24.氷の鳥籠③
「なるほど、確かに厄介らしい。流石次期当主」
「はい、ユーリ・ナイギが『楔』と呼んでいた代物の効果が切れ、死を目前とした状態であって尚、どこか余裕を持っていた姿からは底が見えませんでした」
「まあ、全力じゃなかったのは間違いない。そもそもあれ以上粘られてたら流石にヤバかったしな。…ったく“アレ”は捨てるように言ってたつもりだったんだがな」
「アレ…って、玄関に置きっぱなしの剣のこと?」
「ああ、昔使ってたやつだ。リアに捨てとけって言ってたんだが」
例の剣は床を気付付けるわけにもいかないから傘立てに立てておいた。シエの使う槍のように『四方界』を使っての格納をしたいが今はガス欠でそれすらできない。また明日だな。
「ふふん」
「いや、ふふんじゃなくてだな」
「なぁに、実際役立ったのだからいいじゃないか。これでヨナのパワーアップ問題も半分は解決だ。もう半分は本人に頑張ってもらおう」
「へぇ…あの剣ってすごいんだ」
「ちょっと値段がつけられないくらいには凄いかな」
「ぶっ」
「噴き出すな、別に売ることないから気にする必要ないだろ」
「ご、ごめん、でもでもっ、そんな凄い剣なんて持ってたんだね。…いま傘立てだけど」
半ば呆れたように玄関の方へ視線を向ける皆方。価値のつけられないものである以上、値段なんてものはどうでもいいものだし、武器として使えるのならそう使うべきだ。
「ま、夜凪君がそう言うならそうなんでしょう。その他に私に言うべきことはあったりしないのかなー?」
「…すまなかった」
「うーん、それは何に対して?」
「皆方に隠し事をしてることだ。けど、これはまだ言うべきじゃないと——」
「そうじゃないでしょっ! まったく夜凪くんはそういうところダメダメだねっ!」
「え…? じゃ、じゃあなんだよ…。他に皆方に謝ることって言ったら……」
「シエを泣かせたこと以外に何があるの!」
「アヤネ…っ、私は気にしていないのでっ、——んむむ…っ」
腕を組んで仁王立ちする皆方と慌てるシエの口を塞ぐリア。その圧力は椅子に座った状態でたじろぐほどで、正直ちょっと逃げたい。
「…す、すみませんでした……。今後二度とこのようなことがないように気を付けます…」
「気を付けるだけじゃダメ、二度と無いようにするの」
「……はい、二度と無いようにします。絶対に」
しっかりと頭を下げ、ちゃんと謝る。その状態が十秒足らず、状況がどうなったか不安になり始めた時。
「ならよしっ、許しましょう! もう、夜凪くんは男の子なんだから、女の子泣かせちゃダメだからねっ! 特にシエはすっごく慕ってくれてるんだから!」
「……はい、ガンバリマス…」
「うんうん、ヨナもいい具合に尻に敷かれ始めてるねぇ。こういうことの積み重ねが将来的に反論さえも出来なくなっていくわけだが、私たちにとってはいいことづくめだ」
「…お前なぁ。はぁ…、分かってる。もうこんなことはない、誓ってもいい。だから今日はもう寝ていいか? 久しぶりに全力で自前の『四方界』使ったからヘトヘトだ…」
「あ、そうだよね、ゴメンね。じゃあシエ、私たちも寝よっか。シエも疲れたでしょ?」
「ありがとうございます、アヤネ。では…、お先に失礼しますヨナギ様、リア様」
「うん、お休み。じゃ、私も寝ようかなー」
それぞれが眠りにつくための移動を開始する中、最後に立ち去るリアの背に声をかける。
「リア」
「うん? どうしたんだいヨナ、一緒に寝たいなら歓迎——」
「大体は“視てた”ろうから分かってるだろうが、全部じゃないまでもユーリに俺の事バレたぞ。黙ってるとも言ってたけど」
「知られたなら仕方ない。その言葉を信じつつ、こちらはこちらで準備を進めるしかないね。久しぶりの剣はどうだった?」
「悪くない、俺の方が鈍ってたからそこだけだ。戻すのに時間はかけない」
「そっか、それじゃあ、“アレ”は馴染んだかい?」
かつて、リアに武器を押し付けた時代わりに渡された“モノ”。あれからしばらく経っているが、自分で感じられるほどの現象は何一つ起こっていなかった。
「さぁな、自覚はない」
「分かった。今日は頑張ったね、ゆっくり休むといい。ああそうだ、ヨナが良いなら一緒に寝ても——」
「ねえよ。ちゃんと布団被って寝ろよ、おやすみ」
「はいお休み。もぅ、ヨナは素直じゃないなぁ」
「言ってろ」
自分の部屋へ戻りベッドへ横になると、久しぶりの『破界』を行使した影響か、身体の内に熱がこもっている感覚に囚われる。
「はぁ……、ったく。変な感じだ…」
何となく焦燥感を覚える違和感は、『破界』を扱う感覚を取り戻すまでは続くだろう。
(けど、今は休もう…)
そう、次の戦いに続けるため、今は休息しなければ。
重たい四肢に溜まった熱を吐き出すように、ゆっくりと呼吸を続けること数分。見つめる暗闇は天井のものではなく、いつしか瞼の裏に変わっていた。
□ □ □
帰還早々、いやそれ以前からこの男は軽口を止めることはしなかった。
「あー疲れたー」
「その割には既に傷はふさがっているようですが」
「あ、バレてた? まあいいじゃないの。せっかくヌイちゃんが肩を貸してくれてるのに甘えられないなんて損だぜー? げっふ!?」
「こちらにとっては損以外の何物でもないですが」
「っつぅー…。だからって孔空いてたとこ殴るのひどくねーかなー?」
「肘鉄です。殴ってはいません」
「そういうのいけないんだぜー? 悪い子になっちまうからな」
「今の時点で自身が正義など思ってはいませんよ。ただ男の屑に———」
「そこで止まれ獣、止まらねばこの場で殺す」
「———ッ」
月明かりの差し込む廊下、殺気を放ちながら一人の男が立っていた。
影となっていて顔は見えないものの、こちらを見下すような圧力を問答無用で掛けてくるものなどそうはいない。
「よぉジン、なんだなんだそんなしかめっ面してよお、もっと笑えよな」
ジン・ナイギ、レイガンの息子でありユーリに次ぐ実力者。そして筋金入りの階級主義者。
その彼はユーリにしか興味ないのだろう、私に話しかけられでもすればその瞬間首が飛んでいてもおかしくない。いや、間違いなく行う現実だ。
「貴様ユーリ、一体どこへ行っていた」
「なんのことやら」
「つ———ッ?!」
質問をはぐらかした瞬間、廊下全てが凍り付き、その全てが砕け散った。
「おいおいマジになるなって、短気なのは良くないぜ? せっかくの廊下をこんなにボロボロにしちまってさぁ」
「その戯けた口を閉じるか質問に答えろ、次は防げると思うな」
立っていたジンの手に握られた刀が抜き放たれ、銀の刀身が姿を現していた。そして、一振りの刃が巻き起こした惨状も同時に目に入る。
「…っ、な……、これは……」
初めて目の前でユーリの『四方界』を見たが、ただそれだけで効果範囲、性能共に私自身のものとは隔絶した能力だと分かった。
あの分厚い氷壁を幾重にも張られれば廊下という狭い場所では正面からの突破は困難を極めるだろう。
だが、もとあった廊下の面影は既に消え去っている。
壁として立ち塞がった氷は全てが”打ち砕かれ“、背後へと吹き飛ばされていた。その衝撃によって廊下の窓ガラスも、床も天井さえ全てが蹂躙されつくしている。
原型をとどめているのはジンの立つ位置を境界線として背後、そしてユーリを中心とした一部のみ。肩を貸していなければ私も衝撃に巻き込まれ、斬撃か氷の破片によって人体の形状を保ってはいなかったろう。
「まったくよお、相も変わらず無茶苦茶しやがる。そこまで世間話が嫌いな奴もお前くらいのもんだろう」
「問答をするつもりは無いといった。そして、質問に答えるつもりは無いらしいな」
力なく握られた刀を一振り、それだけで再び防ぎきれない衝撃波が向かってくる。
「おっと」
そうして先ほどと同じことが繰り返された。斬撃による破壊、氷壁の創造。互いに瞬き程の刹那で交わされる攻防は百以上に及び、その度に周囲の地形が変わっていく。
刻まれ、砕かれ、圧縮される。
おおよそ刀一本で行われているとは思えない異能により、予測できない暴虐の嵐となって喰らい殺さんと死が迫りくる。
その攻防、総てを認識することはできず、次元が違うともいえる実力差から間に入ることも許されない。一歩でも動けば死だということが確信として感じ取れるほど。
(一体…っ、いつまで続けるつもりだ——っ)
この状況に置いてまだ肩を借り続けているユーリの表情に陰が落ちることは無く、いつも通りの様子で防ぎきっていた。
ジンも同様、しかしこちらは眉間の皺をより深くし続けていて、このまま防ぎきったところで破壊の段階が引き上げられるだろうことは目に見えていた。
「ユー、リ様…、このまま、では——」
「んー? ああそうね、流石に叱られるか。ちょっと鈍ってたからリハビリついでだったが今日はここまでだな、いったん切るか」
肩に回していた腕をどけると傷など初めからなかったように一人で立ち、これまでなかった『界燐』の昂ぶりを感じ取った瞬間。
「———ッ!?」
「四方展開——」
『創界』領域『氷幽鳥籠』
その言葉と共に防御にのみ創造していた氷壁の規模が跳ね上がる。
すなわち、ここまで歩いてきた、これから進むはずだった道のりが隙間なく氷に埋め尽くされたのだ。
あまりに厚い壁の出現によってこれまでの破壊音がまるで嘘のように静寂へと切り替えられた。
足場が残っているというのなら私達が立つ場所のみ。その他の場所は凍り付いているのだから逃れることが出来なければ、ジンもその例外ではない。
隣に立つ、この状況を成し遂げた男は息一つ切らすことなく腕を天井に向けて身体を伸ばしてあくびなどを行っている。
「さぁて、これで静かになったし被害はストップ。完璧だな」
「…とても、そうとはおもえないですが……。それに、ジン様は——」
氷の透明度は低く、先に立っていたジンがどうなったのかは分からない。しかし、先ほどまで容赦なく繰り出されていた攻撃が止まっているということは氷壁の中に閉じ込められたということか。
「ほっときゃいいんだよ。どうせ死にゃあしないし、すぐ頭に血が上るからなアイツ。これくらいやらないと止まりやしねえ」
「しかしユーリ様…、これでは我々も戻ることは出来ないのでは」
「そりゃ心配ない、オレが作ったんだ壊すのもお手の物ってな」
ユーリが壁に手をかざすと、押し広げられるように人が通れる大きさの洞穴が生み出されていく。その通路は氷塊の先、被害の及んでいない端部まで通じていた。
「なぜこれほどの力を持ちながらラゥルトナーに攻め入らないのか不思議でなりません」
「そりゃあ気分が乗らないからだな。今日のは少年に話を聞きたかっただけだしー」
「………やはりバカか?」
「聞こえてんぞー」
「気のせいです」
「ははっ、そうかい」
もはや肩を借りる素振りさえ意味はないと揚々と歩くユーリの後ろに付いて行く。
歩く中、ジンからの攻撃が再開されるのではないかと周囲を警戒しながら進むが、人の気配すら感じ取ることは無い。まさか、本当に——?
「お、いたいた。腕も振れなきゃ刃物も泣くねぇ」
「———」
平穏と破壊の境界線、さっきまでジンが立っていた場所から数歩進んだ先に彼はいた。
反撃を警戒し刀を構えている。だが、範囲攻撃であることを察して回避しようとしたのだろう。
飛び退いた状態で氷漬けとなっているジン・ナイギの姿がそこにはあった。
「…これは…、本当に死ぬ心配はないのですか。いくらジン様でもこのような状態では——」
「おっとヌイちゃん、そういうことをソイツの前で言うのは危ないぜ?」
「え——?」
反応はできなかった。
気づいた時には全てが終わっていたし、私は何一つ認識する間もなく倒れ込み、支えられるようにユーリの腕の中に抱きかかえられていた。
「………っっ」
肉体だけは反応しようとしていたらしい。心臓が痛いほどに高鳴り、生命の脅威に対応するために駆動しようとしていた。だが、それでなお遅かった。
結局は何一つ認識することもできずにユーリに助けられたのだということしか分かっていない。
「———、ユーリ、様……」
「だから言ったろう? ソイツの前では気を付けよう、ってな?」
変わらずにイタズラっぽく笑うユーリ。
抱かれた私からは天井を見つめることになるが、彼の表情の次に目に入ったものこそ私の命を奪い去る脅威そのものだった。
「まさか…、そんな——」
そこにあったのは一振りの刃。
ユーリが生み出す氷の刃のような、何かで新たに生み出されたものではない。まごうことなくこの場に存在していたモノ。
驚くべきはソレはまさしく“氷の内側から”放たれた攻撃だということだった。
「あの状態から、動ける…のか……」
如何なる所業か、全身隙間なく氷に閉じ込められ、指一本動かすことが出来ない状態から放たれた氷壁を突き破る刃の切っ先。それは寸分違わず私の頭があった位置を貫き、ユーリが腕を引いてくれていなければ今頃串刺しとなっていたのは想像に難くない。
次いで、視線を向けるのは氷に閉じ込められているはずのジン。そして、目に入ったのはこちらを睨みつける怒りに満ちた表情だった。
「——っ……ぁ」
身体を貫く視線によって、こちらが閉じ込めれられたのではないかと錯覚するほどの圧力によって、上手く身体を動かすことができない。
だが、その視界を遮るようにユーリの手が私の目を覆った。
「こらえ性がないぜ、女の子の言ったことくらい流す器量を持てよな。それくらいでいいかと思ったが…気が変わった。お前はそこでしばらく反省だ」
「ユ———リ……ィ……!」
かすかに聞こえる声はその熱で氷壁を溶かしてしまうかの如く怒りに溢れているが、ぶつけられた本人であるユーリは一切動じることはない。
「よし、ヌイちゃん立てるか? レイガンの旦那に睨まれるよかずっとマシだと思うんだがな、ハッハッハ」
「た…、立てる…ます…、もうしわけ、ありません……」
「いいってことよ、女の子は例外なく大事にしないとな。さて、朝まではここに居てもらうとするか」
恐らく、私を狙った攻撃で動くことのできる限界だったのだろう。突き抜けた切っ先はそれ以上動くことはなく、感じられるのはぶつけられる怒りのみだ。
「一応言っちゃうとな、ジンの『領域条件』とオレの能力は相性最悪でさ。その気になれば一方的に勝てちゃうんだなーこれが。まあオレってばそれなり以上の天才だからそうそう負けないんだが——」
言いながら切っ先に触れた指先から凍てつき始め、内部へと侵食するように音を立てながら進んで行く。
「——ぐ……ッ——…ッゥゥ———!」
喉を震わせる声は苦痛によるものだ。そう認識した途端、周囲の気温が急激に奪われる感覚に襲われた。
(あの氷、ジン様の肉体そのものを凍らせているのか。その上、これほどの気温変化となれば、いったいどれほどの——)
今でさえ周囲は氷壁に囲まれ、寒くないと言えば嘘でしかない状況。だというのに、人一人分の凍結が行われただけで更なる温度変化が起こっている。
ならば、今ジンの肉体は想像できないほど、極低温となっているのだ。それこそ、指一本動かすことはできず、仮に動かそうものならば血の一滴も流れず砕けてしまうほどに——。
そうして、立ち去った後に残されたものは破壊の傷痕と氷漬けとなったジンのみ。廊下を埋め尽くしていた氷壁は『四方界』の解除と共に『界燐』へと戻り、跡形もなく消え去った。
「よし、あんなもんでいいだろ。これで少しは静かになる。ったく、オレも疲れてるんだから面倒増やすなよなぁ。あーあー、少年の従者ちゃんがいてくれたらなー!」
「………」
「ん、どうしたヌイちゃん。いつもなら男の屑だのもっとまじめにやれだの突っ込んでくれるところなのに」
「…いえ……、大したことでは、ありません。少しだけ疑問を——」
「ジンの事なら深く考える必要ないと思うぜ。大した話じゃないからな。もしも次会った時に襲われるんじゃないか、って話ならまぁ…運が悪けりゃ有り得るかもな」
「しかし…、気にはなります。なぜあれほどに私の様なものを嫌うのか。なぜ、ユーリ様へ怒りをぶつけているのか」
「んー、ホント大したことじゃないんだぜ? どこにでもある話でさ。
ただこれ言うと八つ当たりでヌイちゃんが狙われる可能性上がるからなあ…。せめてさっきの不意打ち防げるようになれるくらい強くなったら教えてやるよ。それまではぜひ頑張ってもらいたい」
「ぐ…それは…。いえ、ユーリ様…さっきはありがとう、ございました。まだ、礼を言っていません、でしたので…」
「いいっていいって。…んなことよりさ、やっぱり様付け止めない? お互いイヤだろそれ、口にするたび苦虫かみつぶしたような顔されるとなんだか悪いことした気分だしさぁ」
「立場と言うものがある以上仕方ないでしょう、脳内では呼び捨てなので許していただきたい」
「…それはそれでどうだろうか……。ふぅむ、ま、いっか。ヌイちゃんらしくていいと思う。とりあえず今日は寝ようぜー、オレももう疲れちまったよ」
思い返せば腹を貫かれていたはずなのに、さっさと進むユーリはやはりすさまじい力を持っているのだと改めて思い知らされる。
「なのだが…な……ぁ」
「そうだヌイちゃんっ、オレってば命の恩人なわけだし今日くらい一緒に身体を温めあったりだとか思わないか———アダッ?!」
「その軽薄な態度を改めてから誘ったらどうだ? …ですか?」
顎を的確に打ち抜いた右手をさすりながら床に倒れ伏したユーリを残して自分の部屋に帰る。
「おーっぃ、ヌイちゃんやーい…肩貸してくれぇー。他に誰か居ないかー…?」
「あれーヌイちゃんじゃーん、おかえりー」
「ああ、今戻った。あの馬鹿も連れて帰ってきたから必要なら肩を貸してやればいい」
「え? ユーリ帰ってきたの? あ、またヌイちゃんに手を出そうとしたなアレは?」
「アチラで一人口説こうとしていたがな」
「まあそれはユーリの病気みたいなものだしねー」
「えー? どうする? 助けてあげる?」
「私もう寝るつもりなんだけど」
「アタシもです。それにこれ以上寝るのが遅くなるとお肌に悪いですし…」
「そうしろ、今回は自業自得でしかない」
「よし、なら寝よう。ユーリはほっといても大丈夫でしょ。明日になればピンピンしてるよ」
「イエテルー。てかワカルー」
「「「「「それじゃ、お休みー」」」」」
「…ヒッデぇなぁ……。ふっ、でもお前たちのそんなところも大好き、だ、ぜ……」
彼女たちの元気いっぱいな声が聞こえてきて嬉しいやら悲しいやら。心中複雑なのがジッサイなところだが、事実しか言ってないから気にもならない。
「それにしても、従者ちゃん可愛かったなぁ……ガクっ」
気を失う寸前の言葉がコレなのは、我ながらどうかと思っ……ま、いっか。
「なんつって、下手に丈夫だと気絶も難しいってな」
明日は明日の風が吹く。当面やることと言えばヌイちゃんの特訓と『楔』の制作だが……、まあ急ぐ必要もない。
———ラゥルトナーの行く末っていうものがどうなるのか、この目で確かめたくなったのだから。
わざわざ出向いて蹂躙するなど何一つ面白みのないことをしたくはない。
ならば、次に会う時を楽しみにしながら今は眠ろう。きっと、面白いことになるとオレの直感が告げている。
さて、この先どう転ぶのか、特等席で楽しませてもらうとしようか。
「へっくし——!」
その前に…、ホントに誰も肩貸してくれないのは酷くないかい?
「はぁ…、まあいいさね。偶には野宿ってのも悪くない」
寝返りをうって見上げた空、さっきはあったはずの月明かりさえない黒い空が世界を覆っている。生まれてからこのかた見続けてきた空だが、流石に嫌気も差してくる。
「待ってろよ、もうすぐだ——」
彼にとっての大切な者達へ向けた独り言は荒涼と乾いた空へ浮かび消えていった。それに新しく助けたい少女も現れてしまったものだから困ったもので。
「いやぁしっかし、ラゥルトナーに墜天子いるとか思わないわ。しかも可愛い、うん。いやほんとマジで少年羨ましすぎねえか。あーいいなー! 少年いいなー!!
………はぁ、誰も来やしねえ」
声を上げてりゃ一人くらい来てくれるかと思ったが足音一つ来やしない。来る可能性が一番高いのがジンまであるぞ。閉じ込めたっていってもアイツも弱いわけじゃないから今頃脱出済みだろうし。
「はぁ…、夜風が身に染みるねぇ……」
氷を張れないことも無いがそれはそれで寒そうだし今は燃費も悪い。
どうせ明日からはゆっくりするつもりだし、一日くらい地面で寝るのもいいかもしれない。なんてことと従者ちゃんのことを考えている内に眠りについた。
「ん…」
その後、朝を迎えた時雑に毛布が掛けられていたが、恐らくやった本人からは『しったことではありません。どこかで恩を売った相手の気まぐれでしょう』なんて言ってたかな。
——うん、そういうところが可愛いとおも———ごふっ!?」
「途中から声に出てますよ。ほら、そこに立ってたら他の者の邪魔でしょう。さっさとどいてください、朝食にしますよ」
「はいはい、ほうら子猫ちゃんたちー飯の時間だぜー。…ふむ」
朝っぱらから殴られたが、まあこの子とはこれからさ。オレ的には中々に上手くやってける自信があるね。
「……なんですかそのにやけた顔は…、気色の悪い」
「いいやなんでも? ほら、ヌイちゃんも座った座った。マダムは茶を淹れる以外に料理も絶品だ、感謝していただこう」
ぞろぞろと集まってくる女の子達が席に着きながら各々食事をとっていく。
『崩界』の暗い空の下で、少なくともここだけは明るい花々が咲いている。これから先の戦いで何があろうとも、彼女達の美しさを奪わせることはしない。
「…なんてな」
「?」
「あ、ユーリが朝からカッコつけてるー」
「え、マジ? 見るのやめといた方が良いよ、あとでのガッカリ度が跳ね上がるから」
「お前ら言ってくれるなぁ、そこまで言わなくてもいいだろう? それにオレは——」
「いつもカッコいいでしょ? 知ってる知ってる」
「いっつも言ってるもんねー?」
「ねー?」
「「「あはは」」」
「コイツらは全くもう好き勝手言ってくれやがる。まあそこも可愛いんだけどな! アッハッハっ」
ああそうだ、決して失うつもりは無い。
『崩界』という名の日の光差さぬ氷の鳥籠から彼女らを羽ばたかせるためならば、この身は非道を歩むことにためらいはない。
それがこの世界以外、多くの人間を不幸に陥れる行為に他ならないのだとしても。
ジンは普段のユーリの態度を前に怒りを覚えているので、会うたびに喧嘩を吹っかけています。
いつもならばほどほどに終わるのですが、今回はヌイちゃんに手を出そうとしたため、しっぺ返しを受けてしまいました。
ユーリは自分なりに行動していますが、他人にはあまり知られたがらずに個人行動をとるため周囲からの扱いは作中の通りです。




