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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第三話 初召喚

(行っちまった……。飢えた奴を救え? 要は食べ物をやればいいのか? それも召喚術を使えば良いのか? そういや俺も腹減ったな)


 とりあえず、和己は言われた通りに、頭の中で念じてみた。


(勝手に持っていっても、誰も怒られない、そんでもって俺の好みに合う食べ物を……おおっ!?)


 念じたところ、彼の頭の中に、様々な情報が流れ込んできた。恐らく魔力と呼ぶであろう、自身の体内の不思議な力と、その残量。

 そしてその力をどのようにすれば、練り上げられるのか。どのようにすれば放出できるのか。そしてどうすれば、召喚術という、難しい術式を唱えられるのか。

 そういった魔法を使用するのに必要な、本来ならば何年も勉強をして覚える必要がある知識と技能が、どんどん頭の中に流れ込んでくる。それは本来の熟練の魔道士の知識としては、まだ基礎レベルであるが、今の彼にはそれで十分であった。


 彼の目の前に、空中に浮かぶ光の粒子が現れる。それはさっき、ゲドが消えた現象の光とよく似ていた。そしてその光から、何かが空間を飛び越えて出現した。


(おっと!)


 空中から落ちてきたそれは、一個のハンバーガーであった。大きなハンバーグとケチャップが中に詰まった、実に大きなハンバーガ-である。冷めているが、それでも充分おいしそうだ。


(すげえ! 本当に召喚できた! いただきます!)


 和己は自分の起こした現象に驚くと同時に、空腹な事があって、即効でそのハンバーグに食らいついた。この世界に来て、初めて使う魔法と食事であった。





 さてビッグサイズで、そうすぐに食べきれないハンバーグを囓りながら、和己は荒野の中を歩いていた。


(食べ物をやれって言ってもな……まずここに人がいるのを見つけないとな)


 そもそもここが異世界なら、自分のいる日本人の常識が通用しないかも知れない。飢えから救うよう言われても、向こうが受け入れてくれないと、話にならない。


(そういやこのハンバーガー。元はどういったものだったんだ?)


 勝手に持っていっても、誰も怒られないもの。そう指定して召喚したが、それが果たしてちゃんと守られているのか、それを確かめる筋がない。

 そもそも、このハンバーガーが、不要とされている環境とは何だろうか?


(買ってみたはいいが、もらった奴が実はハンバーガー嫌いで、食べずにどうしようかと思っていたら、たまたま俺が召喚したってところか?)


 和己が今手元にあるものに関して、そう解釈したところ……


「おっ? 誰かいるな? おお~~い!」


 前方に人の姿が見えて、和己は大声を上げて、そちらに駆け寄った。


「だっ、誰だよお前!?」


 この世界で出会った第一異世界人は、露骨にこちらを警戒していた。

 そこにいたのは二人の若い男女。二人とも和己より少し年上ぐらい、十代後半ぐらいの若者であった。

 簡素で汚れた半袖の洋服を着ている。顔だちは東洋人に似ているが、髪の色は茶色く、目の色は赤い。

 何より特徴的なのは、頭と耳と足である。頭には、野生牛のような二本の角が生えている。ぱっと見た感じ、これは装飾品には見えない。頭から生えてきているのように見える。

 そして彼らの顔の両側から生える耳は、明らかに人の耳ではない。牛や山羊のような、獣耳であった。ヒクヒクと少し動いており、大掛かりなギミックを付けているのでなければ、これも彼らの本物の耳であろう。

 そして彼らの足には、完全に偶蹄類の動物の足であった。茶色い毛並みに覆われた足にの先には、靴が履かれておらず、蹄がついた頑丈そうな足で地面についている。

 ゲームやアニメなどのファンタジー世界観に馴れたものならば、すぐに理解できるだろう。この二人は人間ではなく、牛の獣人族だと。


(おお……まさか亜人とか獣人とか、マジでお目にかかれるとはな……)


 生まれて初めて見る、人間以外の知的生命体に驚きながらも、少し感動する和己。

 見るとこの二人は、木製のスコップのような道具で、地面を掘っていた。彼らの足下には、ほじくり返されて散らばった土と、掘られた深さ五十センチほどの穴がある。


「何だよお前? 純人みたいだが……帝国の奴か?」

「いやいや、帝国なんか知らないよ。俺の名前は和己って言って、異世界人だ。人に頼まれて、この辺りで飢えに苦しんでいる奴らを助けろって言われてな。お前もその該当者か?」


 最初の警戒ながらこちらに問いかけてきた牛獣人の少年の言葉に、和己は敵意をもたれないよう、なるべくフレンドリーに答える。


「異世界人? はあ、成る程ね……。それで助けるって?」


 意外なことに、異世界人という言葉には、あっさりと理解を示してくれた。だが最後の助けるという話しには、やはりまだ胡散臭げである。


(さてこれはどう理解させるべきか? ……そういえばこの二人はここで何してんだ?)


 今の自分が不審者同然なのは自覚しているが、この二人の動向も少し妙である。周りには人里らしきものはなく、こんな所で身体を土まみれにしながら、何故穴なんかを掘っているのか?


(まさか逢い引きか!? 二人でこっそりここを訪れて、二人だけの大事なものをここに埋めようと!?)


 そう考えた瞬間、彼は後悔にまみれ、即座に頭を下げた。


「すまない! 二人だけの時間を邪魔しちまって!」

「何を想像してるのか知らんが、それは違うっつうの……」


 謝罪の直後に、少年から呆れられてあっさりと否定される。その直後に、少年に庇われるようにして黙っていた少女が、初めて口を開いた。


「私達は食べ物を探してたんです……。村の近くの土は、もうほとんど掘っちゃって、虫もほとんで出てこないのから……ここまで来て掘ってたんですけど」


 何とこの二人は、食糧採集の途中であった。しかも二人が食べようとしているのが虫というのは、何気にショックである。まあこの二人のような、牛型獣人の生態や食生活など知らないが。

 ただ説明する少女が、やや苦々しいところと。この二人の体つきが、お世辞でも健康的とは言えない、大分痩せている様子を見ると、どうも好きでそういうのを食べているわけではないように見える。


「えっと……カズミさんは今助けてくれるって言ったけど、私達に何かしてくれるんですか? 女帝様みたいに、何か凄い力を持ってたりとか……?」

「おい、セイラ! 何こんないきなり出てきた変な奴に……ていうか何でまだ、あの女に様付けなんだよ!?」


 救いを求めるように和己を見る少女=セイラに、少年が常識的な思考で、制止にかかる。少女の目線は、今和己が食べ終えようとしている、ハンバーガーの欠片に釘付けになっていた。


「ああ、勿論だ! 俺はどうやら最強の召喚士らしいからな! さっきゲドって奴に、力をもらったばかりだけど……」

「「ゲド!?」」


 ゲドの名前を出した途端、二人が何故か大きな反応をする。そしてこちらを見る二人の様子が、警戒から困惑に変わったことに気づく。


「(何か知らないが、こちらを信用させるタイミングを逃しちゃいかんな)そうだ俺はあのゲドから力をもらった、最強召喚士だ! 今からその力を見せてやるぜ!」


 自分の能力をまだきちんと把握していないくせに、堂々力を見せてやると、大きく語るアホがここにいる……


(最初は何を召喚すべきか? いきなり凄すぎるのを召喚したら、怖がられるか? やっぱ序盤だからスライムか? でもそれだと、人に見せるにはインパクトに欠けるよな。そうだその辺を指定すれば良いんだ! 見た目のインパクトが凄いスライムよ、出てくれ!)


 さっきのハンバーガーの時と同じように、彼は再び召喚魔法を唱えた。和己から数メートル離れた地面に、先程より大きな白い光が現れる。


「おおっ!?」


 最初は疑わしげだった二人が、目の前で本当に魔法現象が起き始めたことに驚く。そしてその光から、何かが姿を現した。


(これは……?)


 それは和己が指定したとおりスライムだった。青色の粘液上の物体が動いている、奇怪な生命体である。ただしそれはゲームでよく見るような、不定形ではなかった。

 それは人の形をしていた。一糸纏わぬ裸の姿で、肌はヌメヌメした粘液である。ゼリーを人型に作ったような、何だか気持ち悪い外見である。

 目の部分は窪んでおり、水晶のような眼球がある。髪に当たる部分はロングヘアーをゼリーの彫刻で形作ったようだ。そして下半身に足はなく、粘液の塊に地面について、ナメクジのように這っている。

 それは若い女性のような姿をした、スライム女であった。


「いや~~ん!」


 裸だが全く色気のない素肌の胸を隠して、スライム女はそんなわざとらしい恥じらいの声を上げる。

 そして地面を這いながら、何故かかなり高速で地上を移動し、どこかへと行ってしまった。


「……何? あの変な生き物?」


 召喚されたと思ったら、あまりに奇異な姿を見せ、そのままどっかに行ってしまったスライム女の背を見送りながら、和己達一同は呆然としていた。


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