75.迷い、光明②
「む」
日課の鍛錬中、背後からいい加減慣れてきた気配を察知する。
「いようヌイちゃん、相も変わらずいい仕事をしてくれるね。ってかそこまで嫌そうな顔しなくってもいいんじゃないの?」
「はぁ、何の用です。ここ最近は仕事も落ち着いたといってふらついていたでしょう。此方の出来事に詳しいとは思えませんが?」
「またまたとぼけちゃって、シエちゃんのことだよ。背中を押してくれたみたいだ」
「ああ、そのこと…。別にそんなつもりがあったわけでもない、うじうじとしていたから気が向いただけのことで」
「はっはっは、そういうところがキミの魅力だね。シエちゃんがいなきゃ今告白してた」
「毎日誰彼構わずしているでしょうに。で、わざわざ足を運んだのは何の用です? 理由もなしに訪ねてはこないでしょう」
ここ最近は毎日のようにヨナギの様子を見に行っていたようだが、シエ・ジンリィが戻った以上は役目を果たしたというわけか。そして私のところに来たというのはどういう理由か。
「何言ってんだヌイちゃん。ジンの野郎が身体持ってかれた以上、ナイギの最高戦力ヌイちゃんだぜ? そうなりゃあホロウのことは言っとかねえと」
「つまり、ホロウの情報を伝えに来たと? しかし最高戦力とはまた大げさに過ぎる。他にもいるはずでしょう、例えばイユラ・ナイギや、あの三人組も」
「姉上なら行方不明、大方ホロウに連れ去られた『巫女ちゃん』のとこだな。鬼娘たちはその捜索に当ててるから戦力カウントにはしてねえ」
「つまり攻め込む目途が立ったと?」
「いんや? ただシエちゃん家もそろそろ纏まりそうだからうちもやっとかねえとな。あと問題があるとすれば——」
「ヨナギ・アマナ、いまだにあの体たらくで?」
レイガンとの決戦の後、まるで抜け殻のようになっていたヨナギの姿はあまりに哀れだった。思い起こせば苛立ちもするが、あの瞬間だけはかける言葉の一つさえ思いつきさえしなかった。
気にしていないわけではないが、別に特別心配しているわけではないぞ。
「ああそのヨナギだが……、あの様子じゃあもしかするともしかするかもだな。これまで限界ギリギリで積み上げてきたもんが一気に崩れちまったせいで反動がデカかったみたいだ。どうにも上の空というかなんというか」
「ふん、立ち直れないというならそれまでです。出来ないというなら我々で何とかするしかないでしょう」
「手厳しいねぇ、ということで時間はあるかいヌイちゃん。お茶でもしながらお話ししたいところなんだが」
「今回だけです。次はないですよ」
「え、なにオレ、今度誘ったら殺されたりするの?」
「誘い方次第では」
「マジでー?」
近くに掛けていたタオルを取り、軽く汗を拭きつつユーリについていく。
(今頃シエもラゥルトナーの家に戻っている頃か)
ラゥルトナー宅のある方向へ目を向けるが、何をしているか分かるはずもない。あちらはあちらで作戦を立てているといったところか。此方も、手を止めているわけにはいくまい。
覚悟を決める最中、まさか別の場所では大掃除が繰り広げられているなどとは思いもしまい。もし伝えていたとしても冗談だと一蹴されるのがオチだったろうが。
□ □ □
「それで、どうすればホロウを倒せるのです? あの力、次元が違うとはあのことだ。何か手が?」
近くのベンチに座り込み、ユーリの持ってきた水筒のお茶でのどを潤す。
作戦会議である以上、それなりに具体的な方策でも思いついたのだろうか。
「それがなんにも思いつかなくってな。困っちゃってるんだなぁこれが」
「ならどうするのです。あの男が本気になってしまえば我々にはどうしようもできないということですか」
「ま、そうなる」
「………」
のんきに茶をすすりながら答えられると逆に問い詰める気概も無くす。そもそもこの男は嘘をつくことはないことも分かっている。
「なら——、ホロウとは何者なのです。私が、というよりも我々『崩界』の人間が知っているのはナイギの当主であり、封印が解かれれば世界からの束縛を打ち破る力を持つ者だと」
「ま、それは何も間違いねえ。事実、俺たちはつぎはぎの新世界にいるわけだからな。ホロウは、そうだな。正直言って大した説明にはならねえんだ。ヌイちゃんの言ったことが総てみたいなところがあっからさ」
「では、特に知らないと?」
「そうは言ってねえさ、細かい部分は『巫女ちゃん』。ああ、あやちゃんの方ね、に聞いてきた。ホロウを封印した当事者だからな詳しかったぜ」
それで毎日のようにラゥルトナーの家に足を運んでいたのか。
「なるほど、それでは当時の、封印していたころの話に何か秘密があるというわけか…」
「ホロウってのはつまるところ、殺せない存在だ。そこにいるけどそこにはいない。ヌイちゃんも感じただろ。——アイツは、この世界の何よりも空っぽだ」
□ □ □
「——だから、殺せない?」
「そう。わたしは遠い昔、もう思い出せないほどの時の果てに彼を封印した」
掃除が終わりはしたもののヨナギ様はまだ戻らなかった。待っていても仕方ないということで話し始めたのは『巫女』であるあやね。
「その頃の『総界』はただの空間だった。何もなくて真っ白な、時間が進んでいるのか戻っているのかさえ分からない世界。……そこに、彼が現れたの」
目を閉じて話す彼女の姿は先ほどまで感じていた、同世代の少女というよりももっと達観した、神聖なもののように感じる。
「その頃からあなたたちが見たままの姿、声、性格だった。『総てを救う。この世界の外に手を伸ばすために力を貸してほしい』って。嗤ってた」
「で、断ったんだ」
「もちろん。今と比べられないほどには、わたしも力を持っていたから。手古摺りはしたけれど、その時はそれだけだった。あの時のことを思い出すと、彼自身も生まれたばかりだったんじゃないかって思うの」
「生まれたばかり……とはどういうことですか? 今と姿も変わらないと言いましたが」
「あの人はきっと普通に人としては生まれていない。わたしと同じように“そういうもの”として生み出された存在。もしくはレギオンと同じように世界の歪みが生んだ何らかのバグ」
「ラゥルトナー、そしてナイギという一族が生まれたのはその後。ホロウはわたしに封印されるまでの間に『四方界』を覚え、最奥へ到達した。それが——」
「この世界を継ぎ接ぎにしたあの術式だね。確か、名は『四方崩界』」
「ええ、名の通り『崩界』を生み出すために編み上げた術式。永く戦ってはいたけれど、まさかわたしだけが使っていた異能を体系化して、さらに発展させるだなんて思いもよらなかった」
「そしてナイギが生み出された。『崩界』という大地を作り、人を揃えて。時間を掛けて自分が戻るまでに“器”を作り出すために」
「そしてわたしはラゥルトナーを生み出した。というよりも元々『巫女』の守護にあたっていた一族に明確な敵が現れた。という方が正しいのだけど」
「へえ、結構ラゥルトナーって歴史古いんだね」
「そうね、その頃はラゥルトナーという名ではなかったから資料も残っていないかもしれないけど、リアが思っているよりもずっと古い刻から護ってくれていたわ。あまり、覚えていないのも事実だけど」
「そっかぁ、そんな歴史を背負わされちゃったのかー。…断ればよかったかな、なんちゃって」
「あ、あの……」
「また冗談ばかり言って。その後はそうね、特に変わらなかった。ホロウは封印していたし、ナイギは『崩界』の外に出てしまえば無力になる。ラゥルトナーの人たちが対処してくれていた」
「それで、そのきっかけになったのが十数年前にレイガンが起こしたラゥルトナー侵攻。というわけだ。いや、ヨナのことを考えるともっと前からかな?」
「でしょうね、行き当たりばったりに見えて災厄の種はいたるところに埋められていた。そのことをわたしは考えもせず、流れているかもわからない時間の中で過ごしていたけれど」
「それはキミのせいじゃないさ。いろいろなところで、いろんなことが起こりすぎたんだ。タイミングが噛み合いすぎているのはホロウのせいか、それとも運命か、そこまでは分からないけど」
「優しいのね」
「ふふん、まぁね」
「あの……、よろしいでしょうか」
「「どうかした?」」
二人そろって首をかしげる姿は愛らしいように見えますが、私は理解しきれずに頭がくらくらしている。
だから、そうです、このような時はまず不明点を整理して——。
「その、アヤ……『巫女様』は、ホロウを封印されていたのですよね」
「『巫女様』は固くなーい?」
「え、えぇっとその……」
「リア、シエさんを困らせないの。ごめんなさい、彼女とは仲が良かったのでしょうし困るわよね。わたしのことは好きに呼んでくれて構わないから」
そう言ってくださるのは嬉しいですが、彼女の言う通りどうしてもアヤネのことが思い起こされる。
「は、はぃ……」
だからしりすぼみの中途半端な返事しか返すことができず、気を使わせてしまうことに申し訳が立たなくなってしまう。
「じゃあ“アヤ”でいいんじゃないかな。とりあえずということで」
するとリア様が助け船を出してくれた。先ほどもリア様自身がそう呼んでいたこともあっての提案なのでしょうが。ここは素直に受け取ることにする。
「では、それで……。こほん、あ、あや様は一体、いつからココに? えぇと何もないころからとおっしゃっていましたので……。それにホロウの封印が解けた理由と…、あ、あと十数年前に何があったのでしょうかっ?」
頭がぐるぐるとしていて、要点のまとまっていない質問しかできない。リア様は大まかな変遷を知っているようなのでよいのですが、私はというとそういった歴史については何も知らなかったため話についていくことができていません。
「リアもよな君も、シエさんには何も伝えていなかったの?」
「ん-、…まあね。ワタシもヨナも、実際シエに戦わせる気はなかったし……、戦ってほしくなかったし。…あとシエの性格的に隠し事は出来ないだろうなと思って」
「う…っ」
お二人の優しさと、図星を突かれて声が漏れる。
「そう。じゃあちゃんと説明しないとね。まずはわたしのことから——」
□ □ □
「アヤネ、お主は厳密にいえば『巫女』とは違う。その力の欠片によって生み出されたものではあるがな」
「うん」
衣優ちゃんが持ってきてくれた水をちびちびと口へ運びながら、私の知らなかったこと、知っておかねばならないことを聞く。
「『俺とお前は同じだ』と、そういわれたといったな」
「うん、それにも意味があるの?」
「これについて、というよりもこれからの話す事柄は憶測でも多いが、吾の知る情報に間違いはないと言っていた以上、恐らくな。どうせこの屋敷での会話は聞かれておる。間違ったことを言えば訂正に表れても不思議ではない」
不機嫌そうに周りに目をやるけど、いつも気配もなく現れる相手な以上、気にしていてもい方ないとしか言えない。
「ええっと、それじゃあ教えて。私は一体なんなの? 本物の『巫女』の……、あの子がいる以上、私は『巫女』じゃないってことだと思っていたんだけど」
「あの娘か、吾としてはアレもアレでヨナギと同様に気に食わん部分はあるが…、今口にしたところで栓無きことか。ふぅ」
衣優ちゃんは人の好き嫌いがとてもはっきりしている。思い起こせば一緒に学校に通っていた時も夜凪くんに対してはものすごく喧嘩腰だった。
(あの時は、夜凪くんどうやって相手してたんだっけ)
「聞いておるのか?」
「うぇ?! あ、うんもちろん聞いてるよ!」
「……まあよい、お主はあの『巫女』によって生み出された“器”、いわば分身だ」
「分身…」
「かつて『巫女』は『総界』に存在する唯一の生命だった。生命といったところで概念的なもので寿命があるわけでもないが」
「唯一? それじゃあ街に一人だけで生きてたの?」
「その頃の『総界』には何もない。ただ広い空間があっただけであろうよ。『総界』というのはその名の通りに“総てをつかさどる世界”である。吾らの生きる三世界の他、果て無き宙に広がる数多の世界にとっても特別な場所。中心といってよい」
「世界の中心…」
「『巫女』というものはある程度巨大な世界においては存在するものだが、『総界の巫女』はただ一人だけだ。そして、あの娘は今日に至るまでホロウの封印を保つことは出来なかった」
「ずっと、長い時間だったもんね…。それを一人でやってたんだからすごいことだよ」
「そしてこの時にお主が生みだされた。続けるか?」
「…うん、続けて」
「ホロウの封印は二度行われている。一度目は遥かな過去、まだナイギもラゥルトナーも勢力としては存在しない頃だ。その時は力も十全であり、封印も問題なく行われた。だが二度目はそううまくはいかなかった。それまでにホロウが撒いておいた種が芽を出し、『巫女』本人にも変化があった」
「変化?」
「色恋を知ったのだ。あの男に対してな」
「あー……そっか、なるほど」
「それが直接の原因かどうかはわからぬが、ホロウに敗北を喫した『巫女』は世界を護るため、己の力を明け渡さぬため。己の持つ異能の全てをホロウへの封印にあてた。そして、封印そのものである自身が取り込まれようとも意味をなさぬよう。力の一端『総界』に残した」
「それが、私」
「ホロウが欲しがっているのは『総界』に干渉することのできる権能だ。そしてそれを持つのは『巫女』だけ。戦う力があろうとなかろうと関係はない。『巫女』と呼ばれる存在に価値があり、手に入れることが重要なのだ。そして、自らを封印させることで一度は叶ったかに思えた計画も、『巫女』がお主を生み出したことで失敗に終わった」
「それじゃあどうして封印は解けたの? それまでは出来ていたんでしょう」
「土台無理が過ぎたのだ。『総界の巫女』は非常に強い力を持つ。『四方界』を生み出し、ラゥルトナーに伝えたのもあの娘だ。だがそれは『巫女』という枠組みに収まっているときの話。力を扱うためにはそれ相応の器が必要だが、器そのものを捨てたのだ。であればいつかは限界が来る」
それはつまり、大きな容器に水を一度に入れることができていたのが、コップで何度も分けて入れなければならなくなったようなものだろうか。
時間もかかるし途中でこぼしてしまうから損失もでる。いつかは必要な水の量が足りなくなってしまう。その時に封印が解けてしまったということなんだろう。
「そして、ヨナギが『総界』に来たのはその少し前。お主も夢でその光景は見ていたはずであろう。ヨナギと娘は互いを想い、ホロウによって打ち砕かれた。世界を護るために残された、”器“であるお主を残してな」
「……そっか、そういうことだったんだ。力はホロウの封印に、だけど全部があると乗っ取られちゃうから身体は残していった。だから私は『四方界』ちゃんと使えなかったのかな」
夜凪くんとシエに教えてもらいながら練習した『四方界』。『巫女』だっていうのに天気を変えるくらいのことしか出来なかったけど、そういう力を“彼女”が全部持って行っていたなら納得できる。
(私に才能がなかっただけかもしれないけど)
揺れ動く感情を表に出してしまわないように自嘲する。あまりいい精神安定方法とは言えないけど、それでも今は気持ちを落ち着かせることができた。
「それにしても、『巫女』ってそんなにすごいことだったんだ…、聞けば聞くほど何も知らなかった自分が情けなくなっちゃうな…」
「そう落ち込むでない。アヤネの場合は、仕方のないことだった。戦う力が封印に当てられ自身で扱うことができぬ以上、伝えるという選択を断つことも理解はできる。納得はしておらぬがな」
「あはは…」
ことあるごとに夜凪くんに対して怒っている姿は昔から何一つ変わらない。
「でもそれじゃあホロウが私と同じだって言ってたのは。…ホロウも誰かの器だってこと?」
「断定は出来ぬが、そういうことであろうな。『総界の巫女』の手管を見破れなかった辺り、アレの場合は器というよりも“他者によって生み出された”という部分であるとは思うが」
「分かった。…ほかにも聞いていいかな」
「ああ答えられる限りは何でも聞くがよい。お主にはその権利がある」
「それじゃあ、“彼女”と夜凪くんがであったころに戦いが起きたんだよね。確か…十年くらい前、その時に何があったの——?」
抑えきれない震え声を隠すことは諦めて、私は次の問いを投げかける。そしてそれは彼にとって捨てられない過去の出来事だった。
□ □ □
「言っちまえばラゥルトナー全滅、つってもオレも知ったのは最近なわけだけどな」
「その大規模な『纏界』への侵攻が行われた時、ユーリ…様は戦場へ出られていないとお聞きしましたが?」
「いまさらだし呼び捨てでいいってば。ここまでくると真面目というより堅物だぜ」
「そういうのいいですから」
「へいへい。作戦立案、指揮はレイガンの旦那で、戦場には姉上が出てったんだよ。ガキだったオレはお留守番。あの頃は姉上が次期当主だったが、別に何をどうしても姉上に継がせる理由もなかったし、あの頃は『破界』しか使えない落ちこぼれ扱いだったからさ。野垂れ死んでもオレが残るから跡継ぎは問題なしって寸法」
「ならば、本筋であるラゥルトナーの一族は一人残らず死んでいたと?」
「旦那ってば用意周到でさ。墜天子だけで構成された部隊を持ってたんだよ。それならオレ達みたいに世界を移動しても修正を受けて死んだりしない」
「であればその時点で勝負は喫していたはずでは? いえあの三人が残っている以上何かが起きたのは間違いないですが」
ラゥルトナーが全滅していたという話はこの三ヵ月の間に耳に挟んだ。これまで戦ってきた三人については本来ラゥルトナーの血筋とは何の関係もない者たちなのだと。
「ん、旦那の計画はこうだ。墜天子である部下を少しずつ『纏界』に送って、時期が来たら一斉蜂起。自分たちのところに敵がいるなんて思ってない連中は何もできず全滅」
「それだけ聞くとずいぶんと大雑把な計画に思えますが……」
「まあ旦那は考え深そうだけど実際力で何でも押し通すタイプだし。本人が強すぎるせいもあるんだろうな。どんな敵でも切れば死ぬってさ」
そしてその作戦は九割九分成功した。
「送り込んだ部下も、邪魔ものでしかない敵も全滅だ。いや? 一人だけ送り込んだのが生き残った」
「ヨナギですか」
「アイツその頃十歳とかのはずだぜ? 自分のガキ送り込むにしてもありえなくねえか?」
「それで、生き残った」
「最後に残ったのはヨナギと、リアちゃんだけだった。しかもリアちゃんの場合は侵攻が始まる前、レギオンから離脱した後に“偶然”にも『纏界』にたどり着いたらしいぜ? それで“ラゥルトナーの魔眼”を継承できるだなんて出来すぎじゃねえか。まるで——」
「ホロウを倒すために、何者かの意志が介在しているかのようです」
「ああ。そういう神様的なのがいるかどうかはオレにとっちゃどうでもいいが。旦那やホロウが暗躍するのと同じように、偶然や運命がカウンターを決めてやがる」
だが、それでもホロウの力は強大だ。
もしもあの男の計画とやらが我々にとって価値のあるものであれば、反抗することもなかったのだろうが。
「目的が分かりませんね」
「本人的には言ってる通りなんじゃねえかな。“みんなを救済する”ってやつ。…なんとなく分かるんだよなぁ。オレもオレで、思い返せばガキの頃から薄っすらと突き動かされてた部分はある」
「……ホロウからの干渉を受けていたということですか。…一緒に封印されておいた方がいいのでは?」
「ひっでえ!」
「冗談です。…それで、侵攻作戦はどうなったのです?」
「っと、話がそれたな。ラゥルトナーは全滅、生き残ったリアちゃんとヨナギが後を引き継いで今に至るってわけだ」
「ヨナギはなぜナイギを裏切ったのでしょうか。レイガンとの間に確執があったというところでしょうが」
「そりゃあガキの頃から人殺しの方法教えてくる相手だぜ。嫌にもなるさ。ただ細かい部分までは分からねえけどな。そこんところはリアちゃんも話してくれなかったし」
「ずいぶんと仲良くなったようで。毎日仕事をさぼって足を運んだかいがありましたね」
「へっ、ヌイちゃんがそこまで嫉妬してくれるだなんてオレも嬉し——、おっと殴るのは勘弁だ」
「………、なら続きを、第一なぜラゥルトナー殲滅がホロウを倒すことにつながるのですか?」
「旦那がラゥルトナーとアヤネちゃん殺そうとしてたことを考えると、目的としてはホロウが復活した後に“救済”とやらを失敗させるつもりだったんだろうさ。復活できたところで目的が達成できなきゃ意味がねえ。時間を稼ぐこともできる」
「…はぁぁぁぁ、結局何も分からないわけですか」
「ため息デカくない?」
「長々と話してそれでは大きくもなります」
「だってヨナギはあんなんだし、リアちゃんはヨナギのこととなると秘密にしてくるし」
「そんなことだからシエが家出することになる」
「言ってやんなよ。アイツらも事情がある。さて、他に言っとくことがあるとすると——」
「ヨナギのことを。アレは出生の時点で不明な点があります。レイガンの実の息子で間違いはないのですか?」
□ □ □
「ヨナとレイガンのこと? 間違いないよ。頑固なところとかそっくり」
「うん、目つきとかもよく似てるもの。本人は嫌がるだろうけど、おじいさんになればなるほど似ていくんじゃないかな」
「ですがそれでしたらどうして、ヨナギ様は『纏界』に向かうことができたのですか? レイガンの部下が私と同じ墜天子であるというなら理解は出来ますが、ヨナギ様がレイガンの息子であるというならばナイギと同様に『崩界』の生まれのはずかと思うのですが」
「そうだよ。でも簡単な話さ、レイガン自身が墜天子なんだ。髪の毛はあれ白髪じゃなくって生まれつきの色なんだよ」
「でしたら、ヨナギ様は墜天子の血を引いているからこそ世界の修正力を受けていないということでしょうか」
「そうなるわね。それが狙ってのことなのか、偶然だったのかは分からない。けど、そこにホロウは目を付けた」
少し目を伏せるアヤの姿はヨナギ様の運命そのものに対して悲しんでいるようだった。
「……、私の一度目の封印が行われる前に、ホロウはすでに準備をしていたというのは言ったよね?」
「はい」
「その時、一番重大なことがソレだった。ホロウはね、まだ母親の胎内にいたよな君にある術式を施したの」
「世界の干渉を受けることなく、自由に渡り歩くことができる肉体。それでいてレイガンの息子だから育ち方次第で強くなるのも想像がつく」
「私が封印したのは魂だけなの。肉体はいつか滅びる以上、魂を幽閉してしまえば封印が解けたとしても行き場のない魂はそのまま朽ち果ててしまうから」
「つまりそれは——」
魂だけとなったホロウが完全に復活する方法。それは今現在、ナイギの戦士の身体を使用している姿を見せられた以上、想像ではなく事実として理解できた。
「ヨナはね、ホロウにとってはいつか自分が乗っ取るための“器”なんだよ」
「これまでの、二回目の封印だってその気になれば解くことは出来たはず。なのに静観していたのはよな君が強くなるまで待っていたから。——彼は、生まれながらにこの戦いに巻き込まれることは決まっていた」
「ならば…、ヨナギ様はこのまま戦いに向かっても」
身体を奪われる可能性がある。
そうなれば、彼にとって護ってきたはずのもの総てを、自らの手で失うこととなる。それはなんて——
「悲しい…、ひどすぎます……」
「けれど、その方法をとったことで時間をわたし達は時間を得ることができた。同時に彼を傷つけてしまうことにもなったけど…」
「それはアヤネのことですか?」
「…そうね。このことも話さないといけない。私とよな君のこと」
『本編について』
・本編前のできごと
要約するとホロウが悪い。となるのですが、本編における問題はあの男が元凶です。
ヨナギは生まれからしてホロウにすべてを狂わされていますが、ヨナギは自分のことよりも他者の苦しみを気にかけている節があります。
・あやねの呼び方
皆方と同じ名前なので他キャラからの名前の呼び方が被ってしまうので迷ってしまいます。気づいてないだけで多分どこかで間違ってると思います。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。
・細かい設定や反省点等々は完結後にでもおまけでまとめようとでも思っているので、質問をいただければまとめて回答します。よければどうぞお願いします。




