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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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最終話 日本召喚

 時は遥か過去に遡る。まだこの世界に多くの人や国家が存在していた時代。世界各地に最初の人妖が出現し、和己が召喚された直後の世界。


「おい、水原が消えたぞ! どうなってる!?」

「ていうか何だよあれ!? 世界の終わりか!?」

「何言ってやがる、アニメじゃあるまいし……」


 かつて和己が通っていた中学校。一人の生徒が、光に包まれて消滅したこと。そこの校庭の上空から次元の門が開いた事。

 ほぼ同時に起きた二つ事象に、グラウンドにいた生徒達が騒がしく混乱していた。


 そしてもう一つの怪現象。上空百メートルの赤いブラックホールのような大穴から、何か動く物が這い出てきている。

 それは足であった。人間の足ではなく、茶色い毛むくじゃらの猿のような足である。足を先頭に、穴から腰→胴体→頭部と、その生物の全体が穴から出てきて、それが一気に空から降りてくる。

 その穴は、その生物が落下した後間もなく、瞼が閉じるように細くなって消滅した。


 ドン!


 校庭のグラウンドのど真ん中に、それが落下した。とてつもない質量と重量の物体が落ちたことで、一瞬大地が少し揺れた。

 幸いにして、それが落下した足下にいた人達は、先に危機を感じて脱していたので、それに潰される者はいなかった。


「……猿?」


 そしてその出現した何かは、大きな類人猿であった。立ち上がれば、身長十メートルを超えるだろう、生物学上例のない巨大な類人猿。

 ゴリラのように前足の拳を地面につけて、前のめりになっている。顔つきはゴリラよりも凶暴そうな顔つきで、頬のない口に肉食獣のような犬歯が生えている。

 そして後頭部には、猿らしくない、人間のような髪の毛が生えている。


「化け物だ! 何だよこれ、撮影か!?」

「ひゃぁああああっ! 助けてくれ!?」

「ちょっと先生!? 真っ先に逃げないでください!」


 突如出現した、海外の傑作怪獣映画のようなモンスターの出現に、当然その場にいた者達はパニックになる。

 グラウンドにいた者達だけでなく、教室の窓からこれを目撃した者達も、ある物はそれに驚愕して固まり、ある者は我先にと逃走を図っている。


「グォオオオオオオオーーーーーー!」


 凄まじい鳴き声を天に向かって鳴き、その大猿は、逃げ惑う人々を、今にも襲いかからんばかりに、動き始めた。


「はいっ!?」


 その時三度目の異変がその場に起きる。……いや、異変が起きたのは、この世界の日本列島全土だが。

 この時日本列島及び、そこにいた全物質は、異世界から現れた人妖達を除いて、この世から消滅した。


「なっ、何だ……何が起きた?」

「何なの? あの化け物が何かしたの?」

「ちょっと! あの毛むくじゃらがいないわ!」


 先程まで人妖の鳴き声と足音が響いていたグラウンド。それが急に、ラジカセのスイッチを切ったかのように、一瞬で静かになってしまった。

 突然の事に、学校にいた人々も、一瞬逃げることも忘れて呆けていた。見るとあの大猿型人妖が、その現象の後で、影も形もなく消えているのだ。

 先程までいた、あのおぞましい怪獣が、まるで幽霊のように透明になって、その場から消えている。見ると怪獣の着地の衝撃で、陥没していたグラウンドの地面が、元通りの綺麗な平地に戻っていた。


「何だよ……集団幻覚か?」

「でもあんなリアルな幻覚を皆で?」


 本当に全て夢だったのではと、皆が疑い始める。

 人が一人消える。空に穴が開く。そこから怪獣が現れる。そして白い光に包まれる。そして怪獣が消える。

 次から次へと、立て続けに引き起こる怪奇現象、大勢の人間が目撃した中学校。脅威は消え去ったので、先程のパニックは収まりつつあるが、残された人々は状況について行けずに、当惑が深まるばかりである。


 この体験をしたのは、この学校だけはないようで、街の方からも何やら騒がしい声が聞こえる。そしてその中学校に、また新たな不可思議現象が近づいてきた。


「ちょっとあれ!? 何か飛んでるわ!?」

「今度は何だよ! もういい加減にしてくれ!」


 ある生徒が、東の上空にある、何かに気づき、それを指差して騒ぐ。多くの人々が、もううんざりと言った感じで、その空からこちらに近づいてくる者に、一斉に注視した。


「人が飛んでる? あとあれはトカゲか?」

「はんっ! もう何出ても驚くものかよ!」


 それから近づいてくる者。それは空を移動する、三人の人間であった。二人は風を身に纏って飛んでおり、一人は翼が生えたオオトカゲに掴まれながら、空を行く。

 そして彼らは、グラウンドに向かってゆっくりと下降してきた。


「何よあれ? 魔王降臨か?」

「どう見てもやばそうだろうが! 逃げんぞ!」

「逃げてたまるか! 誰だろうが、かかってこいや!」


 また何か、怖い者が来るのではと、大勢の人々が危機を感じて逃走を始める。だが勇敢な一部の者達が、そこに留まって、降りてくる何者かを最後まで見届けようとしていた。

 そしてその謎の三人組が、彼の目の前のグラウンドの地面に降り立った。


「よう、ただいまだな! 俺のこと覚えてる奴いるか?」

「ただいまです! うわぁ……この学校も懐かしいよ。また通えるかな?」

「ここが和己の街と学校か……ふむ、意外と田舎だがそれほど悪くないな」


 その降り立った三人組は……和己・カーミラ・奈々心であった。彼らは何故か祭りで着るような浴衣を身に纏っている。

 カーミラの方は、相変わらず三角帽子とゴーグルを頭につけている。そして魔道杖のような杖を持っていた。これがただの飾りなのか、本物の魔法の杖なのかは謎であるが。


「水原!? お前……どうしたんだよ! ていうか何だよその変な生き物!?」

「雨宮さん! あなたどうしたの!? 早退したんじゃ……」


 和己と奈々心を知っている生徒達が、一様に驚きの声を上げている。先程消えた者が、何故か空か飛んできたこと。そして空を飛ぶトカゲのような謎の生物両方に関して。


「一応授業中に、勝手に出て行ったことになるんだよな、俺の場合。そんでどうしよう? なんか授業どころじゃない感じだけど……」

「そうだあの猿は……おいっ、あの猿は何なんだ!? お前何か知ってるのか!?」

「何か急に現れて消えたんだけど……もしかしてそこの魔法使いっぽい人が何かした?」


 他の生徒達が唖然としている中、和己と顔見知りの生徒達が、彼に責めるように詰め寄ってくる。それに対して、彼らとは無関係のカーミラが回答した。


「私ではない、ここにいる偉大なる万能召喚士の和己のおかげだ。お前達、命を救われたこと、感謝するがいい!」

「召喚って……和己があいつを消したってのか?」


 一応回答はもらえたが、それでも状況はさっぱり判らない生徒達。彼が知ってる内では、和己は別に超能力者でも何でもなかった。アニメの設定みたいに、普段力を隠していたとでも言うのか?


「正確にあの大猿の人妖が消えたのではない。あの大猿の前から、日本列島が消えたのだ。あの大猿なら、あの後日本が消えた世界で、海の底に落ちたのではないか?」

「「????」」

「ああ~~もういいよ。全部説明すると長くなるし……とりあえず先に報告するぞ!」


 皆の頭の上に、クエッションマークが浮かぶ中、和己が急に叫び上げる。そして隣にいる奈々心の腕を、自分の腕で巻いた。

 奈々心はやや恥ずかしそうにしながらも、それを拒否せずに受け入れている。


「皆さん! この水原和己と水原奈々心は、少し前に結婚しました! 皆さん、御拍手を!」


 カーミラが相変わらず微妙な表情を浮かべるながら、そう高らかに宣言する。


「はあ……そうすか……」


 相変わらず、理解できないことを言われ続けている、可哀想な生徒達。とりあえず言われた通りに、勢いの弱い拍手が響くのであった。






 かつて滅亡の間際に立たされようとしていた日本国。だがその国は、直前になって、この世界から消えた。

 領土・領海・領空にいた、人妖以外の全物質・全生物。日本だけではない。当時海外に渡っていた日本人。当時、日本に滞在していた外国人の親族。彼らもまた、一緒に召喚され、日本の領内の安全な場所に移動させられていた。


 和己によって、未来に飛ばされた日本国。一応滅亡の危機から救われたが、これがきっかけで別方面での苦慮に、これから長いこと立たされることになる。

 だがそう言う話しは、和己達にとってはどうでもいいこと。彼らは全ての望みを叶え、今日ここに、故国への帰還を果たしたのであった。そして彼らは、これから新たな幸せの第一歩を踏み出した。


完結まで見て頂き、ありがとうございました。

召喚された日本と、グール化した帝国のその後を、現在連載中の別の小説にて描く予定です。

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