第1π 良いおっぱいと出会う
※2話執筆中にキャラクター名を変えました。
灰次は体のだるさを感じつつ、顔を叩かれる感触で起きた。
「おい、大丈夫か? おーい」
女が灰次の頬を軽く叩きながら声を掛けている。
「うん……?」
灰次が目覚めると一番に目に入ったのは大きなおっぱいだった。一気に目が覚める。光沢のある鉄のようなビキニから、乳肉がはみ出している。
「おおっ!」
「起きたか」
女はほっと安心したように息を吐いた。
灰次は上半身を起き上がらせると、女の顔を見た。兜を被っているので違和感を感じたが、コスプレか何かかと思った。なかなかの美人だが、頬に傷があり、精悍な面構えをしている。露出した腕や腹は程よく筋肉がつき、引き締まっている。腰には剣のようなものが差してあった。
「君は?」
灰次が訊いた。
「私はメークル・スカット。職業は戦士で、冒険者をしている。お前は?」
「俺は……乙武灰次。会社員だ」
「オトタケハイジ……? カイシャイン……?」
メークルは灰次の言っていることがよく分からないのか首を傾げた。
「それより、ここはどこです?」
辺りを見回すと森の様だが、どこの森なのだろう。全く見覚えが無い。
「ここはレッドベアの森だ。知らずに入って来たのか?」
聞いたことのない森だった。そもそも、日本の新宿にいたはずだが、なぜこんな森の中にいるのだろう。
そこでふと記憶がフラッシュバックした。
そうだ。俺はトラックに轢かれたんじゃなかったか――?
だとすると、これは夢だろうか。
「よく覚えてないんです」
「何だって?」メークルは眉間にしわを寄せた。「何も覚えてないのか?」
「いや、自分の名前は覚えている。俺は酒を飲んで酔っ払ってトラックに撥ねられて、そこから先の記憶がないんだ」
「ふーん。酔っぱらって、気が付いたら森の中にいたってことか。どこの町に住んでたんだ?」
「えっ。浅草の辺りですけど」
「アサクサノアタリって町か。……聞いたことないな」
灰次は話が噛み合ってない事に薄々気づき始めた。メークルも同様だった。
「この変な服といい、この辺りの奴じゃないよな……」
訝し気に灰次のスーツの襟をつまんだ。
「まさか、モンスターの類じゃあるまいな?」
鋭い視線が真正面から覗き込む。
「いや、まさか」灰次は首を横に振って否定する。「違う……と思うけど」
「ふーん。はっきりしないね。怪しいな……」
睨むようにしてメークルが灰次に顔を近づけた。灰次は綺麗な顔が迫ってくるのに、少しどきどきして目を逸らす。
がさりとメークルの背後で音がした。
「うわっ。なんだあれ……」
そこには大きな熊のような獣が涎を垂らしながら立っていた。熊の様だが毛が燃える様に赤い。そして、眼もぼんやりとだが赤い光を放っている。
「まじかよ。レッドベアに出くわすなんて……。まだ夕暮れには早いのに……」
メークルが苦々し気に言う。
「レッドベアは恐ろしく狂暴で強い。数人掛かりならまだしも一人では敵わない。お前は職業は何なんだ。何かスキルとか持ってないのか?」
「えっ。職業はカイシャインで、スキルはプログラミングが多少できるくらいで、こんな怪物をどうこうする力は無いよ……」
灰次が狼狽すると、メークルは舌打ちをした。
「逃げるよ」
その時、灰次の背後からもざざっと音がした。振り返ると、もう一体のレッドベアの姿があった。
「嘘でしょ。挟まれた」
メークルの顔が青ざめた。
灰次は何が何だか分からないが、絶望的な状況であることは理解した。死ぬのだろうか。
そう思った時、頭の中で何かが囁くような声が聞こえた。
『眼を瞑りなさい。そこに、あなたの職業とスキルが見えるはずです』
幻聴かと思ったが、灰次は眼を瞑ってみた。
暗い闇が広がっていたが、ぼんやりと文字が浮かんだ。それを瞑ったまま読む。
職業:おっぱい使い
スキル:おっぱい魔法
説明≫女性のおっぱいを揉むことで強力な魔法を放つことが出来る。
なんじゃそりゃ――。
灰次は目を疑った。ふざけてるとしか思えない職業とスキル……。しかし、一か八か試すしかない。どのみち死ぬかもしれないのだ。
灰次は目を開くと、灰次をかばうように背を向けているメークルに抱きつくようにして、その豊満なおっぱいを左右から鷲掴みした。
「ごめん!」
「ぎゃっ。お前、こんな時に何してやがるんだ――」
メークルが怒鳴った。だが、灰次は揉み続けた。すると、何やら手が熱くなってきた。その熱い力がおっぱいの先端に集まってくるのを感じる。
すると、轟音と共におっぱいの先から渦巻く火炎が噴き出した。レッドベアが火炎に包まれながら、断末魔の叫びを上げて倒れた。
やった――。灰次はおっぱいを掴みながらメークルをくるりと方向転換させる。そしてさらに胸を揉む。もう一丁!
再び火炎がおっぱいから噴き出し、もう一体のレッドベアをも焼き尽くした。
凄い。よく分からないが、あの狂暴な熊をいとも簡単に仕留めたのだ。灰次は自分の力が信じられずぼーっとしながらも、妙な興奮を覚えていた。
「おい、いつまで揉んでるつもりだ?」
メークルがそう言うと同時に裏拳が飛んできた。灰次は顔面に拳を食らい、ぐえっと呻いて尻もちをついた。
「お前、何者だ?」
厳しい面持ちでメークルが問う。灰次はついた土を払いながら立つと、咳払いをした。
「さっき分かったんだが、俺は……」
一瞬躊躇する。きっと、何を言っているか分からないに違いない。俺にだって何が何だか分からない。しかし、正直に言えば何か分かるかもしれないという期待もあった。
「俺は……、俺の職業は……、おっぱい魔法を使う〈おっぱい使い〉だ」
「はぁ?」
毒虫を見るような視線が灰次を突き刺した。