29.夏祭りと灰の雪①
「ででででは、行ってまいります——!!」
「はい行ってらっしゃい。ふふっ、大丈夫だよ。とっても似合ってる」
「リア様の言う通りですアヤネ、とてもお綺麗ですよ」
実家の方から引っ張り出した浴衣に着替え、ゆったりした浴衣とは対照的にガチガチとなった私。二人は褒めてくれているけどやっぱり緊張しちゃう。
それに、リアさんの言う通り持ち直したシエがすごく丁寧に着付けしてくれた。本当に感謝してもし足りなくて、シエの手を取ると何度も上下に振る。
「ありがとうシエぇー…。今日は本当にありがとぉ~」
「いえ、よいのです。私も、その…、これから、ですから…」
「別に照れなくてもいいのに。というかどちらかが側室になれば——。ああいや、それはまた今度。ヨナはちょっと用があるからって先に行っちゃったけど、階段の下にある灯篭で待ってるとは言ってたから」
「分かりました。では、行ってまいります…!」
「行ってらっしゃい。良い思い出を」
「行ってらっしゃいませアヤネ、どうかヨナギ様の事よろしくお願いいたします」
「うんっ」
楽しみに待っていた夏祭り。今か今かと時間の進みが遅く感じながらも、当日となってしまえば、それはあっという間で。
私は今、夏祭り会場である神社へと向かう時を迎えていた。
「行っちゃったねぇ、本当に良かったの? 今からでも後をつけていけば有耶無耶に三人でまわれると思うよ?」
「い、いえっそのようなっ。…今回はアヤネにお任せします。ヨナギ様からもお願いされましたので…」
「まあそれなら仕方ない。ただ、そう言いながらも少し拗ねてるシエは可愛いね。ほら、ほっぺが膨らんでるよ。むにっと」
「ひゃっ」
「あはは、じゃあ私たちは二人の帰りをゆっくり待とうか。お土産でも買ってきてくれるといいんだけど」
「ひゃ、ひゃい、ひあしゃま、おへをおはなひくらはい…」
「ふふふ、ごめんごめん。それじゃあシエと二人でのんびり過ごそうか。そういえば二人きりなのも久しぶりな気がするね」
「そうですね、此方に来てからはヨナギ様かアヤネはいらっしゃいましたから。二人きりになるのは確かにお久しぶりかと」
「ふんふん、とはいってもいつもとやってることは変わらないか…、ふふっ。なら、シエの淹れてくれたお茶が飲みたい気分だ」
「はい、喜んで淹れさせていただきます。……リア様? どうかなさいましたか?」
「…いいや、何でもないよ。ちょっと変な感じがしただけ」
「それは…」
「ううん、まだ決まったわけじゃないよ。はてさて、こんな日に襲ってこようものなら嫌だねぇ。いい気分が台無しにされてしまう」
「……」
「だけど気にしすぎてても仕方ない。一旦落ち着くためにもお茶をお願いしたいな。出来ればお菓子もあるととっても幸せだ」
「リア様…ですが、先日もそのようにおっしゃった結果、お菓子の食べ過ぎにより晩御飯を残されかけたので少しは量を減らすべきかと……」
「——う…っ。い、いやしかしだねシエ——」
「そうですね、主の健康管理も従者の仕事。これまでよりもしっかりとした栄養バランスを心掛けねば…、リア様の為にも…!」
「あ、これは困ったことになりそうだなー」
「ではリア様、お茶をお淹れしますね。くつろぎながらお待ちください」
「はーい、…あの、お菓子は……?」
「はいっ、ご安心ください。リア様の為にもしっかりとシエが摂取量を管理しますっ」
「あー…、そっかー、嬉しいなー…」
「はい、喜んでいただけたなら私も嬉しいですっ!」
「私が健康でいることがシエの笑顔になるのならこれ以上のことは無いね。ふ、ふふふ…っ」
恋する乙女が意中の相手に会いに向かった。
残された二人の内、皆が幸せならばとても嬉しい。かつてそう言っていた甘党の彼女にとって厳しい現実が突き付けられていた。
□ □ □
カランコロン、カラコロカラコロ、カツコツと——。
いやに不揃い下駄の音、茜差し込む街に響く。
「……」
履きなれていない下駄の音が不規則にアスファルトの地面を鳴らしているのだ。
茜は差し始めたばかり。まだ日は傾き始めたころ合いで、夕焼け空には少し早い。
周囲には私と同じように夏祭りに向かう人たちがチラホラと。
家族で向かう人、恋人と向かう人。それぞれがそれぞれの相手と共に思い出をつくりに歩く。そんな中一人で歩く私は周りからどう見えているんだろう。
(いやいや、別におかしいことなんかないよね)
待ち合わせなんだろう。そう思ってくれるとは思うけど、ついつい気にしちゃうのは胸の高鳴りが関係してるのだ。
どうにもこうにも、頭の先からつま先まで、余すことなく落ち着かない。
余裕を見て少し早く出てしまったから、約束の時間まで時間はある。
用事があると先に出て行った夜凪くんもすぐやって来てくれると思うし、それまでは待ちぼうけかもしれない。けど、そのことを考えてみてもなんだか焦っちゃう。
早く彼に会って、この浴衣姿を見てほしい。それで綺麗だねって、可愛いねって言ってほしい。
なんて小さくって、ひどく大きな我儘だろう。偶にしか見せない姿だからって、褒めてほしいだなんて、自分本位なところが実に私らしい。
胸に隠し切れなくなった想いは、履き慣れない下駄の音をより不規則にしていく。
待ち合わせ場所に近づくたび、ドキドキと高鳴る胸の鼓動さえも不規則になってしまってるんじゃないのか。なんて心配になっちゃうくらいにうるさくって仕方ない。
「ふぅ…」
息をついても冷めやらぬ。
息を吸っても熱がこもるばかり。
ああ、なんて——、なんて幸福な苦しみなのだろう。
彼を想うだけでこんなにも幸せになれるのだから、きっと私は世界で一番安い女だ。
でも、それでもいい。
この幸福が、私一人のものになってしまわないように。彼にも伝わって一緒に笑い合えたなら。それは値打ちのつけられない宝物。
私以外の誰にも価値の分からない、世界でたった一つの——。
「…、———」
さぁ前を向いて。目的地は目の前だ。
私の数ある我儘の一つを、叶えに行こう——。
□ □ □
『じゃあなジン、精々足元救われないように気を付けるこった。なんせ、このオレを倒した実力者なんだからな。おすすめは暗殺だ』
『本気でもなかった癖に何をいうか。くだらん——、取引は飲んでやる。用が無ければ消えろ』
『へいへい、まあ手を抜かないこったな——』
大したことは無い、刃を放てばどうせすぐにバレていたことだ。
だが一つ、小さな誤算があったとすれば、それは予測していたことが予見されていたことだろう。
「中々、強そうに見える。それなりだが」
「貴様に興味はない。あるのは巫女と、ラゥルトナーだ」
「だったら俺には用がある。抜けよ、待ち構えられていると知っていて乗り込んできたのならその力を見せてみろ」
『門』をくぐり、世界を渡った。
降り立ったのはそう広くない森とも呼べぬ林の中であったが、遮られた日の光によって実際よりも深い森に見える。
強制的に繋げた回廊は世界の修正力に耐えきれず瓦解した。適性のない自分が戻るためには、再度『崩界』から『門』を繋げるしかない。
「それにしてもマトモなのはお前一人か。ずいぶんな自信だな」
「自身ではない、必要な分、必要なだけ連れてきた。…つもりだったが、ナイギの面汚しどもめ。何も為せずに敗れ去るとは塵屑以下だろう」
この場に立っているのは僕と怨敵の一人のみ。
周囲には共に攻め入った部下共が数名。だが何の役にも立ちはしなかった。『門』を抜けて地に足を付けた瞬間、大量の罠によって再起不能に陥ったのだから。
「シエには感謝しないとな。昼間の訓練はアイツに任せられたおかげで、罠を仕掛ける時間が取れた」
そして、それを為し、眼前に立つのは自分とそう変わらない背丈の少年。年はいくつか下に見える。
「ああ貴様か、ユーリが口にしていたラゥルトナーの飼い犬というのは。ならば知っているだろう。我等を阻み続けてきた世界の修正による弱化。その克服を」
「それさえなければ俺たちなんて問題ないか?」
「無論、世界という枠組みからの強大な加護が無ければ圧し潰されるのは自明の理。そして、それを今日この夜、僕が成し遂げる」
事実だ。憎らしいがユーリの生み出した『楔』が無ければ、それだけで攻め入ることは現実的ではない。どれほどの鍛錬を積もうとも、いや積んだだけ弱化は酷くなる。力の差は開き、地にへばりつく塵として始末される。
「もはやこれまでだラゥルトナー。貴様らが恐るるに足らぬと真の実力と言うものを見せてやろう」
「まったくあの嘘つきめ。これが最後の一本だとか言ってただろうに。いやいい、信じてたわけでもない。それにしても……あぁ、なんでだろうな——」
「…?」
少年、確かヨナギ・アマナと言ったか。
そのヨナギからこちらに向けられたのは敵意だけではない。なにか、漠然とした殺意の様なものが刃となって襲い掛かろうとしているかのようだ。
「お前名前は?」
「答える義理があるとでも?」
「そうだな。まあ聞いて何が分かるってわけでもないし、さっさとやろうか。人と約束しててな、今から斬り合うとなると時間までそう余裕もない」
「随分と舐められているらしいな…。僕であればすぐ片づけられると思っているのか」
「どうだろうな。まあ少なくとも———」
あまりに舐め切った態度。
気だるげに作り上げた光剣は界燐、奴の『四方界』によるもの。
(領域条件は自身の武器に囲まれている範囲内…。当然仕込んであるということか)
この場への侵入は既に嗅ぎ付けられており、タイミングも予見されていた。ならば木々か、それとも地面の下か。条件を達成するための武具が仕込まれているのだろう。
しかしその様な事はどうでもいい。例え相手の領域に立った上での戦闘であろうとも勝利するという自負があったのだから。
「——ユーリよりかは弱いだろ」
だからこそ、この心を怒りに染め上げた一言だけは見逃すわけにはいかなかった。
『楔』の起動、この世界において抑圧された『界燐』が渦を巻き、刃と化して放出される!
「———ッ!」
こちらの放った斬撃によって奴の立っていた場所は切り刻まれ、数本の木々は細切れと化し、大地さえも抉った。
「そうか…、死に急ぐというのなら是非もない。乗ってやろうその言葉、この場で殺しきる」
回避し、余波による破片も作り上げた光剣で防ぎきった怨敵。
己の命を救った光剣だったが、強度はないのだろう。刃こぼれが見て取れた。
ヨナギ・アマナは感慨一つも無く光剣を捨て去ると手を軽く振り、肩を回す。
「……さて、始めるか。ナイギの名無し」
「ラゥルトナーの飼い犬が…、調子に乗るなよ。ユーリに殺されなかったというだけで増長しているらしいが。…その思い上がりも今日で終いとしてやろう」
抜き去った刀を構え、『四方界』を発動、数段飛ばしで『界燐』の規模を高めていく。
この場に立つ者は二人、ならば最後に残る物は片方だけだ。
そして思い描く結果は互いに同様。
「——ここで始末する」
「——ここで潰しきる」
瞬間、この場は『界燐』吹き荒れる戦場に変貌した。
□ □ □
街全体に伝播する『界燐』、それは戦う力を持つ者達は逃すことなく感じ取る。
「来たみたいです」
「行くのかい?」
「もちろんです。リア様はこちらで待ちください」
「気を付けてね。ヨナと彩音をよろしく」
「はい、行ってまいります」
「行ってらっしゃい」
灰色の少女は己が主と挨拶を交わし、時間も惜しいとベランダから飛び出した。
落下の最中に槍を取り出し、音もなく着地すると共に影を残さず駆け出す。
「…アヤネ、どうかご無事で——」
一際強く『界燐』が発生した位置は掴んでいる。そしてまだアヤネに向かって移動はしていない。
(こちらが防衛に向かうのを待っている? 巫女を確保する前に私たちを倒しておきたいというところでしょうか)
これまで自分たちを押さえつけてきた敵の殲滅。
巫女の確保よりも優先するは一族としての私怨ということか。
(ならば、私達も正面から打ち破るほかありません。お待ちくださいヨナギ様、いますぐ参ります——!)
灰色の少女が駆けていく。
茜空に薄く浮かぶ月のような、淡い輝きを握った槍に宿しながら——。
□ □ □
そして、伝播する『界燐』感じ取ったもう一人。
巫女と呼ばれる少女も確信を持って侵攻を察知する。
「きゃっ、い、今のってまさか——っ」
自身の存在を知らしめるかのような波動。発生源の方向に目をやると、此処よりも更に街の中心から離れた場所からだ。
襲ってきたんだ。そう思い至ったと同時、約束の時間になってもいまだ来ない待ち人の彼を思い出す。
「夜凪くん、戦ってるの…?」
当然だ、彼はそのために鍛えている。敵が来たのならそっちに向かうんだろう。
「じゃ、じゃあ私も…っ! …ううん、ダメだ。私が行っても邪魔にしかならない。それなら一旦家に連絡を——、っ!?」
夜凪くんは携帯電話を持っていない、けど家にならシエもリアさんもいる。そう思って携帯を取り出した瞬間、その手から携帯が弾き飛ばされた。
「な、なにっ!?」
「巫女だな、来てもらう」
音もなく、気配も無かった。
いつの間にか目の前に立っていた数人の男達。
お面の様な被り物のせいで顔は見えない。けど私にたいする敵意だけは間違いなかった。
「…アナタたち、ナイギの人達ね……? もしも嫌だって言ったらどうなるの」
「………」
自分でもはっきり分かる震えた声で聞いてみるけど、答えが返ってくることさえなかった。
(なんとか、時間を稼ぐか逃げないと……っ)
そう思いはするけど、もう囲まれていて戦うことはできない私じゃ——。そう考えている間にはもう腕を掴まれていた。何時の間に距離を詰められたのかさえも私では分からない。
「このっ、放してっ!!」
「抵抗は無駄だ、巫女よ。我々の勝利の礎となってもらう」
「こ、の…っ! ぁ——っ」
衝撃が走ったと感じて、そのことを考えるまでもなく意識が遠のいていく。
(そん、な———、ごめ——ん…みんな——)
薄く残った思考。
気を付けろと言われていたのに。こんなに、あんまりにも簡単にさらわれちゃうだなんて申し訳なくって、恥ずかしくって。合わせる顔がない。
でも、私は自分本位な人間なんだろう。
だって気を失う寸前に思ったことは世界がどうこうじゃなかったんだもの——。
(……夏祭り、行きたかったな———)
□ □ □
「ここに、ナイギが…」
『界燐』の痕跡を追い、たどり着いたのは周囲を林に囲まれた貯水池。大きなため池と言ったところでしょうか。
この場はすでに敵地、領域の中心地に他ならない。
「四方展開——」
大地に真円を描き、己の領域と化す。しかし、気配の主を探ろうにも、大気中に満ちた『界燐』のせいで詳細な索敵ができないでいる。
「姿を見せなさい崩界の尖兵、ナイギ! ヨナギ様を何処へやった!」
こんな呼びかけ、マトモに返ってくるなど思ってはいない。何らかの行動を呼び起こすことが出来たのならば十分——。
「そりゃあ勘違いだ。引き起こしたのはオレだがな?」
「——ッ! …アナタは、何故ここに居るのです。当分は姿を見ることは無いと考えていたのですが」
「んー、嫌われたもんだ。ホント、前来た時にもっと友好的に接するべきだったと反省だ。おかげで従者ちゃんとゆっくりおしゃべりもできないんだからな」
小さくとも行動さえ起こすことが出来れば十分だと考えてはいたが、まさか正面から姿を見せてくるとは思いもしなかった。
しかし、それも相手が相手なら疑問さえも抱かない。
「ユーリ・ナイギ……っ」
「よ、従者ちゃん。いや、シエちゃんだったな。今からはこっちで呼ばせてもらうぜ?」
ナイギ家次期当主、レギオンを除き目下最大の敵である男が姿を現した。
「アナタに名前で呼ばれる理由はありません。…それにヨナギ様はどこです、いくらアナタであろうとも私の主が敗れるなどありえません」
奇襲に備え警戒しつつも周囲の気配を探るが、決して紛うことない彼の気配を感じ取ることができない。
「そりゃあそうだろう、なんたって少年はここに居ないわけだしな」
「…っ」
「ちょいとした結界を張ってる。少年とジンの周りと、この場所に二種類」
「ならば、私の感じ取ったヨナギ様の気配は——」
「ああ別の場所のもんだ。今頃ジンと斬り合ってんじゃねえかな。んで、そこで発生した『界燐』やらをこの場所から発した。シエちゃんがこっちに向かってる間、無防備になった巫女ちゃんはアイツの部下に連れ去られてるってな。それがアイツの立てた筋書きで、オレは条件付きの手伝い」
「ならばここに用はありません。アヤネを救いに行くことの方が先決ですから」
「そりゃないぜシエちゃん。オレとの再会に乾杯、くらいしてくれてもいいんだぜ? それに、一応は敵のキミを前にして逃がすとでも?」
「アナタならば気まぐれを起こしても驚きはしません、が…」
「はっはっは、今回は残念だがそうもいかない。なんたってオレの目的はシエちゃん、キミだからな」
これまでお茶らけていた空気が、霜が降りるようにゆっくりと凍り付いていく。貯水池の周囲含む一帯を囲い、決して逃がさぬように氷の鳥籠を形成し始めている。
「………」
「おいで、今ならシエちゃんを助けられる。オレなら、キミを幸せにできる」
「…知っているのですね。私が“墜天子”であると」
「そりゃ、その髪は特徴あるからな。で、シエちゃんが何でラゥルトナーの下に居るのかは知らない。だが、このままオレたちと敵対したところで——」
「黙りなさい——」
槍を握り直し、徹底抗戦の構えを見せる。
「私の命とこの槍の総て、一切の例外なく主に捧げたモノ。貴様の言葉を聞くつもりは無い。逃れられぬというのなら致し方なし。私の名は、シエ・ジンリィ。ラゥルトナーに命を捧げた戦士です。世界に仇為すナイギの後継よ。今日この場でその命、我が槍で葬り去ってみせましょう」
正面切っての宣戦布告、これで逃げ道は消え去り背水の陣と化した。
敵であるユーリも戦うという選択をとらざるを得ない。そうでないのであればこちらから初撃を放つのみ。
だが、彼が浮かべた表情は戦いへの歓喜でも、怒りでもなく——。
「そうか、そういう事なら、仕方ないんだろうな…。可能なら、キミを傷つけずに連れて帰りたかった。それでも時間はかかるだろうが、心から笑うキミの姿を見たかったからな。…けど、やっぱり難しそうだ。…オレのことは後からゆっくり知ってくれればいい。だからすまない、オレは力づくでもキミを連れて帰る——」
「出来るものなら、やってみなさい——ッ!!」
外界へと通じていた空は、鳥籠によって隔絶された。もはや、ユーリを倒すことでしか脱出することは不可能。
「すぅ——、ふ——っ」
この私に出来るのか。真の力の一端も見せていない相手に対して、勝利を収めることはできるのか。
分からない、分からないが——、恐怖によって槍が鈍りはしない。
主に捧げ、友のために振るう。この手は、足は、心は、決してくじけることなどありはしないのだから。
「分かってるだろうが…、一応名乗ろうか。オレの名は、ユーリ。『崩界』、ナイギだ。…可能なら、キミを救わせてほしい」
茜から黒へ染まり始めた空を見上げた彼は、心から哀し気に救済の手を差し伸べた。
ヒロインの中で一番乙女なのは多分皆方です。
それぞれに戦闘が発生し、思惑も動き始めています。
ユーリにとっての戦いは些かズレている部分もありますが、彼にとっては何より重要なことです。




