うわさうさぎは飛んで、しっくすせぶん
僕たちは無言で歩きはじめた。
周りを見渡すと、いつの間にかジェットコースタの光りが消えていた。ミラーハウスから向かって斜め左から来たはずなんだ、だからアキラもそっちの方向に無言で向かってた。僕としても来た道を戻っていたはずなんだ。それなのに、周りに見える物が違っていた、アクアツーアの建物は現れず、お金を入れて乗る子供向けのパンダやウサギの乗り物があるし、風に押されてなんか滑っていたけど。断じて勝手に動いてないはずだ。
そして、昔は飲食を売っていたであろう屋台の場所になっていた。完全に方向が分からなくなっていった。
でも、それに対して今は何も言えなかった。アキラがめっちゃ真剣な顔になったっていうのもあるし、迷子になったなんて言わなくても分かっているし、口に出して言うのも怖い気がしたからだ、僕としても戻ってきた道をまっすぐ歩いてるはずなのに、何故か方向感覚がおかしい気がした、でも立ち止まるのも怖いし進むしかない。
「うわ!!」
何よりも、悲鳴みたいな錆びた鉄の擦れる音が怖い、いきなり唐突に聞こえるんだよ!振り返れば、屋根の上にあった旗を棚引かせていた棒が折れていた。っと思ったら凄い音と屋根の丸い装飾に突っ込んで、割って落ちた。
どさっと言う音と共に地面に突き刺さった。
ナツコは僕とアキラ両方を掴んでいる。ちょっと僕の腕を掴む力が強いいけど、それでなんとか半分だけ冷静で居られる。きっと痣になってると思うけど。
僕は霊感は全くない、それでも何かを感じている気がする、いや感じてなんか居ない。
いや、これはきっと心理的な物で、白いシーツが幽霊に見えるあれだって思うようにしていても恐怖は消えてくれない。
恐怖心の増量によって、脳が勘違いするんだよ。例えば、今建物の間にふわっと何か移動した様に感じたのも、草むらの中に落ちている人の足みたいなのとかも、お城ふうの建物の中に何かがぶら下がっているのが見えるのも。
きっと気のせい!!!
カーテンが舞ったんだと思うし、建物の装飾品のパイプかもしれないし、残っていた人形の足かもしれないし、細長いシャンデリアかもしれないし!
展示されている熊のピエロの手が動いている様に見えるのも、目に涙が浮かんでるせいでぼやけてるだけ!!
そして見えたのが、いきなりガコンという音と共に、オレンジ色の鈍い光がつき、暗闇の中唐突に現れた、メーリーゴーランド。
「やった!出来たよ!」
そう言ったのは操作室から出てきたミカだ。その声と共に、クルクルとメリーゴーランドが回りはじめた。ミカは嬉しそうに、回りはじめたメリーゴーランドに飛び乗った。
「いえーい!」
ミカは楽しそうに回るメリーゴーランドを楽しんでいる。
メリーゴーランドには、馬と一緒に馬車や、飛行機、可愛い形のお化けもあった。一部にあのウサギピエロも乗っていた。
「行こうぜ」
アキラが冷たく言って進みはじめた。
僕もナツコも異論はなかった。ミカだけが楽しげに叫んでいた。
「えー!!何で?楽しいよ」
後ろから叫ぶ声が聞こえるけど、僕たちは振り返れなかった。
真っ暗闇の中、物音だけが響いていた。何かが落ちる音や、開くような音、それに凄く濃い錆びた鉄の匂い。
何処かですきま風があるのか、フォオオオオオオっという低い音と高い音が聞こえた。
でも、僕たちは風を感じる事が無かった。寒くなってきたのはきっと、山の上にいるからだ、夏場も山の上は気温が低いっていうじゃないか。ほら雪化粧されてる山だってあるじゃないか。うん。
だから、夜だから気温が冷えてるんだ。
こんなに寒いのもそのせいなんだ。ヒンヤリ首筋を撫でるような感覚も。何か足に絡む感じは、きっと石畳の隙間から生えている雑草が絡んでるせい。リュックが引っ張られる様に重いのも、きっと疲れているせいなんだ。
アキラが蹴る様に歩いてるのも、雑草が邪魔なだけ。
一際大きな音に僕たちは立ち止まってしまった。横を見れば観覧車があった。壊れて一部のゴンドラが無くなっているが、上の方で風に揺られて、キィキィなっている。残っているゴンドラの窓の汚れが、何だか手形の様に見えた。
「あ、危ないから早く進もう」
僕は声を振り絞って言った。思ってた以上に声は震えていた。ゴンドラから、何か聞こえそうな気がするけど、あれは風の音だ。大きな風が上の方で吹いたらしく、観覧車がゆっくりと回転した。
錆びた鉄の音をさせながら、ギーギーと耳障りな音をさせながら。
助けて
僕たちは息を止めた。
コ か だ て
ご さ い
だ ぇ か
「ここの噂はね」
振り返るとミカが立っていた。
聞いても居ないのにミカは説明しはじめた。
「近くを通ると助けを求める声が聞こえるんだって。何で助け何て求めるんだろうね?」
「・・・」
「どうしてだと思う?」
「乗りたくて乗ったくせにね」
「ねぇ」
「あそこに閉じ込められたらどんな気分かな?」
ニンマリとミカが笑って聞いてきた。