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空

作者: 百合烏賊
掲載日:2016/11/01

歌っていた、空に向かって

それはどこだったか…今は思い出せない

けれど、その歌なら覚えている

「ずっと変わらない君でいてね」

ふと、歌詞の一部を口ずさんだ

「さようならさようなら明日の私」

なんの歌だったけ…

あまり有名ではなかったはずだ

なんでだったけ…

今じゃ、何も覚えていない

友達の名前、読んだ小説の名前、大好きだった人の名前、家族の名前、思い出、全部…全部思い出せない

何でだろうな…なんて軽く考えてみれば、恐ろしくなった

急に記憶がなくなったという現象に

今、思い出せるものが空に向かって歌っていた事とその歌詞だけ

人の精神は強くない、それは死んでても生きてても同じ

感情も変わらない、涙は流れるし腹も立つ

それは記憶がなくなっても同じなのか、否違った

悲しい事に恐ろしいという恐怖、畏怖の感情を持ちながらにして

涙は一粒も流れていなかった

だけど、感情はあるのだという事にホッと息を吐いた

私のいるこの部屋に唐突に声が響いた

いつ入ってきたのか、音が立たなかったことに驚愕しながら、その声を聞いた

「好きでした」

それは若い少年の声だ

まぁ、そうだろう、なぜなら私の目の前にいるのだから

けれど、私が疑問を持ったのは過去形だということだ

「…」

そのことについて問いてみようと思い、声を発そうとすれば

声は出ず、空気のみが出てくる

少年…いや、青年くらいか?同い年かもしれない

私はそこの青年の身長がやけに高いことに気がついた

まだ少年らしい声を出していたので、少年だと思っていた

青年は言葉を続けた

「ずっとずっと、あなたを見てた」

私はこの言葉をどこかで聞いた覚えがあった

どこなのだ…やっと思い出せた3つ目の記憶、思い出せるものなら思い出したい…が

思い出せない、そこがどこだったのか

「あなたの歌を聴いて、幸せにしたいと思った」

私のことなんか気に構わず、青年は続ける、続ける

なんで私?…いや、練習かも

でも私のところに来るのなら違う

きっと私なのだ

「ずっと変わらないあなたでいて欲しかった」

その言葉を聞いた瞬間、頭が痛んだ

…歌詞だ…全て思い出した

この人は同級生だ、そうだ

私は高校生なのだ

じゃあ、ここは高等学校か

教室のようにも見える

どこかの塾かと思ったが、違った

確かに教室のようだ

ふと視線を向けた先に花があるのがわかった

「でも、変わっちゃたんだ。花、見えてるかな?これ、僕が入れてるんだよ…毎日、毎日大変なんだよ?」

横を見た青年はふふっと微笑んだ

私は涙を流した、やっと流せた涙はポトリポトリと床を濡らした

なぜなら、そこが私の机だったからだ

「私…死んでた?」

動悸が激しい、息が苦しい。そんな中私が発した言葉は疑いの意を込めていた

「死んでるあなたに言っても意味はないけれど…」

微笑みは深みを増した

そして私の心に深く刺さる

死んでいる…ということに確信を持った

そして、彼を見つめるしかなかった

次の言葉を待った

どうか、どうか…お願い

「全て嘘だと言って」

現実は非常、少年は言葉を発する、それは歌だった

「…足跡隠して 声を潜めて あなたの隣にただ立っていたい、そんな願い叶えてください。

あなたの隣は私、私の隣はあなた。どうかどうかずっと変わらない君でいてね

微笑みは太陽、涙は雲、呼吸は風。

さようならさようなら明日の私、さようならさようならあなたの隣」

その歌は私が作ったもの、嗚呼懐かしい懐かしい

青年の目から涙がこぼれる

「あなたはこれを作った時言ってました。

歌みたいな詩、詩みたいな歌って。これは、あなたの気持ちでしょう?

…あの人の隣が良かったのでしょう?」

嗚咽が漏れた、それはどちらかわからない

けれど、私には言わなくてはいけないことがある

嗚咽のせいか、それとも気持ちの寸止めなのか…またもや、言葉が発せない

「う…ぐぅ…なんで、なんで…聞きたかったのに…

明るい声で言ってたのに…明日も楽しみだねって」

明日を楽しみにできたのなら、死んだことに罪悪感すらないのは何故だろうか

生きることに疲れたのだろうか?いや、違うかもしれない

涙をボロボロと流して、青年は言葉を続けた

教室の中に二人が酷く、赤く、そして綺麗な顔をして私たちは見つめ合った

「…もう、会えないのだから…言いたい、どうかどうか…」

私は息を吸い込み、涙をこらえ、言い放った

「幸せになれよぉー!」「天国でも幸せに…」



死んだのは、トラックの事故死だ

痛かった、悲しかった。けれど、君がいたから

最後に思いは伝えれたから、もういい

さよなら大好きな人、さようならあなたの隣、さようならさようなら…未来の私

窓から見た雲は二つに分かれ、そして交差していた



*

「…もう、会えないのだから…言いたい、どうかどうか…」


…あの人は愛しの人について質問してもきちんと何回も答えてくれた

「私の好きな人ぉ?あのねぇ……私の話きちんと聞いてくれてね、すごいねって褒めてくれる人

いつも一緒にいてくれる人だよ」

あの時のあなたの表情は忘れられない

慈しみ、まるで女神の微笑みだ

あなたが死んだ時言った言葉、今でも胸の中にあります

『大好き』

その言葉が愛なのか、友情なのか

今ではわからないけれどいい、いいのだ

どうか…

「天国でも幸せに…」

囁くようにいった言葉は教室内に響いた

…帰ろう、そう思って背中を向けた時だ

ふとあの人の声が聞こえた

「幸せになれよぉー!」

後ろを振り向いても誰もいない

けれど、窓から見えた空が美しく青色をぶちまけていた

だから、僕は窓へと行って

涙を拭いて、フッと微笑み、叫んだ

「またな!」

その声は空へと響いた





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