30度越え
夏だ。暑い!熱い!溶ける!
7月なのに朝から25度越え、通勤通学ラッシュの人の熱気は最悪だ、べたっとねとっとする。冷房?頭の上だけ涼しいよ!ギュウギュウに押し込められた電車内から見える空は雲ひとつない真っ青な色で綺麗だ、暑いけど。学校につけば、駆け足で教室に入ってすぐ冷房の風が当たる場所で涼むしかないよね。
「うはー天国」
シャツをバタバタさせながら、人数の少ない教室を見渡す。両親や年上の従兄弟達曰く、昔は学校に冷房なんて無かったって聞くと、そんな場所で良く授業やってられたなって思う。
「おはよう!ハルキ」
そう声をかけて来たのは、ナツコだ。夏に生まれたからナツコ、そのせいかこんなに暑い日でもめっちゃ元気だ。ポニーテールも元気に揺れてる。
「ぉはよ」
「溶けてるな〜」
ゲラゲラ笑いながらナツコは席に戻っていく。その後から徐々にクラスメイトも増えてくる。
「今日の英語の宿題やった?」
「昨日のドラマさ!」
「ヤバイ、忘れてた」
「暑い〜アイス食べてー」
「なぁ、宿題見して!」
それが僕たちの変わらない朝。その時はこんな事になるとは思わなかった。
昼休み、弁当も食べ終わった頃だった。
暑かった、駄弁ってた時に、誰かが言ったんだ。
「ここは一つ、昔ながらの方法でひんやりしね?」
「ぇーなになに??」
「正しくそれはホラーでしょう!!」
「げぇ!!」「お!」「やだ!」「いいね!!」「いやーー!」
「怖い話かよ!」
「いいね!」
クラス中大騒ぎだ。ムードメーカーのアキラが立ち上がって言った。
「ヒンヤリしようぜ!じゃーまず俺から!!裏野ドリームランドって知ってる?」
僕は、裏野ドリームランドなんて知らなかった。なんだそれ?って思いながら周りを見渡せば、どうやら知ってる奴らが何人かいた。
「有名な心霊スポットじゃん」
そう言ったのは、ショートヘアのミカだ。
「あそこってガチらしいじゃん」
アキラはケロリとした表情で返してきた。ガチって時点で行きたくないわ。
「マジで?!」
目を輝かせたのは、ナツコだ。そういえば、こいつ怖い話が好きだったんだ。
「へー、良いじゃん行こうぜ」
野球部のタケシが言ってきた。それを聞いた女子の一部がざわつく。そうだ、こいつモテるだよな、今年のバレンタインも女子から貰ってたし!僕は…いちおう貰えた、母親と塾の受付のお姉さんに!めっちゃお願いして貰った事は秘密だ。
「よし、じゃー金曜日の夜行こうぜ!ノル奴!」
そう言ってアキラが手を挙げれば、クラスの半分は手を挙げてきた。内のクラスの連中は、悪のりが大好きだ。体育祭とか学園祭ではお祭り騒ぎしてる。教師陣にはちょっと目を付けられてるけど。
「俺は、塾あるから」
俺はびびりだから、行かない。そう思ったのに。
「塾終わってから行こうぜ。大丈夫だ夜遅い方が楽しいだろ?」
そう言ってアキラが肩を組んできやがった。夜遅い時点で何が大丈夫なんだよ。嫌だ。
「全然」
これは絶対来なかったら迎えに来るパターンだ。もしくは電話攻撃、L●NEのスタンプ攻撃ガンガンしかけてくるのがアキラだ。だがしかし!断る。
「お前ビビリだもんな。」
「分かってるなら」
「ビビリが一人くらいいないと盛り上がらないだろ?」
その言葉にめっちゃ嫌な顔をした僕は悪くない。
ミカがげらげら笑いながら僕の腕にぶら下がった。
「ハルキってびびりなの?!」
「うっせぇ!相変わらず目に痛いストラップしてんな!」
ミカの胸元にはスマフォが入っていたが、スマフォと同じくらいの大きさのピンク色のピエロのようなウサギのぬいぐるみがついていた。スマフォの意味なくね?って思うんだけど。
「・・・可愛いでしょ?」
ニンマリウサギピエロと同じ笑みを浮かべながら、ミカはぴょんぴょん跳ねながら俺から離れた。
「うち、夜遅いと怒られる〜」
クラスの女子が一人叫だ。
「じゃー2回にわければいいじゃん。夕方組と夜組!」
「いいね!」
「俺はいやだ!」
「ハルキは塾があるから夜組だな」
ケラケラ笑いながらアキラはいらないリーダーシップを発揮して、夕方組と夜組と分けてしまった。