第五十話 ハリエットとの衝突
「ちょっと待って!? 何それ? 私が消えればって……」
「和己が何の理由があって、ホタイン達を助けたか知ってる? まあ知るわけないわよね! 全く和己も、何でこんな無能な女……。まあいいわ。今は国中があんたが死ぬのを望んでる。あんたがここで消えれば、和己もあんたがつい最近まで、あんたが生きていたこと何て知ることもないしね!」
「国中が……私を……?」
カーミラの言葉に動揺され続けていた奈々心だが、その中のある言葉に、強く反応した。その反応は、驚きと言うより、絶望といった感じである。
「お前は本当に何も知らなかったのね……。じゃあ私が、丁寧に教えてあげるわ。三年近く前に、ガイデルが元帥になってから、この国はどうなったと思ってる? 只でさえ食糧不足で、女帝への不信がわいていたところで、突然の女帝の豹変よ! 今までは種族は皆平等とか言っといて、突然異種族迫害を奨励。蛮族が農地の呪いの原因と言って、荒野に追い出す。更に国民への税率が増加。更に次には食糧・物資を配給制にして、農業員・工業員への給与を中止。これって実質、国民を奴隷にしたようなもんよね? 更には今まではなかった不敬罪を法律に追加。少しでも女帝に文句を言った奴は、すぐに捕まって重刑よ! それを利用して、警官や軍人が、市民を虐げる事件が続出し、治安はますます悪化。そして止めには、毒ガスで国民を脅して従わせようとはね! これじゃあ、国民の信頼を完全に失うわ! もう国民の誰もが、あんたの事なんて微塵も尊敬してない。いるとしたら、軍の残虐な女帝狂信者ぐらいのものね! どう? あんたが善意で築き上げてきたものは、とっくにぶっ壊れて悪の帝国になってるのよ! 最悪でしょう、無能女帝!」
「!!!!!!」
容赦なく奈々心に突きつけられた現実。ガイデルが自分に嘘を言っていることには気づいていたが、想像を遙かに上回る事実に、奈々心は絶望のどん底に落とされていた。
「人々のために何かしたいって言ったわよね? それじゃあ人々の望み通りに死になさいよ!」
カーミラの掌が、奈々心に向かってかざされる。そしてそこに、あらゆる物を焼き尽くす、業火が放たれようとしていた。
(おいおい……何か変だぞ?)
和己は軍基地の正門前で困惑していた。王宮で派手な爆音が聞こえた直後に、カーミラの読み通りに、軍の正門が開け放たれた。そしてそこからなだれ込む、大勢の武装した兵士達。
まず最初におかしいのは、彼らの身なり。兵士達はいつもの制服ではなく、防毒用と思われるマスクとスーツを着込んでいるのだ。軍隊というより、緊急出動の消防隊である。
そして数百の兵士達が出てきた辺りで、彼らの後ろから出てきたのもの。それは大きな荷物を背負った輸送トラック。
そしてその輸送トラックが積んでいるのは、何とあの毒ガス弾であった。彼らが向かう先は、当然騒ぎが起こった王宮。彼らは王宮に毒ガス弾を持ち運ぼうとしているのだ。
「てめえら何してやがる!」
「「!!??」」
思わず彼らに向かって叫び上げた和己。その行動が原因で、和己達にかかっていたステルス機能が解除され、彼らは即座に兵士達に見つかってしまう。これではカーミラの作戦が台無しである。
だが、どのみち目当ての毒ガス弾が、こうして外に運び出されている以上、作戦は失敗に変わりはないだろう。
「貴様は誰だ!?」
「奈々心国の召喚士の和己だ! てめえ、王宮に毒ガス弾を使う気かよ!?」
リーダーらしき女性将校の言葉に、和己はもう隠す必要もないと、堂々と名乗りを上げる。その名乗りに、その場の兵士達が一斉にどよめき出す。
「そうか貴様があの忌々しい女の相方か!? ではこれも、貴様らが起こしたことか!?」
「おおそうよ! お前は前に村を襲った、腐れ召喚のヘリエットだな!?」
「ハリエットだ、馬鹿者!」
他の平兵士とは色違いの防毒スーツを着た、その女性将官を、和己は声と発言から、以前村を襲った女であることに気づく。
彼女の姿と声は、あの場に居合わせた村人達の、記憶映像で和己は知っていた。生憎名前はちゃんと覚えていなかったが。
「貴様ら何を企んでる! 女帝を倒して、この国を乗っ取ろうとでも言うのか!?」
「こんなボロボロの国いらねえよ! その毒ガス弾は、俺が召喚した物だ! それで大量虐殺されると、俺の顔に泥を塗られるんだよ!」
「はんっ! 成る程、どうりであんな所に……だが今のこれは我々の物だ! 勝手に捨てていった貴様に、どうこう言われる筋合いはない!」
「あるに決まってんだろうが! 第一、騒ぎが起きたのは王宮だぞ! てめえは王宮に毒ガスを撃ち込む気か!?」
「ああ、敵との戦況によってはな! 大概の奴は、これを見せつければ殆ど黙るし。女帝は化け物みたいに丈夫だそうだから、そう簡単に死にはせんだろうしな」
「!?」
互いにキレ合いながらの、声のぶつかり合い。だが最後のハリエットの、女帝に対して全く敬意のない発言が気になった。
「(よし……あの魔女はいないな?)貴様の言葉など、これ以上聞いても耳が腐る! 撃てぇ!」
ハリエットの合図と共に、長銃を構えていた兵士達が、一斉に引き金を引き始める。その直前に、和己も己の魔法を使い始めた。
ダダダダダダダッ!
一斉に放たれた、長銃の一斉砲火。だがそれらが和己に当たる事はなかった。引き金が引かれ、発射された弾丸が、そっちに届く前に和己の召喚術が完成したのだ。
瞬く暇もないほどの、見事な瞬間召喚である。召喚したそれらが、壁となって、和己を守る。
「「許さないよ! やっつけてやる!」」
召喚されたのは、200人以上のライムの分身達であった。彼らの粘液状の身体に、弾丸が次々と当たるが、それらはゴムのように弾かれ無効化される。
「なっ、何だこいつらは? ……人か?」
突然現れた異形の軍団に、ハリエット含めた兵士達は、動揺しきる。
「「それぇ~~~!」」
ライム達が一斉に兵士達に突撃する。我に返った兵士達は、即座に銃を撃って抵抗するが、結局それはライム達に何のダメージも与えられなかった。
「ふげぇええええっ! ふがぁああああっ!」
「痛い痛いっ、骨が折れる~~~」
「ギブギブッ、降参するから……ぶへぇえええええっ!」
「いや~~そこはやめて! お嫁に行けないよ~~」
瞬く間に、ライム達に蹂躙される兵士達。和己の成長と共に、ライムの怪力も以前より遥かにパワーアップしている。
兵士達の銃や魔道杖は、竹のように簡単にへし折られる。子が親にされるように、尻を叩かれたる者。
プロレスごっこをさせられて、骨がボキボキに折れる者。
顔に何発もビンタさせられる者。
ある女性兵士は、全裸にされて、見るに堪えない性的拷問をされたりしている。
もう勝負にすらならない、帝国兵とライム達の戦闘は、ライムの圧倒的勝利である。
その中に、どういうわけかジャックも混ざっている。ライムが拘束していた、ハリエットと同じ色の防護服を着ている者に、近寄って何かをしようとしている。
「私をどうする気だ! 何をされようが、私は貴様らに屈しないぞ! 貴様ら全員、陛下からの裁きを受けよ!」
『はいはい……勇敢なのはいいことだ』
ビリッ!
ライムに足を折られて拘束されても臆さない、その高位と思われる兵士に、ジャックは構わず黙らせる。以前メガに使った電気ショックである。
身体が痺れて声も上げられないその兵士に、ジャックが幾つものアームを出して、何やら大掛かりな診察を始めたようだ。




