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第十一話 襲撃者

 ノンジェゾを出た後は、街道を行く乗合獣車に乗ってます。引いているのが馬ではないので、獣車だそうです。


 引いているのは、毛がふさふさした大きな魔物で、とてもおとなしい種だそうです。


 長年家畜として改良が加えられているらしく、人の命令によく従うのだとか。


「これは楽ですね」

「本当に」


 乗っているのは行商の人や、迷宮探索者、遠方に嫁いだ娘さんに会いに行かれるご夫婦もいらっしゃいます。


 のんびり行く獣車の旅。いいものですね。


 と思っていたのに。


「賊が出たぞおおおお!!」


 いきなり、御者の人が叫びました。どうやら、街道に出没する盗賊のようです。


 乗客達は皆身を寄せ合っています。あら? 探索者の人も振るえているんですけど。


「あなたは、迷宮探索者じゃないんですか?」

「お、俺らは浅い層にしか入らねえんだよ! 盗賊なんて、襲われたら金もねえし殺されちまう!!」


 なるほど、ノンジェゾでも一番賑わっていたのは浅い層でしたね。あそこに出入りする方達が一番人数が多いという話ですし。


 カルさんはといえば、当然のように大剣を構えています。


「お嬢達はどうする?」

「危難というのであれば、もちろん戦いますとも。ニカ様、申し訳ありませんが、念の為車全体に結界を張っていただいてもよろしいでしょうか?」

「当然よ。任せてちょうだい」


 快諾していただけましたので、私とカルさんは停めた獣車から降りて、襲い来る盗賊を迎え撃ちます。




 正直、もう少し骨があるかと思ったのですが……


「あっさり決着が付きましたね」

「まあ、こっちに怪我人も死人も出なかったんだ。良かったんだよ」

「それもそうですね」


 私とカルさんの前には、乗っていた馬ごと倒れてひくついている盗賊達が転がっています。全て電撃一発で仕留めました。


 広範囲の敵を倒す際、水場ではよく雷撃を使ったものです。水があった方が効果が上がると、黒の会で教わりましたから。


 ここは街道ですから水場ではありませんが、なければ持ってくればいいだけです。


 幸い、街道のすぐ脇を川が流れていましたから。そちらから水を汲み上げて盗賊達にかけた後、雷撃を使ったんです。


「馬は……とりあえず、骨は折れてねえから売れるな。盗賊の方も、次の街まで連れていきゃあ報償金がもらえるぜ」

「では、全部持っていきましょう」

「……どうやって?」


 いやですねえ、馬は歩けるのでしょう? だったら、回復してやればいいじゃないですか。


 ちょっと治癒魔法を使ったら、馬達は次々と起き上がりました。


「これで馬は自力で歩けます。車の後ろに紐で繋げばいいでしょうか。後は盗賊達ですねえ」


 いっそ、馬に引かせましょうか。ちらりとそんな考えが頭をよぎりました。


「お嬢、何か怖い事考えてないか?」

「え? そんな事ないですよ?」


 別に、怖くはないですよね? 引くといっても、獣車と同じ速度ですし。全速力で走らせる訳ではありませんから。


 この魔物、力は強いんですけど足は速くないそうです。それでも人が歩くよりは速いので、獣車に使われてる訳ですね。


 乗客からもいくつか案が出ましたが、馬にくくりつけるか引かせるかしかなかったので、カルさんが渋い顔をしています。


「馬にくくりつけるのは逃げ出す可能性が高いし、引かせると後で報償金が減るかもしれないし……」

「なら、その辺りにある木を切って簡易のそりを作ってはどうかしら?」

「それだ!」


 ニカ様の提案に、カルさんが嬉しそうな声を上げました。ついでにそこらの草で、縄も作っておきましょう。


 大丈夫です。草だけではすぐに切られてしまいますけど、そこに手持ちのカエル粘液をかけて魔力を通せば……


 通常の縄よりも丈夫なものが、簡単に出来上がりました。カエル、万能な素材ですね。


 未だ麻痺が治らない盗賊達を作った縄で縛り上げ、木を切り倒して樹皮を剥き、その皮で丸太をつなぎ合わせます。


 全て魔法でやりますから、簡単簡単。全て終わって盗賊達をそりに乗せたら、乗客から拍手が起こりました。何故でしょう?


 あ、ついでに草の縄で盗賊達をそりにくくりつけておきましょう。振動で落ちたりしないように。


 盗賊の馬と盗賊を引きつつ、獣車でノンジェゾの隣の街ウォニロスに到着しました。


 ここでは街の入り口で、ちょっとした騒動が。後ろにつれていた盗賊達が目立ったようです。


 御者の方が盗賊を捕縛したと説明してくれましたので、街の警備を担当する衛兵に繋いでもらい、無事引き渡せました。


「馬の売却額と、盗賊共の報償金、それに出没地点の情報を売った分で結構な金額になったぞ」

「まあ、良かったです。では、本日はそれなりの宿に……」

「いや待て! お嬢達の求める宿に泊まり続けたら、あっという間に金はなくなるからな?」

「ですが……」


 カルさんが薦める宿は、お値段は手頃ですけど色々と居心地がよくありません。


「今まで通り野営でいいんじゃないか? それとも、やはり手がかかるから嫌か?」

「いえ、私は構いませんが……」

「私も、カルの薦める宿よりは、ベーサが用意してくれる野営の設備の方がありがたいわ」


 ニカ様にそう言っていただけるなんて。


 結局、この先も宿は使わず野営を続ける事になりました。黒の会の遠征の時、妥協せずにあれこれ作った甲斐がありましたよ。


 そんな野営時に、事件は起こりました。といっても、事件があったとわかったのは、翌朝でしたけど。


「うおお!? 何じゃこりゃあああ!?」


 カルさんの大声で目が覚めました。


「どうしたんですか? カルさん。あ、おはようございます」

「ああ、おはよう……って! のんびり挨拶してる場合じゃねえって!」

「だから、どうしたんですかって聞いてるのに……」

「これこれ! こいつら、どうしたんだよ!?」


 カルさんが指し示す先には、転がっている黒ずくめの人間が三人。


「ああ、多分襲撃者です」


 夕べは結界を棘状にするのではなく、結界の表面に電撃の術式を展開させておいたんです。色々、試してみようと思いまして。


 その結果が、これですね。


 国境手前で襲ってきた人達の仲間かもしれません。ニカ様も起きてきて眉間に皺を寄せています。


 見たところ、魔法士ではないようです。……サヌザンドの民でも、なさそうですよ? 国外で雇った人間でしょうか?


「こんなところまで来たのね……」

「ニカ様、どうしましょうか?」


 私としましては、縛り上げた上で人目につかないところに放置したいです。人の命を狙ってくる人達なので、自分達が返り討ちにあう覚悟も出来てるでしょうし。


 でも、ニカ様のお考えは違いました……


「放置……も難しいわね。カル、こういう時に突き出す先はある?」

「んー、街中での事なら衛兵だが、街の外だしなあ。街道に出たなら街道保守の関係で近場の街の衛兵が対処出来るが、街の外だと領主の騎士団か国の騎士団に突き出す以外にないんじゃないか?」

「衛兵の方から、騎士団に引き渡してもらう訳にはいきませんか?」

「嫌がられると思うぞ。さっきも言ったが、縄張りが違うんだよ。で、衛兵と騎士団の仲はもの凄く悪い」

「まあ……」


 カルさんが言うには、騎士団は衛兵を下に見て、衛兵は騎士団をお飾り人形と侮蔑しているそうです。


 どちらも街や領の治安を守る大事なお仕事があるでしょうに。


「困ったわね……」

「ニカ様、ここはやはり動けぬように縛り上げてから、物陰に放置で」

「ベーサ、少し頭を冷やしましょうね」


 ダメですか。カルさんまで、微妙な視線で見てきますし。


 そんなに悪い案でしたか?


「悪いというより、お嬢らしくないというか……迷宮に入ったせいで、好戦的になったとか?」

「軽い興奮状態では、あるようね」


 ニカ様にまで言われてしまいました。自分ではわからないのですが、そうなのでしょうか。


 話し合いは決着せず、カルさんが近場の街の衛兵に相談に行ってくれる事になりました。


 その結果次第で、次の街への移動手段が変わりそうです。


「ちょいと値段は張るが、貸し馬車もあるんだよ。その代わり、保証金を先に入れなきゃならなくて、それがもの凄く高い」


 そうしておかないと、馬ごと馬車を持って行かれてしまうからだそうです。


 馬車をきちんと返せば、保証金は戻るそうですが。その値段を聞いて、ちょっとびっくりしました。


「かなり、お高いですね」

「とはいえ、盗賊捕まえたり馬を売ったりした金があるから、余裕で払えるぜ?」

「そんなにありましたか?」

「三人での頭割りした金額だと足りないが、三人分まとめれば問題ない。保証金は後で返ってくるしな」


 なるほど。その辺りも含めて、カルさんには街までひとっ走りしてもらいましょう。




 戻ってきたカルさんの後ろには、衛兵の人達がいました。ああ、ちゃんと押しつけ……引き取ってもらえるようです。


「襲撃者ってのは、こいつらか?」

「はい」

「ん? こいつら、お尋ね者のダット兄弟じゃないか!?」


 えー? お尋ね者だったんですか? カルさんを見たら、何やら顔の前で手を振っています。彼も知らなかったようです。


 衛兵の一人が未だに気を失っている襲撃者の一人の首元を指さし、確認しています。


「間違いない。ここに黒い入れ墨が入っているだろう? これが兄弟を見抜く鍵なんだ」


 何でも、今まで数多くの人を殺してきた殺し屋だけど、誰も顔を見た事がないんだそうです。


 ただ、生き残った被害者から首元の入れ墨の話が広まり、手配書にもその事が記されているんだとか。


「これならうちで引き取れるし、報償金も出るよ」

「おお、やったな」


 本当に。貸し馬車の資金が増えましたね。

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