85.四方の世界②
「ふふ、よな君もシエには敵わなくなってしまったわね」
「ん…まぁ、後ろにくっついてた頃と比べようもないくらいにはいいことだよ…」
「そうかもしれないわね。でも戦いが終わってもちゃんとよな君の面倒は見てくれると思うわよ?」
「だと、…いいんだけどな」
ホロウを倒した後、もしも生きていられたらその時は——、また皆で過ごせられたなら。
「そうは、思うけどさ。……ん、でもあれだ。まずはちゃんと勝つよ。俺のためにも、皆のためにも」
「ありがとう。それにしても…、さっきから静かだけどどうかしたのユーリ。なんだか具合が悪いみたいだけれど…」
俺達の様子を何やら嬉しそうな顔で見ていたあやねだったが、ふとユーリが机に突っ伏していることに気が付いた。
顔色を窺うようにして、純粋に体調を心配しているのかもしれないが、この場でユーリの様子がおかしい理由など分かり切っている。
「うらやましい…うらやましいなぁヨナギくぅん……」
「……こっちみんな、陰気が移る」
「あーっ、お前ズルいぞその言い草は! さっきまでの様子はどこ行ったんだよ!」
「どっか行った」
「なんだそりゃあ元気になったかと思ったらふざけやがって、よかったな! …じゃなくて、ズルい!」
「ユーリ、ふざけないでください。うるさいです」
「シエが自分の意見をちゃんと言えるようになってくれてワタシも鼻が高いよ、ウン」
「——くぅぅ……。道のりは厳しいなぁ…」
…感情の荒波に打ちひしがれている光景はいつものことだが、普段とは真逆に断固として微動だにしないシエの方もすごい気がしてきた。
何がシエをあそこまで突き動かしているんだろうか。
しかしこれによって会話はいつもの流れに、言ってしまえば緊張感の欠片もない方向へ舵を切った。
ユーリがシエにちょっかいを出し、真正面から撃ち落とされ、その光景をリアがいい笑顔で見ている。あやねと俺は一歩引いたとこから呆れつつも笑ってしまう。
呆れているのは、俺だけか。
「………」
とはいえ、ついさっきまで敵の親玉が目の前にいたことなど一切忘れ去ったかのような会話を前にしていると、いい加減に呆れも通り越して苦笑に変わり始める。
「なぁお前らいい加減——」
気負いすぎていないというのならそれもいいんだが、これからの話も途中ではあったわけだし、一度流れを戻した方がいい。
そう思って声を上げた時、閉じられていた扉が開かれた。
「……もはや突っ込む気も起きんが…、話をしても?」
「…んん……、おぉヌイちゃーん…、どんな具合だったー?」
「シャキッとしてください。見苦しいです。まったく」
ため息をつきながらユーリの隣まで歩くと、いくつかの紙を机に広げる。
「なんだこれ」
「俺が頼んでたやつ。いやぁ、アヤちゃんはいい仕事をしてくれるよなぁ」
「そうかしら。事実を言っていただけよ。ホロウなら干渉はしてこないまでも耳は澄ましているでしょうし。呼べばまた来るんじゃないかしら」
「そりゃ止めてくれ、一族の汚点を目の当たりにするのは些かどころじゃなく心にクる」
「あやとユーリは、なにかしていたのですか?」
広げられた紙はこのあたりの地図、その上から数色で色分けがされていて、その色もある程度濃淡で細かく分けられていた。
「うん、ホロウの居場所をね」
「あっちにいる姉上から連絡もねえから、こっちで調べるしかなかったからな。まあ大体の見当はついてたんだが、具体的な位置は分からなかったしな」
「二人だけで進めてたの? もう、ワタシたちにも言ってくれればよかったのに」
「今朝聞いたんだよ。おかげでヌイちゃんたちは方々駆けまわってもらうことになっちまったが」
「必要なことですから。それに私だけではこの短時間では……む」
「……なんだよ、その目」
話の途中、こっちの顔を見たかと思ったら訝し気な視線にさらされる。だがそれも一時で、すぐに満足げな笑みを浮かべた。
「ふっ。いやなに、ずいぶんとマシな顔つきになったものだと思ってな。やれやれと、言ってやりたくなっただけだ」
世話が焼けるとばかりに手を広げて頭を振る。
「何か馬鹿にしてるなお前」
「ああ無論しているとも。あのヨナギが弱っている姿を見ているのは悪くなかったからな。残念で仕方ないというものだ」
「コイツ…」
「やるか?」
「…………」
「………」
「「…このッ」」
わざとらしい抑揚をつけてしゃべるヌイと、両手を合わせた軽い取っ組み合いになったのもしかし、数秒足らずで終着を迎えることとなる。
「はーいヌイちゃん、どうどう、元に戻って嬉しいのはわかるけどちょっかい掛けないの」
「ヨナもそういうことしたいなら言ってくれればいいのに。押し倒してくれるならいつでも——」
「あら、いまってそういう話だったの?」
「い、いけませんそのようなっ! 殿方はもっと紳士であるべきです!」
「………悪かったな、挑発してしまった…」
「え、ああ…いや……、乗った俺の方が悪いし…」
周りのボケた空気の前では継続し続けるのは困難を極める。なんでこいつらここまで自由なんだ。全員素というか、本当に狙ってないのか怪しくなってくる。
変なテンションだった俺達の方が気まずくて仕方ないが、ある意味安心感があるのはなんかコイツとはノリが近いのかもしれない。
「ってかそんなあほなこと言ってる場合か。この地図の何処かにいるってことか?」
机に広げられた地図は数種類あるが、それぞれ細かい差でしか俺には分からない。思っていたよりも近くに潜んでいたということか。
「残念だがヨナギ、この地図に示された位置に隠れているというわけではない。だが、ここを見てみろ」
レイガンとの戦いの後に作られたらしく、地図はほとんどが平地、空白地帯であるが、ヌイが指差した位置は地図の中でも色が全く無い真っ白な箇所。
家らしき四角と半円で示された位置だった。
「これ、ここのことか」
「そうだ。流石に分かるな、そしてこの色は界燐を表したものだ。つまり、その辺りの空間に界燐が多ければ多いほど色が濃いものと思えばいい」
「へえ、こんなことできるんだヌイちゃん」
「ラゥルトナー、貴様もちゃん付けで呼ぶのをよせ。背中がかゆくなる」
「まぁまぁいいじゃないの。ほら、説明してやってくれよ」
「…まったく、なぜ組織の長はどちらもこんな——」
ぶつぶつ文句を口にしながら、さっき指示していた地図とは別のものを上に持ってくる。
「……そして、これは一時間前のものだ。この時点では屋敷も通常通り色がついているのが分かるな」
「確かにそのようです。しかしこのような技術があるのですね。あくまで体感でしか分からないものと思っていました」
「あー確か『封界領域』の応用だったっけな。シエちゃんならちょっと練習すればできるんじゃない? あんま役に立つ機会はないけどな」
「ユーリ、先ほど説明を促しておきながら自分から脱線させるのはよしてください。次やったら殴ります」
「…へーい」
どうやらユーリもまた、部下には頭が上がらなくなってきているらしい。コイツとこんなところで親近感を覚えるのはなんか嫌だが、こういった苦労は共通なのは事実だ。
「そっちはそっちで、だな」
「だな、どうやらオレの方もぅ——ォッ?!」
「あ」
宙を舞う男が一人、笑顔を歪ませ飛んでいく。
痛みを感じる間もなく空にいる間、ユーリはいい笑顔だった。…地上への墜落と同時に苦悶の表情へ反転したが。
「…ぉ、……ぉぉ……。ヌイちゃん、なんでぇ…?」
「次やったらといったでしょう」
「……ねてまーす」
「そうしてください」
そして、一人増えたはずの会議から一人いなくなる。多分今の大っぴらなアッパーは俺に対しての警告でもある。黙っていよう、これ以上シエの前で恥をさらしたくない。
「ごほん、そこでだ。地図ごとの違いは分かったな。つまり時間別の界燐濃度を測ったものであり、唯一、空白が発生しているこの時間が——」
「ホロウが来ていた時」
「そうだ。あの男の幻影がこの場に現われただけで、このあたりの界燐を消費しきっていたようなものだということ。存在するだけで莫大な燃料が必要となるわけだ」
「…だがこれでアイツの居場所が分かるっていうのか?」
「ええ、分かる。ただこの地図の中には存在しないこともこの調査で分かったの」
「ならどこにいるって——」
「ヌイさん。もう一種類、持っているでしょう?」
「え、ええ」
あやねに言われるがまま、懐からもう一枚の紙を取り出す。その紙にも他のものと同様、全体にわたり色が塗分けられているが、決定的に違う部分が二つあった。
「これは…、一体どこの地図なのでしょうか」
「まず地図なのか? 色以外何も描かれてないぞ」
ヌイの取り出したこれは地図と呼ぶことは出来ない。なぜなら地形や建物を表すための線は一つとして描かれておらず、界燐を示す色が塗られただけの紙だったからだ。
そして、もう一つの違いとしてある一か所、真円を描いた空間が一切の無色を示していた。
「人為的でなければあり得ないことだね」
「その通りだラゥルトナー。間違いなくホロウはここにいるといっていい」
「もうヌイちゃんったら、リアって呼んでよ。その方が心の距離も近づくし、ネ?」
「ネ、ではない。話を進めるぞ」
「ふふ、照れ屋なんだね。もっと揶揄いたくなっちゃうな」
「…………」
「こっち見んな。いいから話し続けろ、その内勝手に飽きてるから」
気にするなペースに乗せられたら負けだ。構うな。
「…こほん、そしてだヨナギ。これが何処かはわかるか?」
気を取り直そうと、地図らしき紙を俺の眼前に突き付けてくる。のけぞりつつも細部まで見てみるが、やはり具体的な位置を示すようなものは描かれていない。
「こんなのじゃ分かるか。目印の一つものってないぞ」
「当然だ。なぜならこの地図が示しているのは空、いわば空図だな。こうすれば、お前でも分かるだろう」
いいながら先ほどまで机に置いていた地図の上に重ねる。
どうやら位置関係としては大元の地図と範囲は同じということか。重ね合わせた地図を見てみると、空図の方にあった空白地帯の位置もおのずと浮かび上がる。
「……」
「どうしたヨナギ、疑問があるならさっさと言え」
「ああ、このあたり何かあったか?」
「今は瓦礫の山となっている場所ですね…、確かに注意していなかった位置ではありますが、何もおかしな点は無かったはずです」
その場所は戦いの後に瓦礫の山となったまま手つかずとなっている。ただそれだけの場所のはずだった。あの場に何か隠されていたということを言いたいのか。
「よな君、落ち着いて考えてみて。上から重ねた地図は空のものよ」
「あ、ああそうか。なら…浮いてるってことか? それなら確かに普段気に掛けることもしなかったけど」
界燐が一切ない空間に放り込まれれば感覚として理解できる。
ホロウが現れた場合は奴自身の存在によって違和感はかき消されるが、上空に隠されているというのであれば、そこまで意識して界燐の有無を存在することもしない。
「だったら、平面的にこの位置、その直上へ向かいさえすれば、そこにホロウが、皆方がいるってことなんだな…!」
場所が分かれば後は戦闘への覚悟だけ。
今現在、ホロウの本体がどれほど力を取り戻しているのかは分からない。だが、俺達の因縁に決着をつけるためにも、皆方を救い出すためにも今更おじけづくわけにはいかない。
「よし、そういうことならすぐに準備を進め——」
「おぉっとちょい待ち。少し違うんだなこれが」
「……、何が違うんだ。説明からすれば大体の場所はわかる。結界を張って異空間にでもいるっていうならそこへの扉をこじ開ければ済む話だろう」
「ユーリ、また話の邪魔をするつもりですかっ」
「今回は真面目だよシエちゃん。第一、その地図、じゃなくって空図? あと何枚か隠してるでしょ、ヌイちゃん」
「ええ、その通りです」
「おいヌイ、まだ全部じゃないのか」
「気にするな、ちょっとした仕返しだ。これまで散々好き勝手してくれたからな。おかげでこちらも気苦労が絶えん」
するとまたしても懐から数枚の紙を取り出す。おそらく時間別の空図だろう。
「…つまり、アイツらのいる場所も時間によって動いてるっていうことか」
「お、勘がいいね。ま、その通りだ」
「分かってるなら早く言え。ここに来て謎かけしたいわけじゃないぞ」
「まぁまぁそういうなよ。サプライズってのはいつどんな時でも大事なこった」
「ユーリ、早く言ってください。ヨナギ様だけでなくここにいる全員が知るべきことです」
「そうそう、ワタシも気になるなぁ」
「リア、お前なんか分かってるだろ」
「え? なんでそう思うのかなぁ?」
「そのすっとぼけるのを止めろ。お前のことくらい態度でわかる」
「やんっ、ヨナったらワタシのことをお見通しだなんて嬉しいこと言ってくれるなあ」
「はぁ…ヌイ、続けてくれ。話が進まない」
「あ、ああ…」
このままでは一向に埒が明かない。
ホロウのことを気にしてもどうせ聞かれているのだ。隠したいことがあるなら初めから筆記でのやり取りを取るか、アイコンタクトくらいのものだ。
ヌイはまたしても騒がしくなり始めてきた両陣営トップをけん制するように、咳ばらいを一つ。
「つまりだ、ホロウの居場所だが——、月にいることが分かった」
「月か」
「月ですか」
「月ね」
「月だねぇ」
「月だ」
「……あのさ」
「なんだ、質問は簡潔にな」
「どうやって行くんだそれ」
月となると空に浮かぶあれだ。
『境界』に移動するのとはわけが違う。『総界』内部における月にたどり着かねばならない以上、あくまで物理的に月に到達しなければならないのだ。
俺たちにそんな方法があるとは思えない。
「そこは問題はない。到達することは可能、のはずだ」
「なにか乗り物でもあるのでしょうか。それとも過去にヨナギ様がレギオンを『境界』へ追い出した時に使用した『四方界』のようなものでしょうか」
シエの言っているのは街全体に刻んだ多数の円陣を連動させて大量の武器を生成した『四方界』のことだ。
「仕掛けてたりするのか?」
「そんなものは仕掛けていない。第一そのような物理的な方法ではたどり着けん。それに月といっても厳密には違う。月の影、恐らくホロウによって創り出された目に見えない空間による月蝕だ。つまり、ホロウがいるのは異空間とでもいうべき空間だ」
「なら何で月だなんて言ったんだ」
「依り代にしてるのは間違いない。地上を見渡すにはうってつけなんだろ。太陽じゃないのは…なんだかんだ『崩界』の支配者だしな。相性悪いんじゃねえか。てかそのおかげで、オレは『四方界』満足に使えなくなっちまった」
「ホロウの領域によって月光が遮られているのね。そして、今現在地上に降り注いでいる光は——」
「そ、ホロウの力によるもんだ。水面下で着々と『総界』の掌握を進めてやがる。救済だなんだと言いながらこっちに迷惑しかかけてきやがらねえし、いい加減始末してえとこだな」
「そのためにも、だ。ホロウの領域にはどうやって行けばいい」
「そもそも、今朝になって急に調査を開始したのだ。詳しいことは今調べている最中だが、おそらく異空間に通路のようなものが張り巡らされている。迷路のようなものだが、大まかな道筋は先ほど分かった」
「…すごいです、すでにそこまで把握しているだなんて」
「ああ、そこまで速いとなると…、あやねか」
「うん? あ、わたしはこういうことを調べられないかって無理を言っただけだから、大したことなんてしていないわ」
思いついたのは昨日の夜の内だろうか。
それを今朝になってからの指示でこれほどの成果を出せること自体が大したことなのだが、本人的には自慢するほどのことではないらしい。
「そのためにわざわざホロウを呼びつけておいてよく言ったものだ。おかげでこちらも手を打てたわけだが」
「遅かれ早かれ分かっていたことよ。むしろもっと早く気付くことができていればとしか思えなくて。それにヌイさんたちが頑張ってくれたから分かったことだもの。わたしなんかよりも称えられるべきよ」
「ホロウを呼んだのもワザとということですか?」
「そうね。あの男の性格からして間違いなく来るのは分かっていたし。けどもう、来るのを待つ、といった以上はわたしたちから足を進めなければあちらから姿を見せることはしなかったでしょうから、一度で済んだのはとても助かったわ」
「つまり、どういうことだ?」
領域の場所を把握するためにはホロウがここに来る必要があったということだが、あれは幻影にすぎないはずだ。
「界燐の痕跡をたどるのよ」
「痕跡?」
「ホロウの待つ領域、『虚無界』とでも呼びましょうか。そこに行くには迷路状になっている異空間の通路を進む必要があることが分かった。そして、その通路の存在が分かった以上、入ることは可能でも中で迷う危険性がある」
そうなればどのみちお終いだとあやねは言っている。一度迷い込めば二度と脱出することは出来ないだろうと。
「けど、こちらから進むのと逆順にホロウもその道を通っている。それは幻影であっても同じこと。ホロウが放った界燐を辿っていけばそこは『虚無界』につながっているはず。…罠の可能性も考えられるけど——」
「ホロウに関してそれは無い」
「そう。だから一度ホロウにはここにまで来てもらう必要があった。念のためユーリとヌイさんには手紙で伝えてね。そこからは迅速に動いてもらえたからとても助かったわ。本当にありがとう」
「構わん。必要なことだ」
「いいってことよ、それにそういうのは勝ってから聞きたいね」
ならば、なにも表立った行動を起こさなかったために居場所が分からなかったが、これで攻め入るための条件は達成しているということか。
「とはいえ分かるのは大まかな方向のみだ。東西南北に扉が二つずつあった場合に、方位は分かっても左右どちらの扉かどうかまでは不明、といったところか」
「…ならそれが調べ終わるまでは結局待機ってことか」
「んー、そういうわけでもないんじゃないかな?」
リアが口元に笑みを浮かべつつ、顎に指をあてながら辺りを見回している。
何を探しているのかを聞こうとしたが、その前に質問内容を察したヌイが答える。
「ラゥルトナー、その勘の良さが聡明さとして常に表れていればな」
「わぁシエ、ヌイちゃんが褒めてくれたよ」
「ハ、ハイっ、おめでとうございますっ」
「……そういうところは好きになれそうもないがな」
「落ち着けヌイ、ペースに乗せられてるぞ」
「…くそ、しまった。もういいっ、調査ならばしなくとも問題ないとだけ理解しておけ。道をたどる方法は把握している」
「そうか。信じていいんだな」
「ああいいぜ。オレがお墨付きをやろう」
「…ヨナギ様……、ユーリの言葉では心配になってきました」
「シエ、お前は自分が思ってる以上に声が大きいことを自覚した方がいいと思う」
「…………ぐすん」
「えっ、あ、いや、その……。非常に助かります、頼りにさせていただきますね…っ」
「ああ任せといてよシエちゃん!」
「……」
一時的にでもうつむいていたユーリは気づかなかったが、俺は見た。シエの目線はユーリの隣、ヌイの方へ向けられていたことを。
黙っておいて、やるべきだろうか…?
(どうでもいいや、くだらねえし)
思考は放置、悪癖たる口癖を脳内に流しつつ、俺達にできない以上はヌイの言葉を信じるほかない。
なら後はその時期だけだ。
「いつ分かる」
「さてな、正直どれくらいかかるか分かったものではない」
「おい」
「仕方あるまい、あまりにも広大で分岐が多すぎる。ある程度の進む方向が分かっていてもあれでは虱潰しにも時間がかかる」
だが、言いながらもその手はよどみなく口とは逆のことを記していく。
『一週間後、それまでには完全な地図を用意してやる』
ホロウに知られぬよう念のため、言外に決戦は一週間後であると広げていた紙に書き記して、確認が終わると即座に消滅させる。それが安全性、確実性の両方が保てる最速の時期なのだろう。
そしてヌイが出来るといった以上、俺達は信じるほかにない。
「頼んだ」
「ふん。そうと決まれば私は行く、時間を無駄には出来んからな」
鼻を鳴らすと、間髪入れずに調査へ向かう。
「ありがとう、ヌイ」
「……よせっ、お前に礼を言われるなど鳥肌が立つわ!」
その背に向かい素直な気持ちを言ったつもりだったが振り返り様の怒号で返された。
しばらくはこの関係性が続いていきそうなのも間違いなさそうだ。
「さて、これで話も終わりだな。あとは戦いに向けて準備しつつ結果を待つしかない」
ヌイが動いてくれている以上、俺達にできるのは戦うべき機会に全力を出せるようにしておくことだ。
「んじゃあどうする? いったんあの家に帰るのか?」
この屋敷に足を延ばしたのは話し合いのためだ。それが終われば別に帰るのも何らおかしくはない。
「そのつもりだけど」
「えぇー、こっちの方がいいよー。お客様だから扱いもいいし、ベッドもおっきくて上等だし、お風呂も広いんだよ!?」
「もうリアったら、叫ぶほどなの?」
「んぅー、だって楽なんだもの。ほ、ほらシエだってたまには家事から離れて楽したいよねっ、ねっ! 戦いもいつ始まるか分からなもんね!?」
「あ、あのリア様、確かにこのお屋敷ではわざわざ私が働く必要はありませんので、確かに楽は出来ますが……」
「うんうん」
「私にとっては当たり前のことなので、むしろ皆様のお世話ができない方が調子を崩しかねないと言いますか…、えと、以前こちらでお世話になっていた時も精神的に弱っていましたし……」
それ俺のせいじゃないか?
つい口に出しそうだったが、シエのことだ。終わったこととして処理した過去において他人のせいで不幸が起きた、ということは頭から外れているのかもしれない。
「………」
「どうしたの? そんな苦虫を噛み潰したような顔をして」
「そういうあやねは楽しそうだな」
「ふふ、そうかしら」
あちらでは何とかして説得すべく力説をするリアと、困り眉で対応するシエの姿。前ならリアの言葉に流されっぱなしだったというのに、控えめにとはいえ反論するようになった姿は彼女の成長を感じられた。
「んで、どうすんだ。部屋はあまってるわけだし、オレはどっちでもいいぜ。むしろシエちゃんがいてくれるなら心も晴れ晴れだ!」
「もうっ、ユーリがそんなこと言ったらシエが帰りたがっちゃうでしょー!」
「エ、マジ?! シエちゃんそんなにイヤ!? オレのことキライ!?」
「そうそう、だからここは一旦協力しようじゃないか。ワタシは楽に暮らしたい。ユーリも幸せに暮らしたい。ウィンウィンじゃないか」
「分かる、分かるぜリアちゃん。へっ、これがナイギとラゥルトナー、正式に手を結んでの初めての作戦ってわけだ」
「フフっ、これが平和への第一歩、そういうわけだね。いいね、最高じゃないか」
「「アッハッハッハ——」」
「二人ったら楽しそうね、わたしもつられて笑ってしまうわ」
「「……」」
高笑いする当主が二人。
その様子を見て言葉を失う従者が二人と楽しそうな『巫女』が一人。
「なぁ、シエ」
「ハイ、ヨナギ様」
「…泊まってってやるか」
「ハイ…」
アイツらなんであんなに楽しそうなんだろう。
その後もしばらくはしゃいだ後、宿泊延長が決定したことを伝えると更に盛り上がっていた。なんか踊ってたし。
「「同盟イエーイ! 幸せサイコー!」」
ホントなんでアイツらあんなに楽しそうなんだろ。
『本編について』
・ユーリとリア
二人ともノリがいいせいか、仲間状態になると勝手に盛り上がり始めます。
多分あやねがいなかったら一生やってます。
・ヨナギとヌイ
二人とも主人に振り回されるタイプなので、平時であればそれぞれの愚痴を言い合う程度には仲良くなれると思います。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。
・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。




