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第二話 旅の道連れ?

 罪人を護送する為の馬車だからか、粗末だからなのか、酷く揺れますね。ああ、もう国境の山の中に入ってますから、道が悪いのかも。


 仕方がないので、魔法で身を浮かせておきます。こうすると、振動から逃れられると教えていただいたんです。


「ふう、まさかこの術式が、こんなところで役に立つなんて」


 これ、元は魔物討伐で遠征した時に作ったものです。地面の上に毛布を敷いて、その上で寝ろと言われて困りました。


 だって、石がごろごろ転がっていたんですもの。しかも、地面は固いですし。


 だから、毛布にくるまったまま空中に浮くような術式を作ったんです。そうしたら寝心地もよく、下からの冷気も上がってこなくてよく眠れました。


 仲間に教えたら、あっという間に広まったのを思い出します。


 もっとも、その後に快適な天幕を皆で開発しましたから、すぐに使わなくなってしまいましたけど。


 仲間達は、今回の騒動をどう思うでしょうか。彼等はお父様がどんな方か知りませんから、発表された話を信じてしまうかもしれません。


 それを、訂正できないのが辛い。


 そういえば、王宮の簡易裁判の場に、あの方はいらっしゃいませんでした。あの時はお父様の無実を訴える事で頭がいっぱいで、気付きませんでしたが。


 王位を継がれる立場の方ですから、本来であればあの場にいたはずなんですけど……


「あら?」


 考え事をしていたら、いきなり停車しました。周囲から、馬のいななきと人の声。何かしら?


 外を見ようにも、この馬車には窓がありません。車内は薄暗かったので、魔法で明かりを灯していました。


 ちょっとだけ、魔法で外の様子を窺ってみましょう。


「まあ」


 なんと、あの武装した兵士達は全員おらず、代わりに何やら怪しい風情の人達が、この馬車を囲んでいます。


「へっへっへ、おめえさんに恨みはねえが、これも仕事でな。おとなしく、死んでもらうぜ」


 そんな事を言っています。彼等は手に武器を持ち、こちらを襲うつもりのようです。


 ここは山の中。そしてあの風体。彼等は山賊でしょうか。馬車の扉を開けようと躍起になっていますが、取っ手が動きません。


 それもそのはず、咄嗟に馬車の車体ぴったりに沿うよう、結界を張りましたから。勝手に扉は開けられません。


「何だこれ!? 取っ手が動かねえぞ!」

「何やってやがんだ! ……うん? 本当に、動かねえ。何だ?」

「もういい! 面倒だから、馬車ごと谷底に落としちまえ!」


 乱暴な方達ですねえ。でも、そう上手くはいかせませんよ。結界には色々な使い方があって、現在馬車に張っている結界は、そのまま地面から動かないようにしてあります。


 なので、結界を破られない限り、この馬車を動かす事は出来ません。もちろん、私の張った結界ですので、破る時には私以上の魔力を使う必要があります。


 この国で、私以上の魔力持っている方など、一人しかいませんけど。


 これで諦めて去ってくれないかしら。私は、ここで死ぬ訳にはいかないのだから。


「頭あ! 無理です! 動きやせん!」

「んだとお! この!」


 あ、今度は剣で結界に切りつけています。やめた方がいいのに……


「う! そ、そんな……」


 ああ、やっぱり。山賊の剣が折れました。それはもう、見事にばっきりと。魔法士の結界を、甘く見てはいけません。


 特に私が張るものは、魔法剣ですら弾くのですから。


 でも、私の方もちょっと手詰まりですねえ……あの人達、どうしましょう?


 魔物は討伐した事は何度もありますけど、人相手はまた勝手が違いますし。やりたくないなあ。やらないとダメかしら。


 いえ、だめですね。私はここで死ぬ訳にはいかないのだから、彼等を排除する以外、道はありません。


 私を襲ってきた向こうが悪いという事で……あら? 先程まで馬車を囲んで騒いでいた山賊達が、いきなりバタバタと倒れました。


 ……私、無意識のうちに術式を使った……とか、ないですよね?


「ベーサ、無事か?」


 この声! 私は慌てて結界を解除し、馬車の外に飛び出しました。目の前にいるのは、本来こんな場所にいてはいけない方です。


「黒の君……」


 倒れる山賊達の中心にいたのは、黒の君とも呼ばれる一の君、我が国サヌザンド王国の第一王子レイヴロ殿下です。


 長い黒髪を背に流し、長めの前髪から覗く瞳は深い青。王家に数代ぶりに産まれた黒髪の王子殿下。


 私はその場で膝を突き、最敬礼を執りました。王族というだけでなく、私にとっては共に戦った仲間でもある方。


「礼はよい。立て、ベーサ」

「はい」

「このような場で言っても仕方のない事だが、我が親族の罪、許せ」

「なんと畏れ多い!」


 王族であり全てを許される方が、臣下の、それも娘に対しそのようなもったいないお言葉を。


 ですが、親族の罪……とは。


「今はろくに話せないが、詳しい事はこちらに聞いてくれ」


 黒の君は、傍らに立っている人物を目で示しました。そういえば、先程からフードを被った人物がいらっしゃいましたね。どなたかしら?


「それと、図々しい話だとは思うが、一緒に連れていってやってほしい。無論、報酬は払う。これを」


 黒の君は、大きな革の袋を私に差し出しました。思わず受け取ってしまいましたけど、これ、ずっしりと重いんですけど。


 一緒に連れて行けとの事ですが、私、国外追放になった身ですよ? ただ国の外に出る訳ではないのですが。


 しかも私、国の外に出た事はありません。我が国は半分閉じた国ですから、国民の殆どがそうですけど。 


「黒の君、私は――」

「彼女は、この国にいる訳にいかなくなった」


 女性、ですか? 首を傾げながら傍らの人物の方を見ると、おもむろにフードを取って顔を見せてくださいました。


 まさか、この方だなんて!


「二の姫様……」


 黒の君が連れていらした方は、彼の腹違いの妹である第二王女ヴェルソニカ様です。艶やかな栗色の髪が、美姫と謳われた母君に生き写しと言われるお顔を縁取っています。


 二の姫様には、何度か宮廷で顔を合わせた程度の間柄です。伯爵家の中でも我が家は家格が低く、親しくお付き合い出来る身ではありませんから。


 第三王子であり二の姫様の弟でもあるオリサシアン様と婚約していましたので、ご挨拶くらいはしていましたけど。


「聞きたい事もあるだろうが、今はこの場を後にする方が先だ。襲撃者が、こいつらだけとは限らない。あいつは、お前を確実に始末したいのだろう」


 私を殺したい人がいて、その人を黒の君は知っている。いえ、とても、親しい相手のような言い方でした。


 黒の君の様子に、最後に見たあの方の姿を思い浮かべます。


「もしや、この襲撃はオリサシアン様の差し金ですか?」

「知っていたのか!?」


 ああ、やはりそうなのですね……


 私は黒の君の言葉に、首を横に振ります。


「いいえ、黒の君のお言葉と、最後のあの方の態度から推察しました」


 オリサシアン様。ほんの少し前までは、私の婚約者だった人。気難しいところのある方でしたが、性根はお優しい方だと思っていましたのに。


 確かに、我が家では王族の方との婚姻を結ぶのは畏れ多い事です。家格を飛び越えての縁組みには、私の魔力量が関係しています。


 貴族の家でも、滅多に出ない黒髪。それは、魔力量が豊富な証でもあります。王家は、それも込みでオリサシアン様と縁づかせようとしたんです。


 おそらく、その事こそが、あの方の怒りを買ったのだと思います。でも、まさか命まで狙われるなんて。


「私……そこまであの方に厭われていたのでしょうか……」


 しんみりとしてしまいましたが、黒の君が何かに気付かれたようです。


「まずい。やはり第二の手を放っていたようだ。二人とも、ここでお別れだ。うまく国境まで逃げ延びたと見せかけるが、オリサシアンは疑い深い。普通に国境を越える事はしないように」

「わかりました。二の姫様の事はお任せください」

「頼む」


 どうして二の姫様まで逃げなくてはならないのかはわかりませんが、黒の君に頼まれた以上全力でお守りいたします。




 その場で黒の君とお別れし、私は二の姫様と共に崖の上へと上がりました。


「二の姫様、魔法がお上手なのですね」

「私の髪はこれでしょう? 兄上やあなた程ではないけれど、それなりには使いこなせてよ」


 確かに。二の姫様の御髪の色は、艶やかな栗色。髪の色が濃ければ濃い程、魔力量は多いのです。ですから、私や黒の君のような黒髪は、貴重だと言われます。


 何せ、これ以上ない程の濃さですからね。そりゃあ魔力も豊富ですとも。


「このまま、山越えになると思いますが、大丈夫ですか?」

「靴がもつかどうかが気になるわね。一応、野外活動用の靴を履いているけれど……よく見たら、あなたのその靴、布靴ではなくて?」

「ええ、そうですね」


 これ、本来でしたら外に履いて出るような靴ではありません。室内履きなので、底も薄いですしね。


 何せ我が家でくつろいでいたところに、いきなり兵士達が乱入してきて、両親共々王宮に連行されましたから。


「大丈夫ですよ。替えは常に持っておりますので」

「え?」

「ともかく、ここからもう少し離れましょう。第二の襲撃者に気付かれないとも限りません」

「そ、そうね」


 靴の底とその周辺に、結界を張っておけば布靴でも山を行く事は出来ます。大丈夫。私の魔力は豊富なんですから。

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