表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
41/60

第四十話 反逆

 レイン帝国王宮の中。この帝国内の農地に、恵みの力を与えるための、大型魔方陣がある部屋にて、仕事を終えてばかりの女帝に、ガイデルが重大な報告と請願をしに来ていた。


「……というわけで、その和己とカーミラは、我が国の民を次々と攫い、自らのアジトで奴隷にしておる様子。救い出そうにも、先の討伐隊壊滅で、軍の被害も甚大です。ですので、どうか女帝陛下にお願いしたいことが……一旦農地の魔力供給を取り止め、陛下のお力を、兵器の増産に利用することをお願いしたい」

「そんなことをしたら、農地がすぐに枯れちゃうよね? 陣を組み直すに、半年以上かかっちゃうよ……」

「判っております! ですがこれ以上、奴らを野放しにしては、飢餓以上に、多くの犠牲を出し続けます! 既に議会の承認は得ています! どうか今此度は、軍の増強にお力を!」


 女帝の力は、ただ植物の生長を早めるだけではない。実に多種多様な術を体得している。

 錬金的な魔法で、土塊を鋼等の金属に変質させることだって出来る。その力を使えば、軍備の増強に、大きな力を発揮するだろう。

 だが頼まれた女帝は、何とも微妙な表情だ。それは農地を放棄する事への迷いではなかった。


「ガイデルさん……あなたは今まで、和己からの帝国の被害は、あれ以降ないって言ってたよね?」

「はっ、それは先程も申し上げましたとおり、陛下に余計な心労をかけないようにと……」

「理由なんて今はいいの……私が言いたいのは、あなたは王宮に“嘘”の報告をしたって事よ!」


 “嘘”の部分を、強調して言う女帝は、明らかにガイデルに向けて、訝しげな視線を送っている。その様子に、ガイデルは大いに慌て出す。


「申し訳ありません! 私としたことが、陛下を想ったつもりが、出過ぎたことを……。私としても、何という取り返しのつかないこと……以後この様なことは……」

「その“取り返しのつかないこと”て、本当にそれが初めてなの? ……私は、ガイデルさんのことを信じて、ここに来た報告を何でも信じてきたんだけど……。冷静に考えてみたら、今までのガイデルさんの報告、色々可笑しいんだけど……。軍の討伐隊をすぐに潰せるような力を持った人達が、何ですぐに王宮を攻め込んだりしないで、ちまちまと民を攫うのかな? この前の邪竜討伐だって……」

「そっ、それは私にも判りませぬ。奴らに何か、大きな企みがあるとしか! 実際に、目玉のような姿の精霊を放って、帝国領を監視していたことも判っています! 奴らがこの帝国に何を仕掛けるつもりなのか、それを暴くためにも……」


 女帝の疑問の言葉を遮るように、ガイデルはそう叫ぶ。彼は何か色々言っているが、女帝は未だに微妙な表情を崩していない。

 だが途中で、出てきた言葉に、明らかに様子が変わった。


「しかもやつらは、自分の領地に“奈々心国”という名前を付けているのですぞ! 漢字で書くとこうです……」

「えっ!?」


 ガイデルが、その場で書き記した国名に、女帝は一変して驚愕の表情を生み出した。その名前は女帝の本名と全く同じであったのだ。

 漢字書きまで同じとなると、まず偶然とは思えない。女帝=奈々心がこの土地に、異界から人を集め始めたときに、自らの補佐をしていた者達から、本名を隠すべきと言われたのだ。

 多くの人々を纏め上げるには、強大な権力が必要。だがその奈々心という名前は、権力者としてはいまいち威厳にかけるとのこと。

 こんな風に、奈々心は周りに言われるがままに、姿と名前を隠し、正体不明の権力者として君臨しているのだ。


「何で私の名前……?」

「どこで陛下の真名が知られたのかは判りません。ですがこの名前を自らの組織に付けていると言うことは、明らかに陛下への挑発です! ますますもっての狼藉、これを許すわけにはいきません!」

「……本当にそうなのかな?」


 ガイデルの言葉に、奈々心はすぐには、言われた通りに受け止めない。自分の名前のことを思い起こすと、自分はこの鳥籠の中で、周りに流されるままであったことを、改めて思い出していた。


「判った。でもまず私に、無線でもいいから、和己と話しをさせて」

「なりませんぞ! そのような危険なこと! 第一、この王宮と奴らの本拠地では、無線が通じません!」

「王宮の外に出ればいいでしょ? どうせ農地の停止させるんだから、ここに閉じこもってる理由もないし」


 ガイデルの顔に「しまった!」と、失策による後悔の表情が浮かぶ。

 最初の彼の要請を聞き入れたなら、奈々心をここに閉じ込めておく理由は、実質なくなるのだ。これは実に百年ぶりに、奈々心を王宮内部から解放させることになる。


「それに議員達ともちゃんと話をしないとね……。もう何年も、議会に顔出してないし……」


 自由の身になったことに、若干の喜びの表情を見せながら、奈々心はその広間から、出口へ歩いて行く。恐らくこのまま外に出る気なのだろう。

 彼女の行動に、ガイデルは顔を歪ませながら、冷たい口調で小さく口にした。


「議会は存在しません……。四年前に、私が元帥に就任してから、議会は解散させました……」

「えっ?」


 急に雰囲気が変わり、信じられないことを口にするガイデルに、奈々心は驚いて足を固めてしまった。

 まあ、普通に考えれば、王への政治的報告を、全て軍人が行っているのは、どう考えたっておかしい。最も、奈々心はそこまで深く考えていなかったが。


「議会を解散って、何よそれ!? 訳わかんないだけど!」

「議員共は皆保守的で、女帝陛下の力を疑問視する輩でした……。やつらにこの国の政治を任せておくのは、あまりに問題ありと、私が武力制圧して、強制解散させたのです」

「そんな勝手な……ていうか今まで、あなたが軍事独裁してたってこと!?」

「そうです。全ては女帝陛下の為なのです……」


 ついさっきまでも、ガイデルに対して、多少なり疑いの心を持っていた奈々心。だが告げられた言葉は、その疑いを越えた、あまりにもの裏切りであった。

 憤慨、なんて言葉では言いあらせない怒りに現し、奈々心は声を張り上げる。


「誰か来て! この男は反逆者よ! すぐに拘束を……」


 だがその怒りの言葉は、すぐに遮られた。声を上げた途端に、奈々心の意識が弱まった。そしてそのまま力なく倒れる。


「申し訳ありません陛下。いつこうなってもいいよう、普段のお食事に、呪法を施していました……どうかしばしお休みください」


 奈々心は薄れ行く意識の中で、最後にそのガイデルの言葉を耳にし、やがて言われるがままに眠りについた。






 王宮でそんなことが起こってから、数日後のこと。奈々心国での和己達の家にて。

 彼はいつもと変わらず、朝早くに物資・食糧の召喚と、国内で歩き回って、諸々の様々な手伝いをし、いっぱい働いた後で、夕食を頂いていた。

 今のテーブルに並べられたのは、しょうが焼きや豆腐の味噌汁を中心とした、よく出来た料理の数々。


「おおっ、これカーミラが作ったのか!? すげえな!」

「ふふっ、この大魔女に不可能はないのよ!」


 何故か大魔女が、料理が出来たぐらいのことで、鼻高々である。セイラの指導の下で、彼女もそっち方面が成長したようだ。皆がおいしく、今日の締めの料理を楽しんでいる。


「しかしこの国もどんどん大きくなってくな……しかもホタインの王国だし」

「ああ、二月ぐらい前の、飢えた生活が嘘みてえだし。もう帝国なんか、ちっとも怖くないしな」

『問題は、帝国がどう動くかだろう? まあ、前に派手にやったから、すぐに攻め込んでは来ないだろうが』

「だから言っただろうが、もう帝国なんて怖くないって!」


 メガが言うとおり、この国の発展は、帝国を今にも越えそうである。

 国内では街に電灯が付けられて、今夜も明るい。多くの電解製品が支給されて、人々がそれを使いこなしている。

 また帝国で技師だった者達が、それらの設計図を手に入れ、和己の召喚ではなく、自分たちで生産できるようなろうと模索している。


 街の外れには、森林がどんどん広がっている。今は樫の木だけでなく、様々な種類の木々が混生した、天然林に近い状態になっていた。

 湖の生態系だけでなく、地上の自然も回復し始めている。これは帝国の女帝ですら出来ない、実に異常な速度の発展であった。

 ただし国民は全てホタイン族になっており、人々の衣服などは、和己の趣味により和装が多くなっているが。


 プルルルルルルルッ!


 食事の最中に、急に電話の音が聞こえる。今やここには電波も普及し、限定的だが回線で会話できるようにもなっていた。


「……何だよこんな時間に?」


 夕食の時間を邪魔されたことに、和己はやや不機嫌そうに、椅子から立ち上がる。この家に電話の用と言えば、奈々心国臨時政府からの、自分への相談以外に思い当たらない。

 和己は広い家を歩き、廊下の最新式の電話の受話器を取る。


『和己様! 助けてください! 車が間に合いません!』

「おいおい、どうしたんだよ!?」


 受話器の向こうから即座に発せられた、いつも以上に切羽詰まった様子の声に、和己はやや驚いた。


『目目連様からの報告で、難民達がまた来たんですが……その人数が尋常じゃないんです!』

「何人だよ?」

『判りません! 数十万人はいます! もしかしたら百万はいるかも。これでは車両も間に合いません!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ