら淳ちゃん倒れそうなんやもん」

「そうそう。大人しくモニターで我慢してよ。閉会式もあるんだからさ〜。そのあとホテルに戻る体力も残しておいてよぉ? お前ら背負うなんて僕無理だからね〜?」

「あ、そ、そうですね」

「シャワー浴びるんにも夕飯食べるんにも体力要るやろ? わしもホテル帰ったらソッコーベッドに沈みたいけど、汗は流したいしなぁ」

「閉会式のためにお化粧直しておくから顔だけは洗ってきてねぇ?」

 

 二人とも、もう次のことを考えている。

 すごい、と改めて尊敬しつつ、しかしモニターの前から動くつもりはない。

 Blossomのパフォーマンスを見たあとでも、十分対処できる時間がある。

 後藤や魁星や周のように体力回復に努めるべき時間なのに、淳はBlossomが出てきたら「ぎゃー! 待ってましたー!」と叫んでさらに体力を消費するようなことをする。

 限界突破したオタクは本当にヤバい。

 

「珀ちゃんはわしが担いででも帰るから、思う存分暴れてきいや」

「うんうん。珀先輩、頑張って――!」

 

 もう、優勝や準優勝なんて関係ない。

 ただ無事に、すべてのパフォーマンスを終わらせてほしい。

 彼がここに立つまでどれほど努力したのからすぐ側で見てきたから知っている。

 今彼の近くにいる三人もそうだろう。

 すべて出し切って、倒れたら抱えて連れて帰るから。

 

「〜〜〜〜〜♪♪♪」

 

 やはり初めて聴く曲だ。

 とんでもない。

 Blossomは本当に、夏の陣用に新曲をこれでもかと投入してきた。

 それをすべて覚えてパフォーマンスを行える四人のメンタルと体力、スペックも凄まじい。

 去年から練習は始まっていたとは聞いていたけれど、ここまで徹底的に対策をしてきたと思うと畏怖すら覚える。

 しかも綾城の場合、星光騎士団の新曲もあるのだ。

 どれだけ大変だったのだろう。

 寝る間も惜しんで練習して、きっと本当に“彼女さん”に会う時間なんてなかっただろう。

 それなのに、星光騎士団のメンバーと『SBOソング・バッファー・オンライン』で遊んでくれたり――。

 

「綾城先輩……」

「珀ちゃん」

「珀先輩っ」

 

 控え室にも歌声が届く。

 ちょうど、陽が落ち始めた。

 ステージの後ろへ陽が沈んでいく、神秘的な光景の中一曲目が終わりMCの時間。

 神野と鶴城が中心になって綾城の鬼スケジュールを説明して、投票の呼びかけ。

 そして最後の曲への想いと曲名を告げる。

 

『それでは聴いてください。未開花の君へ――』

 

 ここぞとばかりのバラードをぶち込んできた。

 あれほど激しい三日間を締め括るのに、これほどお誂え向きで美しい曲はない。

 曲そのものは綺麗なのに歌詞はドロドロとしていて、夢破れた者への心情が滲む。

 色々と思い出して、淳がべそ……と泣き始める。

 激しいダンスではないが、それでも優雅さの求められる動きのダンス。

 あれ逆に体勢の維持つらいんだよね、と宇月が告げる程度にはバラードはバラードでつらいらしい。

 曲が終わる瞬間、涙で前が見えづらい中、夕陽を背に綾城がゆっくりと顔を上げて客席に向けて微笑んだ。

 あれはきっと無意識の微笑みだろうけれど、演出であるのなら神だ。

 日は沈むが、明日また日は上る。

 今年夢破れた者たちに、まるで希望を残すかのような。

 

「綾城先輩ぃ……」

「閉会式は五時四十分から六時まで。生放送やと時間がシビアやね。ほら、お前ら準備せいよ! 珀ちゃん迎えにいくで」

「う、う、ううう……」

「あ、ぐ……う、も、もう、動けないです……」

「ホ、ホテル帰りたいです……」

「気張り!」

「ごとちゃんあとちょっとがんばろーねー。ナッシー、一年ども立たせて」

「了解です!」

 

 一年に対する声が低すぎる宇月。



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