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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第四十五話 グールポイズン

 即席で宴が繰り広げられる、魔方陣の広間。フレットはチビの時と似たような感じで、猫ぐらいの大きさに縮小している。

 この大きさになると、本当にぬいぐるみのようである。


「う~~ん。二百年ぶりの食事ね。そんなに時間経った実感ないけど」

「でもいいのか? 折角の祝いのもんがこんなもんで?」


 おいしそうに、和己が召喚した半額総菜を食べるゲドの仲間達に、和己が酒を口にしながら問いかける。ちなみに和己は未成年である。

 正直このメニューは、初期の頃の和己のいつもの食生活と同じ、手抜きの料理である。


「もしよければ、私が何か御料理を作りましょうか? 元々あなたのおかげで、私達も救われたわけですし……」

「いやいいよ。いきなり呼び出して、こっちの宴に働かせるなんてな」


 セイラの言葉に、ゲドはやんわりと断る。そんな時に、和己がふとあることを思いだして、ゲドに問いかけてきた。


「そういやよ……俺さっきはギブ&テイクって言ってたが……そっちは俺との約束守ってくれるんだろうな?」

「ああ、勿論だ。信頼しろ」


 この会話に、他の仲間達も食いついてきた。まだその辺の話しを聞いていないステラが、先に問いかける。


「そういえば言ってわねあんた。その約束って何なの?」

「確か……奈々心っていう人と結婚するんでしたよね?」

「結婚? そいつは和己の何? 幼馴染みか何か?」


 セイラが口にした言葉に、ステラは再度疑問を口にするが……


「いんや。まともに会話したこともないな。俺の一方的な片思いよ」

「何それ? それでどうやって結婚させんのよ? ……ゲド、あんたまさか、その子を洗脳しようとか考えてないわよね?」

「そんな野蛮なことをするかバーカ!」


 即座に否定するゲド。よく考えれば、この二人の間で交わされた約束は、当の奈々心本人の気持ちなど、全く考えていないものであった。


「その辺は大丈夫だよ。今のあの女には、それを拒否する選択肢なんてないからな」


 自信満々に言うゲドの言葉は、彼女以外の者には、全く意図の判らないものであった。


「それよりも、お前にとってはかなり重大な案件があると思うんだが、聞いてみるか?」

「あん?」


 それに関して聞こうと思ったら、それを遮るように、ゲドがまた思わせぶりなことを言ってのける。


「お前ら……いまレイン帝国がどうなってるか知ってるか?」

「いや、知らねえな。目目連も近づけなくなったしな」


 一時期、帝国領に目目連を斥候として放っていたが、今は向こうにもそれが気づかれて、危うく駆除されかけた。それ以降は、帝国領には全く目を向けていない。

 数日前に来た、帝国の難民からの話しが、帝国に関する最後の情報である。


「そういえば、あれ以来難民が一人も来ませんね……」

「あれ以来と言っても、まだ数日ではないか」

「でも1日であれだけ来たんだから、連日押し寄せてくる思ったんだけど……一人も全然来ないって変ですよ」


 セイラの疑問は確かに的を射ている。明確な食糧断絶が行われ、もう帝国の全民が、こっちに来ても可笑しくなかった。


「それは一応理由はあるぜ。帝国軍が、臣民に脅しをかけたのさ」

「脅しって言ってもな……その帝国の兵士すら、結構な数帝国に見切りをつけてたぜ?」

「だからそいつらも全員脅したのさ。ガイデルって奴がな……」

「ガイデル元帥が? どうやって?」


 帝国の兵士すら脅すなど、普通ならできようもない。帝国軍の大多数が反抗をしたら、ガイデルにだって何も出来ないはずである。


「そいつがな、一部の親衛隊を連れて、毒ガス弾を持ち出したんだよ。それでもし帝国に背いたり、帝国から逃げようとしたら、そいつをぶち込むって、皆を脅してるのさ。他に“心感機(しんかんき)”ていう兵器を使って、見せしめに部下を殺したりもしてたぜ」

「毒ガス……思いきったことしたもんだ……」

「馬鹿ではないのかそいつは? そのようなことをした所で、自国の根本の問題がなくなるわけでもないだろうに」


 この話に、ゲドの仲間を含めた、一行の殆どは呆れかえった。これまでだって、帝国軍と王宮の評判は最悪だったのに、これでは明確に、政府が国民に宣戦布告したようなものである。

 恐らく女帝と帝国政府の、民からの信頼を取り戻すことは、まず不可能であろう。


「まあ、確かに重大な話しではあるけどさ。それが俺と何の関係があるんだよ?」

「その毒ガス弾ってのは……お前が召喚した物だ」

「……え?」


 今まで他人事のように話しを聞いていた和己。だがそのゲドの言葉は、ある意味不意打ちで、彼を瞬時に硬直させる言葉であった。他の思い当たる節のある仲間達も、唖然としている。


「お前が前にタンタンメンの所で召喚した、グールポイズンだよ。あれを今、帝国が持ってる」

「はぁっ!? 何でだよ!?」

「何でって……そりゃあ、お前。あの事件の後、帝国がもう一度来て、そこにあったのを回収したんだよ。お前、あんなもんを置き去りにして……あそこにもう誰も近寄らないと思ったのか?」

「おう、思ってた……帝国もあれだけぶちのめせば、もうあそこには近寄らんと……」


 あの件の後で、毒ガス弾を忘れていったことに気づいてはいたが、和己は特に深刻に考えてはいなかった。

 何しろこの世界は、帝国領以外には、殆ど人のいない世界。あそこに来て、うっかりそれを見つけて、手をつける者など、まずいないだろうと考えていた。


「おやおや……随分酷い顔だな? まあ、これでマジで人死にが出たら、完全にお前の“責任”だよな~~。しかもお前のおかげで、あれは只の毒ガス弾じゃないし」

「なっ、何だよ?」


 “責任”という、和己の弱点と言える言葉を強調して言うゲド。更に直後に、また何やら思わせぶりなことを言う。


「ゲド……あんたも変わったわね。戦うことしか興味なかったのに、私が寝てる間に、そんな嫌らしいこと考えて……」

「気にするな。俺だってそういうこと考えることだってある」


 呆れるステラの言葉を他所に、ゲドは先程の説明の続きを始めた。


「お前前に、おおゆきのミサイルで、帝国軍を吹き飛ばしたろ?」

「ああ……」


 あの時の戦闘では、護衛艦おおゆきの、想像を絶する火力に、皆が絶句するほどあっけなく帝国軍を撃破していた。それが関係するというのか?


「お前らも判ってるだろうが……普通護衛艦のミサイルは、あそこまで飛び抜けた威力じゃない。お前がおおゆきを召喚したときに、所々パワーアップしてるのさ。それはあのグールポイズンの爆弾にも出てる。ガイデルは、あれの威力を、街の一区画を全滅させる程って思ってるらしいが、実際にはその程度じゃないぜ。恐らく効果範囲は、帝国全土を覆う。一発撃てば、間違いなく、帝国は滅びるな」


 今明かされる、おおゆきのミサイルの過剰火力の真相。そしてグールポイズン爆弾の、あまりにもの危険性。

 あれは只殺すだけの爆弾ではない。あれで死んだ生き物は、グールという死人の怪物となって甦り、まだ生きている人間に襲いかかるのだ。

 帝国の今の人口は、まだ400万人以上いる。もしそんな大多数のグールが、奈々心国に襲撃したら。


「おいおい……それって完全に、この世界の滅亡の危機じゃねえかよ!?」

「ああ、そうだ。大変だなお前も」


 事態の深刻さを知って、絶叫する和己。それと違ってゲドの方は、さっきまでの和己のように、まるで他人事のような言いぐさであった。

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