89.虚無の救済②
死角から次々と飛んでくる矢をいなしつつ、頬をかすめる痛みによって軽く顔が引きつってしまう。
これまでなら一瞬で治っていたはずの傷だというのに、痛みが引くこともなく頬を伝う血の感覚が鮮明に感じ取れる。
「ハッハーん? これマジで治らねえヤツだな!?」
いやね? 分かってたよ?
ホロウのせいで弱くなってるもんねオレ、もう不死身ってわけじゃないもんね。
「言ってる場合か! ふざけてないで戦わんか!」
「つってもさヌイちゃん、オレってとりあえず受けて、その上から押し潰すタイプの戦い方してたから、初見対応ってそんな得意じゃないんだよね!」
「相手は姉でしょう! 手の内くらい分かっていてください!」
「分かっててもどうしようもないこととかあるんだぜー! ぬぉ!?」
ヌイちゃんからの叱咤を受けつつ、またしても意識外から飛んでくる矢を躱しながらどうしたものかと思案する。
姿と気配を抹消して、移動しながら射撃してくる姉上の攻撃を対応しきることは難しい。
死角からの攻撃を行いながらも、時間差で放たれる攻撃を仕掛けているためどうしても対応が遅れる。
攻撃方向から当たりを付けた反撃を行っても、本人が真逆にいればそれで終いだ。傷が治らない以上、時間を掛けることこそ悪手。
(『四方界』は、やっぱここじゃ使えない。明るいとはいえ自然光じゃあないわけだ)
この『虚無領域』、大理石みたいな床が延々続いている空間であり、電気がついているかのようにどこからか白い灯りで照らされている。
だが、この光じゃオレの『領域条件』を満たしてはくれない。
地上じゃ弱体化していても扱えたのに、ここじゃまったくもってダメダメだ。ヌイちゃんが頑張ってくれてなきゃ今頃もっと怪我してたな。
「なあ、ヌイちゃん」
「なんです、くだらないこと言ったら見捨てますよ」
「オレ……ヌイちゃんのことスキ」
「いまシエの気持ちが理解できました」
「あっ、それ言わないで悲しい」
「ふンっ…! チッ、ますます威力が増してきている」
「そりゃあ姉上だからな。ガキの頃を思えば『破界領域』一辺倒だった人が、よくもまあこれほど隠密ができるようになったと感心するよ」
姉上の『破界領域』一点特化は、それこそレイガンの旦那お墨付きだった。
隠密を行いながらの射撃のせいで威力は落ちているが、時間の経過とともに本来の威力を取り戻しつつあるように感じる。
このままいけば防げなくなってくる。
「で?」
「なにが、で? なのさ」
「手があるのでしょう。さっさと言ってください」
「えぇ~、そういうのはやられそうなときに逆転の一手として出すから盛り上がるんだぜ? 初手でやってもハイハイ強い強いとしか言ってもらえないのってつまらなくない?」
「私としては舐めた態度を取ることの方がつまらない男だと思いますが?」
「アッハッハ、そりゃそうだ。ならヌイちゃんさ、聞いてもいい?」
「はい、いいえで答えられることなら」
「了解、じゃあ質問。——オレのために死んでくれるかい?」
「はい」
「ハ…ッ、愛してるぜヌイちゃん!! ——『四方展開』!」
絶対的な、揺らぐことのない忠心を見せられるとどうにも弱い。何をどうしても、応えたくなるじゃないか。
ただ広いだけの空間が水面のごとく波紋を起こし、揺れ動く。
「幸い、時間はあったんでな」
『楔』、旦那との戦いで使い切りはしたが、もう一回創る時間はあったのだ。なら、やらない手はないし、口に出してホロウに教えてやる必要はない。
「夜中になったら地道にコツコツ無言でさァ、退屈で仕方ねえっての」
急激な温度変化、氷の結晶により創り上げられるのは氷で編まれた鳥籠。
周囲一帯を取り囲んだ内側は例えホロウの創り出した空間であろうとも、すでにオレの領域に他ならない。
「——ッ、そこォ!」
適当に創った武器を射出、着弾と同時にぼろ切れが空を舞った。
砕けた結晶による氷煙によって姿は隠されていたが、煙が晴れるとともにその場にいた女性が姿を現す。
「確か隠れる方の術式は“影に入っていればいい”んだったよな。よし、これでようやく、ちゃんと顔を合わせられた」
「……、邪魔をする…なっ」
苦しそうに呻くイユラの姿はどうにもおかしい。
ひどい頭痛を起こしたか、まるで何かにとりつかれたかのように苦し気な表情を湛えながらも戦うことを止めようとはしない。
姉上の性格的にヨナギ相手なら分からないでもないが、実の弟相手に銃を向けるような相手じゃ……。いやこれ以上はやめとこ。
しかしあれだ、予想通りホロウに何かされたか。しかも完璧善意で。
「どうせあれだぜ、ちゃんと戦えるか悩んでるなら迷いを断ち切ってやろうとか言われたんだぜ?」
「その結果が、ホロウの手駒ですか。厄介だ」
「そういわないでやってくれ。姉上も、姉上で護りたいものがあるんだ」
「…はい」
だがそれはこちらも同じこと。この期に及んで特別扱いはしてやれない。
そしてこの先で戦っているはずのヨナギのために、オレがしてやれることは一つだけ。
「よぉよぉ姉上、走り回れるくらい元気そうで何よりだ。しっかし不思議だね、世界平和を願うオレ達が一体何の邪魔をしてるっていうんだ?」
あくまで笑うように、何でもないことじゃないかと語りかけるようなセリフはしかし。
「——話す余裕があるようには思えませんが」
こちらを見ることもせず放たれた矢はヌイちゃんによって防がれて背後へ飛び去った。
見れば片手で頭を押さえながらも、その目は血に飢えた獣のように標的へと真っ直ぐ向けられている。
「んー……だな、まあしゃーないか。旦那並みに頭硬い、というか人の話聞かないとこあっからな。いっちょここらで凹ませてやらにゃあならんだろうよ」
もはや姉上は誤った方向へ誘導され、激情のままに突き動かされた獣のような状態。
鎖をつけないと落ち着き方も忘れている以上、いい加減向き合う時が来たのだ。
「シィ——ッ」
「フっ!」
目にもとまらぬ抜き打ちを氷壁によって防ぐが、次いで放たれた二の矢によって撃ち砕かれる。姿を隠す必要のなくなった今、持てる力は破壊力そのものに変換されている。
これから先は防御という行為自体が無駄、ごり押しで突破されるのが落ち。
「いい加減諦めろよ姉上、どんなに姉上が頑張ったところでアヤネちゃんは自分で道を選んだんだぜ」
「……お前に、何が分かる…っ」
返答はないだろうと思っていた問いかけだった。だが姉上はちゃんと反応している。戦っているのだ、ホロウの力によって歪んだ方向へ進みながらもまだ間に合う場所で踏みとどまっている。
「吾は、アヤが…皆方彩音がいなければ既に死んでいた。この世に生まれてから何も為せず、認められずいた吾を、ただ一人の人間として認めてくれたのだ。その娘を、護りたいと思うことの何がおかしい!」
「……姉上にとって、アヤネちゃんがどれくらい大切な存在なのかは、また聞きではあるけど聞いてきた」
『崩界』に居た頃の姉上は、出来損ないの烙印を押されていた。
ナイギの直系でありながら『破壊領域』のみしか扱えない彼女はあまり快く思われてはいなかった。
その上、オレみたいな天才が生まれたとなれば冷遇はひどくなる一方だった。そう時間もかからず後継者としての道は閉ざされ、姉上はレイガンの元へと身を置いた。
自らをただの戦士として定義し、せめて『崩界』の力となるために。
そして、『総界』への侵攻作戦が開始され——、作戦失敗の報せと共に姉上もまた死亡したのだと聞いた。
少なくとも『崩界』へ戻らない以上は、生きていたとしても苦しい状況だろうと思われていた。それから再開するまでの長い間、一体何が起きていたのかを知る者はナイギの誰一人として存在しない。
だからその時のことを一度知りたいとは思っていた。
なら、聞く相手は一人しかいない。
□ □ □
「——イユラは、なんであの時殺さなかったのか自分でも不思議だ」
「……え、なにお前。姉上に勝ってたの?」
「そりゃあそうだ。あの頃のイユラは元からそう強くもなかったし、『総界』に入ったことでかなり弱くなってた。何もできない俺でも勝てる」
「想像できねぇ…。なら何で今は満足に『四方界』使えるわけ? それに、一番気になるところがそれだ。なんで殺さなかったんだ? ヨナギからすれば普通に敵だったはずだ」
「殺さなかった理由は……皆方だ。戦ってるところを見られてた。イユラにとどめを刺そうとしたら物陰から出てきて、自分の身体を張って庇いだしてな」
「へぇ」
「お願いだから人を傷つけるようなことをしないで。って言われて、皆方を巻き込むわけにもいかないで動きが止まった」
「ふぅん、それで姉上がアヤネちゃんに恩義を感じたってことか」
「その後、すぐ皆方を殺した」
「は?」
「イユラじゃない。他に来ていた死にかけの兵士だ。ただ、皆方を狙ってたはずだったのに、死に損なってて狙いがズレた。イユラの方に向かったんだ。……どうなったかは分かるだろ」
「アヤネちゃんが、庇った」
「ああ…、自分が死んだらどうしようもないっていうのに、アイツは自分の身を犠牲にして殺しに来たはずのイユラを助けた。イユラの心象に変化があったっていうなら、きっかけはそれだろう。……その後、皆方が完全に死んでしまう前に、俺の手で殺した。あとはまた初めから繰り返してただけだ」
「悪いな、嫌なこと話させて」
「事実だからな…、それにもう逃げるわけにはいかない過去だ」
「でも姉上だって『総界』の外に弾かれるんじゃないのか? オレがヨナギとシエちゃんに負けた後、記憶が消えて『崩界』に戻ってたみたいに、姉上だって——」
「皆方が救いたいって強く思ってたんだ。能力も扱えない不完全な存在だけど『巫女』であることに変わりはない。これまでだってアイツの無意識化の望みで街並みも色々変わってる。死ぬ直前に救いたいと思った人一人、再構成に巻き込むくらい出来てもおかしくない」
狙っては出来ないだろうけどな。そう付け足すヨナギは渋い顔だった。
話している中で昔のことを思い出しているんだろうが、こういうことを数えきれないほどやって来たのがヨナギだ。その忍耐、精神力には頭が上がらない。
「それからは、色々あった。皆方に救われたイユラは皆方を護ろうとするようになった。…信じられるか? 俺と皆方とイユラの三人で学校に通ってたんだぞ」
「ウソつけ、それは嘘だね、まちがいな——くないの?」
「そう言ってるだろ。イユラは普段からあんなだったからな。友人関係としては、傍から見ていても変だったが、……楽しかったんじゃないか? 皆方もアイツのズレたノリに振り回されつつも良く笑ってた」
「そういや聞いてると、お前と姉上…その頃から仲悪いわけじゃなかったのか? 普通にしてそうな感じに聞こえるんだが」
「その頃は、普通だったんじゃないか? …普通に、面倒な身の上同士で…馬鹿な話もしてたような気もするしな……」
そう話すヨナギの表情は曇っていた。まるで——。
「戻ってほしいとでも言いたげだな」
「……無理だな。俺はどうしようもなく嫌われてる。それにどうやったって償えるようなことでもない。これまでもこれからも、俺とアイツは変わらない。…本格的に嫌われ始めたのはその周回が終わるころ。俺が終わらせたときだ。もう、戻ることもない時の話だ」
つまり、ナイギによって殺されてしまう前にヨナギの手で『巫女』を殺める瞬間。
「血だまりで横たわる皆方を抱きかかえて涙を流してた。俺を糾弾して、殺そうとして、そこでやめた。皆方に止められたんだ。きっと俺がしなければならないことなら、仕方のないことなんだろうって、馬鹿みたいに物わかりのいい言葉で俺を許した。だからイユラも許してあげてほしい。私は怒ってなんかいないってな」
「それを、何度繰り返したんだ…?」
「さあな、どう、だったかな。少なくとも、イユラは回数を重ねるごとに皆方を護ろうと奔走して、最後には始末を俺がつけてた。イユラが手を掛ければそれこそ終わりだからな。見ていることしか出来なかったんだ」
再構成に巻き込まれていようとも、姉上がナイギであることに変わりはない。ヨナギしか介錯することさえ許されない。
「再構成のたびに前回のことを忘れて過ごす皆方と過ごすううちに、アイツは俺を憎むようになった。“護ると言いながら殺すことしか出来ない役立たず”ってな。…何も間違っちゃいない。理由はなんにせよ、俺がなにも守れなかったのは事実だ」
「それが、積もり積もって。か」
「ああ、それだけの話だ。俺も、イユラも、自分が思っている以上に弱かった。そして、認めたくなかったんだ。どうあがいても絶対的な、個の力では抗うことすらできないモノが存在するってことに。だから足掻いた。『破界領域』しか出来ないイユラが他の二つも扱えるようになるまで時間を掛けて、影から護り続けようとした。だが——」
「最期には、お前がアヤネちゃんを殺す瞬間を見ることになる。護ると誓ってるならなおさら離れたりはしない。必ず最後には立ち会うことになる」
「アイツがどんな思いでその光景を見続けてきたのかは知らない。そんなことを気にしてたら雁字搦めで何もできなくなる。……ただ、もう少し話し合うべきだったんだろうな。俺もイユラも、狭い世界で進む道を探してたんだ」
最後にポツリと口にしたセリフは、まぎれもなくヨナギの本音だった。
歪な、敵同士であったのだとしても。ヨナギもまた純粋に姉上の友人で会った時はあったはずなのだから。
「助かったよ、色々話させて悪かったな」
「ああ、別にいい。なあユーリ」
「うん?」
「お前、本当にイユラと戦うことになったらどうするつもりだ」
「そりゃあ、基本スタンスは何も変わらねえよ?」
「基本スタンス?」
「んだよ忘れちまったのか、仕方ねえなぁ。とはいってもアレと被るからちょっと複雑なんだよな最近」
「いいから言えよ」
「へいへい。姉上は助ける。その上で、ちゃんと救済してやらねえとな。ハハっ、出来た弟だろう?」
「…はっ」
「あ、今鼻で笑いやがったなこんにゃろう」
「そんなことない、見間違いだろ」
「いいや笑ったね、小ばかにしたね。そういうとこホロウに似てるぞオマエー」
「言っちゃならないことを言いやがったなこの野郎、お前も似たようなもんだろうが」
「へっへーんだ、オレはそんなこと言われても痛くもかゆくもありませーん」
「じゃあ今から痛みとかを味あわせてやるよ、それでそのままその口縫い付ける」
「出来るもんならやってみやがれ、成長したオレに正面から勝とうなんてヨナギもまだまだ甘い——」
「シエ、手伝ってくれ」
「えっ!? それはズル——あれ?」
「嘘だ。さて、捕まえた。とりあえず殴るぞ歯ぁ食いしばれ」
「え、あ、ちょっとま——!?」
その後、言葉通りステゴロでバトルが発生したわけだが、ここは割愛しとこう。
先に言っとくと別にボコボコにされたからというわけじゃない。
「……うえぇ…、シエちゃんによろしくー」
「それじゃあな」
「ああ、そうだヨナギ」
「…なんだよ」
「なんとかさ、色々上手くいって姉上助けられたらさ。仲直りしろよな、お前ら二人頑固そうだし、ほっといたら一生歩み寄りそうにもない」
「……なら、俺の代わりに助けてやってくれ。今のイユラは…皆方を護ろうとしてるくせに、暴走してるから心はきっと一人だ。お前らみたいなのが近くにいてやれよ。…俺みたいにな」
「…ぷ、ハハハ、なんだそれ。感謝の言葉か!? アッハッハハハ!」
「もっかいぶん殴ってやるっ」
「おおっとそりゃ勘弁だっ。でも、ああ任せとけって。何とか、やってみるよ」
「…………ああ。たのむ」
そして最後に、出来るかどうかも分からない約束を交わした。
立ち去る時に一瞬だけ見えたアイツの横顔が…ほんの少しだけ嬉しそうにしてたのを、今でもよく覚えている。
□ □ □
「——ったく、どいつもこいつも。魔性の女だね、アヤネちゃんは」
話の駄賃としては痛かったが、まあおおむねの流れは理解出来た。
自分を救い上げてくれた存在を、救済の恩義に報いるために護りたいのだ。ただ、不器用の塊の姉上にはこんな方法でしか自分を奮い立たせられなかった。
ヨナギの行為を認めるしかないが、役に立たない己を許せない。
「だからこそ、今。姉上は最後の最後には自分を貫き通したいってわけだ。だがそれは本当にアヤネちゃんが望んでることか? 自分を殺すヨナギを前にして笑顔で許す女が、姉上にそんなことをしてほしいと願うなんて思ってるのか?」
「やかましいっ!」
空気を切り裂き吠えたてる。
受け止めるだけで肉体が引き裂かれそうなほど、姉上の覚悟はカチコチに固まっていて悲痛なものだ。
「それを利用されてることについて思う事とかないわけ?」
「やかましい、と…いったぞ。邪魔をするなら——」
「はいはい殺すってんだろ」
姿を隠すことができなくなった分、絶え間なく撃ち込まれる矢を躱し続ける。避けきれないものは防ぐかヌイちゃんに手を貸してもらっているが、それもそう長くはもたないか。
連射速度もそうだが、単純な威力がどうかしてやがる。
今できる、それなりの全力で壁を作ってるっていうのに問題なく貫通してくる。
「つってもさあ? 姉上のやってることって本末転倒だろう。ここで仮にオレ達倒してどうなるよ。ホロウを倒す方法も力もないだろうに。ヨナギが負けたらそれこそ詰みだろ」
「ホロウが欲しがっているのは『巫女』の力だけだ、それさえ手に入れればヤツは立ち去る…、そうなれば——」
「それがダメだろって言ってんだ。第一、オレはヨナギの犠牲を許容しない。そんな妥協案で通せるほど、アイツの命は軽くない」
「それに、私も気になっていたことがある。ジン様のことだが、なぜホロウが力を取り戻し切るまでに戦いを挑まなかった。殺す機会の一度や二度くらいはあったのではないか?」
「…っ」
精確だった狙いが僅かにずれ、動揺が見える。
撃てなかったわけだ。ホロウの命とジンの命、天秤にかけた重さは小生意気な家族に傾いた。馬鹿みたいに頑固だったが、目下には優しかったからな。
「それならオレのことも見逃してくれよ。一緒にホロウ倒しに行こうぜ」
「……、出来ぬ」
「そりゃまたどうして、まずオレ達が戦う必要なんてないんじゃねえの? オレ達でアヤネちゃんとジンを助け出して、その後ヨナギに手を貸せば確実だ。皆で協力してさ——」
「それが出来ぬと言っている…っ」
「どうして」
「吾は、けじめをつけねばならぬ…、これが、間違った道であることは重々承知している。だがそれでも、それでもなお、吾は最期まで皆方彩音を護るためだけにこの力を使いたい! ただの……ただの一度も、護ることは出来なかった! あの娘の前では教師の役割に上書きされ、戦うという行為さえ…許されなかったのだ……っ。いつも、いつも最期にヨナギがアヤを殺す瞬間を見ているだけしか出来ない。そうしなければ…、何もかもが終わることは分かっている……ッ。だが、だが——!」
「許せなかったのか?」
「——っ、……ゆるせるわけが、ないであろう。ヨナギがどれほど苦しみを背負おうとも、贖罪のために戦っているのだとしても…、許すことは出来ぬ。あやつは…、己の護るべき相手を、吾の友を…手に、掛けてきた。その度にヨナギは、何も知らぬ白痴を装ってはアヤネの隣に立ち続けてきた……っ」
なら結局この戦いは、ホロウの影響もないわけじゃないが、姉上の意地なのだ。これまでなにも出来なかった力を、己に課したかった使命を元に彼女自身の意思で動いている。
「『巫女』に止められなかったのか。それとも独断か?」
洗脳が完全なモノじゃないと分かった以上、半分以上は姉上の意志。だったらどうしたものかと思考を走らせていると背後にいたヌイちゃんが語り掛ける。
「止め、られたさ。そのようなことをする必要などないと。私のことよりもヨナギを救ってほしいと。涙を浮かべて、な…」
「ならなぜそうしない。貴女にとっての最優先する願いだと思うが」
「……それでも、この手で救いたいと思ったのだ。結果が良い方向へ向かうわけがないと分かっておる。破滅への道であることも…っ」
「そこまで分かっていてなぜ、何の意味もない行為を取っている!」
「言葉にすれば、八つ当たりでしか…ない……っ。ふっ、なんとも愚かし、いであろう…?」
姉上なりに微笑んでいるのか。苦しみの中での笑みはしかし不敵そうな笑みへと変化を遂げている。まるで反省など一切していないと言い切っているかのように。
「…ああまったくだッ。なぜナイギの直系はこうも厄介な性格ばかりなのだ!」
「ホント、マジでめんどくせえ性格してやがるよなぁ。友達一人で拗らせすぎじゃね」
「姉でしょう。ユーリの」
「そうはいっても十年以上離れて暮らしてたわけだし」
苦しみながらも姉上自身の言葉による回答はどうしようもないものだ。
この世界だけじゃない、それこそ外の世界の全部ひっくるめた一大事だっていうのに。足並みそろわないとかいう次元じゃない。
足を引っ張りすぎてて、もはや逆に怒る気にもならないのはオレが悪いのか。
「はぁ…、しゃーない。切り替えていこう」
「あんなこと言われてどう切り替えれば?」
「んなもん決まってる。姉上が世界一の残念美人なのは置いといてだ、それでも戦ってるのはホロウが何かしら精神に影響を及ぼしたってのもある。…ありはするからそれを絶対的な原因とする。ならオレたちもやることは一緒だよ」
「ふぅ…、了解しました。ヨナギ一人に任せるのも信用できないので、さっさとのしてしまいましょう」
「よっしその意気だ。っつーわけで姉上、喧嘩ッて空気じゃなくなっちまったが、しばらく再起不能になってもらうぜ。全部終わった後にでも一人で何もできなかったって泣きやがれ」
こうなったら逆にやる気出てきたわ。
ここまで迷惑かけてきやがったんだから、絶対に泣かしてやる。
『本編について』
・ユーリ対イユラ
弱体化しているユーリですがヌイちゃんがいることと、イユラが精神的に参っているので割合トントンです。ただイユラの攻撃が直撃したらほぼ確実に死ぬので注意が必要です。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
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・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。




