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恋と法廷のカプリッチオ  作者: 望月麻衣
1/4

憧れの場所に立ったけれど

パソコンの中に眠っていた書きかけの小説です。

法廷のことを調べているうちに疲れて断念したもの。

公開したら、続きを書くかも?

途中までで終わってしまうかもですが、序盤だけでも覗いてもらえたら、成仏するかもと思い公開に至りました。

続きを書けないと判断した場合は、潔く非公開にします。




「企業は被告人に罪をなすりつけようとしているだけです。

『会社を守るため』そんな大義名分で正義をかざして、真実を隠蔽し善良な一社員の人生を陥れようとしているのです。これは由々しき問題です」


 今も鮮やかに思い出すことができる、法廷に立つ彼女の凛々しい後ろ姿。


「――主文、原判決及び第1審判決を破棄する。被告人は無罪」


冷静にそう告げた裁判官の判定に、「あ、ありがとうございます」と泣き崩れた父。


その瞬間、こちらを振り返って誇らしげに頷いた、彼女の美しい微笑み。

幼かった私は、あの日に決めたんだ。

あなたのような弁護士になりたいって。






――――15年後。


 ピリリと張り詰めた空気。

 人はここを神聖な場と呼ぶ。

「被告人は証言台の前に立ってください」

 まるでドラマのようにそう告げる壇上の裁判長。

 被告人は沈痛な面持ちで証言台に立つ。

「起訴状は受けとっていますね」

「はい」

「名前はなんといいますか?」

 そう、ここは法廷。

 ただ今、裁判の真っ最中。

 お決まりのやりとりを聞きながら、緊張から息が荒くなる。

 胸に手を当ててハアハアと荒い息を吐いていると、隣に座る上司に肘を突かれた。

「……ハアハア言うな」

「す、すみませっ」

 膝の上でギュッと拳を握る。

 手には汗がビッショリだ。

「弁護人、ご意見は」

 裁判官の言葉に、

「ふはぁい」

 と裏返った声を上げて、ぎこちなく立ち上がった。

 若い弁護士のいかにも緊張した様子に、傍聴席から失笑が漏れる。

 ダメダメ、こんなの全然カッコ良くない。

 私はあの人のような、スマートでクールな女弁護士になることだけを夢見て頑張ってきたんだ。

 クッと顔を上げて、被告人の元に歩み寄る。

 勝負靴のちょっと高めのヒールに足首がグニッとなったけど、大丈夫、バレてない、痛くない。

 いや、ちょっと痛い。

 そしてバレてる、こちらを見る皆の痛々しい目!

 いや、もう、それはいい。

 私は私の仕事をするまでだ。

「こッッ、この事件で、確かに被告人は被害者と争い、たまたま持っていた買ったばかりのサバイバルナイフで刺してしまいました。このナイフは、週末にキャンプに行くため、たまたま買ったばかりのものです。しかし被告人には元々殺意はなく口論の末にのことで、決して殺人未遂ではありません。また、被害者は元アメフト部で筋骨隆々な男性です。手を振り上げられた際、殺されると思ってしまったと言っています。これは被害者から身を守るためであり、つまりは正当防衛が成立します」

 裁判官を見据えて、そう告げる。

 ああ、これだけのことを言うのに、どれだけ緊張したか。

 スムーズに言えた?

 言えたよね?

 いつも以上の緊張感。

 それもこれも、今回の相手は…………

 そう思いスクッと立ち上がる検事に目を向けた。

「そもそも、『正当防衛』と言うものは、まったくの殺意がない状態で、己の身を守るが故に相手を攻撃してしまうことを指すもの。しかし、この被告人は違います」

 スーツの前ボタンをさりげなく締めながらそう語るは、若きエリート検事・久住周(くずみしゅう)

 傍聴席から勉強見学に来ていた女子大生たちの『はぁ~ん』と息が漏れる。

 そう、久住に見惚れる女たちのミーハーな熱い吐息。

 おい、法廷をなんだと思ってるんだ。

 不謹慎な学生たち!

 まぁ、確かにカッコイイけど。

 スマートで背が高くて、本当は目がいいくせに『検事らしく』とかけている伊達メガネに、ブランドに詳しくなくたって見ただけで高級だと分かるスーツに、ピカピカの革靴。

 加えて、あの端正な顔立ちに、完璧すぎる微笑み。

 だけど…………

「被害者に女性を奪われた被告人は常日頃、『いつかチャンスがあればアイツを殺ってやりたい』と周囲の友人にほのめかしていたことを確認しています。そして被告人は酒の席でこうも言っていました。『どうすれば、正当防衛にできるかな』と」

 笑みを浮かべながら被告人……ではなく、こちらを見据える久住周。

 顔色を失くし、押し黙る被告人に、

「その会話を聞いていた証人も用意してます」

 そう言ってニッコリと微笑みながら、こちらを見る久住周。

 なんて嫌味な顔!

 それよりなにより、ああ、またしても、今回も惨敗だ。



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