秋野直
――石動上総は三大大手グループ『勇士隊』の君主。
誕生日:十二月十二日。O型。身長:176センチ。体重:61キロ。部活:文学部。趣味:読書、映画鑑賞。特技:クロスワード。
一見白髪だが、毛先は薄い萌葱色。甘い顔立ちと声色を持ち、第一印象は背の高い優男。
しかし一度口を開くと過激な物言いが多く、完全なる悪ガキ。
八重歯がチャームポイントで、よくお兄ちゃんの話をしているブラコン。
「ちなみにパフォーマンスは全然甘くなくて、ファンを煽り散らかす悪ガキムーブが特徴。他のメンバーにもよくイタズラして怒られているけど、そこが可愛いと言われてるよ!」
「「へ、へーーー」」
「淳くん、詳しいですね」
「アイドル大好きなので!」
檜野に褒められて、満面の笑みで答える淳に魔王軍三年生ズがわかりやすく「きゅん」としている。
そのまま三人にぎゅ、と抱き締められて「暑いです」とクレーム。
「あ、いたいた。旭〜」
「ミャ? ……秋野代表……!?」
淳に顔を押し返される朝科を呼ぶ声が、廊下の奥から聞こえてくる。
全員が振り返ると、そこにいたのは金髪をハーフアップにした美少女。
だがほぼ全員が、その顔を見るとビシッと直立する。
していないのは魁星のみ。
周りが全員硬直して焦った表情になるので「なになに誰誰」と一人混乱。
「ちょ、なんで知らないんだ君はっ! 秋野直――いや、『CRYWN』の岡山リントですよ!?」
「え、あれが!? 俺らと同い年くらいの女の子じゃ……」
「そんなわけないでしょ! というか、ちゃんと立ってバカ! 相手は殿堂入りのキング・オブ・アイドルだよ!」
小声で周と宇月に叱られて、廊下の壁に整列する星光騎士団のメンバー。
それを見てクスッと笑う秋野直。
「栄治んとこの後輩じゃん。相変わらず規律正しいいい子ちゃんだなぁ」
「きょ、恐縮です」
「だ、代表、どうされたのですか!?」
「えー? ナンパ? いや、スカウト? さっき彗に会ってさぁ、ちょっと話したんだけどお前んとこの他の三年二人? 檜野と雛森だっけ? まだ事務所決まってないんだろ? まとめてうちに来ない? って誘おうかと思って。そうじゃないと『うちでもらっていいですかー?』って生意気言われちまったからさぁ」
「「え、ええええ!?」」
それに驚いたのは檜野と雛森。
二人とも卒業後の事務所は決まっていない。
IGはこういう事務所へのアピールには、あまりならない。
勝ち残るのがプログループばかりだからだ。
すでに秋野直芸能事務所のオーディションに受かり、卒業後は所属が決まっていた朝科と同じく檜野と雛森にもお声がかかるとは。
「なんだよ、ウチじゃ不満かぁ? まあ、たいしてでかくねぇしなぁ」
「そ、そんなことは! 旭さんと卒業後も同じ事務所で働けるのは、ボクとしても大変嬉しく……いきなりのことで信じられない気持ちが大きいのです」
「日織くんも日織くんも。マジで? いいの?」
「いいもなにも誘ってんのは俺! 俺はあんまりプロデュースとか得意じゃねぇから、人事とか興味ねぇんだけど彗がなぁ……」
と腕を組んでここでない誰かを睨むように見上げる。
彗、というと――
(春日社長……?)
彼しか思い浮かばない。
彗でなく彗という呼び方はそれなりに珍しいので。
「まあ、あと引き離すのって可哀想だしなー。俺も十五の頃からずっと気心知れた仲間とやってきてるから、お前らも一緒の方がいいパフォーマンスができるんじゃねぇ? って、昨日今日のステージ見て思ったからさ。二年のガキどもは色気が足らねーから、来年の様子見てだけど」
「代表……! ありがとうございます!」
「気が早ぇ。とりあえず名刺渡しておくから、考えておけって話。あとお前」
「!?」
と、名刺入れを取り出した秋野が檜野と雛森、そして後藤に名刺を差し出した。
ギョッとする後藤。
SDを片手に抱いているので、おとなしく差し出された名刺を受け取るけれど。
「え、あ、え、え」
「うちにもお前みたいな精神繊細なやついるからなんか放っておけねぇわ。ま、返事はすぐじゃなくてもいいから考えておけよな。あと、俺が誘ったんだからみっともない負け方すんじゃねえぞ!」
「は、はい!」
「んじゃ」
と、言いたいことだけ言ってそのまま直進していく秋野直。
あの可愛らしい容姿から、若干現実味がない口調と態度。
宇月よりガラが悪かった。
「く、く、く……CRYWNの岡山リントと同じ空気吸っちゃった……」
「ご、ごとちゃーーーん! ごとちゃんおめでとおおおおううう!」
「っあ、あっ、あっ」
「落ち着いて、落ち着いてこーちゃん。深呼吸して深呼吸!」
「ひ、ひ、ひっ、ひっ」
「こーちゃん落ち着いて!」
「ひっひっふーだよ! ごとちゃん!」
「ちゃうちゃう、みーちゃん、それちゃう呼吸法や!」
目の前で後藤が事務所にスカウトされて、星光騎士団のメンバーも大混乱。
魔王軍の方も「ヤバい! 檜野先輩、雛森先輩おめでとうございます!」「おめでとうございます、檜野先輩いいぃ!」も麻野と茅原が大興奮。
しかも、あのCRYWNの事務所。
なおドルオタは「一生分の空気吸った気がする……」と泣きながら呟く。
だいぶなに言ってるかわからない。
「嬉しい、嬉しいよぉ、久貴、日織〜!」
「旭さんんん」
「旭くーん!」
抱き合って喜ぶ三人。
その目には涙が滲んでいた。
苦楽を共にしてきた友と、この先も一緒に歩んでいける可能性を得た。
その様子に、淳も目を細める。
あのたった三人とお客一人のステージから、彼らはここまでの未来を手に入れたのだ。
それをまさか、目の前で見届けることになるなんて。
「檜野先輩、雛森先輩、後藤先輩、おめでとうございます!」
「マイスイートー! 結婚しよう!」
「ああ、あなたのおかげで我々はここまで来れたのです! 愛していますよ!」
「日織くんも! リリー愛してるよー!」
「ぐええええ!?」
「だああああ! 収拾つかんくなってきたぁああ!」