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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第四十二話 ゲドの大森林

 転移の門を潜り抜けて、彼らが辿り着いたのは、一つの都市であった。ただし只の都市ではなく、森に飲み込まれた都市であったが。


「ここが例の、ゲドが作った大森林か?」


 その場所は、元は和己がいた世界にあったのと同じような、近代都市であったと思われる。

 地面はコンクリートやアスファルトで覆われており、マンションやデパート、工場と思われるような大型の建物が、大地に無数に並び立っている。

 数㎞離れた土地には、高さ100メートルを軽く超えるような、超高層ビル群も見えた。ただしその高層ビルは、大部分が倒壊したり、ボロボロに各所が崩れ落ちたりと、酷い有様であった。

 そこに限らず、彼らの視界に入る建物は、もう何十年も放置されたかのように、ボロボロで汚れきった、廃墟の町となっているのだ。


 しかも驚くのは、市内の緑の多さ。クリーンな都市計画にあるような、緑の多さとは明らかに異なる。

 建物の合間や、公園などの地面には、明らかに元から植えられていたものではないだろう、巨木が無数に生えている。

 道路のアスファルトも、あちこちが植物の壮大な力によって、上から破られていた。逞しい植物が、アスファルトを砕いて、下の地面から生えている。

 巨木の根っこも、アスファルトまで伸びて、そこにモグラの通り道のように、アスファルトを長く盛り上げている。中には、道路のど真ん中に生えている巨木まであった。

 大量のツタ植物が、建物の壁や、電柱に纏わり付き、モジャモジャした異形を、大量に街中に想像していた。


 植物だけでなく動物も豊富にいた。

 空には多くの鳥が飛び交っているのが見える。鹿が道路に生えている草木を、モグモグと食べている。猿たちが、今は誰もいないだろうマンションを、猿山のよう占拠していた。


「何だよこの都市は? 幾ら放置されたからって、こんな風に森みたいになるものか? ていうかこの文字って……」

「読めないけれど……多分異世界ファンタジーの文字じゃないわね」


 和己とカーミラが注目したのは、ツタに絡まれた、錆び付いた道路標識の立て札。そこには恐らく中国語と思われる文字が書かれているようであった。


「ここはお前らのいう、大森林の中心部にある廃都市だよ。都市の外に出れば、お前らが想像したとおりの、見渡す限りの大森林があるぜ。俺がここに魔法で森を再生させたときに、ここも飲まれちまってな。まあ、元々人妖で全滅した町だからな……」

「魔法で森を再生って……マジでそんなこと出来るもんなの?」

「充分な力があればできるさ。タンタンメンだってやってただろ?」

「ああ、そいういやそうだったな……」


 そう言われて、一行も納得した。

 数日で、巨大湖の生態系を、見事に再生させたあの力。あれぐらいの力があれば、都市一つを簡単に飲み込むぐらいの、広大な土地を簡単に緑化させることも出来るだろう。


「ていうかこの世界って、並行世界の地球だったのか? 月が全く同じに見えたから、そんな感じはしてたが……」

「まあ、そうだな。ここはお前のいた世界で言う、かつては中国の国領だったところだ。まあ依頼のことは、俺の住処で話すよ」


 そう言ってゲドは草だらけの地面を歩き出す。こんな状態では、道路を走る車もないだろうから、交通ルールなど気にせずに、道路の真ん中を歩いている。

 一行も、彼女に従い、この過剰に緑化した都市の中を進んでいった。


『しかし大したもんだな……。まあ魔法で森を作れたとしても、それを維持するための水の供給はどうしてる? こっちがやってるみたいに、転水装置を使ったか?』

「まあ、そうだ。正確には転水降雨装置だけどな」


 ジャックの世間話のように発せられた問いに、ゲドはそう特に気にせずに応える。


「海から濾過した水を、お前らみたいに、ただ垂れ流すだけじゃないぜ。空に湯気にして上がらせて、雨雲にすんのさ。それでここら半径500キロ圏内は、俺の意思でいつでも雨を降らせられるのさ」

「そういや他と違って、ここらの空に雲があるな。ていうかここって、500キロまであるのかよ!?」


 空に白い雲がまだらにあるのに気づくと同時に告げられた、この大森林の面積に驚愕させられる一行。

 半径500㎞と言うことは、単純計算でも、日本の倍の広さがある。


「雨ですか……そう言えば女帝様は、ご自身の魔法で雨を降らせているそうですが……」

「それだと効果範囲なんぞ、たかが知れてるな。あの女の力の範囲って言ったら、せいぜいここの十分の一ぐらいだし。しかも自分が魔導システムに組み込まれちまって、自由に出歩けなくなってるし。それに最近じゃ、ここいらには俺が指示しなくても、たまに雨が降るようになってるし。ここにもすっかり水が染みこんで来たんだな。その内、俺の力がなくても、ここの森は自律して生きていけるようになるぜ」


 自分の施した、人口森林を生み出すシステムを、鼻高々に語るゲド。確かに本人の言うとおり、ここは完璧に制御され繁栄している、まさに楽園だ。帝国が否応なしに欲しがるのも、自然なことであろう。


『自慢するのも判るがな……この豊かな森を作ることが、お前にとって何の意味があるんだ?』

「俺の仲間を生き返らせるのに必要だったんだよ」


 昔を懐かしむような、何やら悟ったような口調で、ゲドはそう語る。


「そう言えば、タンタンメンがそれを不思議がってたが……そいつらは今死んでるのか?」

「ああ、詳しいことはあそこで教えてやる」


 会話しながら街を進む中で、どうやら目的地に着いたらしい。一行の目の前には、この森に飲み込まれた廃墟の街とは一線を越えた、異質な建物があった。


「魔王城か?」


 それを見たカーミラの第一印象はそれ。そこにあるのは、一件の巨大な城であった。

 西洋風の石造りの建築物。ただし王様や貴族がいそうな、華やかな雰囲気ではない。どちらかというと、軍人達が何万人も立て籠もりそうな、要塞のような堅固さを感じられる城である。


「あれが俺の家だ。依頼の件は、あそこで片付ける」

「あのでかいのに、お前が一人で住んでるのか?」

「ああ……今はな」


 城壁のない城の、整備されていない雑草だらけの庭を通り抜けて、一行は城門へと辿り着く。

 金属製の堅固な城門は、施錠されていないどころか、開きっぱなしであった。ここに攻め込んでくるような敵はいないとうことだろうか? 一行はゲドを先頭に、そこに突入した。


「中は結構現代的なんだな……」


 城の中はコンクリートのような壁と床で覆われており、天井には近代科学的な電灯がついている。この巨大な四角形に近い大型建造部の内部には、太陽の光の届かない所があるため、奥に行くと電灯がついているようになっている。

 所々に廊下の壁には、分かれ道や、部屋の扉らしき物がある。


「部屋は一応作ってあるが、今は中には何もないぞ」


 その部屋が気にかかっている、メガとセイラに、ゲドが先にそう教える。


「えっ、そうなの?」

「ああ、俺一人じゃ使う部屋何でたかが知れてるからな。俺としたことが、格好つけて自宅をでかく作りすぎたし」


 メガが勝手に扉を開けて中を見るが、確かに中は空っぽである。ただ何年も掃除してないらしい埃臭さがあるだけだ。


「ていうかこの城って、お前が作ったのか?」

「そうだ。ここいらの街の建物は、皆ボロボロでとても使えそうになかったし。だからって、俺にはお前みたいな、何でも新品にする力なんてないしな」


 そう言って城の奥底、恐らくは城一階の中央部分に位置する部屋に辿り着いた。


「何だこの禍々しい妖気を感じる部屋は? まさかここで、冥界から魔王召喚の儀式を!? おのれ! では貴様の目的は……」

「そういう中二的な台詞は、本物の魔法がある世界では使わない方がいいぞ……色々と誤解を受けかねんし」


 そこはカーミラの台詞通りに、本当に魔王でも召喚しそうな部屋であった。

 体育館より遥かに広い、円形の広間。そこの床には、部屋の殆どの面積を占めるような、大きな魔方陣が描かれている。

 その魔方陣には、日本語の漢字のような文字が、無数に書かれている。だがそれは書道のような崩れ字で、上手く読むのは難解である。まあ読めても、意味は理解できないだろうが。


 その魔方陣から、少し離れた広間の隅に、五つの机のような物体があった。まるで学校の勉強机のような、その木製の台に、それぞれ玉があった。

 小さな金属製の台座に固定された、野球ボールぐらいの綺麗な青い水晶玉。まるで占いに使われそうなデザインである。


「……ありゃ何だ?」

「あれこそが、俺がお前をここに呼んだ……というか、お前に力を与えた、そもそも理由の品だよ。あれには俺の仲間達の魂が入ってる」


 和己の身に起きた、そもそもの根源たる物は、意外と小さく地味であったようだ。

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