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IG夏の陣、三日目(4)


「さすがのわしも喋る元気もなくなってきてるでぇ? 淳ちゃん体力どないなっとんねん……」

「推しアイドルが目の前でパフォーマンスしてるんですよ!? エネルギーはその都度アイドルにもらっていますよー! Success(サクセス)も好きですけど、やっぱりこのあとのBlossom(ブロッサム)VS勇士隊のパフォーマンスが楽しみすぎて楽しみすぎて……はあああぁ〜! まさに世紀の一戦ですよ〜! 特に星光騎士団のパフォーマンスもいつも以上に輝いていて『なんで俺は客席でこれが見られないんだー!』って思いましたけど、やっぱり新曲のMVが効いているんでしょうね! チャンネル登録者数も増えてますし、客席に星光騎士団の推しうちわやイメージカラーのサイリウムが見えて『わかるわかる〜!』ってなりました! それに聞きました!? Blossom(ブロッサム)の次の曲も新曲なんだそうですよ!? 信じられませんよね、星光騎士団や魔王軍や勇士隊のように十年の歴史があるわけではない、五月にデビューしたばかりのBlossom(ブロッサム)が、今のところすべての勝負に新曲を出しているんですよ!? 春日芸能事務所のワイチューブチャンネルで新曲が出る度Blossom(ブロッサム)の新曲MVが終了と同時に投稿されて、もうネットの方もお祭り騒ぎですよ! これはありますよ、初出場初優勝! すごいです、もう俺たち歴史の目撃者になるかもしれませんよ!」

「さ、さよか……」

「なんかこれがドルオタなんだなぁって感心してきちゃったぁ……。いや、もしかしてナッシーも珀先輩と同じく限界突破のハイテンション? なんか変な興奮物質出てる感じ? これ、終わったら倒れるんじゃないのぉ?」

「かもなぁ」

 

 と、花崗と宇月がテーブルに突っ伏して栄養ドリンクを飲む魁星と周を見下ろす。

 後藤のようにロッカーに向かって正座して落ち込んでいる方が、まだ健全に見えるような顔で倒れている一年二名。

 結果は間もなく発表となる。

 負ければこの地獄のような連戦から解放。

 魁星と周的には負けた方が嬉しいのかもしれない。

 まあ、閉会式があるのでホテルにはまだ帰れないけれど。

 かく言う花崗と宇月も水と栄養ドリンクを交互に飲む。

 二、三年は明日からアミューズメントパークの開場式でライブがあるので、正直言えばここで敗退して最低限の体力を残したい。

 しかし、綾城の気持ちもわかるのだ。

 淳の言う通りBlossom(ブロッサム)の用意周到さは一年前から準備が進められていたに違いない。

 そうでなければ連日連戦すべてに新曲をぶち込んで来れるわけがない。

 実際綾城は去年の後半からかなり忙しそうだった。

 星光騎士団団長としての、最後の夏を後悔を残して終わらせたくない気持ちも、花崗にはよくわかる。

 いや、誰よりもわかる。

 だから勝つのなら、明日倒れてもすべて出し切ろうと思う、

 ――プロとして。

 本業はモデルだが、プロのアイドルとして“仕事”をする。

 その意識は星光騎士団――神野栄治の時代から受け継がれているもの。

 淳が最初から持っていたもの。

 おそらく、一年の中で淳がこのハイテンションモードになっていて、魁星と周が半ば倒れている決定的な差はその意識だ。

 的確な表現があるとするならば『覚悟の差』というやつだろう。

 まあ、ドルオタモードの推しへの愛が、それを助長させている感は否めないけれど。

 それにしてもマシンガンアイドルトークがマジで止まらない。

 逆にそろそろ止めた方がいいのだろうか?

 

『さあー、準決勝一回戦が終わり、集計も終わりました! 決勝に上がるのはどちらのグループなのか〜!』

『結果はCMのあとでー!』

 

 ステージ上でCRYWN(クラウン)の鳴海ケイトと岡山リントが定番のセリフを言って会場を沸かせる。

 集計が終わったのか。

 星光騎士団の、今年の運命が一つ進む。

 腕を組んでステージを眺める花崗と宇月。

 三位はこの時の点差で決まり、来年の夏の陣のシード権もそこで決定する。

 宇月としては、三年が卒業したあと、自分が団長を務める一年の間の集大成でシード権が得られるかどうかの瀬戸際。

 なかなかに緊張してきた。

 過酷な三日間、シード権が得られると三日目でこの疲弊した状態でのライブをしなくて済む。

 できることなら三位には入りたいところだが、それは次の準決勝の結果にもよる。

 CMの流れている二分間が、異様に長く感じた。

 

「CM明けまーす」

 

 スタッフの声に、テーブルに突っ伏していた魁星と周も顔を上げる。

 舞台袖から鳴海ケイトと岡山リントがステージへと再び進む。

 

『さあ、今年のIG夏の陣、準決勝一回戦目――勝者の発表です!』

『勝利したのは――』

 

 溜めの時間も異様に長い。

 長く感じる。

 さすがの淳もスン……と推し黙る程度には、舞台袖の星光騎士団の控えスペースの緊張感は凄まじい。

 

『星光騎士団! なんと! 学生セミプロが再びジャイアントキリングを果たしましたーーー!』

『やばいすごい! 今年ヤバすぎ! 学生セミプロ、もうセミいらなくない!?』

『綾城くん人気がここでも星光騎士団に味方したみたいですね。Blossom(ブロッサム)の神野くんと鶴城くんも、元々は星光騎士団の団長副団長だったという話です。彼らの出身グループということで、流れを完全に星光騎士団に向いています。芸能事務所社長や代表からは“将来性がある”面も注目され、投票が多かったですね』

『将来性ね〜、確かに〜! でも三年生の花崗ひまりくんはもう卒業後の事務所決まってるんでしょ? じゃあ今のうちに二年生の宇月美桜くんと後藤琥太郎くんにはうちの事務所からスカウトしちゃおっかなぁ〜』

『いいんじゃない? 魔王軍の三年生は全員来年はうちの事務所に来るんだし、もっと取っても』

『ケイトからOK出たからあとで名刺渡すね〜』

 

 と、舞台袖に手を振る岡山リント。

 マジか。

 

「こ、困る〜! 僕、柚子様と同じく『NEWVOICE(ニューボイス)』に入りたいんだもん〜! オーディション申し込みしちゃってるしぃ!」

「営業トークやない?」

 

 緊張が解けて、笑う元気が出てきた花崗と悩む元気が出てきた宇月。

 魁星と周は顔が死んだままである。

 まさかの、決勝進出。

 喜ばしいはずなのに、元気がなさすぎて。







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