IG夏の陣、三日目(1)
「ふんふんふふふ〜ん、ふんふん♪」
「ジュンジュン、なんで緊張しないの〜!? 今日、優勝が決まるんだよ!?」
「そうそう、楽しみだよね〜! 今日はシード組の『applause』や『Success』、『愛が世界を終わらせる』が参加するから激戦だよ〜。去年のトップ3を生で見られるなんて最高だよねぇー! それに、今年は東雲学院芸能科の三大大手グループが全部残っているんだよ! それもすごいよね! 快挙だよ、快挙! 星光騎士団は四年連続三日目だけど、魔王軍と勇士隊まで三日目に進んだのは今年が初! めちゃくちゃすごいことだよ、これ!」
「は、はあ……」
「完全にファン目線ですね」
どうしたってファン目線になってしまうのは仕方ない。
すでに対戦は開始しており、星光騎士団はとある事務所のアイドルと三日目初戦を迎えるところ。
『Blossom』として初戦を終えた綾城が、慌てて着替えて帰ってきた。
今日は特に大忙しだろう。
かと言って、綾城のために星光騎士団が棄権、敗退するつもりはない。
それは綾城自身が絶対に嫌だと言っている。
彼は四月に――淳たちが入団した時にすでに『星光騎士団のリーダーとしても本気でやるけれどプログループの方のリーダーとしても本気でやる。どちらも手は抜かない』と前言していた。
なんならこの日のために去年から曲を覚えていたというし、綾城珀にとってセミプロの星光騎士団とプロのBlossom、どちらのリーダーとしても責任を持って戦い抜く覚悟をしている。
そして、今日が星光騎士団の“団長”として最後。
疲れた表情で星光騎士団の専用衣装に着替えて、すぐに“アイドル”の顔に戻っていつでもステージに上がれる状態になっているのはさすがというべきか。
「ただいまー」
「おかえりなさい、珀先輩〜! Blossom、圧勝でしたねぇ! お相手のグループ可哀想になっちゃいました〜」
「ありがとう、美桜ちゃん」
「本当にすごかったです! 綾城先輩と栄治様のコンビ曲! 最高の最後でした! もう、モニターで見てるだけで失神しそうでしたよー! 今日まで生きててよかったです!」
「そ、そこまで?」
「さすが神野栄治推しのドルオタやねぇ」
失神防止にモニターでしか見られなかったが、Blossomの初戦は圧勝。
相手もプログループだったのだが、一昨日と昨日の勢いのまま流れは完全にBlossomにあった。
現時点での『いいね!』票数も、シード組を押し退けて第一位を死守している。
この流れならば本当に初出場初優勝してしまうかもしれない。
けれど、星光騎士団のメンバーたちも『セミプロで初優勝』の夢がある。
いや、星光騎士団だけではない。
魔王軍も、勇士隊にもチャンスはあるはずだ。
他のプログループとしても、IGで優勝すれば一年は仕事に困らない。
そういう意味ではここまでの快進撃を果たしたBlossomは、話題性が十分に取れたのではないだろうか。
もちろんそれで満足する気は皆無だろうけれど。
「珀ちゃん、ほんまに大丈夫? さすがにちょっと動き悪くなっとるよ」
「本当? 気合い入れ直さないとダメだね。絶対負けたくないもん」
「意外に負けず嫌いよねぇ、珀ちゃん。わし、心配。さすがに今から曲順変えるん無理やしなぁ」
「そんなに心配しないで、ひまりちゃん。明日はちゃんと一日しっかり休むから。今日は全身全霊で頑張りたいんだ」
「う、うーん……」
笑顔で答える綾城に、花崗の顔は曇ったまま。
三年のつき合いで、きっと相当に綾城が弱っているのがわかるのだろう。
それを黙認しろ、と綾城が言うので口籠もる。
それだけの覚悟をして挑んでいるのだから、それを認めて助けるのが仲間というものだと思う。
淳としても推しがしんどそうなのはつらい。
だから――。
「綾城先輩、本当にかっこよかったです! 栄治様はいつもかっこいいんですけど、なんかこう、ザ・騎士! って感じなのが! 一晴先輩と甘夏さんのコンビ曲と対を成しているのが如実で、流れのままに聞いてみたいと思っちゃいました。本当、モニター越しじゃなかったらマジで失神してたと思います。今回は綾城先輩のセリフだったんですね。智子なら失神してたと思います。危なかった。それに、MCのあとの二曲目も新曲! Blossomすごすぎますよ! まさか夏の陣が始まってから全部新曲で来るなんて、誰も思いませんでしたよ! 綾城先輩と甘夏さんのコンビ曲、新鮮な感じでカッコよかった! サビの部分に電子音が入るの、星光騎士団でもツルカミコンビではできない方向性の曲調で感動しました〜! MVも公開されたの確認したんでソッコー再生リストに入れましたよ! 夏の陣で公開された曲のサブスクいつ頃公開なのか、今から楽しみで楽しみで!」
「あ、う、うん。ありがとう。夏の陣が終わったらサブスクとCDで発売される予定だから、もう少し待っててね」
「はい! 絶対買います! 予約します!」
「ふふふ」
淳の熱いドルオタ感想で、少し疲れた表情の綾城が嬉しそうに笑う。
やはりアイドル。
ファンの喜びの声は力になる。
それは淳の推しうちわに、精神的な支えをもらった魁星と周にもよくわかった。
だからドルオタの感想は疲れたアイドルへの特効薬。
「星光騎士団の皆さん、そろそろ準備お願いします」
「はい。さて、じゃあ行こうか。優勝しようね」
「おう!」
「「「「はい!」」」」






