第4話
2時間目の途中、ポケットの中の携帯が小さく震えた。
この前の休み時間に使った後、そのままスカートのポケットに入れてしまっていたらしい。高校だし携帯禁止というわけじゃないが、原則として授業中は鞄に仕舞っておかないといけないからいつもは鞄に滑り込ませているのだけれど、慌てていたせいか間違えてしまったようだ。この手のことに厳しい先生に見つかるとややこしいが、今教壇に立っているのは比較的そういったことに緩い先生だからバレても平気だろう。ただ、2時間目ももう終わりだし、マナーモードにしているから見つかる心配はほぼない。試験のときじゃなくてよかった。
しかし、こんな時間に誰だろうか。
大鳥くんかな、と考えて頭を振る。基本的に、平日に彼が連絡してくるのは昼休みか放課後だ。
チャイムが鳴って授業が終わってから携帯を確認する。何か緊急の連絡かもしれない。
『今日、予定あるか?』
予想に反して、さっき届いたメッセージは大鳥くんからだった。
短い文章になんとなく違和感を覚えたけれど、すぐにメッセージの内容の方で頭がいっぱいになる。
もしかして、これはデートのお誘いだろうか。平日に誘われるのは初めてのことだ。彼氏と一緒に帰ったり、どこかに寄ったりということにちょっと憧れていたのでかなり嬉しい。
勘違いだったら恥ずかしいなんてことを考えながら予定がないことを伝えるとすぐに返事がきた。
『じゃあ、ちょっとうちの高校まで来ないか?』
『ダチが会いたがってるんだ』
連続で届いたメッセージに目を疑う。
目を何度か擦っても内容は変わっていなくて、わたしの見間違いではないらしい。
「え、え、ええええぇぇ!?」
間違いじゃないことが間違いだ。ちょっと自分でも何を言っているかわからない。いったん落ち着こう。驚きすぎて声が漏れていたのか、近くの席の島浦さんがびっくりした顔をしているし。
「ゆーきえ! なーに百面相してんのよ」
声とともに指で額を弾かれる。百代ちゃんのデコピンはなかなか強力だ。思わず額を押さえて唸った。
パシッという音とともに今度は百代ちゃんが呻く。どうやら杏子ちゃんに頭かどこかを叩かれたらしい。
「武器は卑怯だと思います」
「はい、却下。これは武器じゃなく教科書です」
「丸めたので叩かれたら痛いよ!」
「カドじゃなくてよかったわね」
安定の漫才を繰り広げ、ひと息ついたところで百代ちゃんがこちらに視線を向けた。
「それで、幸恵はなんで変な顔してたの?」
「え、変な顔なんてしてた?」
「うん。にやにやしたり、びっくりしたりしてた」
「最後はちょっと固まってたわね」
さすが友人。よく見ている。彼女たちに嘘は吐けないだろう。
「大鳥くんから連絡があって……」
「お、デートのお誘い?」
「うーん……デートっていうのかな? なんでも向こうの学校に来てほしいって」
「向こうって、オニ高?」
杏子ちゃんが眉根を寄せた。いかにも不審そうにわたしの携帯の方を見る。
詳しく話すまでもなく、彼女はわたしがオニ高に行くのは反対のようだ。ヤンキー嫌いの彼女が、いわばヤンキーの巣窟であるオニ高を危険だと思っているのは火を見るより明らかで、ヤンキーな恋人のいるわたしでもオニ高が安全な場所だとは思えないから当然といえば当然か。
「なんか、友達に紹介してくれる、みたいな感じで……」
わたし自身、急なことに事態をうまく呑み込めておらず、どうにも歯切れが悪くなる。はじめにあった違和感の正体を掴みかねていて、何かモヤッとするものがあるのだがそれが形にならない。
そんなわたしにもおかまいなしで、百代ちゃんは目を輝かせて小さく歓声を上げる。
「素敵! 恋人の友達に紹介されるなんて一大イベントじゃない!」
うん、百代ちゃんはそう言うと思った。
杏子ちゃんなら“危ないから止めておいたら”とか“ヤンキー校に行くなんて猛獣の檻に入りに行くようなものじゃない”とか言い出しそうだと思っていたのだが、意外にも彼女は何も言わない。目を向けると、少し考え込むような仕草で黙り込んでいる。
「なんか、変じゃない?」
ぽつりと、杏子ちゃんの口からそんな呟きが飛び出た。
「変? 変って何が?」
わたしも杏子ちゃんと同じように感じていたから彼女の言葉から察せられるものがあったけれど、百代ちゃんは訝しげだ。その様子から彼女が何もおかしいと思っていないことが伝わってくる。わたしも違和感があったといっても誰かに説明できるほどのものではなかったから、静かに杏子ちゃんの次の言葉を待った。
「いきなり過ぎない? 友達に紹介とか、今までそういう話になったことなかったんでしょ?」
「うん。あんまりわたしと会わせたくなかったみたい」
ブスな彼女を見られたくないと言われたことは伏せておこう。
「可愛い恋人をたとえ友達でも他の男に見せたくないっていう独占欲ね!」
もう百代ちゃんは放っておこう。彼女はわたしたちとちょっと違う次元で生きているから。
杏子ちゃんもそう思ったのか、百代ちゃんの台詞をあっさりスルーした。
「なんのきっかけもなく、そういう話になるもの? しかも今日でしょ? 唐突過ぎない?」
「確かにそうかも」
言われると不安になってくる。
しかし、だからといって大鳥くんからのメッセージに書いてあること以上のものは読み取れない。
「もう疑り深いわね、二人とも。そんなんじゃ幸せを逃すわよ」
「でも、変でしょ?」
「変じゃないわよ。幸恵、この間彼氏くんと揉めたんでしょ? で、めでたく仲直りもしたと。雨降って地固まるってやつよ」
百代ちゃんの言葉は楽観的にも聞こえるが、説得力はあった。
でも、あの喧嘩とも呼べない諍いは収まるところに収まったというより何となく流れてしまったような感じで、連絡してからの彼とのやり取りもなんとなく上滑りしているような、そんな空気があった。具体的にどうとは言えないのだけれど。
「友達に紹介するのが?」
「公認の付き合いってやつね!」
「それだけには思えないけど……」
わたしが考えている間も二人の会話は続いていた。
「じゃあ、杏子はなんだっていうのよ?」
「何か企んでる、とか」
「何かって?」
「お金を巻き上げたり、脅したり……とか。ヤンキーばっかりのところに引き込もうなんて碌な用件じゃ――」
バンッと大きな音がした。強く机を叩いたせいで少し手のひらが痛い。
びっくりした顔の二人がわたしを見つめている。
「それ以上、言わないで」
そう言った自分の声が思ったより低い。きっと怖い顔になっているのだろう。
杏子ちゃんがわたしのことを友達として心配してくれているのだとしても、これ以上彼女の言葉を聞きたくなかった。大事な友達と思っているから、なおさら。
「大鳥くんはそんなことする人じゃないよ」
「あ……ごめん」
「うん。心配してくれたんだよね、ありがとう。でも……杏子ちゃんがヤンキー嫌いなのは知ってるけど、あんまり大鳥くんを悪く言わないでほしいな。杏子ちゃんは大好きな友達だけど、大鳥くんも大事な恋人だから悪く言われるのはちょっと悲しい」
「そうだよね。ごめんね、幸恵」
杏子ちゃんの本当に申し訳なさそうな顔に、強く言いすぎたかもしれないと思う。
もっとやんわり言えばよかった、と少し後悔した。
「まあまあ、お二人さん。喧嘩はそこまでにして」
「喧嘩、なのかな?」
「違うと思うけど」
「まあ、何でもいいじゃない。本題に戻ろうよ」
仕切り直すようにパンッと一度手を叩いてから、百代ちゃんはわたしの携帯を指差す。
「何はともかく、気になるなら誘ってきた相手に直接訊くのが一番よ」
「うーん。まあ、断る理由もないし、誘ってもらったのは嬉しかったからもともと行くつもりだったんだけどね。ちょっと引っかかるところがあったただけで」
「幸恵、もし良かったらでいいんだけど……わたしも一緒に行こうか?」
「あ、それならわたしもー」
言い辛そうに申し出た杏子ちゃんの提案に、わたしが答えるより先に百代ちゃんが手を挙げた。
“ヤンキー校ってなんか面白そうだし見てみたい”という百代ちゃんの言葉に嘘はなさそうだけれど、それだけかどうかはわからない。杏子ちゃんはやっぱりわたしを心配して言ってくれているのだろう。
正直、大鳥くんの通う学校に興味がないわけではない。でも、噂のヤンキー校に一人で行くのは心もとなく、二人がついてきてくれるというなら頷いてしまいたいのが本音だ。
けれど、わたしは首を横に振った。
「ううん、一人で行ってくるよ。二人にこれ以上迷惑かけたくないし」
頷いてしまったらわたしまで杏子ちゃんの危惧を認めたことになるような気がして、胸の奥でくすぶる不安に蓋をして一人で平気だと虚勢を張る。
それに、二人のためにもこの方がいい。
「迷惑なんて……」
「大丈夫。心配しないで。別に向こうの学校に乗り込むわけじゃないし、たぶん近くまで行って大鳥くんと落ち合う形になるんじゃないかな」
「あ、そうだよね。普通、学校って部外者立ち入り禁止だし。わたし、中まで入れると思っちゃってた」
学校内に入れるにしろ入れないにしろオニ高の近くをうろつけば、そういう付き合いがある生徒だと二人も思われるかもしれない。穿った見方をするひとたちに、わたしの付き添いだなんて言葉は言い訳にしかならないだろう。わたしのせいで本来関係のない杏子ちゃんや百代ちゃんまで先生に目を付けられるのは避けたかった。
まあ、私の場合は目を付けられたというより心配されているのだろうけど。話を聞いていたときは混乱してうまく頭が回っていなかったから気づかなかったが、冷静になってみるとあれは仲山先生の善意だったとわかる。それでもなんだか割り切れなくて、わたしは先生に対して複雑な気持ちを抱えたままだ。
こんな自分でもよくわからないモヤモヤしたものの渦中に大事な友達を巻き込みたくない。
「じゃあ、学校が終わったら行ってくるね」
「いってらっしゃーい……って言ってもまだ授業あるけど。明日、今日のこと話してくれるの楽しみにしとくね」
「あ、あんまり期待しないでね」
「気をつけてねって言ったら怒るかもしれないけど、あんたの彼氏以外のヤンキーに絡まれたりするかもしれないし気をつけてね」
「うん、ありがとう」
見計らったようなタイミングでチャイムが鳴った。休み時間の終わりを知らせる音に何人かの生徒が慌てて教室に入ってくる。廊下に飛び出していく子もいて、きっと他のクラスの子なんだろう。
杏子ちゃんと百代ちゃんも自分たちの席へと戻っていく。
楽しみなような、不安なような、どちらとも言い切れない気持ちでわたしは黒板を見据えて放課後になるのを待った。
◇◇◇
「こ、ここがオニ高……」
鬼嶋高校の校門を前に思わず呟いてしまう。
どんな学校なのだろうかと思いを馳せていたが、想像よりもかなり……アレだ。
目の前の年季の入っていそうな校門には“鬼嶋”の文字。字面で見るとなかなかに厳つい。
見たところ他の学校とそこまで大きな差はなさそうだが、落書きだらけの外観はやや荒んだ雰囲気を放っている。おそらくオニ高の生徒が書いたのだろう落書きのほとんどはスプレー書きで、たまに路地裏の壁などで見かけるものによく似ていた。なかにはここまでくれば立派なアートと呼べそうなものもあって、つい見入ってしまいそうだ。かと思えば、漢字が間違っているものや小学生の落書きみたいなものまである。
大きな四字熟語が目につくが、これを書いた生徒はいったいどういう意図で書いたのだろう。“全国制覇”なんて、もしやオニ高では部活動が盛んなのか。
好き放題に外観を彩る落書きたちは、古そうなものから最近書かれたらしいものまで色々あってなんとなく歴史を感じてしまった。
「つ、潰れてる!?」
この近くにあるだろうとあたりをつけてインターホンを探すと予想通りの場所にあったが、なんと潰れていた。ボタンのあたりが無残にもひしゃげている。誰かが殴ったか、物でもぶつけたか……そんな潰れ方だった。
なぜ、インターホンを潰したのかは不明だ。そして、なぜ直していないのかも。
「えっと、どうしよう」
そもそもインターホンを押すという選択肢はなかった。ここが家ならインターホンを押すところだが、学校のインターホンを押して出てくるのはオニ高の先生たちであってわたしの目当ての人物ではないだろう。探したのはちょっとした好奇心だ。
「あ、そうだ!」
オニ高の外観に圧倒されてそれどころじゃなかったが、携帯で大鳥くんに連絡すればいいだけだと気づいて通学鞄から携帯電話を取り出す。
学校が終わってから一度連絡を入れたので、彼もわたしがそろそろ着く頃だとわかっているだろう。
「おい、あんたうちの学校に何の用だ?」
さっそくメッセージを入力しようとしたところで、近くから低い男性の声がした。
「え?」
突然のことにびっくりして顔を上げると、そこには大柄で厳つい男性が。だいぶ年上に見えるけれど、学ランを着ているからにはここの生徒だろう。すごく老けているというわけではないのだが、なんとなく同年代だとは思えない。どっしり構えていて貫禄があるからだろうか。
髪を奇抜な色に染めているわけでも、大鳥くんみたいにたくさんピアスを開けているわけでもないが、一目で彼もヤンキーなのだとわかった。改造しているのかちょっと変わった学ランと髪型はオールバックという出で立ちがいかにも不良っぽい。古めかしいタイプのヤンキーのひとだ。
「女がうちに何の用だ?」
わたしの頭上から降ってくる声は低く重い。
怖くて何も言えないまま一歩後ずさる。
「あー、悪い。脅かしてえわけじゃねえんだ」
わたしの怯えに気づいたらしく、彼はちょっと困ったような顔で頭を掻いた。
「何の用か知らねえが、こんなとこに突っ立ってたら絡まれんぞ。うちはガラの悪いのが多いからな。危ねえ目に遭いたくなかったらさっさと帰りな」
「えっと、あの、わたし……知り合いに会いに来たんです」
初対面の相手に“恋人に会いに来た”とは気恥ずかしくて言えず、知り合いということにしておく。
それに、このひとが大鳥くんを知っているかどうかはわからないが、彼の了解を得ずに勝手に恋人だと告げるのは憚られた。
「知り合い? 誰かの身内か?」
「いえ、普通にただの知り合いで……」
「知り合いなぁ……なんつーか、あんたみてえのは珍しいな」
「そ、そうですか?」
「まあ、いいが。で、誰の知り合いなんだ? 適当に呼んできてやるよ」
彼はすごく親切なひとだったらしい。大柄で威圧感があるからと怯えてしまって申し訳なかった。
「大鳥信也くんです。もしかして、お知り合いですか?」
全然接点のないひとだったら相手も困るだろうと心配したが、杞憂だったらしい。大鳥くんの名前を出した瞬間、彼はびっくりした顔でわたしを見つめてきた。
「シンヤの? ……てことは、あんたシンヤの彼女か」
「え、えーと……その」
「ん? シンヤの彼女なんだろ?」
どうしてか、彼はわたしが大鳥くんの彼女だと確信しているようだ。当たり前のように確認されると、頷くしかなくなる。
彼は大鳥くんの友達なんだろうか。名前で呼んでいるし、仲が良いのかもしれない。
「そうか、シンヤの彼女か……」
彼が何やら感慨深げに呟く。
上から下までしげしげと眺められ、ひどく落ち着かない気分になった。大鳥くんに似合わないと思われていたらどうしよう。
「珠洲女の彼女ができたとか言い出したときは頭沸いたのかと思ったが、ホントだったんだな。しっかし、思ってたのとずいぶん違えな、あんた」
「……えっと」
それはどういう意味で、なのだろうか。
困惑して返答に詰まるわたしに気づいているのかいないのか、大鳥くんの友人らしい彼は言葉を続けた。
「俺は春海光一。シンヤの親友だ。よろしくな」
「あ……珠洲風女学院2年の雛里幸恵です。よろしくお願いします」
にかっと笑って名乗った彼に、わたしも慌てて自己紹介した。ぺこりと一礼する。
「あいつは短気だし、すぐ手は出るわ口も悪いわでどうしようもねえが、悪いやつじゃねえ。迷惑かけるだろうけど見捨てないでやってくれよ」
「いえ、いつもわたしが大鳥くんに迷惑をかけているくらいで」
わたしがふるふると首を横に振ってそう言うと、彼は“そんなことはねえだろ”と呆れたように笑った。
彼の目には、わたしは大鳥くんの大事な彼女に見えているようでそれがなんだか嬉しい。ホッとしたのもあって、気づけば自然に笑い返していた。
「春海さんは大鳥くんと仲が良いんですね」
何気なく口から出た言葉に彼が顔を顰める。
「ハルミさん、は止めてくれ。女みてえで似合わねえだろ?」
「そんなことはないと思いますけど」
「光一でいい。シンヤも、他のやつらも皆そう呼んでるしな。それに敬語も落ち着かねえから止めてくれ」
「光一さん?」
「“さん”も抜きでいい。年は同じだろ」
「………………」
大鳥くんの仲の良い友達ということだったから、もしかしてとは思っていたけどやっぱり同い年だったのか。年上でも友達は友達だからもしかしたら3年生か何か事情があって年上の同級生かもしれないとまで考えていたのだけれど、どうやら考えすぎだったようだ。
彼への返答にちょっと変な間が空いてしまったが、実はかなり年上だと思っていたとは言えずに曖昧に笑っておく。
「はい……じゃなくて、ええと、うん。じゃあ、お言葉に甘えて光一くんって呼ぶね」
咄嗟に“はい”と答えてしまったところで光一くんの鋭い視線が飛んできたので慌てて言い直した。
笑っているときはそうでもないが、それ以外のときは結構顔が怖い。もともと強面なのだろう。本気で睨まれたらわたしなんて動けなくなりそうだ。
そういえば、大鳥くんもかなり眼力が強かった。やはり類は友を呼ぶらしい。
「シンヤならまだ2年の教室にいるはずだから案内してやるよ」
そう言って、光一くんは一度校舎を見上げてから返事も聞かずに歩き出した。
「え、あ、ちょっと待って!」
「ん? なんかあったか?」
「そうじゃなくて、部外者が勝手に学校に入っちゃダメでしょ? 光一くんが怒られちゃうよ。わたしはここで待ってるから……」
言いかけたところでわしわしと頭を撫でられる。突然のことに驚きすぎて、言葉も思考も動きも止まった。
「んなこと気にすんなって! 最近はねえけど前まで他校のやつが殴り込みにくることもあったし、あんた一人入れたくらいで怒る心の狭いやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやるから」
なんか物騒な話を聞いた気がする。
よほど困った顔をしていたのだろう。首を傾げた光一くんが頭を撫でる手を止めた。力が強すぎたのか、あのまま頭を撫でられていたら酔いそうだったから止めてくれて助かった。あと、ちょっと首が痛い。
「悪いな。妹と同じように扱っちまった」
「妹がいるんだ。まだ小さいの?」
光一くんにとっては本当に何気ない動作だったのか、彼は気まり悪そうに頬をかいた。
責めることでもないので軽く流して妹の話を振ってみる。まだ小学生だという妹について話す表情は楽しげだ。仲が良い兄妹なのだろう。強面なのになんとなく彼の面倒見がよさそうに見えるのは、年の離れた妹がいるからかもしれない。
他愛もない話をしながら――だいたいは大鳥くんの話だが――光一くんの案内で2年の教室へと向かう。
すでに来るときの不安は吹き飛んでいて、気がつけばわたしは大鳥くんの学校で彼に会えるのがすごく楽しみになっていた。
《 登場人物紹介③ 》
春海光一 (はるみ こういち)
ヒーローが属する不良グループのリーダー的存在。兄貴肌の渋いヤンキー。喧嘩の腕はオニ高いち。




