うわさわさわのすりーふぉー
周りは真っ暗だ。むしろ空の方が明るい位。星空ってこんなに綺麗なんだーって僕は上を見ながら現実逃避をしていた。じゃなきゃ怖くて無理。じっとりと肌に張り付く蒸し暑さだ。人肌と同じくらいの熱風がふわりと体を撫でていく。
暗闇の中ぼんやりと浮かび上がるジェットコースターから離れて、今奥に進んでるだけど、廃園になった遊園地には、錆びた遊具が彼方此方転がってた。ちょっとつまづいたりするし、なによりも雑草も生い茂ってるし、時々草むらからデカイ何か虫が飛び出してくるし。僕はその度に悲鳴をあげたけどね!
しかもさ、着ぐるみの頭部だけ転がってたりしてるんだよ!!怖いだろ?!
「ハルキ!!」
いきなりミカが叫んだと思って振り返ったら目の前にボロボロのぬいぐるみ!
しかも穴が空いた所から細長い虫が、にょろっと出て来て目があった。
「うわぁあああ!!!」
「ひゃあああ!!」
僕の悲鳴に釣られてナツコも悲鳴をあげた。僕たちに挟まれたアキラは両耳抑えてた。
「うるせぇ」
「あははははは!!ハルキビビりすぎー!!」
ミカは持っていたぬいぐるみをぽいっと捨ててゲラゲラ笑っている。
「やめろよな!!!」
「だって面白いだもん!」
「「面白く無い!」」
僕とナツコの意見は一致した。
「どっから拾って来たのよ!」
「あそこ」
そう言って指差した先には、元は射的だったのだろう屋台があった。アキラが懐中電灯の光りを当ててくれた。元はポップなピンクや青、と他にもいろがあったのだろうが日焼けしていて、店の日の当たらない場所にしか色は残っていない。だが何よりも怖いのが棚の上に陳列されたウサギピエロが笑ってこっちを見てる。綺麗な物もあるが、耳が取れていたり、足がなかったりと怖い。しかも目が光ってるように見えたらネズミが間を走り回ってた。
「ネズミでかくね?」
僕が呟いたら、アキラが興味無さげに言ってきた。
「山の中だからでかいんじゃね?虫もでかいじゃん」
「そ、そうだよな」
どさっという音と共に、一番上にあった大きめのぬいぐるみが落ちた。それに反応するかの様にネズミがきーきー鳴いて散って行った。
「・・・お前、よくあそこからとって来れたな。」
流石のアキラもびっくりしたようだ。もう、僕はリュックを後ろに背負い直してしっかりとナツコとアキラに引っ付いた。
僕には無理だ。怖すぎる。
ミカはけろっとした顔で不思議そうにしている。
「取るだけじゃん?」
ネズミがかさかさ草の間をぬけて散って行く音だけがよく響いた。
掴んでいたアキラの服に引っ張られた。
「おい、進むぞー」
アキラが飽きれた様に僕とナツコに言った。二人が動かないとアキラも動けない。
僕たちは、小さく頷いてアキラにくっついて先に進み始めた。次は大きな建物、文字が落ちてしまった看板では読み取れず、アキラが懐中電灯で当てた案内掲示板で分かった。
「アクアツアー?」
「水族館もやってたってこと?」
「ツアーだから違くね?」
「とりあえず電気つくかな?」
入り口横の操作室なのか受付なのかにアキラは入った。机の上には中途半端に書類が残っていて、なんだか人の気配が合った事が残されている感じが怖い。室内にも砂がはいり、足元ではじゃりじゃり音が響いている。アキラは配電盤を早々に見つけていじった。
バチバチっと言う音とともに室内が明るくなった。って言っても電球が汚れてて鈍い光だけで、薄暗いかんじになっただけだ、部屋の中がよく見える様になったが、廃園になったにしては色々荷物が残りすぎてるような感じだった。ファイルにチケット、パンフに鉛筆とか散乱している。廊下を見れば、昔は海の生物を写してたのか何か青白い物がウヨウヨ照らされている。
はっきり写ってないから、余計怖い。
奥に見える部屋がもう電球が消えはじめているのか点滅している。
「じゃーアクアツアー行ってみようか!」
ミカが楽しげに言った。
「い、いくの?」
ナツコがアキラにしがみつきながら言った。
「ん〜」
アキラは、ナツコのビビリ具合に少し考えている様子だ、それに対してミカがむすっとして一瞬睨んでる様にみえた。アキラは落ちていたパンフを拾って中のマップを確認した。
「あの廊下を抜ければ桟橋が合って、大きな池の中に島がある感じかな?」
「落ちたらヤバいし、いくのよそうよ。」
僕は怖いからそう言ってみた。
「んー覗くだけ覗いて戻ろうぜ、ここの廊下抜けた所で水槽がある部屋にはいるっぽいぜ、んでその先に池が見える開けた場所につくし。いくぞ」
そう言って進みはじめた。僕とナツコは慌ててアキラにくっ付いて行く。強い光源(懐中電灯)が無くなるとめっちゃ怖かったからだ。まるで誘蛾灯のように僕たちはアキラにくっ付いて行った。
廊下は黒塗りされていて、懐中電灯の光りを当てても黒かった。周りの壁には、時々はっきりと映るイカやクラゲとかが映写されている、なんだかよく分からないのも多いけど。なんか人の顔っぽいのも合った気がするけど。
とか思っていたら、一番後ろを歩いていたミカが言った。
「ねぇ、ここの噂ってね、海の生物以外の謎の生き物が見えるって言う奴なんだよ。」
はい?! 僕は心の中で悲鳴を上げていた。まってなんかさっき、いや、きっと気のせいだ。そう、気のせいだって、だって謎の生物って言ったじゃないか。うん。
「へー謎の生物ね、謎だったら見たってわかんねーじゃん。」
アキラが飽きれた様に言いながら角を曲がった。そこはさっきみた、光りが見えていた場所だ。
中は開けていて、教室一つ分くらいの広さだ。少し傾斜した床の先には大きな水槽といっても、中の水は半分程しか残っていなかった。水は苔で緑色っぽい茶色で汚くなっているし、なんだか臭かった。
「臭い。」
「だな。」
ちゃぽん
水槽の中を何かが泳いでいた。
僕とナツコは言葉無く息を飲んだ。
何か、丸くてでかい魚がいた。たぶん魚。
「あー・・・床に水溜まってんな。先に行くのは・・・無理だな。ほら出口半分埋まってる」
アキラは冷静に部屋の内部を見て言った。懐中電灯が当てている場所を見れば、次のエリアに行く出口から水がたまって、光りを反射している。というより、床は最後の当たりで階段になっていた。一段下がった場所に出入り口があり、そこは水浸しで出口の半分が埋まっていた。
僕とナツコはホッとした。
「ちぇ〜」
ミカはつまらなそうに、呟き足元に落ちていた何かを拾って床の水たまりに投げつけた。じゃぼんっと大きな音と共に中に居た何か、がジャバジャバ暴れだした。
「「ひぃ!!」」
「くせっ」
部屋の中の匂いが酷くなりアキラが逃げる様に歩きはじめた。僕たちも慌ててくっ付いて行く。ミカもくっさーいって言いながら後に従った。
「この馬鹿!!なんで投げ入れるのよ!」
ナツコが外に出てからミカに言えば、ミカは舌を出した。
「だって、あれだけかって思ってさー。溜まった水の中に何か居たら面白いかなーって思ったのもあったけどー」
「・・・それにしても臭かったな」
アキラは鼻を擦りながら言った。
「うん。」
僕もちょっと吐き気がするくらいの、今まで嗅いだ事の無い匂いだった。どぶの匂いは、嗅いだ事あるけど、なんだかそれとは別のなんか臭い匂いがあった。なんだろう、なんか分からない匂い。鼻にツーんと来る匂いだ。
ふと、さっき通った廊下を見てしまった。
青白い光りは、海の生物ではなく、人の手の形がこっちを向いている様に見えて、僕は慌てて視線を外した。
ゆったりと泳ぐ様にゆらゆら照らされていた、先ほどの光りではなく、無数の・・・・。
「早く行こうよ」
僕はアキラの服を掴みながら言えば、ナツコも頷いた。
「そうだな」
アキラも頷き、歩きはじめた。
進んだ先に見えるのは、ボックス型の建物だ。入り口からしてもう何だかわかってしまう。出入り口の前には鏡が一部割れて、ヨーロッパ調の派手な装飾の鏡から、シンプルな枠の鏡から大中小と並べられている。そこに僕たちが映り込んだ。僕とナツコは怯えた顔をしてるし、アキラは不機嫌そうな顔だ。
「入らないよっ?!」
「やだ!」
僕とナツコが言うと、アキラは大きなため息をついた。入り口を覗き込んでも中は暗い、懐中電灯の光りが乱反射して、暗闇の中不思議な光りを放っていた。
「流石に鏡は危なそうだな。お前らがビビって怪我しそうだし。」
その言葉に僕は激しく頷いた。全くだ、鏡は危ないだよ!切れやすいだよ!
「えー!ホラーの定番じゃん。ミラーハウスって言ったら、いつの間にか友達が居なくなったとかさ、ひとがかわったようになるっとかさ!」
ミカが叫んだ。
「・・・ミカは、ここの噂しってんのか?」
アキラが聞けば、ミカはニンマリ笑顔で頷いた。
「もちろん!ミラーハウスから出てきたら、別人みたいに、人が変わった人がいたんだって。しかも何人も」
「別人?ミラーハウスって酔うからだろ、テンションさがっただけじゃね?」
「別人って言うんだから、別人なんだよ。入ってみようよ〜」
「「嫌」だ」
僕とナツコは速攻で答えた。
「えい」
そう言って、ミカは僕たちの背中を押した。
「うわ」「きゃっ」「ひぃ」
倒れそうになって、慌てて、脚を前に出して、踏ん張った。ナツコは僕とアキラにしがみついて転ぶの防いだし、アキラも何とか踏みとどまった。
ジャリジャリっとガラス特有の音が足元で響き渡った。
「ざけんな!!ミカ!!危ないだろうが!!見ろよ足元!!ガラスばっかだろ」
アキラが珍しく怒鳴ったが、それに対してミカはケラケラ笑って中に入って消えた。
「ちょっと?!ミカ?!」
ナツコは驚きながら風でクルクル回る鏡を見たが、あちこちに反射してミカが何処に居るのか分からない。
「動くなよ。」
アキラが低く言った。僕とナツコは頷いた。
まだ入り口付近だから大丈夫だ。中はやっぱり様々な形と大きさの鏡があって、ガラスが乱反射して僕たちの顔が映る。同じ様に懐中電灯の光りが乱反射して眩しかった。光りと闇は暴力的なまでに鏡の間を行き来して僕たちを惑わせていく。まるで、平衡感覚がなくなりそうだった。
何よりも、ここも臭い、錆びた鉄の濃い匂いが充満している。
ミカは楽しそうに歩き回ってるのか、鏡に映ったり消えたりを繰り返した。そして僕はふと、その鏡の中に先ほどから廃園で見かけるウサギピエロが映っているのに気づいてしまった。
「うさぎだ・・・」
僕が呟けば、アキラが嫌そうな顔をした。
「こっちだな。」
アキラが呟いて進んだ。
押されて中に入っただけのはずなのに、数歩歩いていた。外は、少し冷えている気がした。
「えー、もう出ちゃうの?」
ミカがミラーハウスの入り口で一人立っていた。
「危ないからな。怪我するだろう」
アキラが冷たく言った。
「ねぇ、なんか静かじゃない?」
ナツコが囁く様に僕に言ってきた。
言われてみて、僕は確かに周りが静かすぎるような気がした。さっきまで葉擦れの音や、虫の音が聞こえていたような気がするのに。
「よ、夜も遅いからじゃないかな?」
僕は怯えながら答えた。
気のせいだよ。きっと。うん。