鳥
幾何学模様の空を三羽の鳥が飛んでいた。
枯れた大地に寝転んで、僕はそれをぼんやり見上げる。
まるでカタツムリになったような緩慢な時の流れ。
さらさらと水が流れる音がする。
川でもあるかと思ったら、それは僕の目から溢れる涙だった。
どんどん溢れる涙は、やがて大地を潤すだろう。
そうして大地は海となり、干からびた僕はそこに浮かぶ。
くしゃくしゃになった僕を拾い上げるのは白い指先。
「先輩?」
耳をふるわす甘い声。
「ユーコか。何してる」
「船旅。くしゃくしゃだね」
「だからお前が良く見えないんだ」
「そうなの? せっかく水着なのに」
何てことだ。
彼女の白くむっちりとした肌をこの目で見られないなんて。
けど、それで流れるほどの涙も、もう残っちゃいない。
「膨らませてあげようか?」
ふう、と彼女は僕に息を吹きかけた。
それは爽やかで、どこか生臭く、そして生暖かい。
心を鷲掴みにして離してくれない悪魔の誘い。
耳をくすぐる彼女の声。
「口のところから……ふうっ……て、する?」
してほしい。
してくれ。
ぱんぱんになるまで。
いや、破裂するまで。
それで、粉々になって、風に散る事が出来たなら、僕はどんなに幸せだろう。
ゆっくりと、彼女の唇が近づいてくる。
甘い香りを吸い込みながら、僕はその時をただ待つ。
突然響く甲高い声。
耳障りな響き。
肌を泡立たせる音、音、音。
幾何学模様の空はいつの間にか赤く燃え上がっていた。
声も響きも音もどんどん大きくなる。
それは即ち怒りに満ちた三羽の鳥。
狙いは僕だ。
全てを掴み、切り裂き潰さんとする足が、僕を引っ掴んだ。
「ごめんね、先輩」
ユーコの手から僕は引き剝がされて、そのまま空へと持ち上げられる。
怒りに狂う三羽の鳥は、てんでに僕を引っ張り合い、突き合い。
その度にちぎれていく僕は、やがて粉々になって風に散った。
欠片の一つでもユーコのところへ。
でも、風に流された僕はいつまでも落ちる事は無かった。
幾何学模様の空を三羽の鳥達が笑いながら飛んでいる。
僕は風に漂いながら、それを眺めているしかなかった。
なぜならもう、閉じる瞼もないから。
自分のマイナス思念をとことん煮詰めた短文が書きたい、とたまに思います。