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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第三十話 護衛艦

 ホタイン達の町と、帝国軍とで一悶着があってから、五日の時が流れた。

 こちらの圧勝で追い返したのに、多くの町民達が歓喜していた。だが中には、彼らからの報復で、町民に被害が出ることを恐れる者もいる。

 こちらは和己にカーミラ、そしてタンタンメンがいるので、正面からの戦闘では恐れることもない。だがテロ組織のように、闇討ち的な破壊工作が起こる可能性もある。

 その可能性を恐れながら、和己達がその間何をしていたかというと……


「おおっ、すげえ! これが船か!?」


 湖面の岸辺に現れた、一隻に船に人々が驚愕して見入っている。今回も和己が召喚したのだ。


「お前ら、船も見たことがないのか?」

「ええっ。溜め池に置く、小舟なら見たことがありますけど……本物はこんなに大きいんですね」


 和己の問いに答えるセイラ。彼女を含めた、町民達全員が、この琵琶湖よりも大きな湖に浮かぶ、一隻の船に、目が釘付けになっている。

 それは一隻の護衛艦であった。本来ならば海で運用されるための物と思われるその艦は“おおゆき”という日本語の文字が、船の後尾に大きく書かれている。

 全長百メートル以上あり、全体が金属でできている。そして各部に単装速射砲・20㎜機関砲・ミサイル発射装置などの武装が設置されていた。


 護衛艦は湖岸から百メートル以上離れた所に浮いている。湖岸近くは浅瀬であるために、この護衛艦は近づけない。最もこの問題は、桟橋を建てれば、すぐに解決するだろう。


「はっはっ~~どうだすげえだろ! これさえあれば、敵の襲撃なんて怖くないだろ?」


 そう言って余裕の笑みを浮かべる和己。帝国への対策として考えたのは、ホタイン達全員に武器を与え、自力で戦えるようにするというものであった。

 そしてまず始めに、敵が湖の近くに迫ったときに、いつでも発見・迎撃できるように、水上兵器を召喚したのである。

 圧倒的な威圧感をもつ護衛艦を召喚したことで、人々が騒ぎ立てる中、冷静に見ていた者が、口を出してきた。


「これは自衛隊の退役艦か? まあ、これならばあんな旧型の武装を持った者など怖くないでしょうけど……そもそもこれは、素人でも動かせるものなのか?」

「えっ?」


 カーミラの言葉に、和己は一瞬で固まった。帝国の兵器は、未だにプロペラ飛行機を、戦闘機として使っているレベル。近代科学の兵器の敵ではない。

 だがこちらは、そもそも機械すら殆ど触れたことが無い者達である。当然和己にも、機械船の動かし方など知らないのだ。


「そういや、そうだった。どうしようこれ?」


 今まで凄まじい物を召喚したことに、有頂天だった和己も、これにて一気に現実に引き戻される。何も考えずに、ただ強い兵器を念じて喚んで、それ以上は考えていなかったのだ。

 ああいう高度な機械の船ならば、扱うには専門の知識が必要なのは、素人でも判る。この様子にメガが呆れ顔で声をかける。


「おいおい……それじゃこんなデカブツ呼び出されても、邪魔なだけだろうが……」

「ああ、うん。そうだよな……。ええとこの場合、船を動かせる奴を召喚するか?」

『いや、安易に人は召喚しない方がいいぞ。俺が指導してやる』


 そう言いだしたのはジャックであった。医療ロボットが、軍事兵器の扱いに、そう口にしたことに和己は驚いた。


「え……お前軍艦の扱い方とか判るのか?」

『ああ判るぜ。こう見えても、俺は昔は軍医だったんだ。こんな旧型軍艦の扱い方、すぐに解析できるさ』

「自衛隊の船が旧型って、お前の世界って……。いやいいや。やってくれるんなら助かるぜ。でも本当にやれるのか? 皆この間まで、機械を触れたこともないんだぞ?」

『やれるだけやってみるさ。駄目だったら、これはただのガラクタになるだけだ』






 さてそんな騒ぎを起こし、ジャックが船の点検と、乗船希望者の指導を行い始めた日の、夕方頃の時間。

 この日の夕食は、今までの召喚弁当ではなかった。指導中のジャックを除く、皆が座る今のテーブルには、今までにないメニューが揃っていた。

 多種多様なテーブルに載せられているのは、サラダ・唐揚げ・味噌汁等の、料理の数々。これらは別に、弁当から引き抜いて、皿に盛ったわけではない。

「これ本当にセイラが作ったのか? 見たこともない食べ物だけど……」

「はい、一応形は写真通りですし……味見もして結構いい感じだと思いますけど……どうでしょう?」


 これらの料理は、台所でセイラが作ったものであった。和己が召喚した、料理本と食材を使い、それを見てセイラが独自に作ったのである。

 ちなみにその料理には、カーミラも参加していたが、諸事情でこの献立には、カーミラ作は入っていない。


「あぐ……おお、美味いぜ! 見た目以上が出来じゃないか」

「おう……うん、そうだな。いつもの弁当より、ちょっといい感じだ」


 褒めちぎる和己と、淡泊に感想を言うメガ。これに和己とカーミラが眉を潜めた。


「婚約者の手料理と、弁当の差がちょっとかよ……」

「もっとちゃんとした言い方ないわけ?」

「そうは言ってもな……」

「ていうかお前ら、俺が来る前はどんなの食ってたんだよ?」

「うん? 雑草のスープとか、干したトカゲとか……」


 そんな会話をしているときに、家のインターホンが鳴る。何事かと思うと、入り口には村人達が数人、困った顔で訪れていた。


「どうしたんだ? あの船で、何か不味いことでも?」


 玄関で和己がそう彼らが問いかける。何かあったとしたら、今朝の護衛艦のことが、真っ先に思い浮かんだのだが。


「いえいえ……それは関係ありませんよ。実は前にライムさんが捕まえた帝国兵のことで、困ったことが……」

「帝国兵が?」


 和己は数日前に、ここで起きたことを思い出す。あの場に和己は立ち会っていなかったが、ジャックが皆から読み取った記憶映像で、一部始終を知っている。

 まさかあの時に、帝国兵達が町を攻めてくるとは思ってもいなかった。あの時、カーミラが町にいなかった場合を考えると、結構怖い話しである。


「何だ? あいつらが何かやらかしたのか?」

「やらかしたというか、何というか……」

「何だ? 狼藉を働いたなら、すぐに私が出向いて、丸焼きにしてやるが?」


 カーミラの言葉に、村人達は慌てて否定する。


「いえいえ、違うんです! あいつらが帰ろうとしないから、困ってるんですよ!」

「帰らない?」


 ライムはあの日、壊された畑の弁償をさせようとして、27人の帝国兵を捕獲していた。その後彼らは、あの日踏み荒らされた畑の立て直しの為に働かされていたのだ。

 更に増殖したライムの分身の助けもあって、畑は既に植え直しも完了している。そのために、もう帝国兵達をこき使う目的もなくなったのだ。

 正直、あの嫌悪極まりない帝国兵を、いつまでも町に留めるのもあれである。だからといって、このまま殺したり、荒野に追い立てるのも酷なので、和己に乗り物を召喚して貰って、それで帝国領にお帰り願おうと皆が意見を交わし始めたのだ。

 だが何故か、囚われの帝国兵達本人が、これを拒んだのである。


【今帰ったりしたら、国に泥を塗った敗残兵として、間違いなく処刑される! あの冷酷な女帝陛下のことだ……。敵に捕まった上に、解放されて戻ってきたことを、寝返りだとか何とか言い掛かりをつけて来るに決まってる。下手をしたら、俺たちの家族にまで、手が及びかねない! 頼む! 畑仕事でも何でもするから、ここにいさせてくれ!】


 ……とまあ、こんな風に訴え出たのである。どうやら帝国は、軍人に対しても、あまり優しくないようだ。


「そりゃまあ……困ったもんだな。それで町に置いておくのは無理なのか?」

「難しいでしょうな……。町の者達にも、早くあいつらを追い返せと、強く訴える者もいまして。まあ、ついこの間、町を皆殺しにしようとした者ですしね。我々の間でも意見が割れて……それで和己さんにも相談してみようかと。もし帰すとしたら、結局和己さんに頼ることになるわけですし」

「そうか……じゃあ、無理矢理にでもお帰り願うとするか」


 国に戻っても地獄しかない帝国兵達の処遇に、和己はそうバッサリ切り捨てる決断を、あっさりと口にした。


「おいおい……いいのかよ? そいつらに死ねと言ってるようなもんだぞ?」

「そんなこと知るかよ。別に俺の過失で、死人が出るわけじゃないしな。俺がゲドから依頼されたのは、お前らホタインを救うことだけだし。他は知らねえし」


 農地も順調に育ってきており、これならばゲドが最初に依頼した件も、もうすぐ完了しそうだ。そ

 の後で、また何か依頼されるかも知れないが、少なくとも現時点では、帝国兵達に気を遣う理由も、彼らを救う義理もない。


「まあ、お前はそう言うだろうな……。それでどうすんだ? まさか荒野に放り出して、自力で帰るように言うのか?」


 ここから帝国領までは、二百キロ以上ある長距離の荒野である。食糧を持参させても、そこまで迷わず辿り着けるかは、結構微妙である。


「さすがにそれは駄目だろ。それじゃあ、まるで俺が殺したみたいだし。こいつらは意見したみたいに、何か乗り物を召喚するさ。まあ、今思いついたけど、俺も帝国ってのを一度見てみたい気がするし」


 そんなこんなで、翌日の予定は決まった。町の方で意固地に滞在を主張する帝国兵達を縛り付け、和己達は帝国に向かうことになった。



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