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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第五話 角張った名医

 やがて時が過ぎ夜になった。太陽は消えたが、空には綺麗な月と星が輝いているので、夜でも結構明るい。これは日本の街の夜空では、あまり見られない空であった。


「この世界の月って、俺の世界の月とそっくりだな~~。めちゃでかかったり、月が二つあったりしたら面白いのにな~~。……ああ、駄目だ。憂鬱さが抜けねえ……」


 樹木(精霊付き)に腰掛け、空を見上げ、色々と気を紛らわせようとするが、結局彼の気持ちは晴れない。

村のお祭り騒ぎはまだ続いていた。近隣の村からも人が集まり、まだまだ食べきれない量の食糧を消費し続けている。

最初は興奮して、生のまま食べていた彼らだが、今は火をおこし、焼いたり煮たりして、簡単な調理を行っている。

自分の術で救われたと、多くの人に感謝されたが、事実を言うことが出来ない自身の臆病さが情けなくて、いまいち喜べなかった。一応、これらの食べ物は、日持ちしないので、貯め込まずにすぐに食べて欲しいとは言ったが……


「いくら何でも気にしすぎじゃないか? 賞味期限ってのを、1日かそこら過ぎたぐらいなんだろ? それだったら別に何でもねえよ。俺はもっと酷いのを食べたの何回もあるし……」

「はい。私も腐ったトカゲの肉を食べたこともありますけど……和己さんが出してくださったものの方が、遥かにおいしいし、身体に良さそうですよ。何もそんなに……」


 唯一事実を話している、メガとセイラが、そう言って彼を慰めてくれる。

確かに地中の虫や、腐ったトカゲ肉よりは、衛生上多少はマシであろう。ただ少しはマシと言うぐらいで、根本的に間違った食べ物を出していることには変わらない。


「ほらな。セイラも言ってるけど、俺らが今まで食ってたのなんかと比べりゃ、こんないい食い物はねえよ。それに俺らホタイン族は、純人より身体丈夫だから、ちょっとやそっとじゃ……」

「お前らの今までの食生活なんて、どうでもいいんだよ……」

「「えっ?」」


 不機嫌さマックスの和己の言葉に、二人は首を傾げる。


「今までのお前らが何食ってようが、それで腹壊して死のうが、そんなこと俺には関係ねえよ。でもよ……もし俺が出した食い物で、身体壊す奴が出たりして見ろよ? それは完全に俺の責任になっちまうだろうが。それだけは絶対に駄目なんだよ! 身体壊すなら、別の理由にしてくれってんだ!」


 彼が一番に心配していたのは、廃棄食糧を食べた人々の健康ではなく、自身の責任問題の所在であった。


『そんなに心配ならよ……医者を呼んだらどうだよ? 何かあった時の為に、そいつにあいつらの診察をさせればいいだろ?』

「医者呼んでどうにかなる問題か? あくまで食べ物がどうにかできないかって問題なのによ……」


 木の精霊の言葉に、和己は呆れながら否定する。医者がいれば、衛生環境が良くなるというものでもない。

だがその話に、何故かメガとセイラが興味を持ったようだ。


「ああ、それ賛成です! この村にお医者さんいなかったから、呼んでくれると嬉しいかな。実は今、病気で動けない人も結構いて……」

「それはそっちの問題だろうが、俺が知ることじゃねえし……」

「でもよお……もしあれで身体壊す奴がいたとき、どうすんだ? 俺らじゃ何もできねえだろ?」

「う~~ん……まあ、そうか?」


 二人の勧めで、和己は自信なさそうに、医者を呼ぶ召喚術を行うことにしてみる。


(ええと……食べ物の善し悪しとかも判る名医で、勝手に呼び出しても怒らず、こっちに協力してくれそうな名医よ、出てくれ!)


 内心そんな都合のいい医者いるものか? と疑問に思ったが、ダメ元で召喚を実行してみる。

 すると意外なことに、該当者がいたのか、そこに何者かが召喚された。


「何これ?」


 そこに現れた者に、最初にかけられた言葉は、メガの口にした疑問の言葉。


「また何か、変なのが出てきたな、おい……」


 出てきたのは奇怪な金属の箱であった。腰の辺りまである、大きな正立方体の金属の箱。とても医者には……というか、人にすら見えない。


『お前らの世界の医者ってのは、こんななのか?』

「そんな筈ねえよ。何だよこれ……? うおっ!?」


 その時和己の頭の中に、また新たな情報が流れ込む。それは最初の召喚で、魔法の術式の組み方が流れ込んだのと同じようなものである。

 今回流れ込んできたのは、今自分が召喚した者に関する概要。その時に、瞬時にこれが何なのか理解した。


 上辺の面、ルービックキューブのような、四角が九つある面の、真ん中には、小さな赤い目のような球体が埋め込まれている。和己はそこに指を押し当て、五秒間押し続けた。

 するとルービックキューブのような面の各線が光り出す。押していた目の部分を離すと、今度はその目の部分も赤く発光した。


「うわっ!」


 突如その箱が、風船のように浮いた。そして赤い目のような部分を和己の方に向けると……


『う~~ん、何だここ? 何で俺再起動した?』


 その箱から声が聞こえてきた。木の精霊と同じく肉声ではないようで、マイク越しに話しかけるような妙な声色である。

 突如動き出した奇怪な物体に、メガとセイラはおろか、近くで見ていた村人達も、驚き動揺している。


「ちょっと和己さん! これ何したの!?」

「どうやらこいつは医者だったらしいな。今頭の中に、色々と知識が入ってきた。こいつはブロックジャックていう、医療ロボットだそうだ……」


 医者は医者でも、召喚されたのはロボットであった。どうやら召喚されるまで、起動を停止していたようだが。


『何だお前? 俺を動かしたのはお前か?』

「ああ、そうだ。俺が召喚魔法で、お前をこの世界に呼んだ。こっちの都合で呼んじまったけど、悪かったか?」

『召喚魔法? へえ……。いや、別に構わねえよ。どうせ俺にやることなんてないし……』


 その辺も該当したようで、実にあっさりと、和己のしこたことを許してくれた。


「じゃあ、俺の頼みを聞いてくれないか? この村にいる奴らの健康状態と、今あそこに積んである食べ物に、何か悪い部分がないか、調べられるか?」


 ロボットならば、人間には出来ないような、様々な診察や解析を、瞬時に行えるかも知れない。そんな期待を込めて、和己はそう頼んでみる。


『いや、そうは言ってもな……俺は耐用年数をとっくに過ぎて、もうまともに動けな……あれえ?』

「どうした?」


 何故か途中で疑問の声を上げて、沈黙を始めるブロックジャック。一体何事かと思われたが、すぐに取り直して喋り始める。


『ああ、大丈夫だ。自己解析したが、俺の身体にどこにも悪い部分はない。何とも不思議な話しだが……。これならお前の頼みも聞けそうだな』


 そう言ってブロックジャックはその場から移動する。UFOのように、空中を浮いて移動しながら、近くで見ていた村人達に近寄る。


「うわっ! なっ、何だよ!?」

『ちょっと診察するだけだ! 逃げるなよ!』


 いきなりこんな奇怪な物体が接近したことで、村人達は一声に逃げていく。瞬く間に村に混乱が広がり始めた。


『しゃあねえな。じゃあお前が診察されてくれ』

「えっつ?」


 近くで見ていたメガが、その言葉に身の危険を感じて、逃げようとしたが、既に時遅く。捕まって足を止められる。

 どうやって止められたのかというと、ブロックジャックの腕に捕まったのだ。ルービックキューブのような面の、区切られた正方形の一つが、まるで開き窓のように開く。そこから機械の触手が、内部から生えてきた。

 赤い目がついた面を除いた、各5面から一本ずつ、計5本の人工物の触手が伸びる。その全容は、まるで四角いタコのような姿である。

 その異形の姿に、村人は更に怯える。各触手の先端には、今メガを取り押さえている。マジックハンドのような腕の他に、注射器らしき物・内視鏡らしきカメラがついている。


『俺の目の生態探知の他に、血液の採取と、胃の中を調べさせてもらうぜ。まあ大人しくしな』

「ひやっ、やめて! 助けてくれ! セイラ~~!」

「ごめんなさい、これも皆のためです。メガ、しばらく犠牲になってください……」


 三本のマジックハンドに押さえつけられ、必死にメガに助けるメガを、まるで死に行く者を見るようにセイラが詫びを告げる。

 周囲の村人達も、その犠牲になったメガを、囲って気の毒そうに見つめている。


『別に解剖するわけじゃないっての。ああ~~もう大人しくしろよ! 仕方ねえ、麻酔撃つか? いやそもそも麻酔薬が投入されてないな……。しゃあねえ……』


 注射器の腕が引っ込む。すると器具を変更してまた再び腕が出てきた。先端には注射器の代わりに、火花を撒き散らすスタンガンがあった。


「ひゃいっ!?」


 スタンガンの電撃で、メガはあっさりと大人しくなった。その後、ブロックジャックは、ゆっくり丁寧に彼の身体を診察するのであった。

 身体から血液を抜かれたり、口の中に触手胃カメラを突っ込まれたりと、色々された後、ようやくメガは解放される。


『よし、それじゃあ次~~』

「「いいっ!?」」


 村人達が再び逃げ腰になったところで、今まで倒れていたメガが、即効で立ち上がり、駆けだした。


「俺だけこんな目に合わされてたまるか! てめえも来い!」


 起き上がったメガは、八つ当たりのような勢いで、数人の村人をひっ捕まえていく。この様子だと、村人全員の診察は、少々時間がかかりそうである。


「しかしよ……スタンガンを打たれた奴が、あんなあっさり立ち上がれるもんなのか?」

『いいや、あれはえらく回復が早いな。まあ、今調べて判ったが、ホタイン族って言ったか? あれは普通の純人より、かなり身体が丈夫な種みたいだな』



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