Blossomの快進撃
「俺、疲れたからもう寝る〜」
「自分も明日に備えて休みますね。淳はまた会場を見に行くのですか?」
「行くよ〜! 年に二回の超大型アイドル祭だもーん!」
ホテルに屋台の食べ物を持ち込み、周と魁星は部屋に直行するという。
淳は屋台側の立ち見席に移動して、遠くからでも『Blossom』の二日目パフォーマンスを見る気満々。
しかしやはり、午後は人が増える。
夏休みで学生も多いし、昨日のパフォーマンスでファンが爆増しているのだろう。
わかる、と推しうちわとサイリウムを持ちながら、モニターを見上げる。
ステージは遠すぎてよくわからないが、会場のあちこちにモニターが設置してあるのでそれを見るのだ。
登場してきた『Blossom』メンバーは、綾城珀と甘夏拳志郎の二人のみ!
昨日のパフォーマンスがツルカミコンビだったので、今日は綾城と甘夏の綾甘コンビの曲らしい。
ツルカミコンビのように武士と騎士のようではなく、拳士と騎士のイメージの曲。
驚いたのは甘夏の高音の安定性。
動きながらあの高音を安定して出せるのは純粋にすごい。
なにより――
「きゃぁぁぁあああ! 珀様ぁー!」
「かっこいいー!」
「珀様ぁー!」
綾城珀への声援が凄まじい。
昨日のツルカミコンビのパフォーマンスを見たあとでは、やはりやや物足りなさはあるのだろうが綾城珀の顔面が良すぎる。
歌も、ダンスも。
そこからMCに入り、自己紹介からの可愛い会話。
主に先輩たちへの愚痴?
『昨日先輩たちのパフォーマンス、見ました?』
『俺も見ました! めっちゃヤバいですよね! あれ、歌えるんだ!? ってなりましたよ! あの人たちなんですかね!? 超人!?』
会場の「それな」感。
同調が会場中に広がり、その共感で満ちる。
花崗の交流のやり方も、このような共感もファンの好感度がアップする。
初心者のはずなのに、上手いやり方だ。
『我々は五月にデビューしたばかりなので、知名度はまだまだだと――』
『ハァーーーーーー? なんで俺たちのこと知らないとか言ってんのぉ? そんなの許すわけないよね?』
舞台袖からツルカミコンビが出てきた。
その登場に会場が揺れるほどの『ぎゃーーーー!』という悲鳴が上がる。
その瞬間、綾城と甘夏が上着を脱ぎ捨ててステージの後ろへ放り投げた。
衣装のイメージがまったく別物になり、ツルカミコンビと同じ統一衣装になる。
つまり、これは――!
『遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我らが春日芸能事務所のアイドル、Blossom! さあ、今から我らが歌うのも新曲でありますぞ!』
『ほらほら、いいねを押し忘れてる子は連打してよね? あ、春日芸能事務所のワイチューブチャンネルで十六時か、今日の新曲のMVが公開されるからチャンネル登録してよねー』
『紳士淑女の皆様、特に前のお席の皆様はご注意ください』
四人の声が揃い、新曲名が唱えられる。
空いた口が塞がらなくなった。
昨日、ツルカミコンビが歌ったのも今し方綾城と甘夏が歌ったのも新曲。
そして、今から歌うのも――
(まさか! 何曲新曲用意しているんだ、この人たち!)
IGは曲数が必要不可欠。
同じ曲ばかりを歌えば『いいね!』やアンケート投票はなかなかもらえない。
星光騎士団や魔王軍、勇士隊のように歴史があり手持ちの弾が多ければ多いほどお客さんを飽きさせることは少ない。
しかし、Blossomは今年の五月にデビューしたばかり。
デビュー曲はまだ一度も歌っておらず、イントロが間違いなく新曲。
前へ出た綾城と甘夏に、優雅に一回転して後列へ行くツルカミコンビ。
なにをどうするのかと思えば、完全に全員が武士の立ち居振る舞い。
曲調は和風。
殺陣を模したダンスと歌声は力強く、ダブルセンターは鶴城と甘夏。
この流れは、つまり……
(明日……綾城先輩と、神野栄治の……ダブセン曲が控えているのでは……?)
そう考えたドルオタは淳だけではないはず。
淳自身スマホから『いいね!』を押しまくる。
案の定、ドルオタたちは同じ考察に駆られてBlossomに『いいね』を押しまくり。
ツブヤキッターは本日もトレンド入り。
あっという間に本日の出演者トップに躍り出た。
完全に流れがBlossomに向いている。
たったの二日で、バズアイドルになった。
個々の知名度が高いのもそうだが、パフォーマンスの方向性がすべてスタイリッシュでカッコいい。
和風なのに突然ラップが入って、淳はかっこよすぎてちょっと泣いた。
しかもオタクの妄想を掻き立てる。
曲が終わるとワア、と歓声が上がった。
『明日は俺とはーくんの曲、あるよ』
『ぎゃあああああああああああああ!』
退場前にウインクつきで神野が宣言したために、屋台ブースの方まで歓声で空気が揺れる。
マジ、神野栄治ドルオタをおちょくるのが得意すぎる。
いや、もう本当にわかっておられる。
Blossomが退場して隣のステージに対抗相手のグループのパフォーマンスが始まるのに、歓声がまだ終わらない。
まったく速度が落ちない、Blossomの快進撃。
今日も相手が可哀想になるほどだ。
これは、あるかもしれない。
かつて『CRYWN』しかなし得ていない――初出場初優勝の偉業の再現が。
(物販寄ってみよ……!)






