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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第四話 ドラゴン召喚と飢えた村

(まあ……確かに指定通りではあるよな? 確かにインパクト大だし……)


 確かに望んだ通りの姿だが、何故か自分の凄さを見せつけた気がしない。和己は仕切り直しに、もう一つ召喚することにした。


(やっぱスライムなんかを召喚したのが不味かったか……? ようし、じゃあ次はオークだ! オークなら見た目が怖くてそれなりにインパクトがあるよな! ようしインパクトのあるオークよ出ろ!)


 そう考えて、和己は再び召喚する。次はファンタジーでの雑魚敵として、スライムと同様に知名度のあるオークである。


「……木?」


 だが出てきたのは、一本の樹木であった。緑色の葉を沢山茂らせた、高さ十メートルぐらいの一本のナラの木が、この何もない荒野にポツンと立っている。

 召喚時に、根元の土ごと転移したようで、その場所だけ荒野とは違う、土の小山がある。


「おい……お前こんなの呼んでどうすんだよ?」

「ええと……」


 和己としては何故こんなのが出てきたのか、よく判らず回答に苦しむ。

 和己は知らないが、世の中には、オークという名称の種の樹木が存在するのである。


『おいおい何だよここは? おっ、喋れるじゃん? これはいいな!』

「「えっ!?」」


 何故かその場に響き渡る声。辺りを見回すが、そこには和己と牛獣人二人以外は誰もいない。


『こっちだこっち! この木の精霊だ! 全くこんな辺鄙なところに呼び出しやがって……しかもここすげえ住みづらそうじゃねえか? こんなところに置かれたら枯れちまうぜ。お前、ちゃんと責任持って、良いところに俺を連れてけよな!』

「あっ、ああ……」

『ああ……すげえカラカラだ。早く水をくれ! 後あればいい土もくれよ……』


 その子供のような声は、どうやらこの木から聞こえてくるようだ。肉声ではないのか、妙な音質に妙な響きがある。何だか責任を投げかけられて、和己はとりあえず頷いておく。

 確かに喋る木というのは、かなりインパクトがあるので、指定通りではあるだろう。何だかまた失敗した気がするので、和己はもう一度召喚しようとするが……


「次だ! 次は手加減なし! ドラゴンを召喚するぞ! ようし、見てろよ!」


 そして呼び出されたのは、確かにドラゴンではあった。体長は二メートルほど。前後両足は短く、腹は地面についている。顔は長く尖っていて頭には角などない。また背中には羽などもない。


「てかこれ……コモドドラゴンじゃねえか!?」


 別名コモドオオトカゲ。インドネシアに生息する大型爬虫類である。勿論それは普通の野生動物であり、スライムや竜などのような、超常的な生物ではない。

 コモドドラゴンは突然呼び出された上に、目の前に人がいたことに驚いたのか、四本の足を素早く動かし、和己達のいる場から逃げ去っていった。


(逃げたか……。そういやあれ、人を襲う場合もあったんだっけ? 毒もあるって聞いたし。とりあえず助かった……。あれ? そういえばコモドドラゴンって保護動物だよな? 勝手に召喚しちゃったけど……これってやばくね?)


 逃げ去るコモドドラゴンの背中を見送りながら、和己がそんなことを考えていると、後ろに唖然とした表情でこちらを見る牛獣人の二人に気がついた。


「よし……次だ! 今度こそ、お前らが驚くような、すごいのを……」

「……いや、お前の力が凄いのは判ったから、もう変なの呼ばないでくれるか?」


 4度目の正直と、次の召喚をしようとしたが、相手側から断れてしまった。自分が召喚士なのは判ってもらえたので、一応彼の計画は成功ではあるが……






 牛獣人二人のメガ(男)とセイラは、和己を連れて村まで戻っていった。


(これは凄惨だな……)

『いやぁ~~これはひどい! 水もなさそうだし、これじゃ俺もまとも生えられねえよ。後で適当なとこに植えて、後から召喚で水をくれよ』


 木の精霊が、遠慮無くそんな声を上げる。そこは村というより、避難所といった方が良い場所である。

 木と布で出来たテントが何十もあり、どうやらそこが家らしい。村はずれには畑と思われる土地があるが、作物の育ちは悪そうで、かなり細い。

 村の住人達も、飢餓に苦しんでいるのか、皆痩せている。メガとセイラは、最初にあったとき不健康そうと思ったが、彼らはまだマシな方であった。


「お前達……そいつは誰だい?」


 村に入ってきた三人に、最初に呼びかけられたのは、そんな言葉であった。

 村人達は、彼らに連れ立ってこの村に来た、異世界人の和己に奇異の目を向けて注目している。和己の視点からすれば、牛のような特徴を持ったこの人達が奇異であった。

 だがこの世界では違う。この場では和己の方が目立つ。獣人でない上に、喋る木を一本、根元から抱えて立っているだけに。

 これもゲドの与えた力なのか、和己は召喚ができるだけでなく、木を一本軽々と持ち歩けるほどの怪力を手にしていた。


「え~~と、俺は……」

「この人は、異世界から来た召喚士さんです! 私達を上から救うためにこちらからいらしたそうです!」


 大勢に見られて緊張している和己に代わり、セイラが元気よく答えてくれる。


「救う? こいつがか?」

「帝国の人間ではないようだが……しかし異世界人とは……」


 村人達には敵意はないが、困惑が広がっている。確かに救いを求める立場ではあったが、こんな急に言われても、そうそう理解できるはずもない。


「まあ、確かに胡散臭いのは確かだが……こいつの力は本物だぜ。俺たちもさっき、腹一杯食わせてもらったしな」


 そういうメガは、村を出る前の空腹状態とは違い、今は満腹でお腹が膨れている。


「和己、さっきの奴もう一回やってくれ。この人数分やれるか?」

「おう、大丈夫だ。今日の分の魔力はまだまだあるぜ。よし、召喚!」


 その瞬間、村の中に無数の白い光が現れ、食べ物の雨が降ってきた。


「「「おおおおおっ!?」」」


 その場にいた全員(和己含む)が驚愕の声を上げる。そこに落ちてきたのは、何千という日本の販売食品。

 ラップ付きトレーやパック、袋などに入った、野菜・果物・肉・魚などの生鮮食品。

 瓶やパックに入った、牛乳やジュース。

 袋や紙箱に入った菓子。

 豆腐やチーズなどの加工食品。

 パン類やおにぎり・弁当。

 等々の、スーパーやコンビニで普通に見られる姿の食糧の数々。それらがこの貧しい村のど真ん中に、ドサドサと落ちて、食べ物の山を作っていった。


「食べ物がこんなに!? すげえっ!」

「何この魚!? 大きい!」

「ちょっと……これどうやって袋から出すんだ?」


 皆が一斉に山ほどある食べ物に齧りつく。生鮮食品を、調理せずに生のまま齧りつく人々。

 弁当の中身を鷲づかみで食べる人々。パックの開け方が判らず、うっかり破って牛乳まみれになる人々。そんな人々が、その場で騒がしい食事を始めている。


『こいつはまた……どれだけ過酷な生活を送ってたんだこいつら? ていうか今までどうやって、こんなところで暮らしてたんだ?』

「さあな? 俺さっきこの世界に来たばっかだし。しかしよ……」


 樹の精霊が口にしたことよりも、もっと疑問に思うことが和己にはあった。


(誰も食べない食糧って、俺は指定したんだが……これ本当にそれに該当すんのか? まさかスーパーの商品丸ごとかっぱらっちまったんじゃ?)


 あまりに恵まれた食糧の数々に、もしかしたら自分は食品泥棒をしてしまったのではと、不安になる和己。元の世界を見る術はないので、それを確かめることはできない。


(何か良い食べ物がいっぱいあるじゃないか……。国産高級肉に松茸まであるし……おや?)


 日本語で商品名が書かれたそれらを見て、あることに気づいた。

 それらの品の包装に、“三割引”“半額”といったシールが貼られたものが多くあるのだ。これらは陳列から時間が経って、売れ残りそうな商品につけられるものだ。

 そこで和己は、あることに気がついた。


(まさか……俺は廃棄品になる間際の食べ物を召喚しちまったのか!?)


 確かにそれならば、誰も食べない食糧という指定に合うだろう。だがそのとてつもないカルマに、和己は衝撃を受けた。

 自分が召喚してしまった食べ物を、大喜びで食べる人々を見て、とてつもない後悔に襲われる。


(確か食品衛生法だか何とか……俺は盗みと同時に、とんだ犯罪を犯しちまった……)


 元の世界のニュースで良く聞く、廃棄食品の横流しの事件。

 これらのニュースを聞いたときには、「馬鹿な奴らだな~~。そんなもん売るなんてよ。そんな腐りかけを食べさせられた、客も可哀想にな」といった感じで、テレビの前で嘲笑っていた。

 そんな馬鹿な犯罪を、今自分がしてしまったのである。


「おっ、お前らこれは実は……」


 すぐにでもこれらを食べるのをやめさせようと声を上げかけるが……誰もが食べるのに夢中で、こちらに気づいていない。これらは期限切れだから、食べてはいけないと、すぐにでも言わなければいけない。

 だが彼らの腹が満たされる喜びに充ち満ちた姿を見て、すぐにやめろと言い出せる雰囲気でもなかった。結局和己は、彼らの暴食を止めることは出来なかった。


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