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 ほんの数秒が、これほど長く感じたのは、おそらく生まれて始めてだろう。

 佐藤のヤツは、わりいわりいと言っているが……

 その爽やかな笑顔は反則なんじゃないのか?

 一歩間違えば入学早々他界しちまったかもしれねぇっつーのに、怒る気すら失せちまう。

 普段の俺だったら確実に『リア充死ね』とか言ってるはずなのだが。

 こいつらにかんしては、不思議とそんな気分にはならなかった。

 まぁ、それだけこいつらがいいヤツってことなんだろう。

 だからこそ、思いつくまま助言してやりたくなっちまっていた。


「っていうかさぁ。要するに佐藤の隣歩いてるのが如月さんだってわかんなきゃいいんだろ?」

「まぁ…そりゃぁ。そうなんだけどよ~……」


 体格だけで佐藤だと判断出来ちまうヤツは論外だとして、如月さんの方には手を加える要素がある。

 改めて見ても、顔が良くてプロポーションがモデル並みって以外に問題点はなさそうだ。

 長い髪だって髪型を変える幅が広がると思えばかえって好都合とも言えるだろうしな。


「うん。やっぱ、如月さんって眼鏡似合うと思うんだよね」

「え? 私、視力に問題はないわよ」

「や、だからさぁ! 眼鏡掛けて髪を、こー、おさげにして……。あとは、ん~~~。そうだなぁ。ベレー帽もありか! んで、スケッチブックでも持ってりゃそっち系の人にしか見えねぇんじゃね?」


 如月さんは、ポカーンとしていた。


「あ、相場……お、お前って……」


 佐藤は、またしても気色悪い目で俺を見つめていた。


「あんだよ! 言っとくけど崇めたってなんもでねぇぞ!」

「天才だなっ!」

「んなわけあるか! こんなん普通だろ!?」

「いやいや、本当にスゲーって、言うか! 完璧だって!」

「どこがだよ! むしろ似合いすぎてダメ出しされるレベルだわ!」


 なにせ相手は親である。

 よほど巧妙な変装でもしない限り誤魔化すのは難しいに決まってる。

 自分で言っておきながら、絶望感すら覚えるわ!


「いやいや、本当に完璧なんだって! さっちんがスケッチブック持ってるとか絶対にありえねぇし!」

「あんでだよ! いかにも才女って感じだし。普通に賞とか取ってそうじゃねぇか!」

「こほん。そ、その、才女って言うのは褒め言葉として素直に受け取らせてもらうけど……その……」


 なぜか如月さんは、真っ赤なお顔でもじもしとしてらっしゃる。

 どうやら俺の提案は、泣きたくなるレベルで嫌みたいだ。


「や、別に。ダメならダメでいいんだって!」


 どっちみち、他の組み合わせを考えなければならんからな。


「いえ、そうじゃなくて……。私、本当に絵だけは、ダメ、なの……」

「へ? そなの?」


 如月さんは、申し訳なさそうにうなづいた。


「前衛的と言うか、抽象的と言うか、私にしか理解出来ないみたいで……」 


 どうやら如月さんは、変な意味で画伯と呼ばれる存在だったらしい。


「あはははは! だからさっ! さっちんが『いかにも私、絵を描いてます!』みたいな格好をしてるだなんて誰も考えねぇんだって!」

「ふむ……」


 なるほどな。それならば確かに親でも騙せそうだ。


「じゃ、デートん時は、そんな感じで待ち合わせすりゃいけるな」

「えっ?」

「で、デートって……」

「はぁ? なにいまさらてれてんだよ。付き合ってんだろお前ら? ってゆーか、周りの目を盗んでこそこそするくれぇなら堂々とデートした方がいいに決まってんじゃねぇか!」

「いや、まぁ。そぅ、なんだけどよ。あからさまに、そう、言われるとだな。恥ずかしいっつーか。なんつーか……」

「こほんっ! この件については、これで落着したことにして。別件で確認したい事があるのだけれど、いいかしら?」


 顔は佐藤と同じく真っ赤だが、するどい眼つきは別。

 明らかに脅威とか不安だとかいったものを強く感じた。

 どうやら、いい加減な気持ちで受け答えしてはいけない話のようだ。


「まぁ。答えられる範囲なら、な……」

「そう。だったら言わせてもらうけれど。あなたいったい何者なの?」


 んなもん俺が一番知りてーわ!


 過去の記憶をあされば相場勇気がどんなヤツだったのかを知る事は出来る。

 でも、それは知識として得られるだけであり実感は全く無いと言っていい。


 ヘタレ勇者……か……


 そのあだ名が、今の自分に相応しいとも思えなければ、友人達の顔も両親同様にぼやけていて判別出来ない。

 まるで俺には、いくつもの過去が存在しているみたいだった。

 その中で、今の自分を構成したと思える情報を元に考えれば――

 俺は、相場勇気としての自分を否定しなければならなくなる。

 長い沈黙の後。


「ただの高校生だろ?」


 そう答えるのが、やっとだった。


「そぅ……」


 如月さんは、どこか寂しそうな顔をしながらも言葉を続けた。


「あなたが、そう言うなら。今は、そう言う事にしておきましょう。あなたには借りがある。なにより私達に対し全面的に協力してくれるとも言ってくれた。だからこそ、私も同じ言葉で返すわ。例えあなたがどこの誰であったとしても、全面的に協力するって」


 なんだろう。この感じ?

 もしかしなくても、アニメとかの世界観が好きな人だったりするんだろうか?

 別に苦手じゃないし。どちらかと言えば俺もそちら側の住人なのだが……

 なぜか、次元と言うか感覚的に、大きなズレみたいなものを感じずにはいられない。


「え~と、だなぁ。なんだ。ここは、ありがとう、ってことでいいのか?」

「礼には及ばないわ。この場合。どちらかと言うと交換条件に等しいもの」

「おいおい、ちょっとまってくれって、さっちん! いくらなんでも訳が分からなさすぎるって」


 はぁ!? なんだよそりゃ!

 もしかして夫でも分からねぇ未知のスイッチ入れちまったってことかよ!

 どうなんだ、これ?

 ラノベの主人公に比べりゃまだまだなんだろうが……

 悪い意味で味わい深い高校生活が始まる予感しかしねぇ。



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