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四方総界縁起  作者: くろよ よのすけ
56/100

56.リア・ナカツ②

(——、あ、これはひどいな…)


 ワタシはその中で、石畳に倒れてた。

 火事から逃げるさなか、何かが現れたんだ。それが、ウェンディの言っていた幽霊だということに気づくのにはそう時間がかからなかった。

 凶暴で知的さは感じない。そしてなにより、ウェンディに対する怨念のようなものだけは感じ取れた。

 夜闇に紛れて姿はよく見えなかったけど、何か色々なものが寄り集まったような怪物が現れて、むやみやたらに暴れまわったかと思うと、ウェンディを見つけた怪物は一目散に襲い掛かってきた。


「いや——っ!」

「———」

 その光景を見て、何を思ったんだったかな。一瞬のことで体が勝手に動いたとしか言いようがないけれど、気が付いた時にはウェンディをかばって、ワタシは怪物の爪に襲われた。

 背中からお腹にかけて、熱とも痛みとも判断できない傷を受けた。

「———っぁ…、ぃ…ぅぅ…」

 熱が収まったかと思うと痛くて痛くてたまらなくなってくる。

 足を怪我したわけじゃないのに立ち上がれなくて這って進むのが限界だ。

「あ、アナタが悪いの! 彼の気持ちに答えもしないで、なのにいつも余裕ぶって!」

 誰かの怒号が血を流し続ける身体に鞭を打ってくる。真っ直ぐぶつけられる感情はあまりにも怒りに満ちていて、何が何だかわからないワタシは逃げることしかできない。


「だから、だからこれは仕方ないのっ、アイツらが来たことも私は何も悪くないっ! いつもいつも後をついてきて、私を不幸にばかりして! 許せない許せない! な、なのにアナタは苦しむ私を横目に色目ばかり使って…、見せつけてるつもりなの!?」

(なんのこと、だろ…)

「ここでなら、アイツも来なかった! だからようやく解放されたのかもって! 彼の前でなら普通に生きられるんじゃないかって、そう思えたかもしれないのに! アナタが邪魔なのよ…、いつだって彼はアナタを見てた…。よそ者の私なんて、気にも留めてくれない」


 かばったときの傷で動けなくなる前に、何とか傍にあった教会へ隠れることができた。教会の外でギチギチと牙や爪を鳴らしながら、ワタシたちを探す怪物に見向きもしない。

 膝を地面についたウェンディは地面を這うワタシを無理矢理仰向けにしたかと思うと乗りかかってきた。

「カハ…ッ」

 痛みだけでどうしようもないのに、体重をかけられたことで呼吸ができない。

 その上首を絞められる。つぶれた肺は空気を求めて動こうとするけど、ウェンディによって最低限の動きもままならない。


「もう、どうでもいい。こんな理不尽な世界で生き続けてもしょうがない…」

 うなだれ、髪に隠れた顔を見ることはできない。

 けれど、彼女自身どうすることが正解なのかわかっていないのだ。だからもう終わりを求めている。生き続けるのは苦しいから、死という無に身を落とすことで幸も不幸もなかったことにしようとしている。

「………」

 その姿があまりにも悲しくて、辛い思いが伝わってきたから。


「——っ、な、なに、なんなのっ!? なんで、アナタ……笑って、られるの……」

 全力を使ってできたのは右手を動かすことだけ、持ち上げるのが精いっぱい。暗がりで、月明りよりも火事の明かりの方がずっと強い。この教会に火の手が回るのも時間の問題だ。

「やっ…、やめてよ! 私に、わたしをそんな目で見ないでよ!」

「だめ…、だよ」

 離れようとするウェンディの首になんとか手を回す。

 顔を覆う髪を優しくどけると、ようやく目を合わせて話すことができた。

「あ…、うん、やっぱりきれいだ」

「なに、を———っ」

 普通なら、涙を流し感情をぐちゃぐちゃにした表情はお世辞にもかわいいとは言えない。だけど、辛くって苦しくって、どうしようもなかった彼女がようやく吐き出せた本音は、歪だけどきれいに思えた。


「たのし、かったんだ…、ウェンディが…きてから。ずっと……、ずっと楽しかった」

「うそ——」

「まさか…、ワタシ、は……しょうじきものだよ? ふ、ふ…ごふ—っ!」

「あ—っ。あ、ああゴメン、ゴメンねリア! 痛いよね苦しいよね、すぐどくから、だ、誰か人を呼ばないと! あ、で、でももうみんな火事かあの怪物に——! ど、どうしよう、どうしよう! どうしよう!」

(けが、しなかったらな…、一緒に逃げられたのに……)

 うろたえるウェンディの姿は見ていて悲しい、ワタシがもっと動けたなら華麗によけて、今頃一緒に町の外まで逃げられていたかもしれないのに。

「うぇんでぃ…?」

「あ…っ、リア大丈夫!? …だいじょうぶなんかじゃ、ないよね……。私のこと、かばったから。こうなっちゃったんだもんね…。私の、せいで……」

 伸ばした手を取って、涙を流す彼女を助けたい。

 なら、ワタシには何ができるだろう。動けないし、すぐに死んじゃうワタシにできること。

(死んじゃうな、ワタシ。……まあ、いいか。運が悪かったと思おう)

 

「ね、ウェンディ……、逃げ、て。ワタシのことは…いいから……」

 これが精いっぱい、もう寒くって仕方なくて、のどを震わせることさえできそうにない。だからね、ウェンディ。ワタシみたいなのは置いていきなよ。足手まとい以前の問題だからさ。せっかくかばってみたんだから助かってくれると嬉しいんだ。

「…………リア…、ゴメン。ごめんね…」

 涙はまだ流れている。それでも立ち上がってくれた。よかった、これでひとまずは助かるかもしれない。

 これから先もあの怪物に追いかけられ続けるのなら、ウェンディにはつらいことばかりかもしれないけど、それでも生きてみてほしい。酷いことを思っている自覚はあるけど、死ぬよりはいいんじゃないかとも思うから。


「リア! どこにいるんだ!? 返事をしてくれ!」

「ぁ———」

 その時、彼の声が聞こえた。

 きっと怪物は別の場所へ行ってしまったのだろう。さっきまで怪物がいた方向、教会の外から聞こえたその声は彼のもの。

 探し回ってくれたのだろう、声からは疲れと焦燥が溢れんばかりに届いてきた。

 人の、ワタシたちの気配を感じ取ったのか。教会の中へ入った彼はすぐこちらを見つけ出した。


「……リア? …っ!? リア!!」

 そしてワタシたちを見つけた彼は焦りからか、それとも町の外からの旅人であるウェンディに不信感を持っていたのかもしれない。

「君が、リアを…!?」

 確かに、私の傷はナイフで刺したように見えなくもなかったから、彼の勘違いはそうおかしなことじゃないかもしれない。けど、まさか犯人に彼女を当てはめるとまでは思わなかった。

「ち、ちがう、ちがうの■■■! お願い聞いて! この傷はあの怪物が——!」

「うるさいっ! あの怪物が一体何なのかはどうでもいい。どけっ、リアから離れろ!」

「きゃ!?」

 ウェンディを突き飛ばした彼はワタシを抱き起こすと、傷に手を当ててもう勢いさえなくなった出血を止めようとする。

「■■■、リアは…もう……」

「そんなことはないっ、リアを死なせたりなんかするもんか! …それもこれも、君のせいなんじゃないのかウェンディ!」

「ちが…そんなわけない……っ、で、でもここは危ないよ。あの化け物が私たちを探してる。ここに居続けたら——」

「そうか……」


 感覚が鈍い、どうやら背負われていることはわかるけど瞼もほとんど閉じていて何が起きているのかもよく見えない。

 だけどね、人というのは嫌なことはやけに耳に届くみたいだ。


「なら君が、囮になればいい」

「え——、ちょっと、まって…まっ——」

「化け物! 探し相手はここにいるぞ!!」

「あ———」


 あたりで探し続けていた怪物の耳に届いたのだろうか。

 時間の流れはよくわからない。ただ、最後に映ったウェンディの姿は絶望の淵に一人取り残された子供でしかなかった。

 この時にはもう、この世界の命運は決まっていた。

 いや、もっと言えばワタシと彼女は出会うべきじゃなかったんだろうね。


「はぁ——はぁ…っ、もう少しだリア。もう少しで治療できる場所に着くから、がんばるんだ!」

 夜道を駆ける彼の背に揺られるワタシは不思議とまだ生きていた。

 人というのは存外丈夫らしい。ワタシみたいなのでもすぐに死ぬことはないみたいだ。

「そうだ、怪我が治ったら一緒にピクニックに行こう。怖い思いをしたんだから綺麗な場所で、のんびり過ごそう。そうすれば、きっと君も——」

 その先を彼が口にすることはなかった。

 せき止められた言葉はそのまま呑み込まれて、目は大きく見開かれた。

「なん、だ…これは——」


 あの怪物がなんなのか、この時は知らなかったし『巫女』なんて存在がいることも知らなかった。誰かが教えてくれたとしてもおとぎ話のたぐいだと思ったろう。

 なぜなら空が割れている。

 ガラスを砕いたように割れ落ちる空の断片は地上へ墜落し、地割れを引き起こす。天変地異というには真っ当で、それゆえの異常事態だろう。

 この世界に生きるもの全てが空を見上げ、大地の崩落に引きずり込まれていく。消滅を始めた世界とともに、生命の悉くが無に帰そうとしている。


(ああ——そっか…)

 ワタシは『巫女』なんてものは知らなかった。だけど…、不思議だね。

 ウェンディが居なくなってしまったことだけは、死にかけでも分かってしまうんだから。

「くそ…、なんだこれは。…大丈夫だリア、どこか安全な場所くらいあ——ぐあっ!?」

 崩壊に巻き込まれた道しるべの石塔が倒れ、その破片が彼を襲った。

 背負ったワタシごと倒れ込んだ彼は額から血を流しながらもすぐ立ち上がる。そして落としたワタシを探そうと顔を上げた先、彼の運命を終わらせる存在がいた。


「ギ——————ィィ」

「…なぜ……ここに」

 知性のない獣、群衆を寄り集めた醜い肉塊。

 標的であるウェンディをつけ狙い、仕留めたはずの怪物が奇怪な悲鳴を上げながら彼の前に立ちふさがっていた。

「リア、大丈夫。大丈夫だ——。必ず、僕が、僕が助けて見せるからっ! だから、僕と——!!」


 …その後のことは、わざわざ説明するほどのことじゃないだろう?

 彼は何とか身を護ろうとしたけど怪物の…レギオンの爪でバッサリだ。ま、あの場を切り抜けたところで世界自体が終わってたからどうしようもないか。

 でもね、想像以上に…さ。彼ってばワタシにゾッコンだったみたいで、元々の意志も強かった。

そのうえ、『巫女』だったウェンディに対して怒りを持っちゃってたせいか、レギオンの一部になっちゃった。

 偶然なのかな、彼はウェンディがそんな大層な存在だなんて思いもしなかっただろうし、それは彼女自身もだ。割り振られた役割を全うさせられていただけに過ぎない。

 悲しいね、もしも『巫女』なんてものに生まれなければ彼と結ばれる未来もあっただろうに。


 そりゃあ、ワタシは、色々とダメ人間な自覚はあるよ。

 他人がやってくれるなら自分では何もしないし、わざわざ手伝ったりもしない。相手のことを気にしてないわけじゃないけど、考えてることが伝わらないのか誤解ばかり生んでしまう。

 だから、うん。この時は結構、堪えたかな。

 何を? それはもちろん。もうちょっと、彼に興味を持ってあげた方がよかったかもって。だってほら、ワタシったらさっきから名前で呼んでないだろ? 彼のこと。

 ……ちょっとヨナ、気持ちは分かるけどその目はやめてよ。あの頃は本当にそういう相手としてみてなかったんだから。

 ウェンディはほら、少なくともワタシは友達だと思ってたから。

 ただ、なんでだろうね。

 彼のことは本当に……、友人としてさえ見ることは出来なかったよ。


  □ □ □


「なら、おまえはなんで混じったんだ? 意志が強そうには見えないけどな」

 そこまで話を聞いたヨナが質問をしてきた。とはいえ失礼じゃないかな?

「むぅ、ワタシだって罪の意識はあるし、ウェンディを助けられないものかって思ったんだよ。彼女に対して降りかかった運命に、怒りも覚えた。案外レギオンに混ざっちゃう判定ってザルみたいだね」

 『巫女』という存在に怒りを覚えた。どうしようもなく悲しくて、あんまりにも辛いから。


「だっていうのに、考え方が正反対の過激派に取り込まれちゃったんだよ? ひどいと思わない? さらに彼の精神力がひときわ強かったせいでレギオンの主導権取っちゃうし。ワタシとしてはやるせなくってさぁ、相手もしたくなかったからずぅっと魂の奥で引きこもってた」

 彼はワタシが引きこもった理由がわからなかったみたいで、何度も接触してきたけど無視。ほかの魂は『巫女』を殺してやるー、ってばかりでやることもないからずっと眠っていたようなものだ。

 深い深い眠り、誰に話しかけられても気づかないし、私が外界の様子を知ろうとする気持ちは欠片もないからそのままずっと眠り続けて——。


「だけどね、ヨナも知っての通りワタシはワタシで才能があったんだ。眠ってる間は気づけなかったけど、その力を知った彼等は取り込んでいたワタシの力を活用していた」

「道理でな、魂が数百万人分あるってのに自壊しないのが不思議だったんだ」

 納得するように目を閉じたヨナの横顔を覗き見ながら感心する。前線で戦ってるとそういう感も強くなるのかな。

「そうだね、ワタシったら人としての器が大きすぎてね。“魂の容れ物”としては誰よりもすごかったのさ」


 ヨナは界燐をその身に留めておける量が驚くほど少ない。倶利伽羅がなければまともに『四方界』を打ち合っての攻防なんてできやしない。

 だけど、ワタシは逆だ。界燐を留められる限界量に限りがない。数百万の魂を取り込んだとしても、その数倍の量を取り込んだのだとしても、存在が崩壊することはない。

 迷える魂全員の意志を保持したまま、レギオンという名の魔人が存在し続けられる。


「ワタシがレギオンに取り込まれたとき、まだ魂の数としては百にも満たなかった。それでさえ生物としての形状からは外れていたし、エネルギーを制御できないから知的生命体としてもダメダメ。まさにB級映画に出てくる怪物だ」

「それが、おまえを取り込んだせいで解決したわけだ。よけいなことすんなよな、相手するの俺なんだぞ」

「あーひっどーい。でもヨナのいう通りだから何とも言い返せない、ゴメンゴメン。よし謝った、セーフ」

「本人目の前にしての発言じゃねえな」

「はは、だってヨナなら許してくれるでしょ?」

「よく言うよ」

「ほら怒ってない」

「………」

 むすっとして黙っちゃったけど、これは図星をつかれたときの反応だから話を進めちゃおう。

「ずっと眠ってたワタシが、次に目覚めたときには百にも満たなかった魂が数えきれないほどになっていた。驚いたよ、目覚めるつもりがなかったのに起きちゃったのもそうだけど、それがワタシのせいで起こってて……、彼等は肥大した力で数多くの世界を滅ぼしていた」

 怒りのままに『巫女』を殺す、そして世界が消えていく。


 かつて、レギオンでなかった彼等が辿った道を、自らが引き起こしている。どうかしている狂っている。心の底から意味が分からない。

 『巫女』のせいだと免罪符をたたきつけながら、やっていることはその世界に本来起こりえなかった大量虐殺だ。そして哀れな魂を取り込んではさらに強くなり続ける。

「止めなければいけないと思った。目覚めた時点で大分手遅れではあったけど、不意に目覚めたのにも理由があると思った。…ウェンディに呼ばれたんじゃないかって」

 だから、何とかしてレギオンから離れようとした。

 けど彼等が器である私を手放すわけがない。そして、彼も。


  □ □ □

  

『なぜだ、リア。我等の力を以ってすれば『巫女』という不条理の歯車を抹消できる。『総界の巫女』の居場所にさえ到達すれば、この宇宙全体から『巫女』を消滅させることができるというのに』

『ワタシは、そんなことを一度たりとも望んだことはないよ。勝手な思い込みでワタシのことを慮るのはよしてほしいものだ』

『だが、どうするというんだ。我等は君を逃しはしない。我等の目的を達成するまでは君の力が必要だからだ』

『どうせ目的を達成したところでハイ解散、とはならないだろう? 魂だけの、こんな姿になってまで生きながらえようとする分には生き汚さの集合体だ。『総界の巫女』とやらを始末したところで、何か理由をつけて虐殺を続けるに決まっている』

『…そんなことはない、どうしてだリア。なぜ理解してくれない。なぜ…我、ぼくの想いが伝わってはくれない…。だが、そういうことならば仕方ない——』

『——っ』


 空気が変わる。

 魂だけしか存在しない伽藍洞の空間、その空気が一変する。数百万の魂がワタシを一斉に取り囲み、再び眠りにつけようと魂を縛り付ける。


『ぐ…ぁ…』

『すまないリア。だがこれは必要なことなんだ、すべてが終わった時には君もきっと理解してくれるはずだよ』

『……っ、んなこと、ない…さ…っ。相変わらず、…なにもわかって——ぁ…っ』


 魂がひしゃげる。

 肉体なんてとうに失ったというのに、立っていられなくて倒れ込む感覚だけは生きていた時と同様のもの。

(この、ままじゃ…)

 何も変わらない。眠りについたワタシの力によって際限なくレギオンという名の化け物は強くなり続ける。

 彼のいう『総界の巫女』とやらが一体何者なのかはわからないけど、手を下せばとてつもなく良くないことが起こるのはわかる。

 このレギオンが殺してきた『巫女』は、肉体の欠片も残らず消滅する。そんなの人の死に方じゃない。

 他者の尊厳を踏みにじるような終わりを認められないからこんな姿になったくせに、やられたのだからやり返してもいいなんて、子供の喧嘩でしかないじゃないか。


(けど——どう、すれ…ば……)

『同じ思いだと思っていたのに。君の裏切りは苦しいが、仕方ないことなんだ。おやすみリア、すべてが終わった時、また会おう』

 意識が遠のく、今度こそ耐えきれず終わりに至る眠りに着こうとして——。


『見つけた』

 暗闇の伽藍洞に一筋の蒼穹の輝きが差し込み、誰かの声がワタシの魂に響いた。


  □ □ □


「……”アティ・ラゥルトナー”」

「そのとーり。そのあとのワタシについてはヨナも知っての通りさ。ただのリア・ナカツはラゥルトナーになった」

「じゃあレギオンは? おまえが離れたなら魂の量に耐えきれず自壊するはずだろ。だが、ぴんぴんしてたぞ。その上空間ごと破壊する能力まで引っ提げてだ」

「アレについてはワタシもわからない。ワタシといたころはあの鎧は無かったから、離れ離れになったあと消滅する前に見つけたんだろうね。まさかそんな大それたものを見つけるだなんて運がいいとしか言いようがない」

「じゃあ、結局アイツとは正面からやりあわないといけないんだな」

「そういうことだねぇ、ヨナには苦労を掛けるねぇ」

「ああ、本当にな。で?」

 今度はヨナの方がワタシの顔をのぞき込んでくる。


「なにが、で、なのかな?」

「手があるんだろ。じゃなきゃ昔話なんてわざわざしない」

「ん、んー……。やっぱり分かる?」

「まぁ、な。それで、前置きが長いってことは俺にとって面倒なことだ。多分」

「……ごめいとう、です」

「どうすればいい」

「え、とね? 怒らないでね?」


 ワタシにできることはそう多くない。

 持っているものを与えるか、返してもらうか。

 そのくせ容量悪いから時間がかかって仕方ない。

 第一、ワタシの容量無制限っていう特異体質で無理矢理組み込めたようなものなのだからうまく扱えているってわけじゃないんだ。


「だから、嫌なら嫌って言ってね? ほかに方法もあるかもだし…」

「なに言ってる、それでいいだろ。…リアが戦場に立つってことだけが不安要素だけど」


 一刀のもとに断られるかと思っていた作戦を聞いたヨナは、即決で受け入れてくれた。ヨナにとっては厄介なところも大きいのに、こんなすぐ決めてくれるなんて…。

 けどきっと、ヨナは正直じゃないから。

 ここで押しても興味なさげにはぐらかされちゃうんだろうな。

(そういうところも、好きなんだけど)


 かわいげがある方がいいに決まってる。そっか、彼にはそういうところがないから食指が働かなかったのかもしれない。我ながら年下好きなのかな? なんてね。

「でね? それじゃあええっとぉ……」


  □ □ □


「と、いうことなんだけど…、ヨナは、どう思う?」

「ん、ああ…」


 最初に聞いた時は自分でも驚くくらいすんなりと受け入れられた。

 リアと出会うまでのことはたいして興味ないが、知り合いは多いらしいのは知っていた。なら、そういうこともあるのだろうと当然のように思考が至った。

「そうか…。それがなにかあるのか」

 だから、俺の返答はリアにとってつまらないものだったろう。  

「……あのねヨナ。ワタシの様子が少しおかしいとか思ったりなんかしない?」

 唇をツンととがらせたリアは少し怒り気味だった。


「いや、そうはいってもな。なんとなく予想はついてたし」

「だったらせめて、もっと驚くようなそぶりを見せるべきだよ。そういう適切な反応を返さないところはまだまだだよね、ヨナ。フーンだ」

「……」

 自分から話しかけておきながらそっぽを向いたリアは見るからに拗ねている。いや、口元が緩んでいるからフリだな。


「けど、いいんだな?」

「なにが?」

「レギオン、というよりその男のことだ。俺は斬るぞ、あんな怪物はいちゃいけない。次で取り逃がしたら、自分に都合のいい言い訳をしながら世界を壊し続ける。認めるわけにはいかない」

 微かに怒りが漏れ出してしまう。自分勝手な感情を振り回して、弱者であるどこかの誰かを犠牲にするレギオンが許容できない。

「いいんだな。名前さえ記憶から消えるような相手だったとしても、昔おまえに手を差し伸ばしたやつだ。たとえその先で歪んだのだとしても。…おまえが救いたいというのなら、一度だけ俺も手を差し伸ばしてやってもいい」

「——、ヨナ」

 見開いた瞳は意外そのものといった様相で、言葉に詰まってしまっている。


「……別に、今じゃなくていい。次にレギオンが来る時までに答えてくれればそれでいいから。…そら、話終わったなら自分の部屋に帰って寝ろ」

 変なことを聞いてしまったと思い、なんとなく気まずくなってしまう。

 反応からして、リア自身想定していなかったらしい質問は決心を鈍らせてしまうだけだ。何も言わず、戦いのときにはただ勝利を。


「うん、やっちゃっていいよ。あんなヤツ」

「……軽いな」

「だってウェンディにひどいことしたからね。ワタシあの時のことまだ怒ってるし。だってワタシの友達にひどいこと言ったんだよ? 斬られて当然だよ、ふんすっ」

 わざとらしく怒っていますポーズをとったかと思うと勢いに任せて立ち上がる。

 俺もつられて立ち上がると、ポーズを解いたリアが抱き着いてきた。


「…最後に聞くけど、いいんだな」

「……うん、いい」

 胸に頭を押し付けながら口にする。

 そして、ハッと顔を上げたかと思うと、一つのわがままを口にした。

「ごめんねヨナ、また一つお願い事をしていいかな」

「叶えられるかは知らないけどな」

「うん、でも大したことじゃないんだ。レギオンを、…“彼”を、……『カイル』を殺してあげてほしい」

 ただの一度も呼んだことのないだろう名前、それを始めて耳にしたのが俺であるということに罪悪感を覚えるが、それがおまえの望みだというのなら。


「ああ、約束する。俺自身に、この剣に誓う。俺はこの手でレギオンを——カイルを殺してみせる」

「……うん、ありがとう、ヨナ。……えへへ…」

 あの時の、悲し気に笑ったリアの表情を俺はきっと忘れることはないだろう。

 俺の想像以上に、リアに首輪を繋がれているらしい。俺自身、アイツには苦しい思いをさせているし、改善には程遠いことを自覚している。


  □ □ □


「――俺はお前を許さない」

 炎上する街の中心、軍勢レギオンという名の外装を捨て去り、一人の男として回帰しようとする魔人へ剣を突き付ける。


「決着つけてやる。惚れた女相手にして、告白できないようなヤツ見てると腹が立つんだ。そんなヤツ、ここでぶっ潰してやるのが情けってやつだろうが!」

「戯けたことをッ! いいだろうヨナギ・アマナ。有象無象の力に頼る必要などない、今日この時、この場において君を抹殺してみせる!!」

 

 とうに戦いの火蓋は切って落とされている。

 世界を砕く拳と、不浄の炎を纏った剣がぶつかり合う。

 次元の断裂と修復が高速で行われることによる光が明滅し、彼等を白く染め上げる。

 この場において、彼らの目線はようやく同じ高さへと到達したのだ。


『本編について』

・カイルについて

誰からも信頼を置かれる優等生ですが、個人的にはダメ男という印象が強いです。

当時、過去作品(未投稿)のアナザー主人公をイメージして書いていました。ただ見返してみると、やはり決定的なところで踏ん張れない部分がカイルのマイナス点だなぁと思いました。

(過去作品については、四方界が終わったら投稿するかもしれません)


・ウェンディアナについて

リアが元いた世界における『巫女』です。当時の野生の獣染みた、『巫女』に対する怒りのみで動いていたレギオンに追われ続けていました。リアに対しては可愛い妹で大切な友人という認識です。


・アティ・ラゥルトナーについて

一応、すでに登場しています。(登場といえるのかは怪しいですが)


・ヨナギの発言(惚れた女~)

ブーメランですが彼なりの自虐です。


『定期連絡』

・高評価、いいねなどいただければ、皆様には特に見返りはありませんが自分が喜びます。

・更新日の後にそのことを伝える呟きをしているので、思い出す用にツイッターフォローいただけると幸いです。

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