63.救済之羂索②
何もかもが凍り始めた世界で、そんなことを気にさえしない剣士が二人、対峙していた。
「これでお前を斬るのは何度目だ?」
「さあな、数えたこともない」
「ならば数をあと一つ増やそう。その後に『巫女』を殺せば詰みだ。リアの死はお前がその瞳で観測している。仮に『巫女』が自死を選択しようとも二度と蘇らん」
「………、殺す」
「できるものならな」
この男がアイツの死を語ることに怒りが抑えられない。
歯を食いしばりながらも表情には出さない。
ただいつものように構え、四方界を発動させる。
「聖槍はどうした、その不完全な鈍らで事足りると?」
「………」
「まあいい、済ませるか」
レイガンが柄に手を当て、刃は抜刀する瞬間を今か今かと待ちわびる。
「四方——」
「展開…」
「「———!!」」
「さすがに、ソレは斬れんか」
神速の抜刀により放たれる、必殺の斬撃。誰の目に映ることもなった刀身が姿を現した。
「お前のやって来たことのツケを払わせてやる……!」
「口にするならできることだけにしておけ」
「やかましい! 口を開くんじゃねえ!!」
『滅刃』
密着状態から放たれる無数の光刃がレイガンへと襲い掛かる。鍔迫り合いという刀を封じた状態での近距離殲滅。
だが知っている、この男なら間違いなく捌き切ると。
「シ——ッ」
鍔迫り合いを持たせられたのは一瞬だった。レイガンは手首の動きのみで剣をいなすと一歩下がり、その場で光刃を処理しきる。数えるのも馬鹿らしくなる量の内、自分にあたるもののみを刹那で把握し実行に移したのだ。
「ああ——、知ってたさ」
これこそがこの男の脅威だった。
この剣士の刀捌きには、四方界による“肉体強化が何一つとして存在しない”。
ただ一人の剣士として、この男は人体の到達しうる極致へ至ったのだ。
ゆえに、ユーリが色々と試していた領域条件や四方界の中身を図る行為は全てが見当違いだった。レイガンに関しては小細工など何一つとして役に立たない。防御も絡め手も卓越した技量を以て、容易く打ち破り切り捨てる。
ユーリの胎蔵領域であれば時間を稼ぐことができれば殺せるかもしれない。だがその前に本体が細切れにされる。その程度の時間を許しはしない。
正面から技量を打ち破らねば、勝利はない。そして、俺の剣はそのためにこそ——!
「四方展開——ッ」
「何度放とうと無駄だ」
いいやレイガン、お前はさっき知ったはずだ。
「———『焔刃』」
お前の四方界を以てしても。この剣を、倶利伽羅を斬ることは出来なかったということを。
「ふッ、ゥン!!」
回避を許さない、全力で振り下ろされた最速の力任せ。
武も技量もなにもない、素人でもできる太刀筋はしかし、速度という一点においては追随をゆるさない。
さらにいまだ放出され続ける光刃の向こう側から身を削りながらの突進。回避のため、これ以上距離を取る暇は与えない。
レイガンへの奇襲は不可能だ。どれほどの距離から無音必殺の一撃を放とうと捌かれる。
対峙した状態で己の内に狂気を見出し、実行できるようでなければそのまま斬り捨てられる。
「逃…がすかぁぁぁぁあ!」
「…シ——ィ!」
渾身の袈裟切り、焔刃によって強化された一振りは人体を切るという事象に足る威力を優に超えている。隙を、次の機会を与えてはいけない。常に必殺必至の一撃をぶち当てなければこの男は殺せない。そして、そのためにこそ焔刃を作り上げたのだ。
「———ッ!!」
「ほう…?」
訝し気な瞳は自身の刀へと向けられる。
——物質の強度を無視した、刀剣として最も求められる夢物語を体現した老人の刀が、少年の手によって砕き折られていたのだ。
「死ねぇい!!」
突撃の勢いのままに振り下ろされる剣、倶利伽羅。
なればこそ、押し負けるのは道理だ。いくら四方界によって道理を曲げようとも、武器そのものは普通の刀。それなりの業物ではあろうがこの倶利伽羅と比べれば比較しようのない格差がある。
どんな物質でも切り裂くことのできる刃を持っていようが、破壊することのできない不条理を前にすれば破壊されるのは道理だった。
「だが足りん」
「こい、つ——!」
折れた刀など必要ないと即手放すと、そのまま空いた両手で刀身を挟み込む。死を目前にしながらの一切動じることない白刃取りを完璧に決めてきたのだ。
焔刃は刃の部分だけが術式の適用範囲。チェーンソーと同じように刀身にあたる箇所のみを触れる分に関してはダメージを与えることはない。
(なら、このまま両手を潰す!)
刀を破壊した以上、この至近距離で身を護るものはない。ならばこのまま滅刃へ切り替えれば——。
「遅いな」
「げぁ——!?」
一瞬、目の前で何が起こったのか分からなかった。
気を抜くようなことはない、一度たりとも目を離すこともせずにいたはずなのに。
(この距離で、目で…追えない…!?)
顔面への衝撃は脳を揺らし、視界は明滅しながら何重にもブレる。
(レイ——ガンは…っ)
ぼやけているのは視界だけでなく五感すべて、その中でも握られた剣の感触だけはまだしっかりと認識している。
「づっ…ォォオ! が——!?」
だが振り払うことは出来ず、またしても衝撃。
顎を砕く威力で放たれた掌底はふらつく頭では回避する暇はない。弾きあげられた頭蓋は空を見上げ——。
「詰まらんな」
半ばで折れた刀を突き立てようとする。
「ち…」
その時ようやく、滅刃が展開される。倶利伽羅の刃の上を食らうように疾走する幾重もの光刃は、堪えきれぬとばかりに周囲へと無作為へ飛び出した。
無論、俺を逃がさないように剣の側面を片手の指の力だけで握っていたレイガンも例外じゃない。折れた刀では致し方ないと回避行動をとる。
「———、がはっ…ぐぅアっ……。っ、はぁ…ふぅ…」
空中に取り残された俺は無様な着地を決め、すでにふらつく足で立ち上がる。界燐を肉体の回復に回し、埋められない彼我の差をそれでもなお埋めようと愚進する。
「愚かだな、これほどの時をかけてなお、その程度か。お前が引き延ばしてきた時間は何の価値もない。相対すればこれだ、見ろ。いまだユーリの領域さえここまで届いてはいない」
「はぁ…っ、はぁ……!」
呼吸一つ乱れずに折れた刀を必要ないと放り捨てると、何かを招くように手首を軽くひねる。
「……っ、ジンのか…」
すると皆方の家に連れられたはずのジン、アイツが持っていた刀がレイガンの手に握られていた。
「保険はかけておくものだ」
ジンがいなければいないで他にスペアは用意してあるのだろう。これはただの嫌がらせに過ぎない。「お前が敵を殺さない甘さを見せたのだ」という事実を見せつけるための。
真っ直ぐ立つことができない俺を見下しながらレイガンは言葉を紡ぐ。
「あの日、あの娘を切り殺した時から何も変わらん。哀れで矮小で、みすぼらしい餓鬼のまま。いくら主観的な時間軸を延々と繰り広げようが、一つとして成長していない」
「アイツは——でない…」
「そして今なお、代替品を担ぎ上げて己の精神を保とうとしている。失ったものが戻らないことを知らないわけでもあるまい」
「うる…さい!」
「偽物が贋作を使って本物を殺すことなどできはしない。お前のしてきたことは何もかも間違いだ。何も守れず何も成し遂げることもできず、災厄の日を現実のものとしているだけだ」
「お前に…何が分かるっ!?」
振り下ろす剣は今度こそ受け止められる。不意を打たなければ当然の結果、滅刃も焔刃も、レイガンを殺すために作った術式だ。
俺が運用できる数少ない界燐での攻撃範囲と破壊力。それぞれを担わせることで、最高効率をたたき出した。
人間でありながらその領域を凌駕してしまった男を殺すには、これでは足りない。その結果は数えきれないほどこの身に刻み込まれてもいる。
——彼岸華が咲き始める。
ここはすでにユーリの領域が支配する世界。俺たちの存在を感じ取り自動で芽吹く華たちは血のように朱く染まり始めた。
「『巫女』を護り世界を護る。都合のいい言葉ばかりを口にしながら何をなしてきた。すべてを無為に帰しながら、アレの復活を先延ばしにしてきただけだ。そしてそれももはや限界が来ている。ならば打つ手は一つ、『巫女』はもういらん」
「…っ、させない……」
「度し難い、お前も分かっているはずだ。アレを生かしておいたところで価値はない。お前たちも最後には捨てるつもりだろう」
「違う——ッ!!」
どこまでも冷たい現実を突き付けてくる声に、知らず全力で反抗する。
「アイツ、を…、皆方を犠牲にしたりしない——ッ」
そうならないためにここまで挑み続けてきたのだ。
「アイツがそんな責を負う必要なんて何一つない!」
リアもシエもいない中で、皆方と二人だけの平穏を何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も失ってきた。
力を尽くそうが戦略を練ろうが最後にはレイガン一人に潰される。そのたびに皆方が死に、世界は創り替えられてまた初めから。
適応していなかったとはいえラゥルトナーの魔眼によって、記憶を持っているのは俺だけだった。
皆方もナイギも、誰一人『前回』あった出来事は記憶から抹消され、俺は一人世界に取り残されていく。
一人で強くあり続けるには限界がある。そしてそれは肉体だけではなく、心もそうだったのだと…知った。
「あまりにも年老いた。全盛はとうに超えてなおさらに老いるとはな。ここまで粘られると思っていなかった此方の目算が甘かった。だがもう手をこまねいてもいられないのでな。教えてやろう、『今回』で最後だ」
「……っ」
「ホロウが封印から解き放たれる。あの娘も限界だったということだ」
左腕の袖をまくり上げ、年老いて枯れ木のようになった左腕が露出する。だがあの腕は見た目を遥かに凌駕する力を宿している。必要ないものを極限まで削り切り、そのうえで精錬した鋼の腕。
どれほどの執念か、如何ほどの鍛錬か。
誰にも理解されないまま、理解を求めることをしなかった剣士が一人、此処にいる。
「故に殺すぞ、ヨナギ。お前が生きていてはこれから先、面倒なのでな。無論、此処にいるものは全員だが」
薄く、レイガンの腕が光を放つ。
そして、ようやく気が付いた。“不浄罰する片割れは此処にあったのだと”
「…まさか…。———ッ!!」
止めねばならない、発動を許せばユーリの胎蔵領域であろうと意味はない。否、この場にいる全員を一振りで斬り殺しかねない。
「ユーリィ! レイガンを止めろォ!!」
「——みたいだな…ッ」
とうにユーリは行動を開始していた。不死身のアイツが本能で危機感を覚えたのだ。それはつまり、レイガンの持つ武具が倶利伽羅や聖槍に等しい次元に位置することを意味している。
「……おおおぉォォ!!」
「オ…ラァ!!」
前後からの挟み撃ち、加減はなく対岸の相手さえも打ち滅ぼす威力を宿した鏡合わせの焔と氷。
「———遅いな」
俺もレイガンも彼岸華によって肉体は凍り始めている。今も剣を振った勢いで左肩の一部にヒビが入った感触をはっきりと感じ取った。
だというのに、レイガンは凍り付いた部分への負担を一切かけず、体全体を用いた動きをとったうえでこれまでと変わらぬ剣速を発揮する。
四方界により万物を両断する狂気と化した刀の前では防御は意味をなさず、空と地面から大量の武器を引き連れていたユーリを簡単に切り捨てた。
「———!」
驚愕がユーリの瞳から伝わってくる。
この場はすでにアイツの領域だというのに、回復ができないのだろう。つまり何らかの力で阻害されている。
そしてその勢いのままに俺に向かう刃。
先にユーリを相手取ったことで軌道は何とか読めている。
受け止め、今度こそ本来の鍔迫り合いを行うが刀を破壊するには至らない。
万物を斬る刃だとしても、位相が上にあたる神器と呼べる武器は斬ることは出来ない。だがそれはこちらも同じ、四方界の練度が違いすぎる。
武器がどれほどのものを振り回そうが、扱う者の差が如実に表れていた。
「分かるぞ、呼び合っている。もういい加減、その剣も返してもらおうか。お前には過ぎた玩具だ——」
「く…っ」
左腕の光帯は輝きを増していく。その光はレイガンの腕に巻きつくように螺旋を描いていた。ならば、その正体は考えるまでもない。
「不浄捕らえし白焔の縄——」
(防御を——)
光が弾ける。
刃の軌道を読め、たとえ輝きに目を眩まされていても視えるはずだ。これまでの戦いの経験を総動員して剣を盾にする。
衝撃が支えにした腕に走る。力を込めて弾かれてしまわぬように堪えているが、このままではダメだ。さっきの光、あの力の前では距離に関係はない。
「つ…ぐぅっ」
刀は防いでいる。倶利伽羅が断ち切られることなどありはしない。
そのうえでなお、俺の体へと一太刀が刻み込まれる感覚。
だが、まだ終わらせるわけには——。
「くだらん、疾く死ね」
「が——」
更なる衝撃、炸裂とも呼べる破壊力が腕に伝わったと認識した瞬間には、俺は吹き飛ばされていた。
□ □ □
「………手を貸す理由があるとは思えんが」
レイガンは心底つまらなさそうに鞘へ刀を納める。
「———」
問いかけた相手へと応えることなく、次の一矢を装填。感づかれれば意味をなさないが、隙をつければ可能性はある。
居場所が分かるはずもなく目線が重なり合うこともない。だが異変はあった。
(華が…、消えている?)
照準器から覗く範囲、レイガンの周囲から彼岸華が消えさっている。肉体を凍らせ、動きに制限を与えてはいたはずだというのに。
おそらく肉体の異常もすぐ元通りとなる。ユーリめ、倒れ込んでいないでとっとと起きろこの状況、皆の壁にならねばならぬというのに。
(さっきの光か、あの光はヨナギの剣と同じもの…。ならば答えは一つだな、順調に打つ手が消されていく…!)
遠くから見ていたことによって能力の見当はついた。
ならば近づくわけにはいかない。レイガンを中心とした、ユーリの彼岸華が掻き消えている範囲。
あの中が老剣士の領域であり、その中であれば斬撃は思いのままといったところか。
「やっかいな」
ついボヤいてしまう。
ナイギの屋敷に住んでいたころ、戦い方を習っていた時からあの方は次元が違った。そしてそれは今も何一つ変わっていない。
彼の剣士は老いた。
こちらとあちらの時間軸のズレによって本来為し得ぬ量の修練を積み、才能の欠片もなかった『破界』以外の四方界でさえ高位の領域へ達したのだ。
「何があの男を駆り立てる…!」
理由など考えても仕方がないことはわかっている。
だから今自分にできることは限られている。
「決して、アヤネには近づけさせん——」
指を引き金に掛け、その時を待ち続ける。影の中で、己が存在を殺しながら——。
□ □ □
「…げほっ、ぐ…ぅぅぅ……。っ…イユラ、か」
思いがけない威力の一撃、あの衝撃はイユラの攻撃に違いない。アイツならレイガンの放った光の見当もついている。
「…クソ」
受け身も取れず転がって打ち付けた体を起こすと、凍りつき罅割れていた右肩とレイガンに斬られた腹から血が流れだす。……大丈夫だ、まだ剣を振ることは出来る。
視界がぼやける。
その向こうに立つのは傷一つ負っていない男の姿。だがこれまで服に隠れていた左腕は外界に露出されている。
紋様のように光を放つ螺旋の光帯。その光は肉体を離れ、レイガンの周囲へと広がっていく。外界との断絶、彼岸華を廃絶し地面に走っていた氷も砕かれ消えていた。
滾る熱に反応して芽吹く彼岸華が更に増加し、左腕の感覚が失われてきている。
「まだだ…、まだ終わってない」
圧倒的実力差の前にこれまでの死を想起する。
皆方を護れず、最後にはレイガンに斬り捨てられてきた。
その度に繰り返し、戦いを挑んで——。
「最後だと? いいやまだだ、お前を殺せば先はある…!」
「そうか。お前には挫折を教え込んだはずだが、失敗作だったな。ならばこそ最後の情けだ、死を以て救済としてやろう」
「まだ——、だああああぁぁぁァァ!!」
命をいくら賭けても足りない。相打ちにさえ持ち込むことも叶わない。
けれど、それでも…この男は殺さねばならないと心が叫ぶのだ。
「愚か者め、穢れた器が夢を見るな」
輝きはより強く、紋様は注がれた界燐によって本来の力を発揮する。
「——四方展開『衆生救済之羂索』」
波紋が奔り、レイガンの領域が広がる。
何も描かれていないキャンパスの上から更に白色の線を引くかのように、元より邪悪さの欠片もない空間から不浄を排斥する。
「———」
速度を認識することは出来ない。警戒していたはずの俺をも優に取り込むと、冷たいほどの神気が身を包み、体に残った彼岸華が浄化され消えていく。
——そして俺は、レイガンの目の前で無防備に立っていた。
剣を振るうために駆けだしたはずの足はただ立ち尽くし、構えた剣は地面に向けて降ろされていた。
「——な…」
「ふっ」
見ることも出来なかった。
あまりに早く、唐突で、納められていたはずの刀はとうに抜き放たれている。
血が滴っているが、止めることは不可能だ。
「こふ…っ」
「これを使うのも久しぶりだ。ではな二度と会うことはない」
……心臓の中心を貫いていた刃が抜き払わられる。
傷口から一度だけ勢いよく血が噴き出したが、それもすぐ止んだ。これまでで思っていたよりも血を失っていたらしい。
火傷塗れの手は剣を握ったまま動かすこともできない。目の前で無防備な姿をさらしているのに、剣を振るうことさえ、俺にはもうできない。
(————あ——や—)
体を支える力も失った俺は、そのままなに一つ、些細な抵抗さえ為し得ることもできずに不毛の地となった、かつて街であった場所に倒れ込んだ。
潰れた心臓、抑えられない流血と虚脱感。前を見なければならないのに映るのは何もかもが無くなてしまった街だけだ。
「………ね…」
数えられぬほどに積み上げられた追憶を振り返ることさえできない。暗く堕ちる視界は疲労ではなく死に近づいたからこそ。
「初めからそうしていればよかったものを。無駄な結果を招くと分かっていながら諦めぬ。無為に残された時間を食い尽くし、ヤツが目覚めるに至るまでただの一度もナイギを殲滅する力も得ず、貴様のしてきた足掻きは、何もかも無駄だった」
「———、る、せえ……」
だが、だがその言葉は認められない。
死の淵に立ち、今まさに墜落する寸前であるこの身であったのだとしても。
「アイツが身を挺したからこそ…っ、まだ俺は戦えて—げほっ、…いる! それを…何も知らないお前如きが!!」
「ならば証明して見せろ。もはや手遅れだがな」
「——レイ…ガ、ンッ!!」
高鳴る心臓とともに血が噴き出す。
死に至る一撃は残された命もろとも切り捨てる。今この瞬間、暗闇に包まれ見えなかったはずの視界はこれまでの何時よりもハッキリと映っているが、最初で最後、命の前借に過ぎない。
ゆえにこれこそ全身全霊、己を顧みることのない最後そのもの。
「ぐ、ァァアアア!」
「シィ…ッ」
斬撃と抜刀は地面に落ちた血液が凍り付くまでの刹那に交差した。
「結果など、わかり切っていただろうに」
「———、ああ……ごめん…な」
それは誰に当てた言葉だったのか。
一つ間違いないことは、今度こそ心臓の脈動ごと切り捨てた男へ向けたものではない言葉だということだけだ。
「初めから、その力を発揮していたのなら、まだマシだったろうな」
老人は頬に走った薄い切り傷を指で拭いとる。
背後からは肉の塊が地面に落ちる重い音。受け身を取る力さえ残されておらず、魂の抜けた肢体に変わりない。
咲き乱れる華は残った熱を奪い、中には何も残されていない抜け殻だけが取り残された。
「………、———————」
もう、少年に立ち上がる力は残されておらず、歩き続けてきた道は朱き華に埋もれてしまった。
『本編について』
・時系列について
前々話の最後、皆方が寝起きで見たヨナギ敗北シーンがこの辺りです。
・過去の敗因
ヨナギ一人で戦っていた過去の世界において、最後に現れていたのはレイガンです。
これは崩界と総界の時間軸の差によってユーリ達が侵攻する状況になるまでは、レイガンが単独で始末をつけに来ていたためです。
・レイガンの持つ神器
衆生救済之羂索│(しゅじょうきゅうさいのけんじゃく)
ヨナギの持つ倶利伽羅と対を為す光の帯。自身の四方領域の拡張や、胎蔵領域などの空間に作用する攻撃をほぼ無効化に持ち込む神器。
レイガンはこれを左腕に取り込むことで常に持ち運んでいます。
『定期連絡』
・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。
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