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疾風の剣  作者: 村元圭
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京の街 その弐

慶四郎けいしろうは三条から河原町を下っていた。

河原町通りは藩邸が立ち並んでいる。


(なるほど、この辺りは藩邸が多いので、さすがに浪人らしき者はいない)


安島あじまさーん! 安島あじまさーん!!」


慶四郎が後ろからの声に振り返ると、若い侍が走ってこっちに向かってくるのである。


歳のころなら、慶四郎より二つ三つ年下だろうか・・・


「はっ はぁ はぁ〜・・・私です、藤堂平助とうどうへいすけです」

息を切らしながら、若い侍は名乗った。


「はて?どちらの藤堂殿ですか?」


同門どうもんの江戸の千葉道場で・・・といっても私は玉ヶ池で、安島さんは桶町ですが・・」


幕末に江戸三大道場 千葉周作の開いた玄武館(北進一刀流)、練兵館(神道無念流)、士学館(鏡新明智流)があった。

玄武館は、兄千葉周作の道場(玉ヶ池)と弟千葉貞吉の道場(桶町)、2つの道場があり、つまりは、平助は兄周作、慶四郎は弟貞吉の門弟もんていであった。

千葉貞吉は水戸藩の剣術指南を行っており、慶四郎も含む多くの水戸藩士がこの道場に入門していた。


「そちらの桶町道場に出稽古した時に二三度にさんどお手わせしていただきましたが・・・やはり、覚えておられませんねぇ・・・」

平助は残念そうに言った。


「あい、すまぬ。藤堂殿・・・」


「いえいえ、安島さんはその頃すでに、免許皆伝の実力の持ち主、私なんか覚えているはずもありませんよ・・・あ、それから私のことは平助へいすけとお呼びください。千葉道場では安島さんは私の先輩であったのですから」


「あい、わかった、平助。」

慶四郎は平助をちらりと見た。


慶四郎は呼び捨てにする事に少し抵抗があったが、平助の真剣な顔を見て素直に返答した。


「はぁ〜 はぁ は」

 

呼吸を整え平助が話しを切り出した。

「失礼ながら、さっきの越後屋の件、見させていただきました」


慶四郎は「お恥ずかしいところを・・・」と足を先に進ませた。


平助も並んで歩きだした。


「あの芹沢って人は我々の同志どうしなんですが、時折、あの様に商人を脅し銭を巻き上げているみたいなんですよ。ご迷惑だと思いますが、ここで会ったのも何かのえんと思って相談にのってもらえませんか?」


「まぁ、芹沢さんは元我が藩の藩士・・・兎にとにかく話を聞きましょう」

慶四郎は京の情勢を知りたかった。


「事の始まりは、去年の事なんですが、庄内藩の郷士・清河八郎きよかわはちろうから将軍様の上洛に際して、将軍様警護の名目で浪士を募集があったのです、私は江戸小石川えどこいしかわ試衛館しえいかんという道場の仲間たちと共に応募し、その他の浪士約200人と今年この京に入りました。」


「試衛館とは?あまり聞きなれない道場ですね?」


後の新撰組の母体となった試衛館だが、この当時はただのオンボロ田舎道場でしかなかった。無論、無名の道場であり、慶四郎も知るはずはなかった。


「あい、すみませね、この道場はわたくしの知人が門弟だった道場でして、その知人と共に道場に出入りしているうちに、居心地がよくなりまして、すっかり、門弟のようになってしまった道場です」

平助は仲間思いなのだろ、楽しそうに答えた。


「ほぉ、平助が嬉しそうに答えるとこを見ると、いい道場でしょうね」


慶四郎は江戸から200名以上の浪士組がこの京に入ったことはすでに知っていたが、芹沢や平助がその浪士組の一員だとは思っても見なかった。


「ところが、京に到着後、清河が勤王勢力と通じ、浪士組を天皇配下の兵力にしようとする画策が露見し清河の計画を阻止するために我々浪士組は江戸に戻ることとなりました。しかし、私の所属する試衛館派と、芹沢さんを中心とする水戸派は、あくまでも将軍警護の為の京都残留を主張したのです」


「つまりは、清川八郎の策略で江戸から京に来て見れば、話が違うって事で、浪士組のほとんどは江戸に帰り、平助の試衛館一派と芹沢一派だけ京に残ったのか・・・」


「はい、当初とうしょほかにも残留組はいたのですが、今となっては、我々試衛館派と芹沢派しかいません」

平助は歩きながら話を続けた。

「今は京都守護職会津藩御預きょうとしゅごしょくあいづはんおあずかりとなり、精忠浪士組せいちゅうろうしぐみとなりましたが、ところが、会津藩からお給金が出ないのです」


「なるほど、だから、芹沢一派は商人から銭を強請ゆすりたかっているんだなぁ」

慶四郎は思案した。


「京の街を不逞の浪士から守る為の精忠浪士組せいちゅうろうしぐみが京の商人から銭を巻き上げてとは・・・笑い話にもなりません・・・今では壬生みぶボロとかミボロとか、京の人々に影口言われる有様で・・・どうしたものか・・・」

平助は困惑の表情で慶四郎を見た。


「そんな顔しないでください、芹沢さんの考えが正しければ、今に給金は出ますよ」


「え?・・・どういう事ですか?」

平助には全く理解できない。


「会津藩御預かりの浪士組が、京の街で給金がもらええない為、強請ゆすり恐喝すると、会津藩の評判はガタ落ちになるだろ。つまり、会津藩は給金を払えないぐらい財政が悪いのかと悪評がたつからな、そんなことは藩主松平容保はんしゅまつだいらかたもり公がお許しになるはずがないですから」


「そんな、うまく行くのですかね?」


「出るはずです。給金が出る様になってまだ、芹沢一派が強請タカリをするなら、またその時考えればいいではないですか」




こののち一月ひとつきも経たないうちに精忠浪士組に会津藩から、給金は支払われるようになった。


それと同時に新撰組と名を変えた。










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